ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

英国

ボリス(ジョンソン)で大丈夫か?

 ボリス・ジョンソン氏(55)は24日、エリザベス女王から正式に首相に任命された。ボリス号はいよいよ就航する。英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)では「英国の要求が受け入れられない場合、合意なき離脱も辞さない」という強硬姿勢を表明し、ブリュッセルを脅迫してきた経緯があるだけに、英国の異端児の政治に一抹の不安と懸念の声が絶えない(このコラムでは以下、愛称のボリスで呼ぶ)。

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▲エリザベス女王から首相に任命されたボリス・ジョンソン氏(2019年7月24日、英宮殿内、BBC放送から)

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▲ロンドンの首相官邸前で演説するボリス・ジョンソン新首相(2019年7月24日、ロンドンで、BBC放送から)

 明確な点は、離脱強硬派のボリスの登場で、2016年6月の国民投票の結果を受け、進められてきた英国のブレグジット日程の再延長はなくなり、遅くとも10月末には実現する可能性が高まったことだ。ある意味で、ブリュッセルにとってもボリスの登場は朗報かもしれない。

 ボリスは国民投票前、「EUの統合プロセスはナポレオン、ヒトラーなどが試みたものであり、それら全ては最終的には悲劇的な終わりを迎えた、EUはヒトラーと同じ目標を追求している。超大国だ」と英日刊紙デイリー・テレグラフで述べている。

 テリーザ・メイ前首相はブリュッセルとの離脱交渉で合意した内容を3度、議会で拒否され、最終的には辞任に追い込まれたが、ダウニング街10番地の首相官邸前で辞任の意向を明らかにした時のメイ前首相の姿は忘れられない。メイ前首相の目頭から涙が落ちそうだった。そのシーンは英国の離脱交渉の困難さとその難題に3年間余り取り組んだ女性首相の一途さを端的に物語っていた。

 その英国でメイ氏に代わり“英国版トランプ”といわれるボリス新政権がスタートする。このトップのチェンジが吉と出るか、凶と出るかを判断できるまでもうしばらく時間が必要だろう。

 英国はEU内でドイツに次いで第2番目の経済大国であり、EU内ではフランスと共に軍事大国であり、核保有国だ。その英国の離脱は英国の命運と共に、EUの未来をも左右させる一大政変だ。英国の離脱交渉に集中し、「英国なきEU」の未来についてじっくりとした議論がこれまで聞かれないことに少し懸念が残る。英国がEUに占めてきた経済実績は全体の15%、EU人口の13%だ。その大国が抜けた後はEU全体の国際社会に占める存在感、パワー、外交力は弱体せざるを得ないことは明らかだ。

 難問は、英国領の北アイルランドとEU加盟国のアイルランドとの国境問題に関するバックストップ(安全策)だ。ボリス氏はブリュッセルに強硬姿勢を見せてくるだろう。メイ首相とEU側が合意した内容では、アイルランドの国境管理問題が解決するまで、英国がEUとの関税同盟に一時的に留まるという内容だ。ボリスはブリュッセルから何らかの譲歩がない限り、離脱に伴う打ち切り金の支払いを拒否する意向さえ匂わせているだけに、ブリュッセルは対応で苦慮するかもしれない。

 フォンデアライエン次期委員長は英国との離脱交渉の合意の見直しに応じる可能性を示唆しているが、EUの基本方針は明確だ。EUのミシェル・バルニエ主席交渉官は「ブリュッセルは英国と新たな交渉をする考えはない」と、はっきりと警告している。

 ボリスは何がなんでも離脱を早期実現したい考えだ。ただし、ボリスのこれまでの政治キャリアを振り返ると、同氏は変わり身の早い政治家だ。ロンドン市長、庶民院議員、外相などを務めてきた。これがダメなら、あれだ、といったいい意味で柔軟性があり、現実的だ。

 ちなみに、ボリスは政治家になる前、英紙のブリュッセル特派員だったが、EUに懐疑的なボリスの記事をマーガレット・サッチャー(元首相)は大好きだったという話が伝わっている。

 ボリスの最大の武器は演説の巧みさだ。独週刊誌シュピーゲルはボリスの政治スタイルをシニカルに評している。ボリスは自身の発言の内容に問題点があり、追及されると、素早くジョークを飛ばし、焦点をずらす。批判した者はそのジョークの面白さに心を奪われ、何を批判したかを忘れてしまうのだ。政界の暴れん坊・ボリスがこれまで大きな致命傷を受けずに生き延びることができたのは、自身に批判的な者を抱腹絶倒させるジョークを何時でも発せる才能があるからだろう。

 国民はボリス氏を“英国のケネディー”と受け取り、英国を大きく刷新、改善してくれる政治家と期待する一方、トランプ氏のような存在で英国政界を二分し、カオスに陥れるのではないか、と危惧する声も聞かれる。

 ボリスの父方の祖父はオスマン帝国のアリ・ケマル内相の子孫だ。第一次世界大戦中、名前を母方のジョンソンに改名している。母親の先祖はユダヤ系ロシア人だ。ボリス氏は自身の出自について「民族のるつぼから生まれた男」と自嘲的に語ったという。

 ちなみに、ボリスは自分が首相になる確率について、「エルビスと火星で出会うようなものだ」と語っている(オーストリア日刊紙プレッセ7月24日)。とにかく、ボリスの発言はユーモアと共にシニカルであり、シャープだ。


 いずれにしても、ボリスは英国をEUから離脱させた政治家としてその名を歴史に残すだろうか。それとも、英国を離脱させた後、、英国をEUに再び加盟させた稀有な政治家として歴史に記されるだろうか。後者のシナリオは案外現実味がある。換言すれば、ボリスならばあり得るシナリオだということだ。

 ボリスの理想とする政治家はウィンストン・チャーチル元首相という。ボリスが“第2のチャーチル”となるか、その確率は英国プロサッカーのプレミア王者マンチャスター・シティ―がJリーグのヴィッセル神戸に0対3で敗北するよりも案外高いかもしれない。

英のEU離脱はヒトラーの亡霊の業?

