「い、いや、怒ってなんかいないよ、驚いたんだ、素直に認めてくれるから」
私はオドオドして答えた。
「そ、そうですか…」
篠原はそう言うと、ほっと溜息を突いた。
「ああ、気にしないで」
私は作り笑顔で応える。
「ええ、でも、奥さん、否、庄司さん、とっても真面目な人でそんな事出来そうも無いと思います」
篠原はそう事実を告げる。
確かに。
心の奥深くに果てしの無い欲望は秘めているが、表面上は至って貞淑で大人しい女だ。
難攻不落。
そう女経験が少ない篠原が危惧する気持ちは痛いほど理解出来た。
「恋愛相談するって形で攻められないかなあ?」
私はそう提案する。
「恋愛相談ですか?」
篠原は怪訝な顔をする。
「あのスーパーには、君が気に掛ける若い女性が居ただろ?」
私はそう指摘する。
「えっ!だ、誰ですか?」
篠原が又、顔を真っ赤にする。
予想通りだ。
店内で隠れて篠原の視線を探っていると、その先には必ず若い女性が居た。
愛ちゃん…
確か、そう呼ばれていたと思う。
「か、彼女は恋人が居るんです!」
篠原が絶望的な声を上げる。
叶わぬ恋。
それに長年悩んでいたという事か…
「だったら、猶更都合が良いじゃないか」
私は猫撫で声で、そう囁く。
「つ、都合ですか?」
篠原は聞き返す。
「そうだよ、叶わぬ恋を何とか成就させたい、そう言って朱音に相談すれば良いじゃないか?」
私はそう悪魔の提案をする。
意外にお節介。
朱音の性格を私は熟知している。
困っている若い社員が居る。
何とか助けたい。
そう思うかもしれない。
否、
そう思わせるのだ。
私はそう決意した。

