2006年08月09日

「空間を見つけ出す」−演技が楽に、楽しくなる魔法の呪文−

これからここで述べていくことは、演技表現において、もっとも重要な基本事項の一つですが、意外に誰もが見過ごしていることです。

実践的ではありますが、若干、理論的、概念的な内容で、「ややこしいことやらせないで……」なんて嫌われてもイヤなので(?)、あまりレッスンではやらないのですが、話すと意外にウケがいいことが多いので、一通りここで説明しておきます。
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実際これは、演技における多くの問題を解決するカギとなるものです。ですから、何年も俳優の仕事をしているベテランの人にとっても、これがまるで「魔法の呪文」のように効果がある場合があります。

さあ、ではその「魔法の呪文」とは……?

【演技が楽に、楽しくなる魔法の呪文】
世の中には、いろんな芸術がありますが、その創造作業にまず必要なのは、自分のイメージを形作るのに必要なスペースですよね?

 絵を描く人なら、「キャンバスや画用紙を用意する」ということです。
 書道をやる人なら、「半紙を用意する」ということです。
 小説を書く人なら、「原稿用紙を用意する」ということです。
 音楽をやる人なら、「演奏会場(ステージ)を決める」ということです。
 彫刻をする人なら、「作業台の前に立つ」ということです。

では、お芝居では?

そう、演技では、まず自分が信じた世界を創りだす「空間」が必要なのです。
つまり、「魔法の呪文」とは……、


「空間を見つけだす」
(「空間を創りだす」でもかまいません。自分にあった方で)

ということです。
演技は、「空間」と「時間」の中に創り出される芸術です。
『自分の演技を実現するための「空間(スペース)」を決める。』ことが、必要不可欠なことであり、まず始めに行われるべきなのです。

キャンバスの大きさを決めないとないと、構図が決まらず、画家は絵を描くことができません。同じように、どんな空間の中にいるのかハッキリと認識していないと、俳優の演技は不安定なものとなってしまいます。

これは、サッカーやバレーボール、バスケットボールのような、決められたフィールドの中で行なわれるスポーツの感覚にも近いものがあります。それらの一流選手は、まるで横にも後ろにも目が付いているかのように、競技空間を把握していて、いちいち見なくてもサイドラインやエンドラインを感じ取ることができますが、正にそういう感じで、俳優も自らの”演技空間”を自分で決めて把握している必要があるのです。

 さて、ここから少しややこしい話になりますが、シンプルにとらえて下さいね。


【空間とは何か?】
空間とは、何もない場所というわけではなく、ある明確な意識で区切られた範囲のことです。

 「空間」は、「視点」と、いくつかの「その広がりを定める点」(アンカーポイント=anchor point 碇を下ろす地点の意)さえあれば存在します。「視点」から見たそれぞれの「その広がりを定める点」の間の距離が「空間」の大きさを創り出すのです。
 注意:「視点(view point)」とはもちろん「何かを見ている点」ですが、それだけではありません。あなたが何かを「意識して感じている点」ということです。 よく「視点を変えたら、物事が良く分かった。」などとも言いますよね。

視点とアンカーポイント2
【空間の例】
例えば、あなたが部屋のまん中にいるとします。あなたの目の位置が「視点」です。部屋の8つの隅(いつも8つとは限らない)が「広がりを定める点」です。これであなたは、その部屋という空間を持つことになります。

例えば、あなたが舞台の上のまん中にいるとします。ステージの後ろの壁の四隅と客席の後ろの壁の四隅で、「空間」ができました。演劇は観客と共に作り上げていく芸術なので、これで良いのです。

(余談ですが、ミュージカル俳優で本番前に必ず劇場最後部の客席のシートを自分の手で触って歩く人が結構います。おまじないのようですが、これも「自分の演技創造の空間」をきちんと認識しておく実践的なテクニックの一つですね。)

ラブラブのカップルのことを、よく「2人だけの世界に入っちゃってるよー!」と言って冷やかすことがあります。そうまさに、二人はそこに「2人の空間」を創り上げているのです。

