千葉銀鳩の備忘録

ブログの名前を「理系院生の適当な日記」から変えました。 なんとなく気になった事を調べて書いていきます。

※注意※
事前の予告なく記事の内容を変更したり記事そのものを削除したりすることがあります。
記事の内容は基本的に独自研究の塊であり、正確性については一切保証しません。
ご了承ください。

【軍事】そうりゅう型潜水艦の充電性能(Indiscretion Ratio)について

これまで本ブログでは海上自衛隊のそうりゅう型潜水艦の主蓄電池についての話題を複数回扱ってきました。
しかしそれらは主蓄電池の配置や容量に着目したもので、充電に関しては一切触れていません。
そこで、今回は充電について考えてみたいと思います。


潜水艦に求められる「充電性能」とは
潜水艦とは「水中に潜ることで発揮される低被探知性を最大の武器とする戦闘艦」ですから、当然ながら可能な限り水の上に顔を出さないことが要求されます。
通常動力潜水艦は主蓄電池の残量がなくなったら露頂なり浮上なりして発電機を回して充電する必要がありますが、その間は水上に顔を出すことになり低被探知性が大きく損なわれますから、その頻度と1回の充電にかける時間は可能な限り少なくすることが望ましいです。
これを定量的に評価するための指標の1つに、航行時間のうちに占める露頂時間の割合を表すIndiscretion Ratio(以下IRと表記)というものがあります。
ある期間のうちずっと潜航していたならその期間のIRは0%で、ずっと露頂/浮上していたなら100%となり、低ければ低いほど優秀です。
IRを低減するには、
  1. 主発電機の電力供給能力を引き上げる
  2. 艦全体の消費電力を引き下げる
  3. 主蓄電池の電力受け入れ能力を引き上げる
などといった手段があります。

  1. 主発電機の充電時の電力供給能力の引き上げ
    通常動力潜水艦は露頂時に発電機を回して発電しますから、単純に考えれば発電機の出力を引き上げばその分だけ充電に回せる電力が増えると考えられます。


  2. 艦全体の消費電力の引き下げ
    潜航中の艦内の消費電力が多ければそれだけ主蓄電池の残量の減り方も早くなりますから、潜航時の消費電力を低減すれば潜航時間を長くすることができ、IRの低減につながります。
    また、通常動力潜水艦は露頂時に発電機を回して発電しますが、その電力は蓄電池への充電だけでなく艦内の補機や推進用電動機にも使われますから、充電以外のことに使われる電力を減らせばその分多くの電力を充電に回して充電時間を短縮でき、IRの低減につながります。


  3. 主蓄電池の電力受け入れ能力の引き上げ
    前述の方法で充電に回せる電力を増やしても、主蓄電池の側の電力受け入れ能力がボトルネックになってしまっては何の意味もありません。
    潜水艦には一般的に鉛蓄電池(以下LAB)が使われており、そうりゅう前期型(16SS~26SS:以下Mk.1と表記)でもLABを採用していますが、LABは充電時に大電流を流すと水素ガスが発生する上に寿命に悪影響が出るため充電電流はあまり大きくできないため、ボトルネックになりえます。
    英国のOberon級潜水艦の場合、主蓄電池モジュール単体の公称容量が7420Ah、公称電圧2.2V、これを224個直列接続して充電する際の最大電流が1650A、最大電流時の最高電圧が538Vなので、規格化した最大電流は0.22C(1時間の定電流充電で電池容量の22%を充電できる電流値)となります。
    なお、最大電流時に供給される電力の最大値で定電力充電すると、計算上は1時間で電池のエネルギー容量の24.3%を充電できます。
    一方、リチウムイオン蓄電池(以下LIB)は10C以上の大電流での充放電が可能なものがあるなど、一般的にLABよりも電力受け入れ能力が優れていますから、LABをLIBに交換することでボトルネックを解消できればIRの低減につながります。

以上のことを踏まえて、そうりゅう型潜水艦のIRを推定してみましょう。
まず、前提条件を以下のように定めて計算モデルを作っていきます。

  1. 主発電機の充電時の電力供給能力
    そうりゅう型潜水艦には、露頂時の単機連続定格出力1850kWの発電機が2台装備されています。
    したがって、露頂時の電力供給能力は最大で3700kWとなります。


  2. 艦全体の消費電力
    艦内の消費電力には、推進所要電力、発電機の補機の消費電力、主蓄電池の充放電で発生する損失による消費電力、それ以外で固定的に発生する消費電力(ホテルロード)があります。
    まず、推進所要電力は発揮速力に依存するので、ここでは以前の記事で作成した数表を用いることとします。
    次に発電機の補機ですが、主発電機については、情報公開請求の結果から主発電機の出力の6.45%と考えることにします。
    主蓄電池そのもので発生する消費電力については、資源エネルギー庁の資料をもとに、充放電効率をLABで87%・LIBで95%として計算することにします
    そうりゅう型Mk.1にあるスターリング発電機の補機の消費電力は10kW程度と考えられるので、ここでは12kWとします。
    そうすることで、そうりゅう型Mk.1のAIP基準速力時の運転条件から、ホテルロードは150kWちょうどとなります。


  3. 主蓄電池の電力受け入れ能力
    以前行った推定によれば、そうりゅう型Mk.1の主蓄電池の総エネルギー容量は9.6MWhと考えられます。
    上述したように英国のOberon級は1時間で電池の総エネルギー容量の24.3%を充電できますが、そうりゅう型Mk.1も同じ割合で充電できるものとすると、受け入れ可能な電力は2331kWとなります。
    そうりゅう後期型(27SS~28SS:以下Mk.2と表記)はLIBを採用しており、以前の推定からその総エネルギー容量は32.1MWh程度と考えられますが、仮にこれも英国Oberon級のLABと同じ割合で充電できるとすると、受け入れ可能な電力は7804kWとなり、発電機の最大出力の2台分と比べてすら大きな値となります。
    なお、この記事で行う推定では、発電機出力から艦内消費電力を差し引いた残りの電力を主蓄電池の受け入れ能力の範囲内で充電に回すものとし、充電開始から終了までずっと定充電電力を行うものと考えます。

このモデルによる推定結果を表1に示します。

表1.Indiscretion Ratioの推定結果(English version)
IR推定

*1:スノーケル基準速力とした。
*2:平均速力が8ktとなるように潜航時の発揮速力を定め、それに対応する軸出力と総合効率を数表から求めた。
*3:発電量あたりの移動距離が最大になるような発揮速力の組み合わせを求め、それに対応する軸出力と総合効率を数表から求めた。
*4:Mk.1よりも総合効率が改善されているが、ここではMk.1と同等とした。


