千葉銀鳩の備忘録

なんとなく気になった事を調べて書いていきます。

※注意※
事前の予告なく記事の内容を変更したり記事そのものを削除したりすることがあります。
記事の内容は基本的に独自研究の塊であり、正確性については一切保証しません。
ご了承ください。

【軍事】10式戦車の装甲の防護力について

先日、軍事研究誌上で活躍中の岩本三太郎氏によって10式戦車の開発資料が公開されました。
今回は、公開された資料のうちの「10式戦車仕様書」と「新戦車(その5) 試作品設計書(装甲部)」から、10式戦車の各部に装備される装甲の直接防護力について書いていきます。

(能書きは要らないからさっさと結論をよこせというせっかちな方は表3をご覧ください)


10式戦車の装甲の構成

すでに広く知られていることですが、10式戦車は重量の装甲を着脱可能な外装式とすることで74式戦車並みの被輸送性を実現し、付加装甲の装着により質量増と引き換えに90式戦車と同等以上の直接防護力を確保可能としています。
装備状態と質量の関係は具体的には以下の通りです。
  • 輸送時質量:40.0t以下(砲塔と車体を分離せずに輸送する場合。)
  • 空車質量:43.2t以下(標準型モジュール装甲装備。燃料と油脂類などを全量搭載。付加装甲は無し。)
  • 全備質量:44.4t以下(空車状態に人員と弾薬と機関銃2丁と弾薬を積載した場合。)
  • 最大質量:48.1t以下(付加装甲装備時の車両質量の上限値。)
資料から、10式戦車の直接防護力を担う装甲についての記述を抜粋したものが表1と表2となります。

表1.モジュール装甲と防盾に関する記述
10TK-モジュール装甲


表2.付加装甲に関する記述
10TK-付加装甲


これをもとに、各装甲の正体について考えていきます。

  1. 防盾と砲塔モジュール装甲と車体モジュール装甲
    表1より、防盾と砲塔モジュール装甲と車体モジュール装甲はいずれも[あ]への耐弾が要求されており、砲塔モジュール装甲と車体モジュール装甲に関しては[あ]の射距離と存速も規定されています。
    したがって、この[あ]はKE弾であることがわかります。
    正面に飛来するKE弾の候補は多くありますが、MBTである以上は敵MBTから発射される主砲弾に抗堪できなければ話になりませんし、実際に正面要部耐弾性試験ではモジュール装甲に対して射距離250mから徹甲弾Ⅳ型を発射していますから、この[あ]は120mm級APDSFSである可能性が高いと言えます。
    正面要部を防護する砲塔モジュール装甲と車体モジュール装甲は複合装甲であることを合わせて考えると、防盾と砲塔モジュール装甲と車体モジュール装甲はいずれも120mm級APDSFSに抗堪できる受動装甲であり、後者2つは複合装甲であると言えます。


  2. 付加装甲Ⅰ型
    表2より、側面に装着される付加装甲Ⅰ型の内部には
    • 爆発性の物質[7-2 ウ]
    • 起爆装置[7-2 エ]
    • 何らかの力によって飛翔させられ、メタルジェットと干渉させられる物体[7-2 ク]
    があることがわかります。
    したがって、付加装甲Ⅰ型は成形炸薬弾に抗堪できる爆発反応装甲であると断定できます。
    このことから、[す]は成形炸薬弾で、[ち]装甲型とは反応装甲型であると考えることができます。。
    試作時に対戦車ロケット弾に対する耐弾性試験の労務借上契約が随意契約になった理由に、付加装甲Ⅰ型とⅡ型についての言及があること、このⅠ型とⅡ型の少なくとも一方は対戦車ロケット弾の成形炸薬弾に対する抗堪性を持っていると見られ、Ⅰ型がそれだと思われることから、付加装甲Ⅰ型は対戦車ロケット弾への対策を主眼に置いているものと考えられます。
    歩兵携行対戦車ロケット対策でしょうか。
    なお、弾子破片をまきちらす[お]は(おそらく155mm級)榴弾の曳火射撃[か]mm機関銃弾は12.7mmまたは14.5mm機関銃弾のことを指すと思われます。
    [か]が機関弾ではなく機関弾という表記になっていることから、付加装甲Ⅰ型はIFVに搭載されるような機関砲弾には耐えられないものと考えられます。

    [2017/10/10追記]
    「新戦車(その5) 試作品設計書(装甲部)」のp.2とp.11とp.14からは
    • [7-2 イ]は付加装甲Ⅰ型の構成要素であり、耐弾効果を発揮する部位である
    • [7-2 イ]は付加装甲Ⅰ型に内装する形で装備される
    • 付加装甲Ⅰ型には、高さが約[7-2 ヒ]mmのもの(各部共通用および操縦手下部防護用)と、約[7-2 ヘ]mmのもの(砲塔部吊部用)がある
    • [7-2 イ]の分割方法は、付加装甲Ⅰ型のうち高さが約[7-2 ヒ]mmのものについては縦4分割である
    • [7-2 モ]は[7-2 イ]に内装され、被弾により[7-2 ヤ]する
    といったことも読み取れます。
    これらより、
    • [7-2 イ]は爆発反応装甲板本体を指す
    • 爆発反応装甲板は付加装甲Ⅰ型の内部に内装する形で装備される
    • 付加装甲Ⅰ型1つに内装される爆発反応装甲板の枚数は、各部共通用および操縦手下部防護用の場合で4枚である
    といったことがわかりますから、付加装甲Ⅰ型は米陸軍のARAT-1(M19)と同様の構造であると推定できます。
    [追記終了]