 英議会(下院)で15日、メイ政権がブリュッセルで欧州連合(EU)との間で合意した離脱合意案が賛成202票、反対432票の大差で否決されたことを受け、英国のEU離脱(ブレグジット)の行方は混沌となり、離脱のタイムリミットである3月29日までに「合意に基づく離脱」が実現できるかは不透明となってきた。

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▲英国のEU離脱のために奮闘するメイ英首相(2018年12月14日、欧州理事会での記者会見で、英国首相官邸公式サイトから)

 野党労働党はメイ政権への不信任決議案を提出(16日、否決)、メイ首相は21日まで離脱プランBを提示できるか、メイ政権の辞任、早期総選挙の実施か、それともEU離脱を問う2回目の国民投票を実施するかなど、さまざまなシナリオが模索されている。

 ブレグジットの行方を考える前にもう一度その原点に戻ってみたい。英国は2016年6月23日、EU離脱の是非を問う国民投票を実施した。国民投票の実施はキャメロン首相(当時)の選挙公約でもあった。ただし、離脱派が約51.9%を獲得、僅差で残留派に勝利したことは同首相にとって想定外だった。キャメロン首相は引責を取って辞任、その後任にメイ首相が就任し、EU基本条約(リスボン条約)50条に基づいた離脱申請をブリュッセルに提出。離脱交渉が始まった。紆余曲折を経て、昨年離脱案が合意され、3月29日までに離脱する運びとなっていた。

 ところで、英国民はなぜEUから離脱を願っていたのだろうか。離脱派の情報操作や偽情報が多くの国民をミスリードした結果だろうか。しかし、それだけの理由だったのだろうか。離脱派は、「英国の主権はブリュッセルによって制限され続けた。EUの植民地となったわが国の完全な主権を取り戻すためにはEUから離脱する以外にない」と説明してきた。

 独週刊誌シュピーゲルの昨年12月8日号には興味深いエッセイが掲載されていた。見出しは「愛すべき敵からの逃亡」(Flucht vor dem Lieblingsfeind)だ。著者はアイリッシュ・タイムズ紙のコロムニスト、フィンタン・オトゥール記者(Fintan O'Toole)だ。同記者によると、「ブレグジットの破滅の責任の一端はアドルフ・ヒトラーにもある」というのだ。風が吹けば桶屋が儲かる、といった類の論理ではない。記者は真顔で語っているのだ。なぜならば、EUは多くの英国民にはドイツのパワーツールだと受け取られているからだ。だから、英国人は、「EU離脱交渉は本来、ブリュッセルではなく、ベルリンで行うべきだ」と考えてきたわけだ。

 実際、離脱派の一人でブレグジット担当相となったデイヴィッド・マイケル・デイヴィス氏は2016年の国民投票前、「われわれの第一の相手はブリュッセルではなくベルリンだ」とはっきりと強調している。

 EUの各種機関、欧州委員会、欧州理事会、欧州議会は複雑な規約のもとに運営され、加盟国は必死にコンセンサスを模索するが、それらは一種の劇場の演出に過ぎない。実際はそれらの背後にドイツの支配がある。だから、英国はブリュッセルで協議するのではなく、ベルリンで行うべきだという理屈になるというわけだ。

 オトゥール記者は、「これを英国人の妄想と言って笑えない。英国は過去、他の国より多くの体験を重ねてきた。第2次世界大戦後、英国は戦勝国として終戦を迎えたが、その後の動向から、実際の戦勝国は敗戦国のドイツや日本ではないか、という思いが湧いてくる」という。共同通貨ユーロの導入が決定された時、「ドイツが他の加盟国を支配するための手段」と受け取り、「ユーロはドイツ産業界の詐欺だ」という声が英国産業界で聞かれたほどだ。

 メイ政権下で外相を務めた離脱派のボリス・ジョンソン氏は同じく国民投票前、「EUの統合プロセスはナポレオン、ヒトラーなどが試みたものであり、それら全ては最終的には悲劇的な終わりを迎えた、EUはヒトラーと同じ目標を追求している。超大国だ」と英日刊紙デイリー・テレグラフで述べている。

離脱派はキャンペーンで、「わが国は独裁的なEUの侵略に直面している」と国民に警告を発し、母国を救済する騎士のような役割を演じた。その成果はブレグジットとなったわけだ。離脱派は国民の深層心理にある“ドイツへの恐怖”を巧みに利用し、ブレグジットに駆りたたせていったのだ。

 ちなみに、英ロックグループ「オアシス」のリーダーだったノエル・ギャラガー氏は国民投票前日、インタビューの中で、「国民はバカだから、EU離脱か残留かを問いかけても意味がない。高い給料をもらっている政治家こそ、国の行方を真剣に考え、決定すべきだ。国民に委ねるべきではない」と述べ、国民投票の意義に疑問を呈した。

 ノエル氏にとって、国民投票の実施は政治家の怠慢以外の何ものでもない。国民の税金から高い給料を得ている政治家が肝心の重要な政治課題を決定せず、国民に投げ返している。どれだけの国民が問題を正しく理解できるか、というわけだ。残念ながら、ノエル氏の正論は聞いてもらえなかった(「国民投票を批判したノエルの『正論』」2016年6月24日参考)。

 皮肉なことは、「欧州の盟主」、「欧州の顔」といわれてきたドイツのメルケル首相が昨年、政界からの引退を表明する一方、フランスのマクロン大統領は労働者からの強い抵抗に遭って対応に苦しみ、EUでの影響力を失ってきた時、英国は奪われた実権を取り返す絶好のチャンスにもかかわらず、EUから姿を消そうとしていることだ。英国が今年、EU離脱を問う国民投票を行えば、違った結果が出てくるかもしれない。いずれにしても、英国の“ドイツへの恐れ”は第3者が考えている以上に根が深いのかもしれない。