ここでは、そうりゅう型Mk.1とMk.2について、基地と哨戒海域の間の移動中と哨戒海域内での低速哨戒中の2つの場合に分けてIRを計算しています。

まずMk.1についてみていきましょう。
移動中の方は、スノーケル時にLABの充電に回される電力がLABの受け入れ能力を下回っています。
スノーケル基準速力を発揮しながらLABを全力で充電するには発電機を全力運転しても電力が足りないので、LABに回る充電電力が割を食っているわけですね。
IRは23.8%と大きな値をとっていますが、これは潜航中の発揮速力が7ktと高めなせいで消費電力も高くLABの残量が早く減るせいです。
哨戒中の方は、スノーケル時でもLABには受け入れ能力の上限一杯の電力で充電できていますが、主発電機は全力運転していません。
言い方を変えると、LABの電力受け入れ能力がボトルネックになっているせいで発電機を全力で回せていないのです。

次にMk.2についてです。
移動中の方は、スノーケル時にLIBの充電に回せる電力はMk.1と変わっていません。
しかし、主蓄電池の充放電効率が改善された関係で潜航中に主蓄電池から引き出せる電力量が増え、結果としてIRが23.8%→22.7%と改善しています。
哨戒中の方は、LIBの電力受け入れ能力が高いことによりボトルネックが解消され、スノーケル時でも主発電機を全力で運転できるようになったため、哨戒海域における充電電力はMk.1より0.9MWほど多く確保できています。
その結果、IRは10.3%→7.1%と大幅な改善がみられます。


ところで、表1での推定ではそうりゅう型Mk.1にあるAIPは無視して考えていました。
ではAIPを考慮に入れるとどうなるか、考えてみましょう。


AIPは出力が低く低速時でしか使えず、基地と哨戒海域の間の移動中は出番がないので、その活躍の場は哨戒海域内に限られます。
海自潜水艦隊は一度の任務で2~3ヶ月ほど航海するとされていますが、潜水艦隊の主な哨戒海域である三海峡が母港からさほど離れていないことを考慮すると、哨戒海域に滞在する期間は7週間程度かそれ以上と考えられます。
哨戒海域に丸7週間(1176時間)滞在している間の総露頂時間を考えると、そうりゅう型Mk.1は滞在期間の10.3%にあたる5.1日間(121時間)、Mk.2は7.1%の3.5日間(83時間)となります。
そうりゅう型Mk.1がAIPで丸2週間凌げるとすると、7週間のうちの2週間は露頂する必要が無いので、残りの5週間の10.3%にあたる3.6日間(87時間)が総露頂時間となり、ここから哨戒海域の滞在期間全体でのIRを計算すると7.4%となります。

この例から、哨戒海域でのIRの面でLAB+AIPの組み合わせよりもLIBのみの方が有利となる条件が存在することがわかります。
今回のモデルでは、哨戒海域での滞在期間が6.3週間(44.2日間=1060時間)を超えることがその条件となります。


そうりゅう型Mk.2は発電機には手が入っていないのにMk.1と比べてこれだけの改善がなされていますが、29SS以降の新型潜水艦では発電機が刷新され出力が向上するため、更なるIRの低減が見込まれます。
もしそうりゅう型Mk.2の船体に新型発電機を載せたとすると、哨戒海域で発電機を連続定格運転した場合のIRは6%未満となり、短時間定格運転であれば5%を下回ります
ここまで減れば露頂のタイミングを選ぶ自由度も増えるので、潜水艦の戦術面にも大きな影響を及ぼすものと思われます。
今後の進化に期待したいところですね。


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【軍事】そうりゅう型潜水艦の電気推進装置の変遷について

海上自衛隊は平成16年度以降「そうりゅう」型潜水艦を毎年1隻ずつ調達しておりますが、平成27年度調達分(27SS)以降では、AIPシステムと鉛蓄電池(LAB)が不採用になる一方でリチウムイオン蓄電池(LIB)が新規採用されるなど、電気推進装置の設計が大幅に変更されたことが既に明らかになっています。
しかしながら、その詳細はこれまで公表されておらず、不明な点が多くありました。
 
この記事では、情報公開請求制度を利用して防衛省から入手した資料を読み解き、「そうりゅう」型潜水艦の電気推進装置の構成が27SS以降でどのように変更されたのかについて、資料からわかること・推測されることを書いていきます。
(なお、この記事は随時修正されます。)

というわけで、まず「そうりゅう」型潜水艦の電気推進装置の概略図を以下に示します。

Electric_propulsion_system_Soryu_Mk1
図1.「そうりゅう」型潜水艦の電気推進装置の概略図(26SS以前)

Electric_propulsion_system_Soryu_Mk2
図2.「そうりゅう」型潜水艦の電気推進装置の概略図(27SS以降)


つぎに、27SS以降での変更点について1つずつ見ていきます。

  1. AIPシステムの不採用
    26SS以前の「そうりゅう」型では第4区画内部にスターリング式AIPシステムを装備しており、これが「おやしお」型潜水艦との最大の違いでもありましたが、27SS以降では不採用になりました。


  2. LABの不採用
    日本の潜水艦は、旧海軍での黎明期から主蓄電池としてLABを使用してきました。
    26SS以前の「そうりゅう」型では「おやしお」型と同じ「潜水艦用主蓄電池(SCG)」を搭載していますが、27SS以降では不採用になりました。



  3. LIBの採用と主蓄電池搭載数の増加
    27SS以降では、AIPシステムとLABが不採用になったのと引き換えに、LIBが「潜水艦用主蓄電池(SLH)」として採用されました。
    「潜水艦用主蓄電池(SLH)」の内部構成と外観の概要を図3と図4に示します。

    Internal configuration of submarine LIB
    図3.潜水艦用主蓄電池(SLH)の内部構成の概要


    Appearance of submarine LIB
    図4.潜水艦用主蓄電池(SLH)の外観の概要

    組電池は金属筐体とその内部に設置された電池であり、大型極板群と呼ばれる3つの角型LIBを溶接して一体化したうえ並列接続することで単電池を構成し、それを10個金属筐体に収めて直列に接続した形になっています。
    この「大型極板群」は、TRDIでの研究試作の時期、開発事業者(GSユアサ/旧YUASA)、用途、電気的仕様などを考慮すると、旧YUASAのYMLシリーズの派生形である可能性が高いと考えられます。
    電池監視ユニットは正副の2系統が金属筐体の上に設置されており、各単電池の電圧・温度および組電池の電圧を常時監視してデータバス経由で電池管理装置に送信します。
    電池監視ユニットの上には主蓄電池の端子が張り出すように2つ備えられていますが、「潜水艦用主蓄電池(SLH)」には端子の極性が異なるものが2種類あり、タイプA・タイプBと呼ばれています。
    なお、LABだけでなくAIPシステムの設置場所もLIBに転用されたためか、主蓄電池搭載数は26SS以前は1個主蓄電池群あたり240基だったのが27SS以降では320基へと増加しています。
    主蓄電池群の数が1隻あたり2つなのは27SS以降でも変わらないので、主蓄電池搭載数は1隻あたり640基と思われます。
    以前の記事では増加率を50%(240基)程度と予想したのですが、実際には33%(160基)に留まっています。