  3. 付加装甲Ⅱ型
    表2より、付加装甲Ⅱ型はⅠ型と同様に側面に装備されるものであることが分かります。
    しかし、装甲型が付加装甲Ⅰ型と異なり[ち]装甲型ではなく[つ]装甲型なので、付加装甲Ⅱ型は爆発反応装甲ではないと考えられ、[つ]は受動装甲型になると思われます。
    また、側面に装着する装甲は付加装甲Ⅰ型とⅡ型しかないこと、90式戦車と同様にIFVからの機関砲弾に耐えられる程度の耐弾性を側面に持たせるにはⅠ型とⅡ型のどちらかは機関砲弾に抗堪できる必要があること、Ⅰ型は成形炸薬弾対策の爆発反応装甲であり機関弾には耐えられない可能性が高いことから、付加装甲Ⅱ型は機関砲弾に抗堪できるはずです。。
    一口に機関弾と言っても色々ありますが、試作時の耐弾性試験で30mm徹甲弾が用いられていることから、30mm級徹甲弾への抗堪は視野に入っていると考えて良いでしょう。
    したがって、付加装甲Ⅱ型は30mm級徹甲弾に抗堪できる受動装甲であると考えられます。。
    付加装甲Ⅱ型もⅠ型と同様、155mm級榴弾の曳火射撃([お])による弾子破片12.7mmまたは14.5mm機関銃弾に抗堪できるようです。


  4. 付加装甲(上面用)
    表2より、付加装甲(上面用)は付加装甲Ⅰ型と同種とわかるので、Ⅰ型と同様[ち]装甲型とは反応装甲型であると考えられます。
    ただし、想定脅威が[す]ではなく[せ]であることから、付加装甲Ⅰ型とは異なる脅威への対策であることが見て取れます。
    上面であることを考えると、[せ]はおそらくトップアタック式ATMの成形炸薬弾でしょう。
    このことから、付加装甲(上面用)はトップアタック式ATMに抗堪できる爆発反応装甲であると考えることができます。
    付加装甲(上面用)は、これに加えて155mm級榴弾の曳火射撃([お])による弾子破片に耐えられるようです。

    [2017/8/19追記]
    成形炸薬弾対策でなく自己鍛造弾対策である可能性もあります。
    [追記終了]


  5. 付加装甲(操縦手足元防護)
    表1と表2より、付加装甲(操縦手足元防護)は防盾や砲塔モジュール装甲や車体モジュール装甲と同様[あ]に対する耐弾性が要求されており、装甲の種類としては付加装甲Ⅱ型と同じ[つ]装甲型であることがわかります。
    したがって、付加装甲(操縦手足元防護)は120mm級APDSFSに抗堪できる受動装甲であると思われます。


  6. 低脅威対応型砲塔モジュール装甲および低脅威対応型車体モジュール装甲
    表1と表2より、低脅威対応型モジュール装甲は砲塔用・車体用ともに標準型モジュール装甲の構成要素の一部を換装したもので、装甲の種類としては[と]装甲型であること、また付加装甲Ⅰ型と同様[す]に対する耐弾性が要求されていることが読み取れます。
    したがって、低脅威対応型砲塔モジュール装甲と低脅威対応型車体モジュール装甲は成形炸薬弾に抗堪できる複合装甲であると考えられます。
    低脅威対応型と銘打っていることから、歩兵携行型対戦車ロケットへの対処が主目的なのでしょう。


ところで、付加装甲(操縦手足元防護)が付加装甲のくせに砲塔や車体のモジュール装甲と同等水準の対KE弾耐弾性を確保しているのは注目に値します。
車体モジュール装甲と同等水準の防護力でしかも装備位置が車体モジュール装甲と近いのであれば、車体モジュール装甲と一体化してしまっても良さそうなものなのですが、実際にはそうなっておらず、考えてみれば不思議な話です。
表2を見てもわかるのですが、実は付加装甲(操縦手足元防護)は10式戦車の量産仕様書には規定があるのに試作品設計書(装甲部)では全く言及がなく、いつどういった経緯で導入されたのかはよくわかっていません。

試作品設計書(装甲部)は平成18~19年に試作が行われた「新戦車(その5)」の納入図書であること、10式戦車の量産仕様書の変更日時が平成26年10月であることから、付加装甲(操縦手足元防護)が導入されたのは平成18年4月~平成26年10月のあいだのどこかということになります。
付加装甲を新たに導入するとなると仕様変更や設計変更、場合によっては関連試験をあらたに行わねばならず、それには相応の理由が必要なので、実際に導入した以上は緊急性の高い理由があったと見るべきでしょう。
時期と緊急性を考慮すると、英国陸軍のチャレンジャー2戦車がイラクで車体正面下部を爆発反応装甲もろともRPG-29で撃ち抜かれた事件が2007年(平成19年)に報じられたことを受けて急遽導入したと考えるのが自然です。
これなら、車体モジュール装甲と付加装甲(操縦手足元防護)が一体化されていないことの説明が付きます。
付加装甲(操縦手足元防護)が砲塔や車体のモジュール装甲と同等の対KE弾耐弾性をもつ受動装甲となったのは、付加装甲Ⅰ型やⅡ型の防護範囲を車体正面下部に拡大する方法ではタンデム式HEAT弾頭を搭載するRPG-29には対処できず急遽砲塔や車体のモジュール装甲と同様の複合装甲か防盾と同様の特殊鋼板を付加装甲として車体正面下部に装備できるようにすることで対処したからなのかもしれません。
ということは、砲塔と車体のモジュール装甲と防盾がRPG-29級のタンデム式HEAT弾頭にも抗堪できる可能性が出てきます。
(防盾は複合装甲ではないので、砲塔も車体のモジュール装甲よりも分が悪いかもしれませんが…)

また、付加装甲Ⅰ型はタンデム式HEATには耐えられないと考えられることから、付加装甲Ⅰ型と同じく[す]に対する耐弾性を有すると定められている低脅威対応型モジュール装甲もタンデム式HEATには耐えられないと思われます。