英国離脱後のEUは本当に大丈夫か

 当コラム欄で過去4000本以上のコラムを書いてきたが、英国をテーマに書いたコラムは主にテロ事件だけで、純粋な英国物語が少ないことに気が付いた。昔の話だが、当方は半年間ほど英国に住んでいたし、英国は全く未知の国ではないのだが、ウィーンに居住してからは英国は地理的以上に遠い国になってしまった。その主因はやはり英国と欧州の間には海(イギリス海峡)があることだ。英国国民にとっても多分、海を越えた先の大陸は欧州(ヨーロッパ)であり、英国はその大陸には所属していないという意識が強いのではないだろうか。

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▲クリスマス休暇後の来年1月7日に再開する英議会(英議会公式サイトから)

 英国は2016年6月、欧州連合(EU)に留まるか否かの国民投票を実施し、僅差で離脱派が勝利。それを受け17年3月、国民投票の結果に基づきEU離脱(ブレグジット)を決定し、EUの本部ブリュッセルに離脱意思を正式通告し、同年6月から離脱交渉を始めた。通告から2年後の来年3月29日には離脱が実行されることになっている。英国は1973年にEUに加盟してから45年以上の年月が経過したが、英国のEU離脱は英国国民だけではなく、欧州全体に大きな影響を及ぼすことは間違いない。

 英国ケンブリッジ大学国際関係史のブレンダン・シムス(Brendan Simms)教授は独週刊誌シュピーゲル(12月15日号)とのインタビューで、「英国はEUから離脱するが、欧州から離脱するのではない」と強調する一方、「離脱する英国の未来より、英国を失った欧州の未来のほうが深刻ではないか」と指摘している。英国は歴史的に多くの戦いを経験してきた。英国はEU離脱で経済的に大きなダメージを受けるが、主権国家を奪回した英国は立ち上がるだろうと予想している。シムス教授はEU離脱後の英国の未来については結構楽天的だが、英国が抜けた後のEUの行方についてはかなり悲観的だ。

 英国は世界第5位の経済大国(米中日独)であり、第4の軍事大国(米露中)だ。英国がEUに占めてきた経済実績は全体の15%、EU人口の13%だ。その大国が抜けた後はEU全体の国際社会に占める存在感、パワー、外交力は弱体せざるを得ないことは明らかだ。

 英国のEU離脱問題では経済面への影響に集中しているが。地政学にも新しい状況が出現する。英国が抜けたEUには米露中の世界の軍事大国に対抗できるパワーは全くない。マクロン仏大統領が推進し、メルケル独首相が賛同する「欧州軍」の設置も目下、まだペーパー上であり、加盟国間でコンセンサスが得られ、実現するまでには多くの年月と交渉が必要だろう。

 英国とEU間の離脱交渉は難航した。加盟国の離脱が初体験だからだけではない。英国は離脱後もこれまで加盟国として受けてきた恩恵を最大限キープしていきたい気持ちが強い一方、ブリュッセル側は英国の離脱決定が成功裏に進展し、離脱後英国がこれまで以上に発展する状況を回避したい思いがあったからだ。なぜならば、EU内には主権国家への回帰を主張し、ハンガリーやポーランドのように「自国ファースト」を標榜する加盟国が少なくないだけでなく、加盟国内の極右政党や民族政党が「それみろ、EUに加盟するメリットはない」と主張し、反EUを国民に煽ることになりかねないからだ。ブリュッセルはそれを回避するために、英国との離脱交渉では可能な限り離脱に伴う痛みを英国に与えようと考えてきたはずだ。

 EUと英国間の離脱交渉が難産だったのは当然の結果だ。換言すれば、離脱交渉では、英国は既成の利権確保のため最大限のエゴイストとなる一方、ブリュッセルは脱退する加盟国に最大限の痛みを与えるサディストとして戦ってきたからだ。スムーズにいくわけがない。

 英議会は今月11日にEUとの合意(案)について採決をする予定だったが、投票は来年1月に延期された。メイ政権の行方を含め、英議会の動向も不透明さを増してきた。「合意なき離脱」も現実味を帯びてきている。同じように、英国が去った後のEUの未来にも陰りが出てきた。欧州の統合の原動力役を演じてきたマクロン仏大統領は国内の反政府デモに押され、メルケル独首相は難民・移民問題で守勢を強いられてきている。

 19年3月末には、欧州は18年まで続いてきた欧州ではなくなるだけに、英国国民だけではなく、欧州国民全てが不安と懸念を感じながら、新しい欧州に直面することになるわけだ。

英国のロシア人社会に「衝撃」走る

 英国のプロサッカーチーム、プレミアリーグのチェルシーFCの話ではない。そのチェルシーFCに2003年から10億ユーロ以上の資金を投資してきたクラブオーナー、ユダヤ系ロシア実業家ロマン・アブラモヴィッチ氏(51)の話だ。

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▲ユダヤ系ロシア人実業家ロマン・アブラモヴィッチ氏(アブラモヴィッチ氏のサイトから)

 どうやら、同氏の周辺に英国公安当局の捜査の目が注がれてきたという。それを知った同氏はチェルシーFCを手放し、どこかに移住を考えているというのだ。その「どこか」の一つに挙げられたスイスはメディアを通じて既に受け入れ拒否を表明している。以下、オーストリア代表紙プレッセ5日付の経済欄で報じられた「ロンドンのロシア人社会の動揺ぶり」を紹介する。

 英国は過去、少なくとも100万ポンド以上を英国内で投資する外国人に対して投資ビザの発給、税の優遇などを与えてきた。その数は約3000人といわれ、4分の1はロシア人だった。アブラモヴィッチ氏はその中の一人だ。

 英国には7万人から最大15万人のロシア人が住んでいる。多くは資産家であり、英国滞在許可を表現は良くないが、買ったロシア人だ。数年前までは豊かなロシア人(オリガルヒ)にとって英国居住許可は簡単に入手できた。金さえ払えばよかった。過去20年間でロシアから英国に流れ込んだ総資金は1000憶ポンドともいわれる。

