岩崎雄大の低温日記 

  アラフォー弁護士の五行歌・短歌日記です。    

吾がこころ寂しきときにみちのくの涯まで行かむ旅をしぞ思ふ (金田千鶴)  

天に繋がる
萃点として

一本の
杭とならん (一歳) 

最初の
雨つぶが
私に落ちた
こころ
とどかない日
(五行歌2001年7月号 藤内明子氏)


控え目な感じがするが、「私に」は強い言葉。
「最初の」も強いかもしれない。

作者の静かな自意識を感じる。




続「五年間の軌跡」より

第22回歌会(2001年)

人に
便りを書きたい時は
自分にも
やわらかい言葉を
ほしいのだ
(一席 稲泉幸子)

逃げたい
場面こそ
もっとも
逃げてはいけない
場面だ
(二席 三好叙子)

自分を見つめる歌が並んでいる。

太平洋戦争末期に人間魚雷として出撃予定だった人の記事を読んだ。
逃げたいと思うとき、その選択肢があることを有り難く思えると、その後の結果も違うのかもしれない。



少し前に手話サークルに入会した。

サークルでは手話に関するミ二講座を持ち回りで担当するとのことで、この度ミニ講座を担当する機会を頂き、悩んだ末、自分の好きなことをテーマにしようと思い「五行歌の手話表現」にチャレンジすることとした。

当日は「五行歌」の紹介の後、拙歌3首を自分なりに表現した。
その後、ろう者の方に表現していただいたり、参加者の方にアドバイスを頂いた。

例えば・・・

洗濯して
街歩きして
トンカツ食べて
さみしくなって
四月一日

この歌を表現したとき、自分は、五行のなかに出てこないこと、具体的には「トンカツ食べて」を表す前に、お腹が空いたことや店を見つけたことを表現した。

講習会では、聞き取り練習の際に、言葉を補って表現することを学んでいるため、これと同じつもりだったが、サークルの方から、情報が多いからもう少し絞ってみては、との助言を頂いた。

自分は五行歌を書くとき、川石のようにできるだけ平たい言葉を使い、読み手が自由に解釈できる余地を残すことをモットーとしている。

ところがそれを手話で表現するなかで、真逆のことを行っていたことに気づかされ、ハッとする思いだった。

手話は日本語や英語と同じように言語の一つであるから、詩を表現するとき(必ずしも正しく伝えなくていいとき)には、表現する側と受け取る側に、コミュニケーションを前提とした一定の緊張関係があっても、いいのかもしれない。

勿論、五行には無いことを補った方が、豊かな手話表現としてよい場合があると思う。
色々なことを考える貴重な経験だった。

恥ずかしさもあり、五行歌を書いていることを普段の生活のなかで誰かに伝えることはあまりない。

今回サークルの方々が温かく受け止めてくださったことが、何より嬉しかった。













傷んだら
傷みに
合わせて
生きれば
いい
(五行歌 2023年6月号 柳沢由美子氏)

そんな器用な人であれば、問題はない。
だが、この歌を啓示のように思える人もいるのだろう。


トゥレット症候群の若者たちを取り上げた特集(TBS)を見た。

小さい頃、自分もチックに悩まされていた。
小3くらいから、白目、まばたき、首ふり、肩動かし と移りながら繰り返した。

最後は抜毛だった。
それが原因で小5のときに円形脱毛症になった。

幸いにしていじめや度を越したからかいの対象になることはなかったが、関わらざるを得ない周囲の大人から心ない言葉をかけられたことは鮮明に覚えている。

抜毛を最後になぜかチックから解放された。
今でも、ふいに何かの動作をしたとき、繰り返すかもしれないと思うことはある。

番組に出ていた若者たちは、自分のよりもずっと重い症状だった。
同じ疾患を持つ後輩たちのためにもと、前を向いて頑張る彼らを応援したい。

先日、都福祉保健局のハラスメント研修(管理職研修)を担当させていただいた。

今回は、資料として付ける裁判例を思い切って絞り、その分、一審判決、控訴審判決とじっくり見ていくようにした。

ハラスメントは、事実認定の上の「評価」の問題である。

その物差しは時代によって変わり、現に変わってきていること、自分自身の物差しとの間にいつのまにか生じるズレの怖さが、特に強調したいテーマだった。

話し下手だが、抽象的な研修のための研修にならないよう心がけてはいる。

頂いた感想を励みにし、精進していきたい。


 

京都駅の
0番ホームに立つと
思い出す歌がある
私には潮騒は
聞こえてこないけれど
(五行歌2023年5月号 川原ゆう氏)

歌会レポートで知ったが、この歌には元歌があるという。

友を見送る
遠い潮騒が
よみがえる
京都駅
ゼロ番ホーム
(泊舟氏)

私には潮騒は
聞こえてこないけれど

思い出す歌、作者、私。 

いずれも潮騒のなかに在るからだろう。



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