以上を踏まえて、10式戦車の装甲の防護力をまとめたのが表3です。

表3.10式戦車の装甲の防護力(推定)
10TK-防護力まとめ


こうして見てみると、10式戦車の正面要部以外の直接防護力は付加装甲頼みであることがよくわかります。
90式戦車を含む第三世代主力戦車は素の状態の側面装甲でも機関砲に耐えられる程度の耐弾性を有していますが、10式戦車は輸送形態での重量を削減するため素の状態の装甲ではなく付加装甲Ⅱ型で対処しています。
最近の列国の第三世代主力戦車は機関砲に耐えられる側面装甲の上にさらに爆発反応装甲を装備するようになってきており、10式戦車でこれと同等の防護力を確保しようとすると付加装甲Ⅰ型とⅡ型を同じ場所に重ねて装着する必要がありますが、それが可能かどうかは不明であるため、側面の直接防護力には不安が残ります。

[2017/10/10追記]
「新戦車(その5) 試作品設計書(装甲部)」のp.2の記述は、側面の直接防護力は機関砲弾と成形炸薬弾のいずれかに対処できることが要求されていると解釈できるので、同時にその両方に対処できるようにはなっていないと思われます。
[追記終了]

しかしながら、機関砲弾と対戦車ロケット弾への耐弾性を同時に要求される状況がどれだけあるかは議論の余地があり、もしかすると機関砲弾と対戦車ロケット弾への耐弾性を同時に満足できなくても実用上は問題ないのかもしれません。
ただし、この議論は十分な数の付加装甲が部隊に行きわたっていることが前提であり、もし足りていないならば正面要部以外の直接防護力が90式戦車未満になるという恐ろしい事態になりかねません。
付加装甲の調達数が足りているのかどうか気になるところです。
(10式戦車の調達要領指定書に調達数が書いてあるようなので、過去の調達要領指定書をすべて調べれば答えが出るはずですが、誰かやりません?)

また、将来的にタンデムHEAT弾頭を搭載した個人携行対戦車ロケットが普及すると現状の付加装甲では対処不能になると考えられるので、その対策も必要になるでしょう。
防衛装備庁で研究中のアクティブ防御システムが搭載されることになるのかもしれません。


(禁無断転載 free tibet)

【軍事】将来戦闘機用エンジンについて

航空自衛隊が運用するF-2戦闘機の退役が2030年代に予定されていることから、その後継機となる将来戦闘機を国内で開発しようとする動きがあります。
防衛装備庁は、戦闘機の心臓部たるエンジンの国産化を目指して各種の技術開発を行ってきており、平成28年度からは「戦闘機用エンジンシステムの研究試作」と称される事業でエンジン全体の試作と試運転が始まっています。

今回は、情報公開制度を利用して入手した行政文書をもとに、将来戦闘機のエンジンについて書いていきます。


「戦闘機用エンジンシステムの研究試作」で製造されるプロトタイプエンジン[1][2]
戦闘機用エンジンシステムの研究試作では、
  • 戦闘機用エンジンシステム(エンジン本体、試験用FADECシステム、ステルス性評価用実物大模型)
  • エンジン試験用支援器材(エンジン用架台、インレットダクト、ステルス性評価用器材など)
  • 補用品(予備部品)
の製造と地上試験がおこなわれます。

エンジン本体には「XF9-1」という形式番号が割り振られており、その形状は図1、寸法は表1のようになっています。

XF9-1
図1.XF9-1
(透かし加工は筆者による)

表1.XF9-1の各部の寸法
直径[m] インレット 約1(0.99)
バイパス流路部外装 (1.00)
アフタバーナダクト外装 (0.93)
ノズル部外装前端 (1.07)
全長[m] 約4.8
[註] かっこ内の値は図1を用いて計算した推定値である。

XF9-1の海面上標準大気状態における目標最大推力は、ウェット推力15tf(147kN)以上ドライ推力11tf(108kN)以上と定められています。
表1と合わせて考えると、XF9-1はF110エンジンと概ね同等規模の寸法でF119エンジンに近い推力を目指していることがわかります。
ハイパワーと燃料消費率低減を両立すべく、超音速巡航時の燃料消費率低減も盛り込まれています。

また、電子制御部(FADECシステム)には「JEC-91」という形式番号が割り振られており、
  • 機体制御システムとエンジン制御システムが密接に連携したIFPC制御機能
  • 電気系統などが故障した際に故障の程度に応じて制御系を再構成する制御機能
を有しています。

なお、この研究試作事業では行われるエンジン製造コストの試算は、
  • エンジン製造台数:125台、250台、500台
  • エンジン調達期間:10年、20年
という形で、製造台数3通り・調達期間2通りの合計6通りの条件を想定して行われます。
F-3が双発になったら最大250機までありうる…?


「推力偏向ノズルの研究試作」で製造される排気ノズル[2]
推力偏向ノズルの研究試作で製造される推力偏向ノズル本体には「XVN3-1」という形式番号が割り振られており、その形状は図2のようになっています。

XVN3-1
図2.XVN3-1
(透かし加工は筆者による)

XVN3-1はコンバージェント・ダイバージェント型式で、排気ガス流をエンジンの回転軸に対して全周囲0~20degの範囲で偏向させることができます。
戦闘機用エンジンシステムの研究試作で製造されXF9-1に装着される排気ノズルは、推力偏向機能を持たない通常のコンバージェント・ダイバージェントノズルですが、XVN3-1の試験を行う際には、XF9-1に通常型ノズルの代わりにXVN3-1を装着することになっています。


防衛技術シンポジウム2016で発表された「将来戦闘機用エンジン」[1][3][4][5]
防衛技術シンポジウム2016のポスターセッションでは、図3に示す将来戦闘機用エンジンの実寸大ポスターが「戦闘機用エンジンの構想断面図」として展示されました。

戦闘機用エンジンの構想断面図
図3.戦闘機用エンジンの構想断面図
(透かし加工は筆者による)

図3から各部の寸法を推定した結果を表2に示します。

表2.戦闘機用エンジンの各部の寸法
直径[m] インレット 0.96
バイパス流路部外装 1.06
アフタバーナダクト外装 0.98
ノズル部外装前端 1.05
[註] 全長を4.80mと仮定した。