 しかし事情は急変してきた。英国が来年欧州連合(EU)を離脱(ブレグジット)する影響もあるが、主因はそうではない。直接の契機は、英国で3月4日、亡命中の元ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)スクリパリ大佐と娘が、英国ソールズベリーで意識を失って倒れているところを発見された通称スクリパリ事件の影響だ。

 調査の結果、毒性の強い神経剤、ロシア製の「ノビチョク」が犯行に使用されたことが判明し、英国側はロシア側の仕業と非難したが、モスクワは否定し、プーチン大統領は「西側のいつもの反ロシア・キャンペーンの一環」と一蹴してきた。

 メイ英首相はロシア側の否定にも関わらず、英国駐在ロシア外交官の国外退去処分を表明。もちろん、プーチン氏も負けてはいない。同様の対応で駐モスクワの英国外交官を追放した。EUのブリュッセル本部は英国の主張を支持、オーストリアを除いてロシア外交官の国外追放に同調した。英国とロシアの関係悪化はもちろんスクリパリ事件だけではない。ロシア軍のシリア、ウクライナの不法軍事活動もその要因だ。

 興味深い情報によると、オランダのハーグにある化学兵器禁止機関(OPCW)にロシアのサーバー攻撃があったという。ロンドン側の要請を受けてスクリパリ事件で使用された神経剤の分析を担当した機関だ。OPCW関係者は事件発生直後、殺人未遂事件に使われた神経剤は「ノビチョク」と断定した英研究所の分析結果を追認する一方、「ノビチョクは旧ソ連で開発された猛毒神経剤だが、今回の事件で使用された神経剤がどこで作製されたかは断定できない」と明言を避けてきた。

 オランダ政府は今月4日、北大西洋条約機構(NATO)の国防相理事会で「OPCWは4月、ロシア側のサイバー攻撃を受けた」と報告しているのだ(「英国のスクリパリ事件の『核心』は?」2018年4月21日参考)

 チェルシーのオーナーの話に戻る。英国とロシアを取り巻く関係が急速に険悪化し、英国内に住むロシア富豪家たちにも動揺が見られだした。メディア情報によれば、政治亡命者ではないアブラモヴィッチ氏らオリガルヒに対し、スクリパリ事件に間接的に関与した疑いすら浮上してきたという。同氏はもはやサッカーに熱を入れている時ではないと判断し、チェルシーFCを手放す方向で動き出してきたというわけだ。

 アブラモヴィッチ氏の巨大な資金で潤ってきたチェルシーFCも同氏が出ていけば、チームに投資する資産家がなくなるから、チーム力が弱まる。ピッチで活躍してきた選手たちもプレーに専心できなくなる。その結果、チームの成績が伸び悩むといった悪循環が予想されるわけだ。

 ロンドンにはロシア人社会だけではなく、北朝鮮亡命者社会もある。世界の大都市ロンドンはスイスのジュネーブのように母国から何らかの理由で追われた人間が安住の地として流れ込んでくる都市ともいわれる。ただし、英国がEUから離脱すれば、ロンドンに住む亡命者たちも次の安住の先を探さなければならなくなるかもしれない(「脱北者が英国に亡命する理由」2016年6月7日参考)。

 ロシア人富豪者の次の居住先としてスイスの名が浮上してきた。スイスはロンドンと同じように世界から逃げてきた人々が住み着く“逃れの国”だ。同国のジュネーブに国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の本部があるのも決して偶然ではない。レーニンはスイスに逃れ、革命を計画し、カルヴィンもスイスに逃れ、宗教改革を起こした。そして自分の懐に逃げてきた避難者をスイスは決して追っ払うことはしなかった。

 それでは アブラモヴィッチ氏の場合はどうか。メディア情報ではスイス側は同氏の受け入れを断ったという。 その理由は、アブラモヴィッチ氏が2016年、不法資金の洗浄容疑(マネーロンダリング)を受けているからだ。同氏の場合、ロンドンを追われたら、次の安住先を見つけるのが難しくなるわけだ。

猛暑を少し和らげる「幽霊の話」

 とにかく暑い、という。先日、日本に電話した時、知人は猛暑の日々を語ってくれた。当方は40年あまり日本を留守にしているから、日本の夏を忘れてしまった。欧州でも2回ほど、40度を超える猛暑を体験したが、空気は乾燥し、湿気は余りない。知人曰く、「日中はクーラーで何とかしのげるが、夜は体を冷やさないためにクーラーを切って寝るので大変だ」という。

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▲ヘンリー王子とマークルさんの結婚式(2018年5月19日、英BBC放送の中継から)

 そこで猛暑に苦しむ日本の読者のために何ができるだろうかと考え出した。そうだ、「幽霊の話」を紹介すれば少しは暑さを忘れることができるのではないか。このコラム欄でも数回、「幽霊の話」を紹介してきた手前、幽霊は当方にとって決して未知の存在ではない。オーストリア最大部数を占める日刊紙「クローネン新聞」(日曜版)で幽霊の話を紹介していたので、早速その概要を読者に伝えたい。

 英国ロンドン近郊のウィンザー城内の聖ジョージ礼拝堂で5月19日、英王室のヘンリー王子(33)と米女優のメーガン・マークルさん(36)の結婚式が挙行された。ウインザー周辺では10万人以上の人々がヘンリー王子夫妻の新しい門出を祝った。話はヘンリー王子夫妻がエリザベス女王から結婚祝いとして贈られた新居に住む幽霊の話だ。

 その新居はイギリスのノーフォーク州にある王室所有のサンドリンガム別邸だ。周辺は美しい自然に恵まれている。外観は素晴らしいが、実は幽霊屋敷として知る人ぞ知る謂れのある屋敷だった。実際、同屋敷には1963年以降、誰も住んでいない。管理人が定期的に見回るだけだという。