  4. 主蓄電池群内部の電路変更
    一般論として電子機器には動作のために高い電圧を要求するものが多く、それを電池で確保するために電池ユニットを多数直列に接続することが広く行われています。
    また、大規模蓄電池システムでは必要な蓄電容量を確保するために、電池ユニットを多数直列接続して構成される列電池を更に並列接続することも広く行われています。
    26SS以前の「そうりゅう」型の場合、図5に示すように、1個主蓄電池群は240基の「潜水艦用主蓄電池(SCG)」を直列に接続することで構成されていました。
     
    A bank of main battery (LAB)
    図5.26SS以前のそうりゅう型の主蓄電池群の内部構成
     
    「潜水艦用主蓄電池(SCG)」はそれ自体が単電池であり、公称電圧は一般的なLABと同様2V程度しかないので、240基を直列接続することで主電動機を動かすのに必要な電圧を確保しています。
    一方、27SS以降で採用された「潜水艦用主蓄電池(SLH)」は組電池であるうえ、単電池電圧もLABより高いため、公称電圧は40V弱にもなります。
    27SS以降でもディーゼル発電機は変更されなかった関係で主蓄電池群の充電終期電圧は26SS以前と同程度となるため、主蓄電池の直列数は従来よりも大幅に減って16基程度になると推定できます。
    27SS以降の1個主蓄電池群に含まれる主蓄電池の数は320基なので、この16基とは列電池内の主蓄電池の直列数を指していて、1個主蓄電池群を構成する列電池の並列数は20である、と考えるのが妥当と思われます。
    このことから推定される27SS以降の主蓄電池群の内部構成を図6に示します。
     
    A bank of main battery (LIB)
    図6.27SS以降の主蓄電池群の内部構成

    このように、26SS以前と27SS以降では主蓄電池群の内部構成が全く異なるものとなります。
    26SS以前の艦にLIBを搭載するには、配線から何から何まですべて変更する必要がありますから、そうそう簡単には踏み切れないでしょう。
    なお、今回入手した27SSの資料にはNDS-F8016Bについての記述が一切なく、27SSはNDS-F8016B適用対象外である可能性が高いため、「潜水艦用主蓄電池(SLH)」が電池室内にどのような規則で配置されるのかについては現時点では手掛かりがありません。


  5. 主電動機の内部構成変更
    「そうりゅう」型の主電動機は複電機子式永久磁石電動機であり、1つの回転軸を2つの永久磁石電動機が共有する構成になっています。
    ちょうど1本の串に団子が2つ刺さっているような感じですね。
    26SS以前では2つの電動機は大きさも形も異なっていましたが、26SS以降では同じものになります。
    また、電動機の回転子に使用されている永久磁石の材料がより保磁力が高いものに変更されたため、高効率化が期待できます。
    なお、主電動機全体の外寸に変更はなく、重量もほぼ変わっていません。


  6. 主制御盤の内部構成変更
    26SS以前の「そうりゅう」型の主制御盤は、複数のインバータユニットからなる6群のインバータ群で構成され、第1群が第1電動機を、それ以外の第2~6群が第2電動機を駆動する形になっていました。
    27SS以降ではインバータ群の数が4群に減少し、第1・3群が第1電動機を、第2・4群が第2電動機を駆動するようになっています。
    インバータ群の数が減っただけでなく各インバータ群の容量も微減した関係で主インバータユニットの容量の総和が5MVA前後まで減少したため、主電動機に供給可能な電力は力率と効率が共に100%だとしても5MW前後にとどまり、主電動機の最大軸出力は26SS以前よりも小さくなっています。


  7. 水冷却装置の内部構成変更
    27SS以降では主電動機と主制御盤の最大出力が下がり発熱量も低下したためか、それらを冷やす水冷却装置はより低出力なもので済んでいます。
    冷却ポンプが低出力化すればそのぶん静粛性の面で有利になりますが、低出力化したからといって水冷却装置自体が小型化されたわけではありません。
    なお、主電動機などの内部構成変更に合わせて冷却水の通水量の配分が変更されています。


  8. 主電動機の運転区分の変更
    27SS以降では、主電動機や主制御盤に大幅な変更がなされたことに対応して、主電動機運転区分も大幅に変更されています。その一部を表1に示します。

    表1.主電動機の運転区分
    主電動機
    運転番号
    26SS以前 27SS以降 備考
    1 5900kW
    (5分間定格;過負荷容量)
    主制御盤容量低下と過負荷運転の
    無効化により設定自体が消滅
    水中特殊全力
    2 4170kW
    (1時間定格/効率92.0%)
    4170kW
    (連続定格/効率約93%)
    水中全力
    3 約3MW
    (連続定格)
    運転番号2が連続定格になったため
    設定自体が消滅
    -
    9 56.8kW
    (連続定格)
    AIPシステムが不採用になったため
    設定自体が消滅
    AIP使用時
    基準速力

    表1より、27SS以降では主電動機の最高出力が26SS以前のそうりゅう型よりも低下することがわかります。
    防衛省の平成26年度ライフサイクルコスト管理年次報告書において、24SSの水中速力が「20ノット」とされているのに対して27SSは「約20ノット」となっているのは、このことを反映したものと思われます。
    主電動機の最高出力が低下した一方で、連続定格出力が引き上げられているのが目を引きます。
    前回の記事で作成した表と照らし合わせると、26SS以前と27SS以降の発揮速力の面での違いは
    • 26SS以前の艦は、電池残量以外の時間制限なしで最大16kt前後で走ることができ、その気になれば1時間限定で18kt前後、5分間限定で20ktまで発揮できる
    • 27SS以降の艦は、電池残量以外の時間制限なしで最大18kt前後で走ることができるが、それ以上の速力は発揮できない
    といった感じになると考えられます。
    また、運転番号2での効率が向上していることから、損失が減り冷却装置への負担が軽減されると考えられ、高速域での静粛性が向上したものとみられます。
    なお、哨戒海域での水中基準速力に対応する運転区分での主電動機出力は変更されなかったため、哨戒時水中速力は4kt前後と思われます(艦体形状に変更がないのだから当然ではあります)。


AIPシステムの不採用を筆頭に電気推進装置の構成が変更されたこと、それに伴って速力とその持続時間が変わったことが、実任務に対して好ましいものであるかどうかは、外野には判断できません。
しかし、「防衛省と海上自衛隊が、新規設計の29SSの調達開始を前にして、建造費の高騰を忍んでまで27SSの電気推進装置の構成と性能をこのような形に設定した」
という事実は、きわめて示唆的であると考えられます。



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【軍事】そうりゅう型潜水艦の主電動機の回転速度と出力と水中速力の関係について

この記事は2017/04/29に公開された修正版です。修正前の版を見たい方はこちらからどうぞ。

潜水艦電気推進装置機器通則第2部は、海自潜水艦のうち主電動機が交流式であるもの(つまりそうりゅう型)の推進にかかわる電気機器についての規格であり、主電動機の回転速度とその時の出力の関係の一部が記されています。