実寸大ポスターが展示されている様子を写した写真はツイッター上[5]で公開されていますが、これを用いて射影変換を施すことでインレット直径と全長を推定すると図4のような結果が得られます。

写真からの推定
図4.実寸大ポスターによる推定

表1・表2・図4を比べると、将来戦闘機用エンジンはXF9-1と比べて
  • インレットとノズル部外装の直径はほぼ同じ
  • バイパス流路部外装とアフタバーナダクト外装の直径はやや大きい
と言えそうです。
さて、エンジンのコア部の開発には多額の費用と多くの時間がかかり、一度設計したものが使い回されることも多いため(たとえばF7-10のコア部はXF5-1とほぼ同じ)、XF9-1のエンジンコアは将来戦闘機用エンジンでも流用されるものと思われます
このことを利用して、図5に示すように、図1と図3のコア部の形状と寸法が同じになるように図1を変形して、その結果を図3と比較することで、XF9-1と将来戦闘機用エンジンの相違点を炙り出してみます。

変形と比較2
図5.図1と図3の比較

図5を見ると、XF9-1と将来戦闘機用エンジンはコア部だけでなくファン部とノズル外装も共通であるように見えますが、その一方で、バイパス流路外装とアフタバーナダクトとノズル部の直径は異なっているように見えます。
XF9-1はプロトタイプエンジンですから、将来戦闘機用エンジンはそのコアを流用しつつバイパス比などを調整した発展系という位置づけなのでしょう。

ところで、防衛技術シンポジウム2016で行われた「~将来技術の獲得に向けて~航空装備研究所の取り組み」という講演の発表資料には、図6のような散布図が掲載されています。

散布図
図6.散布図
(透かし加工は筆者による)

この散布図から数値を読み取ることで、将来戦闘機用エンジンは最大推力168kN推力重量比9.0であることがわかります。
また、最大推力と推力重量比から、エンジン質量は約1900kgであることがわかります。
図6にある「同推力エンジン」は、最大推力156kN、推力重量比9.0、エンジン質量約1770kgなので、その正体はF-22戦闘機に搭載されているF119-PW-100と見て間違いないでしょう[6]
F119の全長は16フィート11インチ(5.16m)であり[7]、将来戦闘機用エンジンよりも若干長いですから、将来戦闘機用エンジンは予定通りに完成すればF119よりも小型かつ低燃費でありながら最大推力で上回ることになるのです。


今わかっていることを一通り並べてみると、将来戦闘機用エンジンは「ハイパワー・スリム・エンジン」というコンセプト通りのものであると言えそうです。
とはいえ、戦闘機用の実用エンジンを一から設計・製造するのは戦後初ですし性能目標も野心的ですから、外野としては本当に成功するのかかなり不安ではあります。
搭載母機もそうですが、無事に完成すると良いですね。


出典
[1]防衛装備庁試作仕様書 「戦闘機用エンジンシステムの研究試作」 (情報公開制度により入手)
[2]防衛装備庁試作仕様書 「推力偏向ノズルの研究試作」 (情報公開制度により入手)
[3]防衛装備庁 「戦闘機用エンジンシステムの構想断面図」 (情報公開制度により入手)
[4]防衛装備庁技術シンポジウム2016 「~将来技術の獲得に向けて~航空装備研究所の取り組み」 発表資料 (情報公開制度により入手)
[5]https://twitter.com/dragoner_JP/status/798509998028398592
[6]http://www.rand.org/content/dam/rand/pubs/monograph_reports/2005/MR1596.pdf#page=82
[7]http://web.archive.org/web/20071212201849/http://www.nationalmuseum.af.mil/factsheets/factsheet.asp?id=881


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【軍事】そうりゅう型潜水艦の充電性能(Indiscretion Ratio)について

これまで本ブログでは海上自衛隊のそうりゅう型潜水艦の主蓄電池についての話題を複数回扱ってきました。
しかしそれらは主蓄電池の配置や容量に着目したもので、充電に関しては一切触れていません。
そこで、今回は充電について考えてみたいと思います。


潜水艦に求められる「充電性能」とは
潜水艦の最大の武器は「水中に潜ることで発揮される低被探知性」ですから、当然ながら任務中には可能な限り水上に顔を出さないことが要求されます。
通常動力潜水艦は主蓄電池の残量がなくなったら露頂なり浮上なりして発電機を回して充電する必要がありますが、その間は水上に顔を出すことになり低被探知性が大きく損なわれますから、その頻度と1回の充電にかける時間は可能な限り少なくすることが望ましいです。
これを定量的に評価するための指標の1つに、航行時間のうちに占める露頂時間の割合を表すIndiscretion Ratio(以下IRと表記)というものがあります。
ある期間のうちずっと潜航していたならその期間のIRは0%で、ずっと露頂/浮上していたなら100%となり、低ければ低いほど優秀です。
IRを低減するには、
  1. 主発電機の電力供給能力を引き上げる
  2. 艦全体の消費電力を引き下げる
  3. 主蓄電池の電力受け入れ能力を引き上げる
などといった手段があります。

  1. 主発電機の充電時の電力供給能力の引き上げ
    通常動力潜水艦は露頂時に発電機を回して発電しますから、単純に考えれば発電機の出力を引き上げばその分だけ充電に回せる電力が増えると考えられます。


  2. 艦全体の消費電力の引き下げ
    潜航中の艦内の消費電力が多ければそれだけ主蓄電池の残量の減り方も早くなりますから、潜航時の消費電力を低減すれば潜航時間を長くすることができ、IRの低減につながります。
    また、通常動力潜水艦は露頂時に発電機を回して発電しますが、その電力は蓄電池への充電だけでなく艦内の補機や推進用電動機にも使われますから、充電以外のことに使われる電力を減らせばその分多くの電力を充電に回して充電時間を短縮でき、IRの低減につながります。


