ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

アメリカ

トランプ氏とアブラハムの「交渉術」

 ドナルド・トランプ氏は第45代米国大統領だ。不動産王を誇り、“交渉の名手”を自負するトランプ大統領は現在、来年の再選を勝利するために奮闘中だが、 ウクライナでのバイデン前副大統領の家族の不法ビジネス問題に頭を突っ込み、米民主党から大統領弾劾調査を求める声が高まり、応戦に追われている。

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▲自分の息子イサクを神に捧げようとするアブラハム、それを止める天使(Biblelearningのネットから)

 一方、アブラハムは旧約聖書の「創世記」に登場する人物であり、ユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教の3大唯一神教の「信仰の祖」だ。それだけではない。アブラハムは人類史上、神と本格的な交渉(ディ―ル)した最初の人物だ。

 そこで「ディ―ルの名手」と自負するトランプ氏と神と直接交渉したアブラハムの「交渉術」を振り返ってみた。

 アブラハムは神の命令を受け、家族と弟の子ロトを連れ、ハランの地からカナンに向かった。神が不義に満ちたソドムとゴモラを滅ぼそうとした時、アブラハムは神に「その地に50人の義人がいたら、あなたはその町を滅ぼしますか」と尋ねた。神は「50人の義人がいれば、その地を滅ぼさない」と約束する、アブラハムは更に「50人より5人少ない場合はどうですか」と恐れ恐れ聞くと、神は「45人の義人のためにその地を滅ぼさない」と述べた。

 神の答えに鼓舞されたアブラハムは「40人だったらどうしますか」と尋ねると、神は「その40人のためにその地を滅ぼさない」と語る、アブラハムは「20人」、そして「10人」とそのハードルを低くすると、神はその度にアブラハムの願いを受け入れた。しかし、その地には10人の義人もいなかったので最終的に硫黄と火が天から降って、滅ぼされた。創世記に詳細に記述されている話だ。

 トランプ氏の交渉術はどうだろうか。同大統領の2年半あまりの歩みを少し振り返ってみた。米国ファースト、「米国を再びグレートにする」というキャッチフレーズを振りかざす一方、対外関係では多国間主義を批判し、愛国主義を鼓舞してきた。トランプ氏にとって愛国主義は米国ファーストの別の呼称だろう。トランプ氏の交渉は簡単にいえば米国ファースト、国益最優先を目標に、制裁をちらつかせながら、交渉相手をパワーで跪かす交渉術だ。

 アブラハムは神と交渉する際、常に恐れ恐れ打診している。神の怒りを知っていたからだ。アブラハム以降、神とハードな交渉をした義人、聖人は出てこない。イエスすらゴルゴダの丘で十字架に繋った時、「神の御心のままに」と、神に全てを委ねている。けっして「あと数日生かして下されば、ユダヤ人をあなたのもとに跪かさせます」といった条件交渉をしていない。

 トランプ氏の場合、「この条件に従え、さもなければ制裁だ」といった強硬姿勢が目立つ。対中貿易交渉では、関税率を25%、それでも従わない場合、30%と税率をアップさせている。アブラハムの交渉姿勢は常に腰が低い。現代風にいえば、当然のことだが、“下からの目線”だが、トランプ氏の場合、“上からの目線”の交渉といえる。

 地球温暖化対策が急務といわれている時、トランプ氏はパリ協定から離脱する一方、13年間の外交努力の成果といわれたイラン核合意を破棄し、パレスチナ人の自治権を無視してエルサレムを首都として認知し、米大使館を移転するなど、従来の外交路線を大きく変えていった。

 トランプ氏のディ―ルは、対北朝鮮、対イラン、対中政策でも米国の国力を背景として制裁路線だ。もちろん、米国が本当に制裁を実施すれば、どの国も耐えられない。トランプ氏はそれを知っているから、外交の圧力として制裁を武器としてきた。ということは、トランプ氏でなくても米国大統領ならば誰でもできる交渉術だ。換言すれば、パワーを背景としたトランプ氏の交渉では“ディ―ルの名手”とは自負できないわけだ。

 ただし、トランプ氏の名誉のために言及すれば、トランプ氏の2年半の外交の最高の成果は対中関係の見直しだろう。中国を世界平和の脅威と受け取り、その軍事的野心にブレーキをかけようとした外交交渉は後日、トランプ氏の最大の功績と呼ばれるだろう。

 故レーガン大統領を尊敬するトランプ氏は残された任期、再選した場合の新たな4年間、新しい交渉術を見せてほしい。米国ファーストは国の統治者にとっては当然の路線だが、米国には「神が米国を祝福した」という伝統が息づいている。国民もそれを誇ってきた。トランプ氏はその原点に戻り、世界の平和実現のための外交を展開してほしい。

 国益中心の外交は国民を納得させることはできるが、感動を与えることは難しい。トランプ氏には国民を本当に感動させる外交を見せてほしい。米国民は世界の為ならば少しの国益のマイナスなら甘受する度量を有している。米国社会には犠牲精神がまだ息づいているはずだ。トランプ氏は“ディ―ルの名手”を自負するが、その真価はまだ発揮されていないのだ。

米社会の「システムエラー」とは何か

 米国大統領選挙は“敵対国の格好の攻撃対象となる”と最近頓に痛感する。特に、1期4年間、大統領を務めた後の再選を目指す現職大統領の場合、殊更その感がある。トランプ大統領の話だ。リベラル派のメディアに常にバッシングされてきたトランプ氏の場合、自ら災いの種を蒔いた面があるが、余りにも敵が多すぎるのだ。米民主党から世界のリベラル派メディアまで、トランプ批判が報じられない日はない。

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▲親の代からの聖書の上に手を置き宣誓式に臨むトランプ新大統領(2017年1月20日、CNN放送の中継から)

 独週刊誌シュピーゲル(9月14日号)は元米中央情報局(CIA)職員で現在モスクワに逃亡中のエドワード・スノーデン氏(36)とモスクワのホテルで単独会見したが、スノーデン氏はトランプ氏について、「彼自身が問題なのではない。彼はアメリカの社会システムの所産だからだ。彼はシステムエラー(System error)の結果だ」と主張している。要するに、トランプ氏は米社会システムが生み出した“間違った結果”だというわけだ。スノーデン氏の「トランプ評」はリベラル派メディアの所産、ともいえるかもしれない。

