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(画像:バロッサ・ブドウ並びにワイン生産者組合作成資料より)
5月21日に東京、六本木ヒルズクラブで「バロッサ・ブドウ並びにワイン生産者組合」により開催された、オーストラリアワインのマスタークラス(上級者向け)セミナー「バロッサ古木憲章について」に参加しましたので、レポートします。

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(画像:バロッサ・ブドウ並びにワイン生産者組合作成資料より)
【バロッサ ~アデレードの街から北東に1時間のドライブ~】
南オーストラリア州の「バロッサ」という地名は、通常「バロッサ・ヴァレー」という名で、オーストラリアで最も有名なワイン産地として知られています。現在オーストラリアのワイン産地の区分け(Geographical Indications,通称GI )では面積の大きい区分から、“ゾーン”、”リージョン”、サブリージョンと3つのカテゴリーがあり、「バロッサ」は「ゾーン」、「バロッサ・ヴァレー」と標高の高い「エデン・ヴァレー」はリージョンに当てはまります。

上記の立体マップをご覧になって頂いてもお分かりになるとおり、バロッサの地形は入り組んでおり、多様な気候(温暖で乾燥した地中海性気候がベースですが)と、様々な地勢と土壌が存在する事が理解できます。
例えば、標高250m~370mに位置するバロッサ・ヴァレーのブドウ生育期間中の有効積算温度が1710℃を示すのに対し、標高380m~550mに位置するエデン・ヴァレーのそれは、1390℃という冷涼な気温を持っています。同じゾーンの中でもコンディションの異なる二つのりージョンからは同じ品種を用いても、異なるスタイルのワインが産まれる事は、想像に難くないでしょう。

現在170のワイナリーを持つバロッサですが、バロッサ・ヴァレーではパワフルなシラーズ、そしてエデンヴァレーではその冷涼さを活かしたエレガントなシラーズと華やかな香りのリースリングが、各産地の特徴を代表しています。

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(画像:バロッサ・ブドウ並びにワイン生産者組合作成資料より)
【古木憲章の制定】
バロッサ・ブドウ並びにワイン生産者組合が制定したこのユニークな制度は、以前より様々な樹齢の木が「Old」と表記されてきたにも関わらず、明確な定義が無い事に憂慮を感じたバロッサの名門ワイナリー「ヤルンバ社」が、2007年に独自な古木に対する規定を発表した事に端を発しました。
その後、2009年に「バロッサ・ブドウ並びにワイン生産者組合」により、正式にこのワイン産地の制度として「バロッサ古木憲章は」制定されました。
今だ1843年に植樹されたブドウが残るバロッサで、この制度が推奨されるのは当然のことだと言えるかもしれません。

では、ブドウが古木であると、どんな優位点があるのでしょうか。まずは、その深く張り巡らされた根のシステムが挙げられます。それは旱魃や洪水といったブドウの品質の低下を引き起こす自然現象に対し、驚くほどの耐性を見せてくれます。
又、風味成分に富み、高い糖分を持ち、タンニン類の成熟が早い実を付ける事でも知られています。
確かに、ワインの品質やスタイルを決定づける要因は非常に多岐にわたっている為、古木であれば良いワインが出来るとは必ずしも言えませんが、素晴らしいワインの元となるブドウを安定的に産する畑では、ブドウが年輪を重ねていくケースが多いと言えるでしょう。
言い換えれば、古木から収穫されるブドウの実は、その土地らしさを純粋に身に付けた個性を持つと言えるでしょう。

【古木憲章の区分】
「Barossa Old Vine バロッサ・オールド・ヴァイン」
樹齢35年以上の木。バロッサ・オールド・ヴァインは思春期を過ぎて、完全な成熟期にあたります。その根の構造と厚い幹が味わいと性格に多様性をもたらしています。既に幾年にもわたり最高品質のブドウを安定的に産み出し、長命なトップクラスのバロッサワインに用いられています。

「Barossa Survivor Vine バロッサ・サバイバー(生存者)・ヴァイン」
樹齢70年以上の木。これらのとても古い木は現代的な環境における伝統的な価値観、またバロッサの古木に対する新たな尊敬の念を表す生きた象徴です。「バロッサ・サバイバー(生存者)・ヴァイン」は大きな一里塚に到達した古木であり、古木から造られるワインの品質と骨格に価値を置くブドウ農家と醸造家にとって、貴重な存在となっています。

「Barossa Centenarian Vine バロッサ・センテナリアン(100歳)・ヴァイン」
樹齢100年以上の木。これらは極めて古い木であり、逆境に耐えてきた(産地としての)バロッサ持つ強い回復力の生き証人です。フィロキセラが一度も発生していないという点で、世界の多くのワイン産地とは一線を画しているバロッサでは、木がゴツゴツなコブと共に太い幹を形成。、自然に任せて彫刻のように育っています。