 その屋敷にエドワード7世の息子、アルベルト・ヴィクター(クラレンス公)が生まれた。アルベルトは家族からエディ(Eddy)という愛称で呼ばれていた。彼は学校ではあまり成績の良くない子供だった。大学では豊富な自由時間にポロを興じたり、様々な享楽に耽った。女性から男性、アルコールから麻薬まで全ての享楽の世界に入り込んでしまった。そして1892年、肺炎で死んでしまった。28歳だった。歴史家によると、死因は肺炎ではなく、梅毒だったという。

 問題はエディが亡くなっても彼は自分の屋敷から離れようとしなかったのだ。エディの死後、弟のジョージ(ヨーク公)家族が住んだが、彼らは「屋敷に暗いオーラが漂い、心地よくなかった」という。それ以降、誰もその屋敷に住む者がいなくなったというわけだ。

 エリザベス女王はエディの話を知っていたはずだが、その屋敷をヘンリー王子とマークルさんの結婚祝いに贈呈したわけだ。女王には悪意がなかったはずだ。当方の解釈だが、「若い彼らならば幽霊が出ようが問題ないだろう」という確信が女王にはあったのではないか。ただし、新婚カップルは今、新しい別の屋敷を探しているというニュースも流れてくる。

 ところで、スウェーデンのカール16世グスタフ国王の妻シルビア王妃(73)は、首都ストックホルム郊外のローベン島にあるドロットニングホルム宮殿について『小さな友人たちがおりまして、幽霊です』と述べている。国王の姉クリスティーナ王女(73)も『古い家には幽霊話が付きもの。世紀を重ねて人間が詰め込まれ、死んでもエネルギーが残るのです』と主張している(「欧州王室に『幽霊』と『天使』が現れた」2017年1月6日参考)。欧州の王室では幽霊は既に市民権を有しているのだ。

 幽霊は、生前哀しい人生を送った人間の霊が地上生活から決別できないため幽霊となる場合、ある特定の人物に恨みがある場合、彼らは自身の生きていた周辺に漂い、幽霊となる。
 ちなみに、幽霊の特徴は、幽霊と何らかの関係、相対関係がない限り、その存在がキャッチできないことだ。だから、幽霊が出てきてもそれが見える人と見えない人に分かれる。幽霊が普遍的な存在として認識できない大きな原因だ(「公邸の幽霊は人を選ぶ」2013年5月26日参考)。

パーティ・ハリーが涙を流した日

 英国ロンドン近郊のウィンザー城内の聖ジョージ礼拝堂で19日、英王室のヘンリー王子(33)と米女優のメーガン・マークルさん(36)の結婚式が挙行された。ウインザー周辺では10万人以上の人々がヘンリー王子夫妻の新しい門出を祝った。

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▲ヘンリー王子とマークルさんの結婚式(2018年5月19日、英BBC放送の中継から)

 当方は朝早くからテレビをつけ、結婚式を追った。オーストリア国営放送は朝10時過ぎから欧州の王室を紹介する番組を流していた。どの局も王室問題専門家が招かれ、さまざまなエピソードなどを紹介していた。当方は地元英BBC放送を中心にヘンリー王子とメーガンさんの結婚式を観た。

 王室の結婚式を見る楽しみの一つは、招かれたゲストの面々を見ることだ。ヘンリー王子(愛称ハリー)の場合、独身時代の広範囲な交流もあってか、いろいろな職種の人々が招かれていた。元サッカーイングランド代表のデビット・ベッカム氏夫妻、ヘンリー王子の母親ダイアナ妃が亡くなった時(1997年8月31日)、追悼する歌「キャンドル・イン・ザ・ウィンド」を作曲し、歌ったエルトン・ジョンの姿も見られた。

 今回はヘンリー王子の意向もあってか、現職の政治家は誰も招かれなかった。当方がゲストの中で見つけた唯一の政治家は英国元首相のジョン・メージャー氏(在位1990〜97年)だけだった。また、メーガンさんが米女優だったこともあってハリウッドから多数の俳優が招かれていた。代表的なところでは、ジョージ・クルーニーさんと奥さんの人権弁護士アマルさん夫妻が見られた。

 マークルさんがヘンリー王子と知り合った時に米テレビシリーズ番組「スーツ」(2011年開始、7シーズン)でパラリーガルのレイチェル・ゼイン役で出演中だったこともあって、そこに出演していた主要な俳優たちがほとんど招かれていた。
 大手法律事務所ピアソン・ハードマンで展開される物語「スーツ」(SUITS)の中で結婚するマイク役のパトリック・J・アダムスさん、主人公の敏腕弁護士ハーヴィーを演じたガブリエル・マクトさん、脇役を演じた弁護士ルイス・リット役のリック・ホフマン氏、ハーヴィーの女秘書ドナのサラ・ラファティさんといった具合だ。まるでウインザー城にスーツのスタッフ、俳優たちが総動員されたみたいだった。

 メーガンさんの母親がアフリカ系ということもあって、ヘンリー王子との結婚では様々言われたが、世論調査によると、英国民は、米女優で離婚歴があり、母親が非白人系というメーガンさんに抵抗感は少なく、歓迎する声の方が圧倒的に多かった(「急変する欧州の王室」2010年12月28日、「欧州王室に『幽霊』と『天使』が現れた」2017年1月6日参考)。

 ところで、ヘンリー王子の兄、ウィリアム王子のキャサリン妃(愛称ケイト)はウィリアム王子と結婚することが学生時代からの彼女の人生目標だった。だから、王室入りするため彼女の両親も財政支援など多方面で応援したという。同じように、メーガンさんも若いころから王室入りを夢見ていたというのだ。ヘンリー王子と知り合う前には、付き合っていた男性がいたがヘンリー王子と知り合うと直ぐその男性と別れ、男性から電話がきても決して取らなかったという。それほどメーガンさんは英王室入りを願っていたわけだ。故ダイアナ妃の2人の息子のお嫁さんはいずれも王室入りを願い、それを実現した女性というわけだ。