 再選を願うトランプ氏は大統領の権限を駆使して政敵への反撃に出ているが、その言動は政敵に読まれている。民主党の次期大統領有力候補のジョー・バイデン氏〈前副大統領)の家族のウクライナ、中国でのビジネスの違法性の捜査を関係国に要請したが、ホワイトハウスの身内からその情報がメディアに流れ、連日叩かれている、といった有様だ。

 身近な例を挙げる。7カ月ぶりにストックホルムで開催された米朝実務協議後の記者会見を振り返ると、再選に腐心し、北の非核化問題を棚上げするトランプ氏は北側に完全にその足元を見られ、舐められている。

 ハノイで2月末に開催された第2回米朝首脳会談まではトランプ氏は有利な交渉を展開させ、北側を窮地に追い込んだが、金正恩氏はその後、中国との関係強化に乗りだし、ロシアを巻き込むなど積極的な外交を展開し、態勢を立て直した。その後、北側がトランプ氏の弱点“再選病”を巧みに利用し、従来の瀬戸際外交に乗り出してきたわけだ。

 朝鮮中央通信は米朝実務協議開催直前、「潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を発射し、成功した」と報じた。潜水艦からの弾道ミサイル発射はトランプ氏の忍耐がどこまでかを測るリトマス試験紙だろう(米国の北朝鮮分析サイト「38ノース」は潜水艦からの発射ではなかったとの分析結果を明らかにしている)。

 スウェーデンのストックホルム郊外で開催された米朝実務会議後の米朝代表団の発表を読めば、米朝交渉の力関係が理解できる。北朝鮮首席代表の金明吉巡回大使は5日、「協議はわれわれの期待に応えられず、決裂した」と主張し、米国側を一方的に批判。一方、米国務省のオルタガス報道官は「良い議論ができた」と評価するコメントを発表した。米朝間で実務協議の評価が真っ二つに分かれているのだ。


 北側の声明では、「米国はわれわれが要求した計算法をひとつも持ってこなかった。われわれが要求した計算法は米国がわれわれの安全を脅かし発展を阻害するあらゆる制度的装置を除去する措置を実践で証明すべきということ」、「核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)試験発射中止が維持されるかは全面的に米国にかかっていている」(韓国中央日報日本語電子版)というのだ。

 米国側は、「2週間後、米朝実務会議の再開を提案したスウェーデン政府の意向に応じる考えだ」と表明する一方、北側は、「今回の朝米実務交渉が失敗した原因を大胆に認め是正することによって、対話の火種を生き返らせるのか、対話の門を永遠に閉ざすかは米国にかかっていている」(中央日報)と述べている。北側は、ストックホルムの米朝実務交渉をはっきりと「失敗」と断言しているのだ。ハノイの米朝首脳会談の逆転だ。

 金正恩氏は対北制裁の解除を獲得するために、トランプ氏へこれまで以上に圧力を強めてくるだろう。「トランプ氏が決断を渋っている」と判断すれば、核実験を実施する可能性も排除できなくなってきた。大統領選までに朝鮮半島で武力衝突が生じることを恐れるトランプ氏はその時、どのように対応するだろうか。「金正恩氏はもう友人ではなくなった」といった程度の対応では済まなくなるのだ。

 あれも、これもトランプ氏の大統領としての資質が問題というより、米国の大統領選システムが敵国(独裁国家)の攻撃の的となっているのだ。その意味で、スノーデン氏の「米社会のシステムエラー」という指摘は案外、正鵠を射ている。

ポンぺオ米国務長官のイタリア訪問

 バチカン・ニュースが3日報じたところによると、米国のマイク(ミヒャエル・リチャード)・ポンぺオ国務長官は同日、ローマ法王フランシスコを私的謁見した。イタリアの血筋をひく同国務長官とローマ法王との間で何が話題となったかは報じられていないが、フランシスコ法王はアルゼンチン出身だが、イタリア出身の移民の血が流れている。その意味で、フランシスコ法王とポンぺオ国務長官は出自ではよく似ている。ひょっとしたら話が弾んだのではないだろうか。

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▲フランシスコ法王を謁見したポンぺオ米国務長官(バチカン・ニュースのHPから)

 ポンぺオ国務長官は同日午前、バチカンのポール・リチャード・ギャラガー外務長官(大司教)と共に宗教の自由と人道支援に関するシンポジウムに参加した。ギャラガー大司教は、「ポンぺオ国務長官の参加はバチカンと米国両国にある共通価値観を示すものだ」と述べている。ちなみに、同会議は、駐バチカンのカリスタ・キングリッチ米大使らが主催した。同大使は米共和党のニュート・キングリッチ元下院議長の夫人だ。

 ギャラガー大司教の発言は多分、ワシントンのゲストに対する外交的配慮があったのだろう。フランシスコ法王とトランプ大統領の間には一致点と対立点がある。例えば、バチカンと米国は中絶問題では完全に一致している。トランプ大統領は中絶を厳しく批判している指導者だ。

 フランシスコ法王は今年2月、「中絶をあたかも人権のように受け取る者もいるが、胎児は自分の好みによっては愛し、そうでない時は捨ててしまうような消費財ではない。命を抹殺することは殺人を意味する深刻な問題だ。中絶を認めるような法を支持することは間違いだ」と強調している(「ローマ法王『中絶は人権にあらず』」2019年2月4日参考)。

 一方、バチカンとトランプ政権の間では移民対策で大きな相違がある。不法な移民の流入を阻止するためにメキシコ国境沿いに壁の建設を計画しているトランプ氏に対し、フランシスコ法王は、「いかなる壁も建設すべきではない。壁を建設する者はキリスト者ではない」と主張してきた。また、気候変動問題では、ローマ法王は環境問題に関する回勅「ラウダート・シ「("Laudato sii)を公表し、環境保護をアピールしてきたが、トランプ氏は環境汚染問題では懐疑派と受け取られている(「トランプ氏とローマ法王の会見」2017年5月24日参考)。