  3. 主蓄電池の電力受け入れ能力の引き上げ
    前述の方法で充電に回せる電力を増やしても、主蓄電池の側の電力受け入れ能力がボトルネックになってしまっては何の意味もありません。
    潜水艦には一般的に鉛蓄電池(以下LAB)が使われており、そうりゅう前期型(16SS~26SS:以下Mk.1と表記)でもLABを採用していますが、LABは充電時に大電流を流すと水素ガスが発生する上に寿命に悪影響が出る関係で充電電流をあまり大きくできないため、ボトルネックになりえます。
    英国のOberon級潜水艦の場合、主蓄電池モジュール単体の公称容量が7420Ah、公称電圧2.2V、これを224個直列接続して充電する際の最大電流が1650A、最大電流時の最高電圧が538Vなので、規格化した最大電流は0.22C(1時間の定電流充電で電池容量の22%を充電できる電流値)となります。
    なお、最大電流時に供給される電力の最大値で定電力充電すると、計算上は1時間で電池のエネルギー容量の24.3%を充電できます。
    一方、リチウムイオン蓄電池(以下LIB)は10C以上の大電流での充放電が可能なものがあるなど、一般的にLABよりも電力受け入れ能力が優れていますから、LABをLIBに交換することでボトルネックを解消できればIRの低減につながります。

以上のことを踏まえて、そうりゅう型潜水艦のIRを推定してみましょう。
まず、前提条件を以下のように定めて計算モデルを作っていきます。

  1. 主発電機の充電時の電力供給能力
    そうりゅう型潜水艦には、露頂時の単機連続定格出力1850kWの発電機が2台装備されています。
    したがって、露頂時の電力供給能力は最大で3700kWとなります。


  2. 艦全体の消費電力
    艦内の消費電力には、推進所要電力、発電機の補機の消費電力、主蓄電池の充放電で発生する損失による消費電力、それ以外で固定的に発生する消費電力(ホテルロード)などがあります。
    まず、推進所要電力は発揮速力に依存するので、ここでは以前の記事で作成した数表を用いることとします。
    次に発電機の補機の消費電力ですが、情報公開請求の結果から主発電機の出力の6.45%と考えることにします。
    主蓄電池そのもので発生する消費電力については、資源エネルギー庁の資料をもとに、充放電効率をLABで87%・LIBで95%として計算することにします。
    そうりゅう型Mk.1にあるスターリング発電機の補機の消費電力は10kW程度と考えられるので、ここでは12kWとします。
    そうすることで、そうりゅう型Mk.1のAIP基準速力時の運転条件から、ホテルロードは150kWちょうどとなります。


  3. 主蓄電池の電力受け入れ能力
    以前行った推定によれば、そうりゅう型Mk.1の主蓄電池の総エネルギー容量は9.6MWhと考えられます。
    上述したように英国のOberon級は1時間で電池の総エネルギー容量の24.3%を充電できますが、そうりゅう型Mk.1も同じ割合で充電できるものとすると、受け入れ可能な電力は最大で2331kWとなります。
    そうりゅう後期型(27SS~28SS:以下Mk.2と表記)はLIBを採用しており、以前の推定からその総エネルギー容量は32.1MWh程度と考えられますが、仮にこれも英国Oberon級のLABと同じ割合で充電できるとすると、受け入れ可能な電力は7804kWとなり、発電機の最大出力の2台分と比べてすら大きな値となります。
    なお、この記事で行う推定では、発電機出力から艦内消費電力を差し引いた残りの電力を主蓄電池の受け入れ能力の範囲内で充電に回すものとし、充電開始から終了までずっと定充電電力を行うものと考えます。

このモデルによる推定結果を表1に示します。

表1.Indiscretion Ratioの推定結果(English version)
IR推定

*1:スノーケル基準速力とした。
*2:平均速力が8ktとなるように潜航時の発揮速力を定め、それに対応する軸出力と総合効率を数表から求めた。
*3:発電量あたりの移動距離が最大になるような発揮速力の組み合わせを求め、それに対応する軸出力と総合効率を数表から求めた。
*4:Mk.1よりも総合効率が改善されているが、ここではMk.1と同等とした。


ここでは、そうりゅう型Mk.1とMk.2について、基地と哨戒海域の間の移動中と哨戒海域内での低速哨戒中の2つの場合に分けてIRを計算しています。

まずMk.1についてみていきましょう。
移動中の方は、スノーケル時にLABの充電に回される電力がLABの受け入れ能力を下回っています。
スノーケル基準速力を発揮しながらLABを全力で充電するには発電機を全力運転しても電力が足りないので、LABに回る充電電力が割を食っているわけですね。
IRは23.8%と大きな値をとっていますが、これは潜航中の発揮速力が7ktと高めなせいで消費電力も高くLABの残量が早く減るせいです。
哨戒中の方は、スノーケル時でもLABには受け入れ能力の上限一杯の電力で充電できていますが、主発電機は全力運転していません。
言い方を変えると、LABの電力受け入れ能力がボトルネックになっているせいで発電機を全力で回せていないのです。

次にMk.2についてです。
移動中の方は、スノーケル時にLIBの充電に回せる電力はMk.1と変わっていません。
しかし、主蓄電池の充放電効率が改善された関係で潜航中に主蓄電池から引き出せる電力量が増え、結果としてIRが23.8%→22.7%と改善しています。
哨戒中の方は、LIBの電力受け入れ能力が高いことによりボトルネックが解消され、スノーケル時でも主発電機を全力で運転できるようになったため、哨戒海域における充電電力はMk.1より0.9MWほど多く確保できています。
その結果、IRは10.3%→7.1%と大幅な改善がみられます。