 ヘンリー王子にはメーガンさんと知り合う前、長く付き合ってきた女性がいたが、彼女は堅苦しい王室生活を嫌い、ヘンリー王子の結婚申し出を断ったという。若い一般の女性にとって英王室に入るということは簡単ではないわけだ。なお、メーガンさんはヘンリー王子と結婚後はサセックス公爵夫人と呼ばれる。

 蛇足だが、英国人は賭けが大好きでなんでも賭ける。同国の代表的ブックメーカー「ウィリアムヒル」は「式でヘンリー王子がメーガンさんと結婚するかと聞かれた時、“ノー”と答える」という賭けをした。そのオッズは100倍以上だった。もちろん、ハリーは「イエス」と答えた。ヘンリー王子は式中、度々涙を拭いていた。あのパーティ王子と呼ばれ、少々、型破りな行動が多かった王子の頬に涙が流れたわけだ。

 英国王室はその規模と歴史から言っても欧州王室を代表している。そこに新しい女性が入ってきた。それを「近代化した英王室」と評する声が聞かれる。多分、そうだろう。サセックス公爵夫妻に幸があることを祈る。

英国のスクリパリ事件の「核心」は?

 英国で3月4日、亡命中の元ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)スクリパリ大佐と娘が、英国ソールズベリーで意識を失って倒れているところを発見された。調査の結果、毒性の強い神経剤が犯行に使用されたことが判明した(治療を受けてきた両者は生命の危険は脱し、健康を回復してきた)。

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▲オランダのハーグのOPCW本部(OPCW公式サイトから)

 英生物化学兵器実験所ポートンダウン研究所は事件発生直後、「ロシア人元スパイ暗殺未遂事件で使用された神経剤はロシア製の『ノビチョク』である可能性が高い」と発表した、ボリス・ジョンソン英外相は当時、「100%確かだ」と強調した。

 それに対し、ロシアのラブロフ外相は今月14日になって、「検出された神経剤は無力化ガスと呼ばれるBZ(3−キヌクリジニルベンジラート)で、西洋諸国で製造された。同物質は冷戦中に米国の化学兵器として備蓄されていたが、ロシアの備蓄には一度も含まれたことがなかった」というスイスの核・生物・化学兵器防衛研究所(シュピーツ研究所)の研究結果を明らかにした。

 英国の「ポートンダウン研究所」とスイスの「シュピーツ研究所」はいずれもその分野では世界的に権威のある研究機関だ。両研究所で一致している点は、犯行に有毒化学物質(toxic chemical)が使用されたことだ。

 英国の場合、殺人手段に有毒化学物質が使用されたこと、その犠牲者が元ロシアの情報関係者だったことで世界のメディアの注目を一層浴びた。

 ロンドン発とモスクワ発の情報が連日発信され、一方は「こうだ」と主張し、他方は「それは全く違う。事実はこれだ」といった具合に、相反する情報がメディアで報じられている。その情報のジャングルの中、一般の読者は事件の核心を見失い、困惑に陥ってしまう。そこで頭を冷静にして、情報を少し整理したい。

 オランダのハーグにある化学兵器禁止機関(OPCW)関係者は12日、殺人未遂事件に使われた神経剤は「ノビチョク」と断定した英研究所の分析結果を追認する一方、「ノビチョク」は旧ソ連で開発されたとされる猛毒だが、今回の事件で使用された神経剤がどこで作製されたかについては明言を避けた。

 一方、シュピーツ研究所は「BZは冷戦中に米国の化学兵器として備蓄されていたが、ロシアの備蓄には一度も含まれたことがなかった」と指摘し、注目された。ラブロフ外相は早速、「OPCWはシュピーツ研究所の分析結果を考慮していない」と異議を唱えたわけだ。

 OPCWのウズンジュ事務局長は18日、「犯行に使用された神経剤にはノビチョクのほか、西側で作製された神経剤が実験所で見つかった」というラブロフ外相の反論に対し、「ノビチョクの一種だけで、他の神経剤は見つかっていない」と述べる一方、「BZは調査を検証するためにOPCWがスイスの研究所に送ったコントロール実験(対照実験)用だ」と説明した。すなわち、科学研究において、結果を検証するための比較対象を設定する実験を行ったわけだ。

 もちろん、ロシア側もそのことを知っていたはずだが、ラブロフ外相はあたかも新たに発見したかのように「BZ」説を主張し、英国側の「ノビチョク」説の信頼性を崩そうとしたわけだ。


 シリアでもダマスカス近郊の東グータ地区で今月7日、シリア政府軍が化学兵器を使用し、多数の市民に犠牲が出たが、ここでもロシアの関与が囁かれている。
 化学兵器のルーツを探す場合、_蹴慂軸錣鮑鄒修任る技術力を保有している国、機関、化学兵器への操作経験を有している国、機関、H塙圓瞭圧 修裡嚇世両魴錣考えられる。その3点の全てに該当する国は目下、ロシアしかないのだ。

 シリアの場合、アサド政権もロシアもOPCWチームに化学兵器が使用された現場査察を早急に認めるべきだが、ロシア側は様々な理由を挙げて現地査察を阻止している。これでは「やはりロシアか」といった印象を国際社会に与えてしまうだろう。西側外交官では「証拠品などは既に持ち去られただろう」という声が支配的だ。

 現代は情報合戦だ。その中にはフェイク・ニュースも含まれているから、事件の核心を掌握するのには容易ではない。
 世界の情報機関は特定の目標を達成するためにさまざまな情報工作を展開するが、その中で重要な工作は、正しい情報を発信することではなく、無数の相反する情報を流すことで事件の核心を隠蔽することにある。ロシアの情報放送「Russia Today」(RT)やオンラインの情報通信「Sputnik」が得意とする分野だ(「モスクワ発情報には注意を」2016年12月2日参考)。

 英国のスクリパリ事件の場合、どの国が技術力( 砲鳩亳魁吻◆砲鰺し、犯行を実行する動機()があるかだ。特に、は決定的だ。ロシアは目下、を隠蔽するために、有毒化学物質の特定論争にテーマをすり替えようと腐心しているのだ。