 ポンぺオ国務長官はイタリアのテレビとのインタビューの中で、ローマ法王とトランプ米大統領の間の移民問題での相違について、「この問題ではバチカンと米国の間には共通点がある」と強調、「南米のエルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、メキシコから多くの移民が米国に来る。特に女性や子供たちの状況は悲惨だ。そのような状況を解決するためには、不法移民の出身国の国内状況の改善が不可欠だ。国内の安全と福祉が保証されれば、自国を出ていこうとする国民はいなくなるはずだ」と説明している。


 米国では、トランプ大統領がウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との電話会見で米民主党大統領選有力候補、ジョー・バイデン前副大統領のウクライナ問題への調査要請容疑でゴタゴタ中だ。中東問題、イランの核問題のほか、北朝鮮とは実務協議に向け、スウェーデンのストックホルムで4日、予備接触、5日には実務協議がスタートするなど、米国の外交を主導するポンぺオ国務長官は超多忙だ。

 蛇足だが、北朝鮮は強硬派のポンぺオ国務長官を嫌い、米朝会議で“ポンぺオ外し”をトランプ大統領に強く要求している。対イラン核問題で強硬派の一人、ジョン・ボルトン国家安全保障問題担当大統領補佐官が先月10日、トランプ氏との意見の対立から罷免されたばかりだ。同じように、ポンぺオ氏の罷免も間近かではないか、といった噂がメディアの中で流れている。

 なお、バチカン・ニュースによると、ポンぺオ国務長官はイタリアではセルジョ・マッタレッラ大統領、ジュゼッペ・コンテ首相、ディマイオ外相らと会見したほか、ポンぺオ長官の曽祖父母が住んでいたパチェントロ(Pacentro)を訪ねる意向という。イタリアで最も美しい村の一つといわれるパチェントロはイタリア共和国アブルッツォ州ラクイラ県にある、人口約1100人の基礎自治体(コムーネ)だ。

 ポンぺオ氏は喧噪なワシントンから離れ、曽祖父母の出身地を一度訪ねたいのだろう。人生で厳しい状況に直面した時、人は自身の出発点(ルーツ)に戻ろうとするものだ。ポンぺオ氏にとってイタリァ訪問はこれまでの外国訪問とは違った意味合いがあるのだろう。

世界の政治では事実より「国益」

 サウジアラビア東部の国有石油会社「サウジアラムコ」が9月14日、無人機とミサイル攻撃で爆破されて以来、サウジ当局を中心として犯人探しが行われてきたが、サウジ国防相当局が18日公表したところによると、爆発現場から回収された無人機やミサイルの破片などから18機の無人機と7発のミサイルが使用され、飛翔体は北から南に向かっていたという。このことから、イエメン反政府軍の仕業というより、それを支援するイランがサウジ攻撃を実施した可能性が高いと推測されている。それに対し、イラン側は「わが国は関与していない」と犯行を否定している。

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▲米国内多発テロ事件の追悼で(2019年9月11日、ホワイトハウス公式サイトから)

 米国はサウジと連携して石油施設攻撃の犯人捜しを進め、「イランの関与が濃厚」と判断したが、「断言」は控えた。その一方、トランプ米大統領は「48時間以内にこれまで最高の制裁を課する」と宣言し、具体的には、.ぅ薀鹵羆銀行への制裁、∨姫匐化を目的とした米軍の派遣決定、等を決めたばかりだ。すなわち、トランプ氏は対イラン制裁強化を実施する一方、イランとの全面戦争に発展する軍事力の行使を控えている。次期大統領選挙が近いトランプ氏にとっては対イラン戦争はリスクが大きすぎるわけだ。

 トランプ政権がイランの犯行と「判断」する一方、「断言」を控えたのは、証拠が不十分だ、という純粋な科学的根拠によるものより、トランプ氏自身の政治的思惑、計算が強く働いているからだろう。断言すれば、「なぜ米国はイランに報復攻撃を行使しないのか」という当然の疑問が飛び出し、米国の中東での威信も傷つく。警察捜査当局がよく言う「限りなく黒に近い灰色」という段階で犯人捜しを中断するのが理想的というわけだ。

 トランプ氏にはイラク戦争(2003年3月〜11年12月)の後遺症が払しょくできないこともあるだろう。フセイン政権が大量破壊兵器開発を行っているという自国情報機関の情報に基づいて対イラク戦争(イラクの自由作戦)が始まったが、イラク国内には大量破壊兵器は発見できなかったうえ、米軍兵士に多くの犠牲者を出した、という苦い体験がある。トランプ氏はブッシュ政権の二の舞を踏みたくないという思惑、計算が働いただろう。

 政治の世界では事実より、その時の政治的思惑、指導者の計算が優先されるケースが多い。誤解を恐れずに言えば、政治の世界では事実より、その時の国益が優先する。事実の解明はあくまで建前であり、メディア向けの表明に過ぎない。

 ところで、サウジの反体制派ジャーナリストのジャマル・カショギ氏が昨年9月末、トルコのイスタンブールのサウジ総領事部内で殺害された事件で、トルコ側は事件当初からサウジ当局の仕業と断定、事件の背後にはサウジのムハンマド皇太子がいると断言し、国連安保理事会に対サウジ制裁の実施を要求した。それに対し、サウジ側は同国工作員の犯行を認めたものの、ムハンマド皇太子の関与については終始否定した。ちなみに、ムハンマド皇太子は国際会議に出席するなど、カショギ殺人事件でダメージを受けたイメージの回復に努めている。

 興味深い点は、米国の姿勢だ。トランプ大統領はサウジのカショギ殺人事件ではムハンマド皇太子の関与を否定し、対サウジ制裁を回避。サウジ石油施設攻撃では、イランの関与を断言せず、あくまでも推測の域に留めている。米国にとってサウジは米国製武器の最大の顧客だ。そのサウジの将来の国王、ムハンマド皇太子を追い詰めれば、サウジ王室内で内乱が起きる危険性も排除できない。油田爆発ではイランの仕業と断言すれば、武力行使を避けられなくなる。だから、サウジが後押しするイランへの武力制裁に対してトランプ政権は消極的な態度を取ってきた。対イラン戦争が中東全般に拡大する危険性が高いからだ。米国は事実解明より、明らかに国益重視だ。国益を損なう事実が見つかったとしても、それを灰色に留め、そのために隠蔽工作をも辞さない。