今回の記事では、そうりゅう型の主電動機の回転速度と出力の関係を推定して数式の形にし、更にそうりゅう型の公称性能を用いてそうりゅう型の主電動機の回転速度と出力と水中速力の関係を割り出してみます。


  1. 主電動機の回転速度と出力の関係の導出方法
    潜水艦電気推進機器通則第2部によれば、そうりゅう型の主電動機の回転速度は1rpm刻みで調整可能となっています。また、解説表1の4.2.2.1の表から、水中におけるそうりゅう型の主電動機の回転速度R[rpm]と出力P[kW]の関係は表1のとおりであることがわかります。
    (脱字は修正してあります)

     表1.主電動機の回転速度と出力
    回転速度R
    [rpm]
    主電動機出力P
    [kW]
    39 56.8
    76 397
    169 4170
    190 5900

    PRの組が4つありますから、PRの3次式の形で推定できます。
    各係数を計算すると、
    PRを用いて
    form1 …式(1)

    の形で表せます。



  2. 主電動機の出力と水中速力の関係の導出方法
    こちらの資料から、主電動機の出力P[kW]と水中速力V[m/s]の関係は、船体長L[m]と水の動粘性係数[m2/s]を用い、それ以外のもろもろの係数をすべてAに押し込むことで、
    form2

    と表現できます(面倒なので途中式は省略)。

    そうりゅう型の公称性能から、P=5900[kW]のときV=10.2888…[m/s](つまり"主電動機出力が5900kWちょうどのとき速力は20ktちょうど")とすると、Aは
    A=1868
    と求まります。
    これに加えて、L=83.7[m]、ν=1.00×10^-6[m2/s]を前述の関係式に代入することで方程式
    eqn1 …式(2)

    が得られます。
    この方程式について、Aが水中速力に依存せず一定であるものとして
    Pの値を与えVについて解くことで、ある主電動機出力Pに対応する水中速力Vを求めることができます。

    この方程式は解析的には解けないので、Newton-Raphson法などの数値解法に頼る必要があります。


     
  3. 主電動機の回転速度と出力と水中速力の関係
    任意の回転速度Rに対応するPVを求め、得られた結果を潜水艦電気推進装置機器通則第2部の記述とともにまとめたものが表2です。
    効率の数値は、内挿して線形補完して計算したものを載せています。

    表2.主電動機の回転速度と出力と水中速力の関係(htm版はこちら)
    潜航時回転数軸馬力
    ※赤字は水中持続時間算定基準  

    この結果より、
    • 主電動機を動かすには少なくとも6kWの電力が必要であること
    • 主電動機を最低出力で動かすと速力が2kt程度になること
    • AIP潜航時の水中持続時間算定基準に対応する水中速力は4kt程度であること
    • 無音潜航で最大8kt程度まで発揮可能であること
    などがわかります。
    表2は潜航中の場合を示していますが、水中深く潜航しているときと露頂深度を航行しているときに船体に働く抗力には極端な差はないと思われることから、スノーケル中の場合もおおむね同じ関係式が適用できると考えられます。
    潜水艦電気推進機器通則第2部の表によるとスノーケル航行時の基準速力に対応するRPはそれぞれ105[rpm]・1098[kW]なので、これに対応するVの値を表2から読み取ることでスノーケル航行時の基準速力が11[kt]前後であることがわかります。
    実際にはスノーケルの抵抗と造波抵抗がありますから、スノーケル航行時の基準速力は11[kt]には届かず、おそらく10[kt]前後になるでしょう。
なお、水中全力時の推進所要電力が(効率を考慮すると)少なくとも4530kW以上であり、定格の1時間運転したときの消費電力量が4530kWh以上となることもわかります
電力を使っているのは主電動機だけではないので、
艦全体の消費電力はこれよりも多くなるはずです。
以前の記事で触れたように、現行そうりゅう型の主蓄電池の容量は10時間率で9.6MWh程度とみられますが、放電電流が約0.5Cと大きいことから実効容量が半分近くまで目減りすると考えられるため、水中全力を定格の1時間持続すると主蓄電池の容量のほとんどを使い切る計算になります。
このあたりの事情が戦術的にどう影響するのかを考えると面白いかもしれません。

また、平成27年度予算で建造されるそうりゅう型はリチウムイオン蓄電池の採用に伴って水中最高速力が変更されていることから、主電動機の水中特殊全力時の出力が変わるものと思われます。
おそらく、潜水艦電気推進装置機器通則も大幅に改正されるのでしょう。


ここまでの流れと同じように、スノーケル航走時のRPVの関係を求めてみましょう。
潜水艦電気推進装置機器通則第2部の表によると、スノーケル航走時のRとPはそれぞれ105[rpm]・1098[kW]です。
RとPの関係式が、式(1)の各項にある共通の定数Bをかけることで表現できるものとすると、定数Bは
B=1.0724
と求まりますから、スノーケル航走時のRPの関係式は
form3

となります。
また、スノーケル航走時の速力Vが10[kt]であるとすると、式(2)は
スノーケル時数式


と書き換えられます。
これを解いて得られた結果をもとに、スノーケル航走時のRPVの関係を表2と同様にまとめると、表3のようになります。

表3.主電動機の回転速度と出力とスノーケル速力の関係(htm版はこちら)
スノーケル時回転数軸馬力


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【軍事】そうりゅう型潜水艦の武器システムの変遷について

前回の記事の最後のほうで、そうりゅう型潜水艦の武器システムについて少しだけ触れましたが、調べていくうちに武器システムのサブシステムが艦ごとに少しずつ異なることがわかりました。
これは各種装備品の改良が少しずつ進められているためですが、サブナンバーが変わる程度の小改良もあれば全く別の名前の装備品に置き換わるような大きな変化もあり、かと思えば型番がまったく変わらない装備品もあったりと、変化の度合いはまちまちです。

そういうわけで、この記事では「各年度ごとに調達された武器システムサブシステムの違い」について考えてみたいと思います。

まず、「世界の艦船」2009年11月号97ページの図を土台とし、同じ本の別ページの記述やインターネット上で閲覧可能な諸々の契約情報なども考慮して描いたそうりゅう型の武器システムの概略図を示します。

そうりゅう型の武器システム
図1.そうりゅう型の武器システムの概略図
Combat system of Soryu class submarine.
(画像をクリックすると参考文献リスト付きのSVGファイルが開きます)