恋人の帰国の知らせを聞いて、空港への道を急ぐ人は、そこから空港までの空間を意識しています。

戦国時代の忍者は、「結界」という意識の空間を作り、その空間内に入って来た敵を察知することができました。(多分)

「自分の居場所がないよ……」と感じている人は、まさにそこに自分の「空間」を創り出せていません。

あるプロ野球の一流のピッチャーは、「調子のいいときは、球場全体が”自分の空間”になって、どこで誰が観戦してるかもハッキリ分かるんだ……」そうです。


【実際の演技の仕事での空間】
 実際の仕事においては、映像のスタジオでは、そのセット(部屋)、ロケでは、大体その役の人物が意識している広さ(渋谷のセンター街なら、その街並)で「空間」を決めるのがよいでしょう。(もちろん、遠くを眺める演技、どこか目的地へ向かっている演技などでは、そこまで「空間」は広がります。)

カメラを空間に入れる2カメラは、たとえどんな遠くから撮っていたとしても、必ずその空間に入れておきます。カメラのフィルムやテープに自分の演技をのこすのが、映像での俳優の本来の仕事なのですから。


空間の中の相手役の位置2また、相手役も、当然この空間の中に含まれます。
相手が苦手なタイプで、直面しづらいときなど、思わず自分の「空間」から外したくなりますが、そこはぐっとこらえて入れておかなくてはいけません。
 *誰か苦手な人や動物、食べ物その他などが自分の空間に入ってきて思わずそれを避けてしまうことがあります。つまりそれに「直面できない」わけです。そんなとき俗に「自分の空間のアンカーポイントをへこまされる」と言います。

そして、こういうときにも使えます!
映像では、自分が見ている相手役が実際にはそこにいなくて演技をする場合がとても多いですが、そういう場合、どこを見ていいか分からず、距離感をつかむのが難しいものです。しかし、この知識を使えば意外に簡単にイメージできてしまうのです。

相手役の位置は、自分と相手役との位置関係だけでなく、空間の8つのどれかのアンカーポイントと相手役の位置との方向と距離をイメージすることで、瞬時に、より正確に把握できます。数学の「xyz座標」の概念です。


【「空間を見つけ出す」ことのメリット】
これらのように、「空間」が限定されれば、その中で「意図」を実行、実現することはより簡単になります。演じるときは、まず、自分の演技を創り出す「空間」(キャンバス、作業台、劇場、ライブ会場)を決めて、その中に、最大限に思ったことを実現していきましょう。

これはとても楽しいことです。
 あなたがそう思えば、どんな場所もあなたのステージとなるのです。

また、この「空間を見つけだす」ことも、ほかの知識と同じく、成功している人は、たとえ意識はしていなくともできています。そして、最初にも述べましたが、この知識は、演技においての他の様々な問題をも解決することがあります。

まず、その空間自体、「自分が創った自分の空間」なので、ムダな緊張もなくなります。

そして、その空間の外で、誰かがクシャミをするなど、たとえどんなことがあったとしても、気にならずに演技を続けることができます。

また、逆にその空間の中で起こったどんなハプニングにも、当たり前のように対処できます。たとえば、舞台で花瓶が倒れて割れる、などのハプニングがあった時でも、普通ならそのまま予定通りの演技を続けようとします。しかし、「空間把握能力」のある役者は、当たり前のようにその割れた破片を片付けて、演技を続けることができます。どちらが正解かはわかりますよね。

映像においても、様々なハプニングは起こります。でも「カット!」がかかるまで、それを処理しつつ続けると、意外と「OK!」が出たりします。そんなことがあると、「あの役者はスゴい!」なんて思われます。お得ですよ!