 もちろん、「事実」より「国益」重視は程度の差こそあれ、どの国の外交も同じだろう。例えば、アムステルダムから飛んだマレーシア航空17便が2014年7月17日、ウクライナ東部上空で撃墜され、298人全員が死亡した事件は、ロシア製の「ブーク」ミサイルによると判断され、ウクライナ東部のロシア武装勢力が撃ち落としたと判断されたが、ロシアのプーチン大統領はロシア側の関与を否定してきた。国際事故調査委員会ではロシア武装勢力のミサイルと断定され、現地視察を要求。ロシアは終始、民間航空機の墜落事故との関与を最後まで否定した。プーチン氏にとって、ウクライナ東部の親ロシア武装勢力を擁護することが墜落事故の事実解明より重要だからだ。

 政治の世界では政治家のスキャンダルが発生すると、調査委員会が設置され、関係政治家の汚職、犯罪を追及するが、事実の解明はその時の政情、指導者の動向に大きく左右されることが多い。事実は政治ではあくまでも脇役を演じるだけで、事実が主役を演じ、政治を左右するといった展開は非常に稀だ。その意味で、過去において現職大統領ニクソンが辞職に追い込まれたウォーターゲート事件(1972年6月)は稀なことといわざるを得ない。ジャーナリストの調査報道の大きな成果だが、その結果、米国は歴代大統領の中で最高の外交センスを有していたニクソン大統領(当時)を失うという代価を払わざるを得なかった。

ボルトン解任後のトランプ「外交」

 トランプ米大統領は10日、国家安全保障問題担当大統領補佐官ジョン・ボルトン氏を更迭した。トランプ氏の説明では、「ボルトン氏との間に見解の相違が大きかったからだ」という。ボルトン氏はタカ派の外交官で知られてきた。実際、対北朝鮮、対イラン政策では体制崩壊を視野に入れた強硬政策だ。だから、平壌やテヘランは警戒せざるを得ない。一方、ディールを得意とするトランプ氏は、相手を交渉テーブルに引きだすことに多くの時間と労力を費やすタイプだ。

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▲主要7カ国(G7)首脳会談での記者会見に臨むトランプ大統領。ホスト国のマクロン仏大統領(右)=ホワイトハウス公式サイトから、2019年8月26日

 もちろん、トランプ氏の外交は対話・交渉オンリーの路線ではない。少し振り返ると、中国の習近平国家主席との晩さん会(2017年4月6日)でトランプ氏は隣に座っている習国家主席に、「習国家主席、わが軍は只今シリアに向かって59発の巡航ミサイル・トマホークを発射しました」と呟いた。

 習近平主席はトランプ氏が冗談をいっているのではないかと思ったが、事実だと分かって自分の傍に座っているトランプ氏が怖くなってきただろう。すなわち、トランプ氏の外交はトマホークの発射で始まった。米国の国益に反する国に対して、圧倒的な軍事力を行使することに躊躇しない米大統領が自分の横に座っていることを習主席はその時、理解したといわれている。

 しかし、大統領就任2年半が経過したが、トランプ氏はこれまで本格的な軍事行動を行っていない。例えば、トランプ氏は6月20日、米軍偵察機(無人機)を爆破したイランに対して軍事行動を指令したが、その指令を直後に撤回した。トランプ氏はツイッターで、「ボルトン氏の助言に従っていたら、米軍は過去、4回戦争に巻き込まれていただろう」と述懐している。

 トランプ氏の外交は戦争を回避することにある。「戦争をするぞ」と脅し、制裁を施行して相手を追い込む一方、隣の部屋には交渉テーブルが用意されているというわけだ。トランプ氏がシリアのダマスカスの空軍基地にトマホークを発射したことで、その後の外交で常に強い指導者というイメージを相手側に与えることに成功したが、それはトランプ氏の本来の外交ではないだろう。

 トランプ氏はタカ派のような雰囲気を周囲に醸し出しながら、ハト派的な路線を模索する大統領といえる。民主党から共和党に党籍が変わったのも、トランプ氏はタカ派的な要素とハト派的要素を備えているからだろう。トランプ氏はハト派的なオバマ前大統領の後釜として就任したこともあって、前任者との違いを強調するためにタカ派的言動を繰り返し、そのプレゼンスを国民にアピールしてきたわけだ。

 さて、トランプ氏が超タカ派のボルトン氏を解任したことで、北側は「大統領は本当に交渉を願っている」と受け取り、トランプ政権との実務交渉に乗り出す可能性が出てきた。同じことが、テヘラン側との関係でも言える。体制崩壊を考えていたボルトン氏が去ったことで、トランプ氏と交渉がしやすくなったことは間違いないだろう。

 ひょっとしたら、唯一、例外は中国共産党政権だろう。ボルトン氏が抜けても、トランプ政権との貿易交渉に大きな変化は期待できない。対中政策ではボルトン氏以上に強硬派のマイク・ペンス副大統領がトランプ氏の背後に控えているからだ。

 それでは、トランプ氏はなぜボルトン氏を解任したのか。米国の国民経済は順調だったが、ここにきて少し雲行きが怪しくなってきた。このような時、対イラン、対北と戦争に乗り出すことはできない。次の大統領選が終わり、再選されるまで、トランプ氏は本格的な軍事力行使は避けるだろう。リスクが大きいからだ。数人の米軍兵士が戦死した場合、米国の世論はリベラルなメディアの後押しを受け、反戦に激変し、大統領を批判しだすからだ。そうなれば、再選どころではなくなる。

 残念ながら、トランプ氏の言動は次期大統領選が終わり再選を果たすまで、“次期選挙にプラスかどうか”が大きな判断基準となるだろう。敵国イラン、ならず者国家の北朝鮮との首脳会談が実現できれば、シンボリックな成果に過ぎなくても、次期大統領選にプラスとなる。ボルトン氏はこの時、トランプ氏にとって目障りな存在だから、解任したわけだ。

 北朝鮮はマイク・ポンぺオ国務長官を嫌悪している。ハノイの米朝首脳会談後、北側はポンぺオ国務長官を名指しで批判したこともあって、同国務長官は次の解任候補者ではないかという噂が流れている。