主要なサブシステムの役割は以下の通りです。
  • C2T(指揮管制支援ターミナル)とMTA(洋上ターミナル)[1]
    MOFシステムの艦上端末。
    艦内ネットワークとMOFシステムネットワークとを橋渡しする。
  • LCS(潜水艦発射制御装置)[2]
    魚雷や対艦ミサイルなどの発射管制を行う。
  • MFICC(潜水艦情報表示装置)[1]
    共通コンソールとも呼ばれる6台の端末から成る。
    オペレータは、この端末で各センサや武器を制御したりそれらの情報を閲覧したりする
  • NICI(航海信号連接盤)[3]
    INSやGPSなどの航法関係の機材をネットワークに連接するための機材。
  • SLI(基幹信号伝送装置)[1][4]
    光ファイバーを伝送路として用いる二重化された艦内ネットワーク。
    各サブシステムはこのネットワークに接続されており、相互に情報をやり取りすることができる。
  • TDBS(目標情報管理装置)[1]
    情報の集積と配信をおこなうサーバで、ソーナーシステムの構成要素でもある。
    各センサや武器から情報を吸い上げて蓄積し、各サブシステムの要求に応じて情報を配信する。
  • TDS(潜水艦戦術状況表示装置)[1]
    従来の対勢作図盤に相当する。
    センサや海図などをはじめとして全ての情報を表示でき、艦長はこの画面を見ながら意志決定を行う。
    SLIを通じて乗員に情報を配信したり、C2Tを通じてMOFシステムに情報を送信したりと、艦長の意志を迅速かつ正確に伝達する機能も持つ。
次に、諸々の契約情報(主に随意契約)から、2004年~2014年にかけて調達されたそうりゅう型潜水艦の主要な装備品を抜き出して一覧にしたものが表1です。
図1とにらめっこしながらご覧ください。

表1.そうりゅう型の装備品とその調達契約締結年度の一覧(ここをクリックすると画像で見れます)[1]-[2],[4]-[15]
契約締結年度 2004
(H16)
2005
(H17)
2006
(H18)
2007
(H19)
2008
(H20)
2009
(H21)
2010
(H22)
2011
(H23)
2012
(H24)
2013
(H25)
2014
(H26)
日本語名称 形式番号 サブナンバー
潜水艦
ソーナー
システム
ZQQ-7 (無印) 1









B
1
1

1



C






1


D







1 1
D-1









1
レーダ ZPS-6 F 1 1
1

1



G






1 1 1 1
無線通信装置 NZRC-1 E
1
1

1



F






2+1+9 3+1 1* 1+1
電波探知装置
(ESM)
NZLR-1 D
1
1

1 1


E







1 1 1
13m潜望鏡B型 改5 1 1
1

1 1 1 1 1
非貫通式潜望鏡1型 (無印) 1 1
1

1 1


改1







1 1 1
指揮管制支援
ターミナル
(C2T)
ZYQ-31 B-1
1








C


1






C-1


1*






D





1 1 1

洋上ターミナル
(MTA)
ZYQ-41 (無印)








7+1 1+1
潜水艦
発射制御装置
(LCS)
ZYQ-51 (無印) 1 1
1

1



B






1


C







1 1
C-1









1
53cm水中発射管 HU-606 (無印) 1 1
1

1 1 1 1 1
潜水艦
戦術状況
表示装置
(TDS)
ZQX-11 (無印)
1








B
1
1


1


C





1 1 1 1
C-T






1


D









1
潜水艦
情報表示装置
(MFICC)
ZQX-2 (無印) 1









T
1








-1
1
1

1



-2






1*


-2-T






1*


航海信号連接盤2型
(NICI)
(無印)
1
1

1



B






1 1* 1 1
基幹信号
伝送装置
(SLI)
(無印) 1 1








改1





1



改2






1


改2-T






1


改3







1 1
改3-1









1
電子計算機 AN/UYQ-70-N5 FCS 1 1
1

1 1


TDBS 1 1
1

1 1


情報処理
サブシステム
OYX-1 FCS






1*+1*


TDBS






1*+1*


潜水艦用







1 1 1
備考 - - 資料なし *以外は「19SS用」の記載あり 資料なし 資料なし - *は競争入札 *は競争入札 *は競争入札 -

※装備品の数が合わなかったり資料がないせいで埋められていない部分があるのは仕様です。

では、表1で目立つ部分について見ていきましょう。
  1. 無線通信装置NZRC-1
    2010(平成22)年度まではE型が細々と調達されていましたが、2011(平成23)年度以降はF型に切り替わりました。
    F型は調達初年度から2+1+9セットの大量調達で、表1には示していない今年度の1+1セットの調達予定も考慮すると
    [15]、今年度末までに21セット分が契約されます。
    7番艦以降にXバンド衛星通信装置が搭載されるという話があるので、もしかするとそれ絡みかもしれません。
    調
    達契約が一括でないのは、おそらく毎年の新造艦の分と既存艦へのバックフィット用の契約が別々になっているからでしょう。

    調達数の累計からすると、練習艦のはるしお型を含む既存艦の全てにバックフィットがなされていそうです。

  2. 指揮管制支援ターミナルZYQ-31と洋上ターミナルZYQ-41
    ZYQ-31は2012(平成24)年度まで調達されていましたが、2013(平成25)年度以降は調達されていません。
    それと入れ替わりに2013
    (平成25)年度からZYQ-41の調達が開始されています。
    調達初年度は7+1セットの大量調達、次年度も1+1セットで、表1には示していませんが今年度も1+1セット調達することから
    [15]、今年度末までに12セット分の契約がなされるでしょう。
    調達数の累計からすると、そうりゅう型だけでなくおやしお型にもバックフィットがなされているはずです。

  3. 電子計算機AN/UYQ-70-N5と潜水艦情報表示装置ZQX-2と情報処理サブシステムOYX-1
    そうりゅう型の目標情報管理装置TDBSとFCSのハードウェアにはライセンス国産の電子計算機AN/UYQ-70-N5が使われているとみられ、これらはZQX-2とともに2012(平成24)年度まで調達されていました
    一方で、OYX-1(潜水艦用)が潜水艦向けであることが明確にわかる形で調達開始されたのは2013(平成25)年度からです。

    ("OYX-1/TDBS"と"OYX-1/FCS"の名前は初度費と共に2012年度の一般競争入札契約資料に載っているが、「潜水艦向け」とは明記されておらず正体不明)

    (ただし翌2013年の随意契約一覧に初めて現れた"OYX-1(潜水艦)"の契約には、初回契約につきものの初度費契約が見当たらない)

    潜水艦用情報処理サブシステムOYX-1(潜水艦用)の役割は「ソーナーや潜水艦発射制御装置等の演算を担う電子計算機と探知した目標を表示するための情報表示装置からなるシステム」であり、明らかにTDBS・FCS・MFICCと役割が被ります[16]
    このことから、OYX-1(潜水艦用)はTDBS・FCS・MFICC(ZQX-2シリーズ)の全てをまとめて置き換えるものであると考えられます。

    23SSにはZQX-2-2が、24SSにはOYX-1(潜水艦用)が調達されていることから[17]、24SS以降の艦はTDBS・FCS・MFICCの全てが置き換えられた状態で新造されるのでしょう。
    もしかすると、2010(平成22)~2011(平成23)年度に調達されたAN/UYQ-70-N5は21SS以前の艦に載せるためのもので、22SSと23SSでは2011(平成23)年度に調達したOYX-1/TDBSとOYX-1/FCSでAN/UYQ-70を置き換えつつ、MFICCは従来通り置き換えずにそのまま搭載している、などということもあるかもしれません。
    OYX-1は国産のCOTSコンピュータですが[18]、どうやらこれはデータベースシステムやコンソールをも手広く含むものらしく、防衛省はこれを使ってAN/UYQ-70を置き換えていくつもりのようです。
    なお、ZYQ-41などと違って現時点では大量調達を伴うバックフィットの予定はなさそうです。

