本記事の要旨
前置き
考察3:Kh-31との比較
六四天安門事件
- 国産超音速空対艦ミサイル『ASM-3』の射程距離を、情報公開請求により開示された文書や海外製超音速空対艦ミサイルとの比較などを基に推定した。
- その結果、Lo-Hi-Loでの最大射程が80NM以上、Lo-Lo-Loでの最大射程が30NM以上、最小射程が13.5NM以下である可能性が高いことが分かった。
- 今後配備が見込まれる『ASM-3A』と『ASM-3(改)』は、これよりも長射程になるはずである。
前置き
中国海軍(人民解放軍海軍)の戦力拡大を受け、近年の本邦では国産対艦ミサイルの開発・調達計画が次々と実施されています。
主なものだけでも、
- 超音速対艦ミサイル『ASM-3』の開発
- 上記『ASM-3』の射程延伸事業(『ASM-3(改)』の開発、および『ASM-3A』の調達)
- 12式地対艦誘導弾の射程延伸型改良版『17式地対艦誘導弾』の開発・調達
- 上記『17式地対艦誘導弾』の改良型地上版『12式地対艦誘導弾(改)』と哨戒機版『新哨戒機用空対艦誘導弾』の開発
- 上記『12式地対艦誘導弾(改)』を発展的に中止しさらなる射程延伸とステルス化をもくろむ『12式地対艦誘導弾能力向上型』とその艦載版および戦闘機版
があり、系譜の形にすると図1のようになります。
(wikipediaの図表を改変して作成)
(English version is available here.)
また、これらとは別に要素技術研究(島嶼防衛用新対艦誘導弾の要素技術)や海外製ミサイル(F-35戦闘機用JSMなど)の導入も進んでいます。
さて、ASM-3は空自戦闘機に搭載されるASM-1とASM-2の後継であり、高速飛翔と低RCSによって敵艦の防空網を突破する超音速対艦ミサイルとして構想され開発完了したものの、本開発着手が遅れたことで周辺国海軍艦艇の防空能力が向上してしまい[註1]、主に射程距離の面で性能が陳腐化し有効性が問題視されたため量産化されませんでした。
現在は射程距離を延伸した改良型の開発が実施されています。
[註1]平成14年度での事前事業評価で本開発への移行が一旦見送られ、平成21年度の事前事業評価でようやく本開発が決定したという経緯がある。今回は、今後配備が見込まれる『ASM-3A』と『ASM-3(改)』の射程距離を考察するための目安として、量産化されなかったASM-3の射程距離を推定してみます。
考察1:そもそもの話、どんな飛び方をするのか?
ミサイルの射程距離は飛び方次第なところがありますから、射程距離を推定するには『どんな飛び方をするとどのくらいの射程距離になるのか』という考え方をする必要があります。
そのためには、まず『そもそもどんな飛び方をするのか』を調べなければなりません。
新艦対空誘導弾(XASM-3)の事前事業評価の参考資料にその手掛かりとなる画像がありますので、それを図2に示します。
図2.飛翔プロファイル
この画像から、ASM-3の飛翔プロファイルは下記の3通りが想定されていることが分かります。
- 低空発射-低空巡航-終末シースキミング(Lo-Lo-Lo)
- 低空発射-高空巡航-終末シースキミング(Lo-Hi-Lo)
- 高空発射-高空巡航-終末シースキミング(Hi-Hi-Lo)
これらの各飛翔プロファイルに対して射程距離が個別に設定されており、それらすべてが重要な設計点になっていると考えるのが自然でしょう。
考察2:飛び方によって射程距離がどの程度変わるのか?