 トランプ氏が賢明ならば、ポンぺオ氏を解任しないだろう。解任すれば、北側に「米国は我々とどうしても交渉したがっている」というシグナルを送ることになるからだ。交渉前に、相手に弱みを見せることは不味い。ディ―ルの名手・トランプ氏がそんなことを知らないはずがないだろう。

“4大革命”に挑戦するトランプ氏

 イラン問題の専門家で米ジョンズホプキンス大学で政治学の教鞭を取るヴァリ・ナスル氏は独週刊誌シュピーゲル(8月3日号)とのインタビューの中で、中東情勢が戦争の危機に直面していると警告し、「イランはトランプ政権を信頼しておらず、米国との対話には反発が強い一方、イラン核合意の欧州3国(英仏独)は米国の圧力に抗することはできない」と指摘、米国とイランの現状は戦争前夜の状況を呈してきたと述べている。

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▲イラン核合意離脱を表明したトランプ米大統領(2018年5月8日、ホワイトハウスの公式サイトから)

 同氏によれば、トランプ大統領はイランとの2カ国交渉を願っているが、ボルトン大統領補佐官やポンぺオ国務長官はイラン体制の崩壊を目標としていること、トランプ政権がイランの原油輸出を完全にストップさせる一方、今年4月にはイラン革命防衛隊(IRGC)を国際テロ組織に指定したことで、米国との対話も視野に入れていた穏健派ロウハニ大統領らの政治力が弱まり、対米強硬路線が強まってきていると解説している。

 ちなみに、トランプ氏の強い要請を受け安倍晋三首相が6月13日、イランを訪問し、同国最高指導者ハメネイ師らと会見、トランプ氏の親書を手渡すことになっていたが、ボルトン大統領補佐官は安倍首相のテヘラン到着直前、対イラン追加制裁を下し、安倍首相の米国とイラン間の調停外交を無意味にしたと説明。その後、イラン側も米国の無人機を爆発させ、国際原油タンカーを拘束するなどの強硬手段に乗り出してきた。

 ナスル氏は、「イランは欧州の対応を注視し、米国との正面衝突を回避するため1年間余り、“戦略的忍耐”を続けてきたが、ボルトン補佐官の強硬路線に直面してイラン側の忍耐は限界に達した」という。

 ところで、ナスル氏は、近代史で本当の革命は、「フランス革命」、「ロシア革命」、中国の「文化大革命」、そして「イラン革命」を挙げ、“近代の4大革命”と呼んでいたが、偶然かどうかは別として、トランプ米政権は現在、その4大革命と関係がある国(発祥地)、指導者と対立してことに気が付いた。

 「フランス革命」(1789〜99年)は中世時代からのローマ・カトリック教会の影響を脱し、身分制と領主制を廃止し、人間性の回復、自由と平等と友愛を求める運動だった。フランスに端を発した市民革命は欧州全土に大きな影響を与え、歴史は近代の夜明けを告げた。

 トランプ大統領はフランスのマクロン大統領とはかなり頻繁に会談しているが、両大統領は欧州の安保問題から貿易問題までことごとく衝突を繰り返し、トランプ氏は8日、イラン問題で「米国はフランスにイラン側との交渉など要請していない」と、テヘランに「曖昧なシグナルを送った」とマクロン氏を批判したというニュースが流れたばかりだ。トランプ氏は元々、マクロン氏が願う強い欧州連合(EU)に対しては非常に懐疑的だ。

 「ロシア革命」(1917年)は欧州のキリスト教社会を温床に台頭した共産主義が無神論的唯物世界の労働者の天国建設を標榜して起きた革命だ。最終的には労働者の天国ではなく、共産党による独裁政権を誕生させたことはまだ記憶に新しい。その盟主ソ連の後継国ロシアでは失った大国の回復を願うプーチン氏が登場し、既に20年間余り政権を掌握してきた。そのプーチン氏のロシアとはトランプ氏は核軍縮問題で衝突し、中距離核戦力全廃条約(INF)を破棄するなど、対立路線に入ってきている。

 そして中国の「文化大革命」(毛沢東主導の革命運動、1966〜77年)は習近平国家主席の「中国の夢」の実現を目指し、国家管理市場経済を標榜し、世界制覇に乗り出してきた。トランプ米政権とは貿易分野だけではなく、軍事、宇宙開発まで覇権争いを展開している。中国通信機器大手ファーウェイ(華為技術)との争いは米中代理戦争の様相を呈してきた。ペンス米副大統領の中国政策に関する演説(2018年10月4日)はトランプ政権の対中政策をもっとも明確に説明している。

 最後に、「イラン革命」(1978〜79年)だ。ホメイニ師が亡命先のパリから戻り、イスラム教を国是としたイスラム国家建設を宣言。テヘランの駐米国大使館にデモ隊が流れ込み、米外交官を人質にするなど衝突。米大使館の占拠以来、米国とイラン両国は険悪な関係が続き、今日に至る。イラン革命は世界のイスラム教根本主義を鼓舞し、欧米社会にも大きな影響を与えてきた。

 トランプ大統領は昨年5月8日、13年間の外交交渉の結果合意したイラン核合意を破棄し、イランとの対立を再燃させた。イランの聖職者支配政権の打倒をもくろむ米国と、地域大国としての影響力を維持したいイランとの衝突は中東全域を戦火にする危険性が出てきた。

 以上、トランプ米政権は現在、歴史的な革命であるフランス革命、ロシア革命、中国の文化大革命、そしてイラン革命の4大革命の発祥国(後継国)と一種の覇権争いを展開させているわけだ。

 トランプ政権の試みが成果をもたらすのか、惨めな敗北を喫してしまうかはもう暫く見ないと判断できない。明確な点は、トランプ氏が歴代米大統領とは全く違った出自、キャリア、政治信条を掲げてホワイトハウス入りした大統領だということが改めて分かる。
 

トランプ氏の「イラン政策」の深読み

 トランプ米政権は核合意を違反するイランに対して制裁を課す一方、世界の原油輸送ルート、ホルムズ海峡の安全な航海を守るために有志連合を結集し、イラン包囲網の構築に乗り出している。