    (追記2016/03/26 22:40)OYX-1の仕様書によると、OYX-1(潜水艦用)には「OYX-1/FCS」と「OYX-1/TDBS」が含まれており、ZQX-2も「表示操作卓」の名称で包括されています[24]。つまり、「AN/UYQ-70-N5/FCS」は「OYX-1/FCS」で、「AN/UYQ-70-N5/TDBS」は「OYX-1/TDBS」で置き換えられ、ZQX-2は「表示操作卓」の名前でOYX-1に「取り込まれた」とわけですね。
ところで、今のところよくわかっていない(というか私が知りたい)疑問点がいくつかあるので、それについて書いてみます。
  1. AN/UYQ-70-N5/FCSは武器システムのどこに存在するのか?
    図1の元ネタとなった世艦の概略図では名前に「TDBS」の文字列を含む装置が直接SLIからぶら下がっていることが明示されているので、それがAN/UYQ-70-N5/TDBSなのだろうという推測が成り立ちます。
    一方で
    「FCS」の文字はどこにも見当たらず、
    AN/UYQ-70-N5/FCSが武器システムのネットワーク上のどこにあるのかがわからないのです。

    世艦の記事本文には「従来の情報処理装置の機能は、ソナーの情報処理部と魚雷の発射制御装置に分割されている」という表現があるので[4]、ZYQ-51の中にFCSがサブシステムとして含まれているとか、ZYQ-51そのものがFCSであるようにも思えます。
    しかし、その場合だとOYX-1の採用の前後でZYQ-51の構成が大きく変わったり、あるいはZYQ-51の調達自体が終了してしまうはずですが、実際にはサブナンバーが変わる程度の小規模な改良が加えられたうえで調達が継続されているので、これは考えにくいです。
    この点を考えると、FCSはZYQ-51とは独立していて、OYX-1(潜水艦用)で一緒に置き換えられるTDBSやZQX-2と同様にSLIから直接ぶら下がる形で存在していると考えるのが妥当です。

    (世艦の概略図に載っていないのはZYQ-31/41もNZRC-1も同じですが、これらについては「C2TはTDSと直接連接されていて」「TDSの持つ個艦の情報をC2Tを介して上級司令部に送信することもできる」という記述が世艦にあるので[1]、図1のあの位置にある根拠がないわけではないです。)
    図1はそのような考えに基づいてあのような形で描きましたが、実際のところはどこにあるんでしょうね?


  2. 対艦ミサイル艦上装置は武器システムのどこに存在するのか?
    そうりゅう型は対艦ミサイル運用のために対艦ミサイル艦上装置を装備しています
    [17]
    この"対艦ミサイル"は米国ボーイング社製のハープーンUSMのことで[20]、ハープーンミサイル用の射撃指揮装置は米国からの輸入品であるAHWCS(Advanced Harpoon Weapon Control System)を指しているものと思われます
    [10][18]
    しかし、図1の元ネタになった世艦の概略図にはそれらしきものはどこにも見当たりません。

    潜水艦発射制御装置ZYQ-51の随意契約の根拠に
    「水中発射管の管制及び各種攻撃武器の管制を行う」「米国政府が認めた、米国ボーイング社との技術援助契約を必要とし」との文言があることから[8]対艦ミサイル艦上装置はZYQ-51の一部を構成するサブシステムであると考えられます。
    実際のところはどうなんでしょうか。
    (追記2016/04/13 19:00) AHWCSは民生品転用(COTS)ハードウェアによって構成されており、Ethernetによって他のシステムと連接されるようです[25]
    22SS向けのAHWCSが「対艦ミサイル艦上装置」の名前でZYQ-51とは独立して調達されている点から考えると[26][27]、AHWCSはZYQ-51とは独立して存在しているものと思われます。

    ZYQ-51の随意契約がボーイング社との技術援助契約を条件として締結されているのは、ZYQ-51をAHWCSと連接するにあたってAHWCSに関する何かしらの技術情報が必要だったからでしょう。
    なお
    、OYX-1の仕様書の付属書Iの記述から、AHWCSは「信号分配器-2」を通してMFICC/表示操作卓にも連接されているようです[24]



  3. 基幹信号伝送装置SLIと水上艦向け艦内統合ネットワークNOYQ-1との技術的な関連性
    そうりゅう型1番艦(16SS=SS501そうりゅう)と同時期に設計・建造された16DDHことひゅうがは、艦内統合ネットワークNOYQ-1(いわゆるJSWAN)を装備しています

    これは
    機関系から戦闘系からありとあらゆる艦内設備をネットワークで連接するもので[20]
    、武器システムを対象とするネットワークであるSLIとはコンセプトが違います。
    コンセプトが違うとはいえ、SLIとNOYQ-1は同じ時期に作られたものなので技術的な共通点があってもよさそうな気がしますが、実際のところはどうなんでしょうか。

  4. 潜水艦魚雷防御システム(とそのサブシステム)の型番と武器システム上での位置づけはどうなっているのか?(追記 2015/11/02 00:05)
    潜水艦魚雷防御システム指揮管制システムは2012(平成24)年度から調達されていますが、調達関係の資料には型番がどこにも書かれておらず
    [10]、武器システム上での位置づけも不明です。
    図1に魚雷防御システムがないのはそういう事情があるのですが、実際どうなんでしょうね


  5. 発令所のコンソールの台数(追記 2015/11/02 20:25)
    世艦の記事によるとMFICCのコンソールは6台であり、写真特集にある発令所の写真でも本文記事内の解説図の3DCGでもそうなっているのですが、先日公表された2322SSことじんりゅうの写真を見ると発令所後方に1台追加されていることがわかります[22]
    別の資料でも
    MFICCのコンソールは7台となっていて、こちらでは発令所後方側の3台はソーナー用とされています[23]
    なぜ1台増えたのでしょうか?