ところで、表1での推定ではそうりゅう型Mk.1にあるAIPは無視して考えていました。
ではAIPを考慮に入れるとどうなるか、考えてみましょう。


AIPは出力が低く低速時でしか使えない関係で基地と哨戒海域の間の移動中は出番がないため、その活躍の場は哨戒海域内に限られます。
海自潜水艦隊は一度の任務で2~3ヶ月ほど航海するとされていますが、潜水艦隊の主な哨戒海域である三海峡が母港からさほど離れていないことを考慮すると、哨戒海域に滞在する期間は7週間程度かそれ以上と考えられます。
哨戒海域に丸7週間(1176時間)滞在している間の総露頂時間を考えると、そうりゅう型Mk.1は(AIP不使用とすると)滞在期間の10.3%にあたる5.1日間(121時間)、Mk.2は7.1%の3.5日間(83時間)となります。
そうりゅう型Mk.1がAIPで丸2週間凌げるとすると、7週間のうちの2週間は露頂する必要が無いので、残りの5週間の10.3%にあたる3.6日間(87時間)が総露頂時間となり、ここから哨戒海域の滞在期間全体でのIRを計算すると7.4%となります。

この例から、哨戒海域でのIRの面でLAB+AIPの組み合わせよりもLIBのみの方が有利となる条件が存在することがわかります。
今回のモデルでは、哨戒海域での滞在期間が6.3週間(44.2日間=1060時間)を超えることがその条件となります。


そうりゅう型Mk.2は発電機には手が入っていないのにMk.1と比べてこれだけの改善がなされていますが、29SS以降の新型潜水艦では発電機が刷新され出力が向上するため、更なるIRの低減が見込まれます。
もしそうりゅう型Mk.2の船体に新型発電機を載せたとすると、哨戒海域で発電機を連続定格運転した場合のIRは6%未満となり、短時間定格運転であれば5%を下回ります
ここまで減れば露頂のタイミングを選ぶ自由度も増えるので、潜水艦の戦術面にも大きな影響を及ぼすものと思われます。
今後の進化に期待したいところですね。


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【軍事】そうりゅう型潜水艦の電気推進装置の変遷について

海上自衛隊は平成16年度以降「そうりゅう」型潜水艦を毎年1隻ずつ調達しておりますが、平成27年度調達分(27SS)以降では、AIPシステムと鉛蓄電池(LAB)が不採用になる一方でリチウムイオン蓄電池(LIB)が新規採用されるなど、電気推進装置の設計が大幅に変更されたことが既に明らかになっています。
しかしながら、その詳細はこれまで公表されておらず、不明な点が多くありました。
 
この記事では、情報公開請求制度を利用して防衛省から入手した資料を読み解き、「そうりゅう」型潜水艦の電気推進装置の構成が27SS以降でどのように変更されたのかについて、資料からわかること・推測されることを書いていきます。
(なお、この記事は随時修正されます。)

というわけで、まず「そうりゅう」型潜水艦の電気推進装置の概略図を以下に示します。

Electric_propulsion_system_Soryu_Mk1
図1.「そうりゅう」型潜水艦の電気推進装置の概略図(26SS以前)

Electric_propulsion_system_Soryu_Mk2
図2.「そうりゅう」型潜水艦の電気推進装置の概略図(27SS以降)


つぎに、27SS以降での変更点について1つずつ見ていきます。

  1. AIPシステムの不採用
    26SS以前の「そうりゅう」型では第4区画内部にスターリング式AIPシステムを装備しており、これが「おやしお」型潜水艦との最大の違いでもありましたが、27SS以降では不採用になりました。


  2. LABの不採用
    日本の潜水艦は、旧海軍での黎明期から主蓄電池としてLABを使用してきました。
    26SS以前の「そうりゅう」型では「おやしお」型と同じ「潜水艦用主蓄電池(SCG)」を搭載していますが、27SS以降では不採用になりました。



  3. LIBの採用と主蓄電池搭載数の増加
    27SS以降では、AIPシステムとLABが不採用になったのと引き換えに、LIBが「潜水艦用主蓄電池(SLH)」として採用されました。
    「潜水艦用主蓄電池(SLH)」の内部構成と外観の概要を図3と図4に示します。

    Internal configuration of submarine LIB
    図3.潜水艦用主蓄電池(SLH)の内部構成の概要


    Appearance of submarine LIB
    図4.潜水艦用主蓄電池(SLH)の外観の概要

    組電池は金属筐体とその内部に設置された電池であり、大型極板群と呼ばれる3つの角型LIBを溶接して一体化したうえ並列接続することで単電池を構成し、それを10個金属筐体に収めて直列に接続した形になっています。
    この「大型極板群」は、TRDIでの研究試作の時期、開発事業者(GSユアサ/旧YUASA)、用途、電気的仕様などを考慮すると、旧YUASAのYMLシリーズの派生形である可能性が高いと考えられます。

    [2017/09/27追記]
    世界の艦船7月号の小林退役海将の記事によると、海上自衛隊の潜水艦用リチウムイオン電池の正極材料はYMLシリーズで採用されているLMO(マンガン酸リチウム)系ではなくNCA(ニッケル酸リチウムにコバルトとアルミニウムをドープしたもの)系とのことなので、少なくとも正極はYMLシリーズとは別物のようです。
    [追記終了]

    電池監視ユニットは正副の2系統が金属筐体の上に設置されており、各単電池の電圧・温度および組電池の電圧を常時監視してデータバス経由で電池管理装置に送信します。
    電池監視ユニットの上には主蓄電池の端子が張り出すように2つ備えられていますが、「潜水艦用主蓄電池(SLH)」には端子の極性が異なるものが2種類あり、タイプA・タイプBと呼ばれています。
    なお、LABだけでなくAIPシステムの設置場所もLIBに転用されたためか、主蓄電池搭載数は26SS以前は1個主蓄電池群あたり240基だったのが27SS以降では320基へと増加しています。
    主蓄電池群の数が1隻あたり2つなのは27SS以降でも変わらないので、主蓄電池搭載数は1隻あたり640基と思われます。
    以前の記事では増加率を50%(240基)程度と予想したのですが、実際には33%(160基)に留まっています。