次に、情報公開請求によって開示された『新空対艦誘導弾(XASM-3)(その1)(1)』の仕様書を見てみましょう。
この文書の付属書1ではシステム目標性能の要求が一覧表の形で列挙されており、射程距離については表1のように規定されています。
番号 | 項目 | 目標値等 | 備考 | |
(省略) | ||||
2 | 性能・諸元 | (1)攻撃範囲 | 最大射程は[ア]NM以上とし、付図1-1で示された攻撃範囲以上とする。 | 最大射程は低高度発射、高空巡航、終末シースキムで規定する。 |
(省略) | ||||
(省略) |
ここで言及されている『付図1-1』を図3に示します。
図3.攻撃範囲図(注釈は管理人による)
これらから、大まかに下記の事項が分かります。
- [ア]と[ソ]はいずれも低空発射-高空巡航-終末シースキミング(Lo-Hi-Lo)での値として規定されているので、[ソ]の値は『低空』と呼べる範囲に収まるはずである。
- 縦軸の振り方からすると、おそらく[ソ]は4の倍数である。
- 横軸も同様に考えると、おそらく[ア]は4の倍数である。
これだけでは物足りないので、もう少し突っ込んで考察してみましょう。
図3で明らかなように、攻撃範囲の要求は4つの点を線で結んだ境域を最低限含むという形で規定されていますから、これらの座標は全てが重要な設計点のはずです。
また、先に述べた通り、各飛翔プロファイルにおける射程距離は重要な設計点であり、実際にLo-Hi-Loでの最大射程が攻撃範囲図上で[ア]として規定されているわけですから、Lo-Lo-Loでの最小射程・最大射程も攻撃範囲図上で規定されていると見るべきです。
図3上での設計点1・2とその横軸座標R1・R2は、明らかにそれに対応しています。
したがって、R1とR2と[ア]の横軸座標を図3から読み取ることで、『Lo-Lo-Loでの最小射程』と『Lo-Lo-Loでの最大射程』と『Lo-Hi-Loでの最大射程』の比率を知ることができ、13.5:30:80という結果を得ることができます。
このようにきれいな数値が出てくると、『最大射程はLo-Lo-Loで30NM以上、Lo-Hi-Loなら80NM以上、最小射程は13.5NM以下だ』と断言したくなりますが、ここまででわかったのはあくまでも距離の比率であって、距離そのものではありません。
距離そのものを割り出すには、類似品との比較などによる定量化が不可欠です。
考察3:Kh-31との比較
超音速で飛翔する対艦ミサイルはあまり例がなく、西側陣営ではほぼ皆無ですが、東側に目を向けるとロシアの『PJ-10』や『Kh-31』などがあります。
このKh-31、実は超音速ターゲットドローン『MA-31』としてアメリカに輸出されたことがあり、その詳細な情報をWeb上で手に入れることができます。
そういうわけで、Kh-31との比較を通じてASM-3の射程距離を定量化してみましょう。
こちらの資料のp.4では、図4のように飛翔中の各段階ごとの質量が記載されているので、ラムジェット燃料の有効搭載量を53kgと割り出すことができます。[註2]
[註2]ラムジェット点火時432kg、燃料枯渇時379k、差分がラムジェット燃料で53kg
図4.Kh-31(MA-31)の飛翔中の質量変化
※右下の表
また、同じ資料のp.7には、図5の通りLo-Lo-Loプロファイルでの射程距離と飛翔時間が掲載されています。
図5.Kh-31(MA-31)のLo-Lo-Loプロファイル
※下側
最初の6秒間で固体ロケットによってマッハ2.5まで加速し、それ以降はラムジェット燃料を使ってマッハ2.5で巡航すると考えると、固体ロケットでまず1NMほど加速しながら飛翔して、そこでラムジェットエンジンが起動することになります。
ラムジェット燃料が切れるのは射点から13NM先ですから、ラムジェットエンジンによる巡航距離は13-1=12NMとなります。
すなわち、12NMを巡航する間にラムジェット燃料を53kg消費するわけで、計算上はラムジェット燃料1kgあたりの低空巡航距離は0.23NMしかないことになります。
ところで、情報公開請求によって開示された『新空対艦誘導弾(XASM-3)(その5)』の仕様書の附属書5によると、ASM-3の燃料搭載量が約135kg、有効燃料率が95%以上と規定されていますから、飛翔中に使用できるラムジェット燃料は128kg以上となります。
低空巡航中の距離あたりの燃料消費量の面でASM-3とKh-31とで大差がないと仮定すると、ASM-3はラムジェットエンジンによって29NM程度を低空で超音速巡航できることになります。
ラムジェットエンジン点火までの飛翔距離を加味すれば、ASM-3のLo-Lo-Loでの最大射程が30NM程度かそれ以上だと考えても問題はないでしょう。
上で述べた通り、『Lo-Lo-Loでの最小射程』と『Lo-Lo-Loでの最大射程』と『Lo-Hi-Loでの最大射程』の比率は13.5:30:80ですから、『最大射程はLo-Lo-Loで30NM以上、Lo-Hi-Loなら80NM以上、最小射程は13.5NM以下である』と断言しても良さそうです。
結論
以上より、ASM-3の射程距離は下記のように推定されます。
- Lo-Lo-Loでの最小射程:13.5NM以下
- Lo-Lo-Loでの最大射程:30NM以上
- Lo-Hi-Loでの最大射程:80NM以上
ASM-3AやASM-3(改)は、これよりも更に長射程になるでしょう。
STOP VLADOLF PUTLER
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