    2010(平成22)年度に調達された装備品が必ずしも22SSに搭載されるとは限らないという点を考えると、じんりゅうの発令所のコンソールが
    ZQX-2系とOYX-1(潜水艦用)のどちらなのかはよくわからないんですよね。

    じんりゅうの発令所の写真に写っているコンソールがOYX-1(潜水艦用)である可能性があるのですが、実際どうなんでしょう。
    (改訂2015/11/03 22:30)じんりゅうは22SSですが、2010(平成22)年度にZQX-2-1が、2011(平成23)年度にZQX-2-2が調達されているので、じんりゅうに搭載されているのは多分そのどちらかでしょう。
    (追記2016/03/26 22:40)OYX-1の仕様書によると、OYX-1(潜水艦用)にはZQX-2が「表示操作卓」の名称で7台含まれています
    [24]

参考文献
[1]東郷幸紀(2009) 「「そうりゅう」に見る最新潜水艦のネットワーク化」 『世界の艦船』 vol.713、p.100-103
[2]防衛省 平成23年度 随意契約一覧表(基準以上) http://web.archive.org/web/20121210235037/http://www.epco.mod.go.jp/supply/jisseki/rakusatu/xls/23zuikeikijunijou.xls
[3]千田展久、陣場洋二、芦道明 「潜水艦の艦橋情報表示装置及び潜水艦のリモート表示システム」 特開2001-18056号
[4]幸島博美(2009) 「新型潜水艦「そうりゅう」の技術的特徴 機関/ウェポン・システム」 『世界の艦船』 vol.713、p.92-99
[5]防衛庁 平成16年度 随意契約一覧表 http://web.archive.org/web/20060715104413/http://www.cco.jda.go.jp/supply/jisseki/rakusatu/xls/H16zuikei.xls
[6]防衛庁 平成17年度 随意契約一覧表 http://web.archive.org/web/20060215000906/http://www.cco.jda.go.jp/supply/jisseki/rakusatu/pdf/H17zuikei.pdf
[7]防衛省 平成19年度 随意契約一覧表(基準以上) http://web.archive.org/web/20090220070445/http://www.epco.mod.go.jp/supply/jisseki/rakusatu/pdf/19zuikeikijunijou.pdf
[8]防衛省 平成22年度 随意契約一覧表(基準以上) http://web.archive.org/web/20121210235125/http://www.epco.mod.go.jp/supply/jisseki/rakusatu/xls/22zuikeikijunijou.xls
[9]防衛省 平成23年度 一般競争入札契約一覧表(基準以上) http://web.archive.org/web/20121210235150/http://www.epco.mod.go.jp/supply/jisseki/rakusatu/xls/23kyousoukijunijou.xls
[10]防衛省 平成24年度 随意契約一覧表(基準以上) http://web.archive.org/web/20121210235103/http://www.epco.mod.go.jp/supply/jisseki/rakusatu/xls/24zuikeikijunijou.xls
[11]防衛省 平成24年度 一般競争入札契約一覧表(基準以上) http://web.archive.org/web/20121210235205/http://www.epco.mod.go.jp/supply/jisseki/rakusatu/xls/24kyousoukijunijou.xls
[12]防衛省 平成25年度 随意契約一覧表(基準以上) http://www.mod.go.jp/epco/supply/jisseki/rakusatu/xls/25zuikeikijunijou.xls
[13]防衛省 平成25年度 一般競争入札契約一覧表(基準以上) http://www.mod.go.jp/epco/supply/jisseki/rakusatu/xls/25kyousoukijunijou.xls
[14]防衛省 平成26年度 随意契約一覧表(基準以上) http://www.mod.go.jp/epco/supply/jisseki/rakusatu/xls/26zuikeikijunijou.xls
[15]防衛省 平成27年度調達予定品目(中央調達分)  http://www.mod.go.jp/epco/supply/jisseki/choutatuyotei_pdf/27_denkei.pdf
[16]防衛省 防衛生産・技術基盤研究会最終報告 別添資料2(分野別防衛産業の現状) http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/meeting/seisan/houkoku/final/appdx02.pdf
[17]防衛省 平成26年行政事業レビュー 潜水艦 http://www.mod.go.jp/j/approach/others/service/kanshi_koritsu/h26_res/r-sheet/0035.xls
[18]防衛技術ジャーナル http://www.defense-tech.or.jp/journal/docs/201312_1.pdf
[19]防衛庁 政策評価書 事前の事業評価 潜水艦 http://www.mod.go.jp/j/approach/hyouka/seisaku/results/15/jizen/sankou/03.pdf
[20]海上自衛隊 艦内統合ネットワーク共通仕様書 http://www.mod.go.jp/msdf/formal/supply/shiyosho/mks-j-58001.pdf
[21]「注目の最新鋭SS「そうりゅう」を見る」 『世界の艦船』 vol.713、p.1-9
[22]The Advertiser. Future submarines:Future Submarines: First look inside Soryu sub as Japan ups ante in contract bid. http://www.adelaidenow.com.au/news/south-australia/future-submarines-first-look-inside-soryu-sub-as-japan-ups-ante-in-contract-bid/story-fni6uo1m-1227579060243?sv=533393160882bad9b8c2577dbe69a103 2015/10/23
[23]ベストカー 「海自 潜水艦マニア!」 講談社 p.18-19
[24]海上自衛隊仕様書 情報処理サブシステムOYX-1
[25]Boeing Co.Ltd. Denmark Buys Latest Anti-Ship Missile Capability: Boeing Advanced Harpoon Weapon Control System and Harpoon Block http://boeing.mediaroom.com/1999-03-29-Denmark-Buys-Latest-Anti-Ship-Missile-Capability-Boeing-Advanced-Harpoon-Weapon-Control-System-and-Harpoon-Block
[26]防衛省 平成24年行政事業レビュー 潜水艦 http://www.mod.go.jp/j/approach/others/service/kanshi_koritsu/h24/pdf/r-sheet/0035.pdf#page=9
[27]防衛省 平成25年行政事業レビュー 潜水艦 http://www.mod.go.jp/j/approach/others/service/kanshi_koritsu/h25_res/r-sheet/0037.pdf#page=8

禁無断転載

【軍事】豪州新型潜水艦調達計画で提示された日本案の中身について

今回の記事はネタが少ないので中身がすっかすかです。あらかじめご了承ください。

豪州政府は、海軍が装備するコリンズ級潜水艦が更新時期を迎えつつあることからこの後継艦の調達にむけて動き出しており、現在日本・ドイツ・フランスが名乗りを上げています。
日本案は「そうりゅう型」あるいはその派生型、ドイツ案は214型を大型化したような新規設計の216型、フランス案は原子力潜水艦であるバラクーダ型を通常動力化したものであると言われていますが、詳しいことはよくわかっていません。

豪潜水艦契約、日本がようやく重い腰上げる 「そうりゅう」受注失敗の可能性で危機感

http://newsphere.jp/world-report/20150819-1/


そういうわけで、この記事では実際の日本案がどのようなものなのかを考えてみたいと思います。

実は、三菱重工業は以前から参加に意欲を示しており、事業計画の中で豪州向け艦のポンチ絵を公表しています。

防衛・宇宙ドメイン説明会
https://www.mhi.co.jp/finance/library/business/pdf/idss2015.pdf#page=26

この資料から抜き出したポンチ絵がこちらです。

おやしお?(idss2015)tp
図1.以前のMHI案

ちなみにそうりゅう型のポンチ絵がこちらです。

そうりゅう断面図C2
図2.そうりゅう型(AIP装備艦)

図1と図2を見比べると、図1のMHI案は
  • 葉巻型船体でかつ部分複殻式船体である
  • X舵ではなく十字舵である
  • セイルの位置がそうりゅう型よりもかなり後ろにある
  • セイル前方下部にフィレットが存在しない
  • AIP区画が見当たらない(防水区画は5つだけ)
という特徴があることから、船体そのものはおやしお型が基礎であると推測できます。
ただしセイルへの出入りは第1区画から行うようにも見え、そうりゅう型の面影もあります。
おそらく中身の主電動機などはそうりゅう型のものがベースになるのでしょう。


