五行歌2020年8月号より

遅れてくるもの
北国の春 宮本武蔵
アベノマスク
中年以降の筋肉痛
息子の返信メール
(三隅美奈子氏 横浜五行歌会)

「アベノマスク」か「返信メール」あたりから着想されたものと思われるが、それより前に「北国の春」と「宮本武蔵」を入れた作者に敬服した。

挙げられている五つの物事を一つずつ順に消してみると、この歌においては「北国の春」が最も欠かせない要素であると感じられる。

例えば、「北国の春」の導入が無ければ「宮本武蔵」が唐突になり、そこからアベノマスクへの反転にも違和感を感じてしまう。
つまり「北国の春」から「宮本武蔵」へのワープが一度生じているから、「宮本武蔵」から「アベノマスク」へもすんなり流れると分かる。

他方で、三行目〜五行目は、そのいずれかが無かったとしても、そう大きく歌としての印象は変わらなかった。

これを前提とすると、作者が詠もうとしたもの(三〜五行目)と、歌の骨格として重要な役割を担うものとは、必ずしも一致しないことになる。

両者は一致していたり区別できないものと思っていたが、作者はズレが生じ得ることを認識し、且つ自分の歌に生じることを許容しているのだ。
その間隙を突くことで生まれたのがこの歌、という整理も可能かと思う。