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▲イランと2か国交渉を目指すトランプ米大統領(米ホワイトハウス公式サイトから)

 トランプ政権は先月31日、核合意のイラン側の立役者ムハンマド・ジャヴァド・ザリフ外相に制裁を課し、同外相の米国内で保有している全資産を凍結すると発表した。同外相が米国内に巨額の資産を保有しているとは思えないから、イラン外相への制裁はあくまでも政治的な圧力を狙ったものであることは明らかだ。

 一方、米国主導の「有志連合」構想では、英国やフランスはいち早く同意し、参加を表明したが、欧州連合(EU)の盟主であり、イラン核合意のEU締結国の一国、ドイツのマース外相は31日、「ドイツは有志連合には参加しない。ホルムズ海峡周辺の緊張を一層高める危険性があるからだ。わが国は外交ルートを通じて解決を目指す」と述べている。

 北大西洋条約機構(NATO)加盟国・ドイツの有志連合不参加は米国のイラン包囲網構想にとって痛手となる、と一部で受け取られている。確かに、欧米の結束でイランに圧力を行使したいトランプ大統領にはドイツの反応は歓迎できないだろう。

 トランプ大統領はこれまでホルムズ海峡の安全航海は世界経済にとっても死活問題だとして同盟国に有志連合参加を呼び掛けてきた。トランプ大統領はジョンソン英首相やマクロン仏大統領と会談を続け、有志連合の重要性を協議してきた。日本にも有志連合の参加が打診されたが、日本側はこれまで何も決めていない。

 興味深い点は、韓国は米国の参加呼びかけに直ぐに快諾し、トランプ氏を喜ばせた数少ないアジアの国だ。韓国の狙いは、憲法の関係で海外に軍を派遣できない日本との相違を浮き彫りにさせ、輸出優遇国「ホワイト」国から韓国を除外した日本に対し、トランプ氏が韓国側の意向を尊重して圧力をかけてくれることにある、といった深読みも聞かれる。

 ところで、有志連合の結成がスムーズにいかず、欧州3国でも立場の相違が出てきたことは、トランプ氏を本当に失望させているだろうか。トランプ政権はドイツが有志連合に参加しないことを前もって予想していたはずだ。欧州の3国(独仏英)は決して一枚岩ではないからだ。トランプ氏はイラン核合意の維持を主張する欧州3国の結束を崩す狙いもあって、有志連合の参加を呼び掛けたのではないか。現状はトランプ氏が願っている方向に向かってきたわけだ。

 トランプ政権は外交では多国間交渉を嫌い、2カ国間交渉に拘る。国連、EU、そしてNATOなど多国間協定や組織に対してトランプ氏は懐疑的だ。米国と関係国との2カ国間でディ−ルを好む。イラン核問題でもトランプ氏の本音はイランと米国の2カ国間の交渉だ。イラン核合意の締結国(6カ国)が参加した多国間交渉にはあまり乗り気ではない。そこでEU3国の結束を崩す狙いから有志連合という構想を打ち上げたのだろう。

 多国間交渉では米国の国益は譲歩を強いられることが多いが、2カ国間交渉ではそれぞれが国益を正面からぶつけ合うから、会談が暗礁に乗り上げる危険性がある一方、双方の利益が明確になることで、ウィンウィンの妥協が実現することもある。

 2カ国間交渉では米国のパワーをフルに発揮できるが、多国間ではそうはいかない。中途半端は妥協を強いられる。トランプ氏の目には、イラン核合意は13年間の外交の成果というより、米国の思惑や国益が薄められた妥協案に過ぎないから、核合意から離脱することに全く躊躇しなかったわけだ。

 同じことがトランプ氏の朝鮮半島政策に言える。北の核問題は6カ国協議で解決を模索するのではなく、米朝会議で話し合って決めたいわけだ。

 トランプ氏はイラン核協議ではロウハ二大統領との米・イラン首脳会談の開催を目標としているはずだ。イランもEU3国の立場に相違がある以上、EUとの約束が実行されないと分かれば、トランプ氏の2カ国協議申し出に応じる可能性がでてくる。

 トランプ氏は北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長を「私の友達だ」と呼んでいるが、ロウハ二大統領に対しても近い将来、ツイッターで「あなたは私の最も信頼できる友達だ」と発信する日がくるかもしれない。

人類初の月面着陸50周年を迎えて

 米国のアポロ11号が人類初の月面着陸し、帰還してから今月20日で50年目を迎える。米国だけではなく、全世界で人類の宇宙への扉を開いたアポロ11号の快挙を祝うイベントが行われる予定だ。

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▲人類初の月着陸に成功したアポロ11号 NASA公式サイトから

 米国の月面着陸飛行計画を最初に公にしたのは第35代米大統領のジョン・F・ケネディ大統領だ。同大統領は1961年1月の就任から4カ月後の同年5月25日の議会の演説で「1960年代終わりまでに人類を月に送る」と宣言し、議会に220億ドルの予算を充てるように要望した。ケネディ大統領の宣言から8年後、その夢が実現したが、肝心のケネディ大統領は1963年11月22日、暗殺され、アポロ11号の快挙を目撃できなかった。

 ケネディ大統領が月面着陸計画に拘ったのには理由がある。米国は当時、宇宙開発競争でソ連に遅れを取っていた。人類初の人工衛星という名誉はソ連のスプートニク1号が1957年10月4日に獲得し、61年4月には人類初の有人地球周回飛行を成功させた。

 宇宙開発でソ連に敗北を喫してきた米国はケネディ大統領が登場すると、「ソ連に先駆けて60年代終わりまでに月に人類を送る」とソ連に対し挑戦宣言したわけだ。

 ちなみに、「人類を月に送る計画」を発表したケネディの議会演説は同年1月の大統領就任式演説と共に名演説といわれてきた。若い米大統領には宇宙開発競争でソ連に敗れたくない、米国は世界一でなければならない、という燃えるような熱意とニューフロンティア精神があったのだろう。

 アメリカン・ファーストを選挙戦のキャッチフレーズに大統領選に勝利したトランプ氏は決して米国をグレートにすると叫んだ最初の米大統領ではなかった。両者の違いは大統領に就任した時、ケネディは43歳、トランプ氏は70歳だったという年齢の違いだけだ。米国の大統領に選出された政治家は、米国を世界一、グレートな国にしなければならない宿命を背負っているわけだ。