さて、本日豪州にて行われたカンファレンス「PACIFIC2015」で日本案のポンチ絵が公開されました。

日本、豪防衛産業に潜水艦説明会
http://jp.reuters.com/article/2015/10/06/idJP2015100601001189

この記事の画像から、日本案のポンチ絵を切り出して変形処理をかけたものがこちらです。

SEA1000A
図3.日本案

文字が小さすぎて「High-capacity Lithium-ion Battery」くらいしか読み取れないのが残念ですが、これを図1と重ね合わせることでなにかわかることがあるかもしれません。
ということで実行してみたのが図4です。

コマ
図4.以前のMHI案と今日公開された日本案との比較(GIFアニメーション)

この比較によって、今日公開された日本案は以前のMHI案と比較して
  • 舵がX舵に変更されている
  • セイルより後ろ側で船体が延伸されている
  • 船体延伸に伴って主蓄電池が増設されている(しかもリチウムイオン蓄電池採用)
などといった違いがあることがわかります。
船体を延伸すれば主蓄電池だけでなく燃料搭載量も増やすことができるでしょうし、もしかすればVLSや特殊部隊用の空間の確保もできるかもしれません。

胸の熱い展開を期待しつつ続報を待ちたいと思います。


[追記その1 2015/10/07 08:30]
昨日公開された資料の高解像度版の画像がこちらで紹介されています。

Japan's Government and Industry Held an Industry Briefing on Soryu Submarine at PACIFIC 2015
http://www.navyrecognition.com/index.php?option=com_content&id=3152

Soryu_Japan_PACIFIC_2015_1
図5.豪州向け潜水艦建造プロセス

Soryu_Japan_PACIFIC_2015_2
図6.図3の高画質版

図6から船体のイラストだけを抜き出したものがこちらになります。

豪州向け提案
図7.今回提案された日本案(高解像度版・矢印消去などの加工あり)

これらの画像から、
  • 設計のベースはそうりゅう型である
  • そうりゅう型と同様、艦橋前方下部にフィレットがある
  • 船体の延伸は第3区画を延伸したことによるものであり、防水区画はおやしお型と同様5つ(そうりゅう型は6つ)
  • それに伴って主蓄電池が1/4ほど増えている(主蓄電池は120基増で合計600基)
    →おやしお型の蓄電池配列は1列12基なので計算上10列増えることに
    (画像上でも確かに10列くらい増えている)
    →主蓄電池の幅・奥行は40-45cm程度なので前後方向に10列並べるには5m程度の長さが必要

    →第3区画の延伸量は5m程度
  • VLSは確認できない
といったことが確認できます。
第3区画の延伸部分の中層と上層に何かが追加されているかもしれません。
とはいえ、所詮ポンチ絵はポンチ絵であって、今回開示された画像が実際の設計案をどこまで反映しているのかは謎のままなので、文字情報での続報を期待したいところです。


[追記その2 2015/10/07 18:00]
などと書いていたら早速続報が入りました。

【オーストラリア】日本、大型そうりゅう潜水艦提案:豪技術者300人の日本派遣も
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151007-00000009-nna-asia

この記事は6日付の「The Australian」紙の報道として、日本案の船体について「そうりゅう型の船体を水平舵より後ろで6~8m延伸」したものとしています。
船体の延伸が新規区画挿入によるものとし、さらにAIPが非搭載であることも考慮すると、こんな感じになるのでしょうか。

そうりゅう断面図(船体延長)
図8.TheAustralian紙の報道に基づく想像図

現地で公表された図7のポンチ絵だと防水区画の数がそうりゅう型よりも1つ少ないのですが、実際の防水区画の数はそうりゅう型よりも1つ多くなる可能性もありそうです。
その場合、主蓄電池の設置数がおやしお型/そうりゅう前期型の480基と比較して倍増する、なんていう可能性も否定できません。
(それにしても、図1のおやしお型っぽいポンチ絵は一体何だったんでしょうか。目眩まし?)


[追記その3 2015/10/08 00:30 (図9の最終更新は2015/11/01 07:30)]
図6の中で戦闘システムについて触れられているので、そうりゅう型の武器システムの概略構成図をここに置いておきます。
画像をクリックするとSVGファイルが開きます。
(この図は随時更新します)

そうりゅう型の武器システム
図9.そうりゅう型の武器システム
Combat system of Soryu class submarine.
Autonomous decentralized information processing architecture.

詳細について知りたい方はWikipedia続編記事へどうぞ。


[追記その4 2016/03/23 00:00]
追記その2で紹介したTheAustralian紙によると、船体を延伸する目的は燃料搭載量と居住性の向上とされています。
燃料タンクは外殻と内殻と間にありますから、燃料タンクを増設するには複殻構造になっている船体後部を延伸する必要があります。
また、提案された日本案のポンチ絵にはAIPシステムが含まれておらず、第4区画の下層にLIBを搭載して中層と上層に居住区を設置することで十分な居住性が確保できると思われるので、燃料タンク設置のために延伸した船体後部の内殻の内側にまで居住区を設置する必要はなさそうです。

ところで、豪州の現有コリンズ級のディーゼル発電機の合計出力が海自現行そうりゅう型よりも高く、また大入力での充電が可能なLIBが採用される見込みであることから、そうりゅう型を豪州向けに手直しする際には発電能力の大幅な増強が必要なのは明白なのですが、本年度開発完了予定の新型スノーケル発電システムが輸出されるという話は出ていません。
このことから、ディーゼル発電機には現有12V25/25SB型ディーゼルエンジンがそのまま使われると考えられます。
現有エンジンをそのまま使いつつ発電能力を大幅に増強するには、同じ型のディーゼル発電機を増設する以外に方法はありません。
そうなると、その増設ディーゼル発電機は船体の延伸部分に設置されると考えるのが妥当です。

豪州向けモデル(Soryu Aus.)がそのような方向で改設計された場合に考えられる内部構造を、現行そうりゅう型(Soryu Mk.1)と27SS型(Soryu Mk.2)の内部構造と一緒に図にしたものが図10です。

内部構造
図10.そうりゅう型と派生型の内部構造
(図をクリックするとSVGファイルが開きます)

また、これに基づいて図8を描き直すと図11のようになります。


そうりゅう断面図(船体延長)2
図11.TheAustralian紙の報道に基づく想像図

各型の間には
  • Mk.2はMk.1の第4区画内にあるAIPシステムを廃止し、かわりに区画下層にLIBを搭載し、区画中層と上層に居住区にも使える空きスペースを確保した。
  • Aus.はMk2に更にディーゼル発電機を複殻区画ごと追加することで、Mk.2とさほど変わらない居住性を確保しつつ燃料搭載量と発電能力を向上させた。(図10・11における船体延伸量は8.0m)
という違いがあります。

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