「どう?通ってる???」


狭い廊下の掲示板。俺は背後のリーを振り返る。


シニアBスタンダード1次予選・結果発表――


「通ってるよ。ヒロちゃんも、Kちゃんも

「そう、よかった」


リーはそう言ったが、表情は晴れ切らず


シニアBスタンダード・準決勝ーー


待機線に並ぶ11組。

ヒートが一つに絞られて、狭いフロアーの奪い合いは、端から必至


ワルツ


1次と同じ右手長辺でのポジション取り。

早速、両サイドを挟まれて、プレッシャーのかかる踊り出し

左のペアを観ながらタイミングを測ってプレパレーション。

ナチュラルターンでの接触はなかったが、中へ切れ込んだ時点で選手の壁

なんとか出口を探して抜け出すも、状況変わらず右往左往

気持ちは悪いが、我慢のダンスで踊り切る


タンゴ


こちらも1次と同じく待機線に向かってスタンバイ。

ほぼ1次の倍の人数がフロアーにいるので、すぐに行き詰まる


「なになに???次どうするの


ルーティンを崩して抜け出すも、ツーウォークからのベーシックでさえ、戸惑うリーが感じられる

このところの俺は、一度ルーティンを崩すと、集中力が切れてしまう。

不出来なリーダーは自棄のヤンパチ、与えられた90秒を、ほぼ行き当たりばったりで空費した


「ゴメン、立て直せなかった


「ここで給水タイムを取らせて頂きます。選手の皆さんは各自、給水を心がけ、体調管理に努めて下さい」


中入りの給水が力水になればよいのだが、フロアーの狭さも上に乗る人数も変わらない

俺たちのルーティンはどの種目も、どちらかというと大きく踊れる広いフロアーが合っている。

更に良くないことに、下位級ではルーティンは崩れて当たり前で互いに補い合えていたのだが、B級に上がったあたりから、なまじ周囲が上手いので、ルーティンを崩した時の対応を、適当にしたまま、ここまで来れてしまっていた


スロー


タンゴと同じく、待機線側の短辺からスタート

だが案の定、行く手を阻まれて、シンコペーティッドのスリーステップが通常の形になってしまう

些細な変化だが、これがものの見事に災いし、俺は長辺用のルーティンをすっ飛ばすと、短辺で踊るルーティンへと突入してしまう

ルーティンこそその場しのぎではなかったが、狭いエリアで接触を気にしつつも、予定外のところで、やれ後退だキックだと無理やり踊らされるリーこそたまったものではなかったろう

焦りから始まったルーティンの崩れは戸惑いを生み、戸惑いが更なる焦りを生んで、互いに増幅しあう負の連鎖


シニアBスタンダード・結果発表――


掲示係の先生を追いかけ見に行った 


「どう???」


少し離れたところに立ったリーの目が、一縷の望みを宿して俺を見る。

俺は首を横に振る。


あの体たらくで、あろう筈がない・・・・。

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「維持、出来ないかもね


俺たちは早々に荷物を片付けモノレールを待っていた。


「うん、流石にちょっと厳しいな・・・・」

「・・・・私たち、やっぱり、いろんな場面で経験が足りないものね


A級スタンダードは、海千山千のペアばかり。かといって、練習量は今より増やせない。最早物理の問題だ。


「ドロンはどうしたい?」

「・・・・・・・・」


勝つためのダンスを踊る厳しさが、勝てない現実を前に、軋みを立てて俺たちの心を圧し始めていた。
(今回のお話は、これでお終いです またね〜


Riccardo Cocchi - Yulia Zagoruychenko | USA | Ballroom Latin | How to dance Jive


押しも押されぬ王者リカルド&ユリア

勝つためのダンスは厳しいものですが、乗り越えた者だけが享受できる至福の楽しさがあることも事実です