  4. 主蓄電池群内部の電路変更
    一般論として電子機器には動作のために高い電圧を要求するものが多く、それを電池で確保するために電池ユニットを多数直列に接続することが広く行われています。
    また、大規模蓄電池システムでは必要な蓄電容量を確保するために、電池ユニットを多数直列接続して構成される列電池を更に並列接続することも広く行われています。
    26SS以前の「そうりゅう」型の場合、図5に示すように、1個主蓄電池群は240基の「潜水艦用主蓄電池(SCG)」を直列に接続することで構成されていました。
     
    A bank of main battery (LAB)
    図5.26SS以前のそうりゅう型の主蓄電池群の内部構成
     
    「潜水艦用主蓄電池(SCG)」はそれ自体が単電池であり、公称電圧は一般的なLABと同様2V程度しかないので、240基を直列接続することで主電動機を動かすのに必要な電圧を確保しています。
    一方、27SS以降で採用された「潜水艦用主蓄電池(SLH)」は組電池であるうえ、単電池電圧もLABより高いため、公称電圧は40V弱にもなります。
    27SS以降でもディーゼル発電機は変更されなかった関係で主蓄電池群の充電終期電圧は26SS以前と同程度となるため、主蓄電池の直列数は従来よりも大幅に減って16基程度になると推定できます。
    27SS以降の1個主蓄電池群に含まれる主蓄電池の数は320基なので、この16基とは列電池内の主蓄電池の直列数を指していて、1個主蓄電池群を構成する列電池の並列数は20である、と考えるのが妥当と思われます。
    このことから推定される27SS以降の主蓄電池群の内部構成を図6に示します。
     
    A bank of main battery (LIB)
    図6.27SS以降の主蓄電池群の内部構成

    このように、26SS以前と27SS以降では主蓄電池群の内部構成が全く異なるものとなります。
    26SS以前の艦にLIBを搭載するには、配線から何から何まですべて変更する必要がありますから、そうそう簡単には踏み切れないでしょう。
    なお、今回入手した27SSの資料にはNDS-F8016Bについての記述が一切なく、27SSはNDS-F8016B適用対象外である可能性が高いため、「潜水艦用主蓄電池(SLH)」が電池室内にどのような規則で配置されるのかについては現時点では手掛かりがありません。


  5. 主電動機の内部構成変更
    「そうりゅう」型の主電動機は複電機子式永久磁石電動機であり、1つの回転軸を2つの永久磁石電動機が共有する構成になっています。
    ちょうど1本の串に団子が2つ刺さっているような感じですね。
    26SS以前では2つの電動機は大きさも形も異なっていましたが、26SS以降では同じものになります。
    また、電動機の回転子に使用されている永久磁石の材料がより保磁力が高いものに変更されたため、高効率化が期待できます。
    なお、主電動機全体の外寸に変更はなく、重量もほぼ変わっていません。


  6. 主制御盤の内部構成変更
    26SS以前の「そうりゅう」型の主制御盤は、複数のインバータユニットからなる6群のインバータ群で構成され、第1群が第1電動機を、それ以外の第2~6群が第2電動機を駆動する形になっていました。
    27SS以降ではインバータ群の数が4群に減少し、第1・3群が第1電動機を、第2・4群が第2電動機を駆動するようになっています。
    インバータ群の数が減っただけでなく各インバータ群の容量も微減した関係で主インバータユニットの容量の総和が5MVA前後まで減少したため、主電動機に供給可能な電力は力率と効率が共に100%だとしても5MW前後にとどまり、主電動機の最大軸出力は26SS以前よりも小さくなっています。


  7. 水冷却装置の内部構成変更
    27SS以降では主電動機と主制御盤の最大出力が下がり発熱量も低下したためか、それらを冷やす水冷却装置はより低出力なもので済んでいます。
    冷却ポンプが低出力化すればそのぶん静粛性の面で有利になりますが、低出力化したからといって水冷却装置自体が小型化されたわけではありません。
    なお、主電動機などの内部構成変更に合わせて冷却水の通水量の配分が変更されています。


  8. 主電動機の運転区分の変更
    27SS以降では、主電動機や主制御盤に大幅な変更がなされたことに対応して、主電動機運転区分も大幅に変更されています。その一部を表1に示します。

    表1.主電動機の運転区分
    主電動機
    運転番号
    26SS以前 27SS以降 備考
    1 5900kW
    (5分間定格;過負荷容量)
    主制御盤容量低下と過負荷運転の
    無効化により設定自体が消滅
    水中特殊全力
    2 4170kW
    (1時間定格/効率92.0%)
    4170kW
    (連続定格/効率約93%)
    水中全力
    3 約3MW
    (連続定格)
    運転番号2が連続定格になったため
    設定自体が消滅
    -
    9 56.8kW
    (連続定格)
    AIPシステムが不採用になったため
    設定自体が消滅
    AIP使用時
    基準速力

    表1より、27SS以降では主電動機の最高出力が26SS以前のそうりゅう型よりも低下することがわかります。
    防衛省の平成26年度ライフサイクルコスト管理年次報告書において、24SSの水中速力が「20ノット」とされているのに対して27SSは「約20ノット」となっているのは、このことを反映したものと思われます。
    主電動機の最高出力が低下した一方で、連続定格出力が引き上げられているのが目を引きます。
    前回の記事で作成した表と照らし合わせると、26SS以前と27SS以降の発揮速力の面での違いは
    • 26SS以前の艦は、電池残量以外の時間制限なしで最大16kt前後で走ることができ、その気になれば1時間限定で18kt前後、5分間限定で20ktまで発揮できる
    • 27SS以降の艦は、電池残量以外の時間制限なしで最大18kt前後で走ることができるが、それ以上の速力は発揮できない
    といった感じになると考えられます。
    また、運転番号2での効率が向上していることから、損失が減り冷却装置への負担が軽減されると考えられ、高速域での静粛性が向上したものとみられます。
    なお、哨戒海域での水中基準速力に対応する運転区分での主電動機出力は変更されなかったため、哨戒時水中速力は4kt前後と思われます(艦体形状に変更がないのだから当然ではあります)。