イスラム教徒狙った「テロ」の波紋

 「これで分かっただろう。われわれイスラム教徒もテロの犠牲者なのだ。イスラム・フォビア(憎悪)が社会の反イスラム傾向を高めているのだ」、「これは明らかに報復テロだ。イスラム過激派テロ事件が多発しているから、イスラム教信者をターゲットとしたテロで復讐しようとする者が現れても不思議ではない。男は決して精神錯乱者ではなく、恣意的にイスラム教徒を狙ったテロリストだ」
 一人の若いイスラム教徒が英BBC放送記者のインタビューに応えてこのように語っていた。

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▲テロ対策に取り組む英国内務省(Home Office)の庁舎(英内務省公式サイドから)

 ロンドン北部フィンズベリー・パーク地区で19日未明(現地時間)、1台の白色ワゴン車がモスク(イスラム寺院)のラマダン明け後の食事を終えて出てきたイスラム教信者たちにぶつかり、1人が死亡、10人が負傷した。ワゴン車を運転していた47歳の実行犯は、騒動に気がついて駆け付けたイスラム教信者らによって取り押さえられ、警察に引き渡された。

 目撃者の話では男は、「これで自分の役割は果たした」、「イスラム教徒をすべて殺す」と叫んでいたという。ロンドン警察当局は男について詳細な情報を公表していないが、メイ首相は、「潜在的なテロ行為だ」と既に批判している(19日はブリュッセルで欧州連合(EU)との離脱交渉が正式にスタートした日だった)。

 独週刊誌シュピーゲル(電子版)によると、車から引きずり降ろされた男に数人のイスラム信者たちが取り囲み、殴打しようとしたが、イマーム(イスラム指導者)が駆け付け、「殴打するな。警察に引き渡すべきだ」と信者たちを宥めたという。イマームが駆け付けなければ、男はリンチされたかもしれないという。

 犯行現場近くのフィンズベリーモスクは2000年初めまで「憎悪の説教者」と呼ばれたイスラム過激派指導者 Abu Hamya 師の拠点であり、国際テロ組織「アルカイダ」などイスラム過激派テロリストの潜入先だったこともあって一時閉鎖されたが、2005年からイスラム穏健派によって再開された。ロンドンのモスクでも中心的な建物だ。

 イスラム教では先月27日から今月27日までイスラム教の「五行」の一つ、ラマダン(断食月)期間で、太陽が昇ってから沈むまで食事を断つ。太陽が沈めば、信者たちは知人や友人を招いて家庭で断食明けの食事を楽しむ、独り者のイスラム信者たちは最寄りのモスクに行って食事する。食事会は翌日未明まで続く場合がある。太陽が昇る前までは食事が許されるからだ。

 ロンドンでは3月22日、1人の男が車を暴走させ、ウェストミンスター橋上の歩行者を轢き、ウエストミンスター宮殿敷地に入り、警官を襲うというテロ事件が起き、5人が死亡した。先月3日にはロンドン中心部のロンドン橋で3人のテロリストがワゴン車で歩道を暴走し通行人を轢き、その後、車から降りて、近くの繁華街「Borough Market」で人々を刃物で襲撃する事件が起きた。8人が死亡、48人が負傷して病院に搬送されたばかりだ。今回のテロ事件も含め、車両を利用したテロ事件が増えてきている。

 欧州では過去、北アフリカや中東からのイスラム系難民・移民が収容されている難民ハウスや収容所が襲撃されるという事件は頻繁に起きているが、今回の事件のように、居住するイスラム教信者を狙った計画的テロ事件は珍しい。それだけに英治安関係者は神経を使っている。この種のテロ事件が今後、多発する危険性が出てくるからだ。

 先述した若いイスラム教徒が言っていたように、「テロ」は民族、国境、宗派の壁を超えて起きる。それ故に、「反テロ」もそれらの壁を超えて結束しなければならない。その最初のステップは、特定の民族、宗派への憎悪を拒否する姿勢だろう。

 フィンズベリー・パーク地区出身の英労働党のジェレミー・コービン党首は、「モスク、シナゴーク(ユダヤ教の会堂)、そしてキリスト教会へのテロは、われわれ全てへのテロを意味する。それゆえに、われわれは他宗派の信者を守らなければならない」と述べている。

エリザベス女王「国民は結束を!」

 エリザベス女王(91)は17日、慣例の女王誕生日パーティを前に声明を出した。女王は英国の現状を振り返りながら、「英国はこれまでも厳しい試練を乗り越えてきた。国民は結束して困窮下にある人々を支援していこう」という趣旨のメッセージを発信した(女王の誕生日は4月21日だが、誕生祝賀パーティは通常6月第2土曜日(6月17日)に行う)。

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▲大火災を起こしたロンドンの高層公営住宅タワー(BBC放送から)

 女王が指摘した「厳しい試練」とは、マンチェスターやロンドンで発生したテロ事件やロンドン高層公営住宅の火災などを指していることは間違いないだろう。 

 ロンドンで3月22日、一人の男が車を暴走させ、ウェストミンスター橋上の歩行者を轢き、ウエストミンスター宮殿敷地に入り、警官を襲うというテロ事件が起き、5人が死亡した。5月24日には、マンチェスターの英国最大のコンサート会場「マンチェスター・アリーナ」(2万1000人収容)で米人気歌手のアリアナ・グランデさん(23)のコンサートが開かれたが、彼女が歌い終え、舞台から姿を消した直後、会場ロビー周辺でイスラム過激派の自爆テロが発生し、22人が死亡、59人が負傷した、犠牲者の22人のうち、12人は16歳以下で、最年少は8歳の女の子だった。先月3日にはロンドン中心部のロンドン橋で3人のテロリストがワゴン車で歩道を暴走し通行人を轢き、その後、車から降りて近くの繁華街「Borough Market」で人々を刃物で襲撃する事件が起きた。8人が死亡、48人が負傷して病院に搬送されたばかりだ。