 興味深い点は、月面に着陸し、帰還したアポロ宇宙飛行士の「その後」の歩みだ。「宇宙からの帰還」(中公文庫)というタイトルの立花隆氏の著書には詳細に描かれている。宇宙飛行から帰還した宇宙飛行士でアポロ15号のジェームズ・アーウイン宇宙飛行士はその後、牧師になっている。

 アポロ11号でニール・アームストロング船長が人類初めて月面に足を下ろし、ハズ・オルドリン飛行士は月着陸船操縦士として人類2番目のムーンウォーカーとなった。アームストロング船長が月面に足を踏み入れた時のコメントは世界に報じられた。

 「That's one small step for [a] man, one giant leap for mankind.」(これは1人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である)。

 ちなみに、1961年、世界初の有人宇宙飛行に成功したユーリイ・ガガーリン大佐はボストーク1号から眺めた地球を見て、「地球は青かった」と述べたことが伝わると、その地球に住む人々に言い知れない感動を与えた。美しい地球に私たちは住んでいるのだ、という感謝の心すら湧いてくるからだ。

 ガガーリン大佐が「私は周りを見渡したが神はいなかった」と述べたという話は聞くが、それは宇宙飛行後に語ったものだ(「なぜ人は天を仰ぐのか」2015年10月10日参考)。

 なお、人類の宇宙時代を切り開いた2人の英雄、ガガーリン大佐は1968年3月27日、墜落事故で34歳の若さで死亡している。一方、アームストロング船長は2012年8月25日、82歳で病死した。

 人類初の月着陸から50年が経過するが、いよいよ宇宙旅行時代が到来してきた。特別訓練を受けた宇宙飛行士だけが宇宙に出かける時代から、一般の人間が宇宙に旅する時代だ。リチャード・ブランソン氏が設立したヴァージン・ギャラクティック社は宇宙旅行ビジネスを、アマゾンの創設者ジェフ・べゾス氏の「ブルー・オリジン」社は2024年までに有人月旅行を、電気自動車テスラのイーロン・マスク氏が宇宙輸送を業務とするスペースX社を立ち上げるなど、世界的投資家たちが次々と宇宙旅行を目指して走り出している。

ホワイトハウスのオークは枯れた

 マクロン仏大統領が昨年4月23日、米国を国賓として訪問した時、フランスからプレゼントとしてオーク(日本語ナラ)の苗木を持参し、トランプ大統領と共にホワイトハウスの庭園で植樹の式典を行った。あれからまだ1年余りしか経過していないにもかかわらず、オークの苗木が枯れてしまったというニュースが流れてきた。

 オークは植樹式典後、外国からの植樹の場合、検疫のために特別の場所に移される。そして正式にホワイトハウスの庭園に移そうとしたとき、オークが既に枯れていることが分かったというのだ。

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▲ノルマンデイ上陸作戦75周年式典で会合したトランプ大統領とマクロン大統領(2019年6月6日、フランス大統領府公式サイトから)

 落葉樹のナラの総称で英語ではオークと呼ばれるが、欧米では床材、家具ばかりか、ワインやウイスキーを保管する樽にも利用される樹木だ。マクロン大統領がフランス北部から贈り物として運び、植樹したオークが1年余りで枯れたというのは通常ではない。「人間が犬を噛んだ」と同じ類のニュース性があるとして、「ホワイトハウスの庭に植樹されたオークが枯れた」というニュースは瞬く間に通信社から世界に配信された。当方が毎日読むオーストリア代表紙プレッセばかりか、大衆紙のエステーライヒ紙、そしてメトロ新聞ホイテにも写真付きで掲載されていた。

 「枯れたオークの木」がなぜニュース・バリューがあるのかを以下、考えてみた。

 .曠錺ぅ肇魯Ε浩貘阿猟躅犹佞ケアを忘れたということは考えにくい。外国のゲストから送られた苗木の世話はホワイトハウス専属の庭園師ならば如何に重要かを知っている。一種のVIPの樹木だ。庭園師がたまたまフランス嫌いだったということはあり得るが、説得力は十分ではない。

 ▲ークは米国とフランス両国の友好関係を示す象徴的なプレゼントだった。それが1年余りで枯れたということは、米仏両国の現状を象徴的に表しているという解釈も成り立つ。オークはワインの樽にも利用される優良材だ。そしてトランプ大統領は10日、フランス製ワインに対して米国製ワインと同様の関税をつけると脅したばかりだ。その直後、ワインの樽にも利用されるオークの木が枯れてしまった、というニュースが流れてきたわけだ。何か象徴的な因縁を感じる。

 ちなみに、欧州連合(EU)は米国製ワインに対し1瓶0・11から0・29ドルの関税をかける一方、米国は欧州製ワインに対し1瓶0・053から0・127ドルと低い関税だ。

 フランスから運び込まれたオークは第一次世界大戦時、多くの米軍兵士がフランス軍と共にドイツ軍と戦った北部地域の森林から運ばれたという。その地域で2000人以上の米軍兵士が戦死している。米軍兵士の血が流れた土壌から成長したオークがホワイトハウスの庭園に運ばれたのだ。亡くなった米軍兵士はオークとなって米国に帰国したわけだ。しかし、戦死した米軍兵士には様々な悲しみや恨みがあったはず。暗い記憶を背負っているオークの苗木だけに、通常のようにのびのびと成長できず、1年余りで枯れてしまった。何か不気味な因縁を感じる

 ぅ肇薀鵐彗臈領とマクロン大統領の関係は政治的信条ばかりか、性格、年齢の差も大きい。マクロン大統領はトランプ大統領夫妻がフランスを訪問した時には最高のもてなしをしたつもりだったが、安倍晋三首相のようなもてなしからは程遠いものだった。トランプ氏にとって、マクロン氏は余りにも知性的であり、EUへの思い込みが強すぎる。話はうまく進まない。その両者の不協和音、不一致がオークの苗木にも反映し、成長できずにホワイトハウスの庭園で1年余りの短命で枯れてしまった。木は何でも知っている。オークの苗木はトランプ氏とマクロン氏の人間的葛藤を感じてきたのだろうか。何か人間と万物の歴史的な因縁を感じる。