「空間を見つけだす。」ということは、「自分の知覚する範囲を創り出す。」ということでもあります。その中で起こったことは、すべて気が付いています。カメラの位置ももちろんわかっています。しかし、役の人物としては、「それは自分の空間には存在していない」のです。
これが映像の演技表現です。

「君の演技は表現になっていないよ」と指摘される人は、その人の「空間」に演技表現の受け手(カメラor 観客)が含まれていません。「演技が小さいんだよ。」とか「君の演技は観ているこっちに伝わってこない。」などと言われる場合も同じです。
そういう人は、受け手を自分の表現空間にしっかりと入れるだけで、問題解決です!ここで重要なことは、その受け手の「視点」は、同時に送り手のものにもなっているということです。逆もそうですよね?俳優の見たものを観客も”見て”一緒に驚いたりします。

つまり、一言で言えば、演技表現では、自分の空間に、視点が2つ(以上)あり「視点の共有」が起こっているということなのです!!!


[空間を見つけ出す訓練]

さて、「空間を見つけ出す」ことは、意識するだけでできるのでとても簡単です。
ただ、それを維持するのはちょっぴり慣れが必要かもしれません。この感覚に慣れることこそ、演技の基本練習の隠されたとても重要な要素の一つです。

レッスンでは、実際に効果的な練習方法を使ってやっていますが、「自分が演じる空間」を意識するだけでも効果がありますので、各自工夫して練習してみましょう。

最初はあまりうまくいかず、すぐに気が散ってしまうかもしれませんが、慣れてくると意外にあっさりとできるでしょう。そして、その時間を段々と延ばしていけばいいのです。

コツとしては、空間から何かを受けようとするのではなく、「空間」に自ら「気」を発し続けることです。まさに、『気を配り続ける』ということです。「終わりのない、水面の波紋」みたいなイメージ、「忍者の結界のイメージ」もいいですね。

しばらくやってみてどうしても難しいときは、とても小さい「空間」(トイレとか)でやってみましょう。
そして、空間を意識することに慣れてきたら、声を出して、本や新聞などを読んでみます。

また、歌を唄ったり、けん玉やコマ回しなどの遊びをしたり、じゃんけんや、キャッチボール、バスケットなど意識を集中しなくてはならないゲームや作業などもしながら、「空間」を創り続けてみましょう。もちろんバドミントンなどのスポーツをやるのもいいですね。

そして、実際の演技練習にその感覚を生かしていきます。

当然のことかも知れませんが、一流の俳優はこれが完璧にできているのです。
また、撮影の本番をこなすことで演技が上達していくのは、実は、慣れというより何よりこの感覚が鍛えられるからなのです!


【なぜ空間が必要なのか?】
ダンスや演劇をやったことのある人なら、よくお分かりでしょうが、ただステージのうえにまっすぐ立ち続けたり、ただ歩くというのは、意外と難しいものです。人は、「表現」するには、何かをしなくてはいけないとつい考えてしまいます。その為、ただ立つ、ただ歩くというのは、いささか心もとなくなるのです。

抽象的な表現になりますが、人がステージに立ち、唄ったり、踊ったり、演技をしたり、楽器を演奏したりするのは、自分の「何か」を、その空間の中に発して広げていき、そこにいる「存在(観客)」に伝えるためです。その「存在」とコミュニケーションを取りたいと思うからです。

声を出せば、その響きは空気を震わせ、部屋の後ろの窓ガラスをも振動させます。それと同じように、その人が発する「何か」が、その「空間」内すべての受け手に届き、振るわせます。そして、その共振がまた「空間」を通してステージの上のパフォーマーに戻っていきます。

普通、その「何か」は声や音であったり、目に見える身体の動き*だったりします。

でも、もしも俳優が、声や音でもなく、動きでもない「何か」を創り出し、それを伝えることができるのならば、ただ立っているだけの「演技」でも、その空間の中にいるすべての観客を「震わせ」、感動させることができるでしょう。

私達は、この「何か」を発し、そして感じ取ることができるのです。
それを伝え、感じるために、アーチストは空間を創りだし、観客は、その中へと誘われていくのです。

送り手(アーチスト)にとっても、受け手(観客)にとっても、それはとても楽しい作業なのです。
                                    


winnerslab at 15:17│ Comments(0)TrackBack(0)俳優業の道具を磨くシリーズ 

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