「Barossa Ancestor Vine バロッサ・アンセスター(先祖)・ヴァイン」
樹齢125年以上の木。「アンセスター(先祖)・ヴァイン」は少なくとも125年の間、力強く、誇り高く立ち続けた木であり、バロッサに入植した欧州からの初期移民たちに対する生きた賛辞である。これらの木はバロッサに於けるブドウ栽培の伝統にとって掛け替えのないない古木の財産の源となりました。通常、無灌漑栽培、低収穫量。偉大な味わいと力強さを持っており、現存する世界で最も古いブドウの木であると認知されています。

プレゼンテーション2

今回は「バロッサ・ブドウ並びにワイン生産者組合」のマネージャー、ジェームス・マーチ氏によるプレゼンテーション。家族はブドウ栽培家で、自身も醸造家として海外並びにオーストラリアでワイン造りに携わった事がある氏の説明は、多彩な経験からか、論理だった分かり易い内容でした。
一方、私自身の個人的な感想を言えば、比較したワインは産地(バロッサ・ゾーン内)や生産者、そして造りの違いが目立ち、樹齢の差がどこまで品質やスタイルに影響を与えているかは、分かりづらかったと言えます。
とは言え、供出されたワインは全て凝縮感と果実の純粋さは表れており、困難なヴィンテージ(熱波の来襲)だった2008年の様な年でも、安定した品質のワインを生産している事実をみれば、「古木の優位性」はゆるぎないと言えるでしょう。

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【ワインリスト】
「Barossa Old Vine」
1. 2006 Pewsey Vale The Contours Riesling, Eden Valley 
5年間の蔵での瓶熟を経て出荷されるプレミアムリースリング。エデン・ヴァレーらしい華やかな香りとライムの果実味。ミネラル感の筋が通った繊細さと力強さを併せ持つ、上品なライトボディ辛口白ワイン。
2. 2005 Yalumba The Octavius Old Vine Barossa Shiraz, Barossa (Vine age TBA – a mix of old vine  vineyards and older) 
名門ヤルンバ社が造るバロッサ・ヴァレー、並びにエデン・ヴァレー産シラーズをブレンドしたプレミアム・シラーズ。バロッサ・ヴァレーらしいチョコレートやパワフルな個性を持ちながらも、しなやかな酸味とタンニンが柔らかい触感を生む、エレガントなシラーズ。

「Barossa Survivor Vine」
3. 2008 John Duval Plexus Shiraz / Grenache / Mourvedre, Barossa Valley
ペンフォールド社でグランジを長年にわたり担当していた醸造家、ジョン・デュヴァル氏が独立後に起こしたワイナリー産、GSMスタイル(南ローヌ・スタイルの赤ワイン)。ジュニパーベリーやチェリー、チェリー・リキュールといったグルナッシュの特徴が前面にでた、軽めのボディ。
4. 2008 Henschke Mount Edelstone Shiraz, Eden Valley (vineyard turned 100 years old in 2012!)
エデン・ヴァレーの名門生産者ヘンチキ社が造る、シングル・ヴィンヤードのシラーズ。紫のスミレの芳香、ダークチェリー、チェリーリキュール、白胡椒、ミントの個性が特徴。バランスの良い酸味と細かいタンニンは優雅な酒質と共に、上品さを際立たせている。
5. 2006 Rockford Basket Press Shiraz, Barossa Valley
バロッサヴァレーの昔ながらの伝統的な造りを守り続ける生産者ロックフォード。ドライフルーツ(レーズンやイチヂクやプラム)とコーヒー、トースティなオークの風味。乾いたタンニンと力強さ、フルボディの個性はクラシカルなバロッサ・シラーズの個性。

「Barossa Centenarian Vine」
6. 2006 St Hallett Old Block Shiraz (majority vineyards 100 years old – some slightly younger at 80 years of age) 
バロッサの60の栽培農家と契約を結び、安定した酒質のワインを造りつづける名門ワイナリー。このワインはエデン・ヴァレー産シラーズを21%、残りはバロッサ・ヴァレー産の原料を使用。純粋な赤い果実味と高い凝縮感と良いバランスが特徴。

「Barossa Ancestor Vine」
7. 2008 Yalumba Single Site Tri-Centenary Vineyard Vine Vale Grenache, Barossa Valley
名門ヤルンバが造るシングル・ヴィンヤードのグルナッシュ。力強さには欠けるが、繊細さと上品さは際立つ。
8. 2006 Peter Lehmann The 1885 Ebenezer Shiraz, Barossa Valley
バロッサの雄、ピーター・リーマンの造る濃厚シラーズ。ダークチョコレート、ラム・レーズン、ドライ・プラム、クリスマス・プディングといった、バロッサ・シラーズの特徴を分かり易く、そしてとても強い凝縮感を伴って表している。