 そしてロンドン西部の24階建高層公営住宅で今月14日発生した大火災で58人以上の行方不明者が出ている。30人の遺体が既に確認されている。犠牲者数は今後増えると予想されている。

 エリザベス女王でなくても「どうして英国で不幸が多発するのか……」と嘆く国民が出てきたとしても不思議ではない。国も人の一生と同じで勢いがある時とない時がある。俗にいえば、運勢がいい時とそうではない時だ。運勢や勢いに乗っている時は全てがうまく回転するが、そうではない時は不幸や悲しい出来事がまとめて短期間に襲ってくるように感じるものだ。

 英国は今、勢いを失っている時かもしれない。英国の政情を振り返れば分かる。議会の過半数を失ったメイ保守党政権は議会運営で苦慮せざるを得ない。その上、19日からいよいよ国家の運命を左右する欧州連合(EU)との離脱交渉がスタートする。政治の混乱や未来への不確かさは社会、経済、文化など各方面に見られだした。その意味で、英国民は今、厳しい試練に直面しているといえる。

 エリザベス女王はテロの現場マンチェスターを視察し、16日には被災者が収容されている施設を訪問し、そこで支援活動する国民の姿に感動している。マンチェスターのテロ事件後、慈善コンサートが開催され、犠牲者支援基金ができた。国民の自主的な連帯感の表れだ。試練を国民の結束と連帯感を強化する機会としてほしい、という願いが込められているはずだ。

 ただし、英国の現実はやはり厳しい。19日から始まるEU離脱交渉でも“ハード・ブレグジット”と“ソフト・ブレグジット”で英国内は依然分裂気味だ。高層公営住宅の火災については、被災者だけではなく、市民からも火災原因の真相解明を求める声が出てきている。英国の現状は結束より分裂を広げる状況下に置かれている。それゆえに、エリザベス女王の「結束を!」という誕生祝賀開催日の異例のメッセージとなったのだろう。

「世論調査」に騙された2人の英首相

 8日実施された英国下院(定数650)の前倒し選挙は過半数(326議席)を獲得する政党がいないハング・パーラメント(宙ぶらりん議会)を生み出し、欧州連合(EU)離脱交渉でメイ首相がこれまで主張してきたハード・ブレグジットから労働党が支持するソフト・ブレグジットに変更を余儀なくされる可能性すら出てきた。

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▲政権を継続していく決意を表明するメイ首相(BBC放送の中継から)

 メイ首相が4月18日、下院の前倒し総選挙を決定した時、同首相は「弱い政府ではEUとの離脱交渉で英国の利益を擁護できない」と強調し、下院選に圧勝して政権基盤の強化を狙ったが、英BBCの報道によれば、保守党は第1党の地位を確保はしたが、議席の過半数を維持できず、解散前の330議席から319議席と11議席を失った。この結果、今月19日からブリュッセルで開始するEUとの離脱交渉の日程にも影響を及ぼすことが予想され出した。

 BBCが報じた暫定選挙結果によれば、指導力のないと酷評されてきたジェレミー・コービン党首の労働党は261議席を獲得し、解散前の229議席から大幅に議席を伸ばした。第3党には北部スコットランド地域の「スコットランド民族党」(SNP)が35議席、EU残留派の自由民主党(LD)12議席、そして北アイルランド「民主統一党」(DUP)が10議席だった。

 なお、メイ首相は9日午後(現地時間)、首相官邸前で、「わが国は安定した政府が願われている。DUPとの連立政権を発足させ、予定通り、EU離脱交渉に臨む」と述べ、政権の続投を明らかにした。

 次期下院選挙は本来、2020年実施だったが、メイ首相は3年も前倒しで総選挙に打って出たわけだ。結果論になるが、不必要な賭けだったと批判されても仕方がない。保守党内ばかりか野党からもメイ首相の辞任要求の声が出てきている。
 英メディアは9日、「メイ首相の賭けは失敗した」といった見出しで報じている。新政権の発足まで英国の政情は不透明さが深まる。下院選挙で安定した英政府が誕生すると期待してきたブリュッセルにとっても想定外の結果となった。交渉開始の延期も囁かれている。

 ちなみに、メイ首相の苦戦について、_甬遑灰月間、3件のイスラム過激派テロ事件が発生したが、メイ首相が内相時代、警察官数を削除するなど、治安対策で問題があったと報じられ、首相の指導力に疑問符がつけられた、∧歇蘚泙裡釘嬶ッΩ鮠弔悗陵権者(約4690万人)の不信が強かった、EU離脱を問う国民投票では棄権した若い有権者が今回は労働党を支持した、な歇蘚泙慮約、国内の厚生福祉政策への批判、などが挙げられている。

 ちなみに、独誌シュピーゲルは「メイ首相は聖職者の家庭で育ったが、国民に冷たい指導者といったイメージが定着してきた」と指摘している。EU問題では残留派だったメイ首相が首相に就任するとハードな離脱交渉を表明したことに対し、政治的信条の一貫性のないことに対する批判の声が少なくない。

 オーストリア日刊紙プレッセ(9日)は、「次期政権が直面している課題はEU離脱交渉やテロ対策だけではない。英連邦の存続が問われてきたのだ。スコットランドでは民族派が独立を問う国民投票の実施を要求してきた一方、北アイルランドではEU離脱後の将来を懸念する国民が増えている」と指摘している。

 “ストロング”で“ステイブル”な政府の擁立を目指したメイ首相の政治的賭けは敗北した。メイ首相の前任者、キャメロン首相は世論調査の結果を信頼し、EU離脱を問う国民投票を敢えて実施したが、結果は世論調査に反し、離脱が過半数を占め、キャメロン氏は辞任を強いられた。同じように、メイ首相は労働党と20ポイント余りの大差があるという世論調査を信じて前倒し選挙を決意した。その結果、議会の過半数すら失ってしまった。保守党の両党首は世論調査に騙されて、政治的賭けに出たわけだ。政治家は世論調査にくれぐれも惑わされてはならない。
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