 大統領や首相は植樹の式典に参加する機会が多い。2年前、イタリア共和国トレンティーノ=アルト・アディジェ州トレント自治県の北東部に位置するヴァル・ディ・フィエンメ谷から採木された松がクリスマスツリーとしてローマのヴェネツィア広場に運び込まれたが、樹木の専門家が直ぐにその松の木が枯れていることに気が付いた。そのため、ローマのブルジニア・ラッジ市長は市民から口悪く罵られた。植樹の式典は政治家にとって命とりになってしまうことすらあるわけだ(「クリスマスツリーは枯木だった」2017年12月21日参考)。

 ホワイトハウスのオークの場合、どのような対応がされるだろうか、マクロン大統領は直ぐに新しいオークの苗木を米国に送るだろうか、それとも現在の米国とのワインの関税問題が解決するまで枯れたオークの苗木の引き取りを見合わすだろうか。

「憎悪」煽るCNNの反トランプ報道

 ニュージランド(NZ)中部のクライスチャーチで15日起きた銃乱射テロ事件をCNNと独ニュース放送NTVで追っていた。CNNはいつものように豊富な人材を駆使し、関係者やイスラム信者たちにインタビューし、ホットな情報を流していた。一方、独民間放送は外電で事件をフォローする一方、ロンドンに住むテロ専門家にインタビューし、欧州で起きたイスラム過激テロ事件と比較しながら事件を追っていた。

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▲CNNのジム・アコスタ記者(ウィキぺディアから)

 両放送を観ていて大きな違いに気が付いた。CNNはイスラム教徒への憎悪の恐ろしさ、イスラム・フォビアについて話す一方、最後にはトランプ米大統領批判が飛び出すのだ。トランプ大統領がメキシコとの国境に壁を建設しようと腐心し、外国人、移民・難民への憎悪を駆り立てているという論理から、極端に言えば、NZの白人主義者、反イスラム教のブレントン・タラント容疑者の犯行はトランプ大統領の憎悪政策が大きな影響を及ぼしているというのだ。

 ワシントン発ロイター電によれば、トランプ大統領はNZのテロ事件について「恐ろしい殺戮」と非難し、「モスクでの恐ろしい殺戮に対するニュージランドの人々の心痛を心よりお察しする」とツイッターに投稿している。ホワイトハウスのサンダース報道官はその直前、「憎悪による卑劣な行為」と非難したが、CNNはそんなことはどうでもいいのだ。

 トランプ大統領の「壁」建設は本来治安対策から出てきたものだ。それをCNNは移民・難民への憎悪からと恣意的に報じてきた。また、米南部バージニア州シャーロッツビルで2017年8月、白人主義を標榜する極右団体とそれに反対するグループが衝突し、反対派グループに自動車が突入し、1人の女性が死亡、多数が負傷した事件が起きた。その時、トランプ大統領は白人主義団体の人種差別政策に対し批判を抑える発言をしたと受け取られ、CNNなどリベラルなメディアはトランプ氏を白人主義の擁護者と酷評してきた経緯がある。

 ちなみに、タラント容疑者自身はマニフェストの中で「自分はトランプ大統領の政治を支持しないが、大統領は覚醒してきた白人のアイデンティティのシンボルだ」と書いている。

 独放送ではトランプ大統領の名前は1度も出てこない。なぜならば、NZの銃乱射テロ事件のタラント容疑者とトランプ大統領をリンクするという発想がないうえ、NZの銃乱射テロ事件の詳細な情報がない段階で早急な判断はできないという報道姿勢があったからだ。欧州で過去発生したノルウェーのオスロ大量殺人事件の犯人ブレイビクとNZのタラント容疑者の犯行を比較していた。

 CNNはトランプ氏が2017年1月、米大統領に就任して以来、局を挙げて反トランプ報道を展開させてきた。トランプ大統領が昨年11月7日、中間選挙後の記者会見を開いた時、CNNのジム・アコスタ記者がゴリ押し質問で大統領に制止される、といった場面があった。

 CNNの場合、徹底して反トランプ報道だ。ファクト・チェックといいながら、CNNの報道には一方的な価値観に基づく報道が余りにも多い。トランプ大統領のCNN嫌いはよく知られている(「CNN記者よ、奢るなかれ!」2018年11月18日参考)。

 ハノイで今年2月27、28日の両日開催された第2回米朝首脳会談の動向をCNNを通じてフォローしていたが、CNNの関心はハノイの米朝首脳会談にはなく、ワシントンで同時間に開催されたトランプ氏の元弁護士の連邦議会での証言にあった。トランプ大統領の元顧問弁護士、マイケル・コーエン氏が下院監視・政府改革委員会の公開公聴会で大統領による犯罪行為について証言した。CNNはハノイの首脳会談の行方を簡単に報道した後、連邦議会でのコーエン氏の証言にカメラを向け、トランプ氏攻撃をここで長々と続けていた。ハノイの動向が気になった当方は少々辟易した。

 米国の大統領が異国の地で北朝鮮指導者と会談し、非核化交渉している時、CNNは大統領の外交ポイントとなるかもしれないハノイの首脳会談を最低限度の報道に抑え、カメラは米連邦議会でのコーエン氏の証言に向けられていたわけだ。

 米国では過去、政治信条が異なるとしても選挙で選出された大統領には一定の尊敬を払うのが米国民であり、報道関係者の姿勢だった。今はそれが見られなくなってきた。CNNは、ハノイの米朝首脳会談開催時には、トランプ元弁護士の証言を優先し、NZの銃乱射テロ事件では、極右テロリストの犯行の主因はトランプ氏の憎悪政策の影響、と示唆していたのだ。

 CNNは反トランプ病に罹っている。次期大統領選で別の大統領が出現するまで、その病の回復は期待できない状況だ。なぜならば、CNNはイスラム教徒への「憎悪」、移民・難民への「憎悪」を批判する一方、自分たちがトランプ大統領への「憎悪」を駆り立てている、という自覚がないからだ。病の自覚がない患者は危険だ。

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