AIPシステムの不採用を筆頭に電気推進装置の構成が変更されたこと、それに伴って速力とその持続時間が変わったことが、実任務に対して好ましいものであるかどうかは、外野には判断できません。
しかし、「防衛省と海上自衛隊が、新規設計の29SSの調達開始を前にして、建造費の高騰を忍んでまで27SSの電気推進装置の構成と性能をこのような形に設定した」
という事実は、きわめて示唆的であると考えられます。



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【軍事】そうりゅう型潜水艦の主電動機の回転速度と出力と水中速力の関係について

この記事は2017/04/29に公開された修正版です。修正前の版を見たい方はこちらからどうぞ。

潜水艦電気推進装置機器通則第2部は、海自潜水艦のうち主電動機が交流式であるもの(つまりそうりゅう型)の推進にかかわる電気機器についての規格であり、主電動機の回転速度とその時の出力の関係の一部が記されています。

今回の記事では、そうりゅう型の主電動機の回転速度と出力の関係を推定して数式の形にし、更にそうりゅう型の公称性能を用いてそうりゅう型の主電動機の回転速度と出力と水中速力の関係を割り出してみます。


  1. 主電動機の回転速度と出力の関係の導出方法
    潜水艦電気推進機器通則第2部によれば、そうりゅう型の主電動機の回転速度は1rpm刻みで調整可能となっています。また、解説表1の4.2.2.1の表から、水中におけるそうりゅう型の主電動機の回転速度R[rpm]と出力P[kW]の関係は表1のとおりであることがわかります。
    (脱字は修正してあります)

     表1.主電動機の回転速度と出力
    回転速度R
    [rpm]
    主電動機出力P
    [kW]
    39 56.8
    76 397
    169 4170
    190 5900

    PRの組が4つありますから、PRの3次式の形で推定できます。
    各係数を計算すると、
    PRを用いて
    form1 …式(1)

    の形で表せます。



  2. 主電動機の出力と水中速力の関係の導出方法
    こちらの資料から、主電動機の出力P[kW]と水中速力V[m/s]の関係は、船体長L[m]と水の動粘性係数[m2/s]を用い、それ以外のもろもろの係数をすべてAに押し込むことで、
    form2

    と表現できます(面倒なので途中式は省略)。

    そうりゅう型の公称性能から、P=5900[kW]のときV=10.2888…[m/s](つまり"主電動機出力が5900kWちょうどのとき速力は20ktちょうど")とすると、Aは
    A=1868
    と求まります。
    これに加えて、L=83.7[m]、ν=1.00×10^-6[m2/s]を前述の関係式に代入することで方程式
    eqn1 …式(2)

    が得られます。
    この方程式について、Aが水中速力に依存せず一定であるものとして
    Pの値を与えVについて解くことで、ある主電動機出力Pに対応する水中速力Vを求めることができます。

    この方程式は解析的には解けないので、Newton-Raphson法などの数値解法に頼る必要があります。


     
  3. 主電動機の回転速度と出力と水中速力の関係
    任意の回転速度Rに対応するPVを求め、得られた結果を潜水艦電気推進装置機器通則第2部の記述とともにまとめたものが表2です。
    効率の数値は、内挿して線形補完して計算したものを載せています。

    表2.主電動機の回転速度と出力と水中速力の関係(htm版はこちら)
    潜航時回転数軸馬力
    ※赤字は水中持続時間算定基準  

    この結果より、
    • 主電動機を動かすには少なくとも6kWの電力が必要であること
    • 主電動機を最低出力で動かすと速力が2kt程度になること
    • AIP潜航時の水中持続時間算定基準に対応する水中速力は4kt程度であること
    • 無音潜航で最大8kt程度まで発揮可能であること
    などがわかります。
    表2は潜航中の場合を示していますが、水中深く潜航しているときと露頂深度を航行しているときに船体に働く抗力には極端な差はないと思われることから、スノーケル中の場合もおおむね同じ関係式が適用できると考えられます。
    潜水艦電気推進機器通則第2部の表によるとスノーケル航行時の基準速力に対応するRPはそれぞれ105[rpm]・1098[kW]なので、これに対応するVの値を表2から読み取ることでスノーケル航行時の基準速力が11[kt]前後であることがわかります。
    実際にはスノーケルの抵抗と造波抵抗がありますから、スノーケル航行時の基準速力は11[kt]には届かず、おそらく10[kt]前後になるでしょう。
なお、水中全力時の推進所要電力が(効率を考慮すると)少なくとも4530kW以上であり、定格の1時間運転したときの消費電力量が4530kWh以上となることもわかります
電力を使っているのは主電動機だけではないので、
艦全体の消費電力はこれよりも多くなるはずです。
以前の記事で触れたように、現行そうりゅう型の主蓄電池の容量は10時間率で9.6MWh程度とみられますが、放電電流が約0.5Cと大きいことから実効容量が半分近くまで目減りすると考えられるため、水中全力を定格の1時間持続すると主蓄電池の容量のほとんどを使い切る計算になります。
このあたりの事情が戦術的にどう影響するのかを考えると面白いかもしれません。

また、平成27年度予算で建造されるそうりゅう型はリチウムイオン蓄電池の採用に伴って水中最高速力が変更されていることから、主電動機の水中特殊全力時の出力が変わるものと思われます。
おそらく、潜水艦電気推進装置機器通則も大幅に改正されるのでしょう。


ここまでの流れと同じように、スノーケル航走時のRPVの関係を求めてみましょう。
潜水艦電気推進装置機器通則第2部の表によると、スノーケル航走時のRとPはそれぞれ105[rpm]・1098[kW]です。
RとPの関係式が、式(1)の各項にある共通の定数Bをかけることで表現できるものとすると、定数Bは
B=1.0724
と求まりますから、スノーケル航走時のRPの関係式は
form3

となります。
また、スノーケル航走時の速力Vが10[kt]であるとすると、式(2)は
スノーケル時数式


と書き換えられます。
これを解いて得られた結果をもとに、スノーケル航走時のRPVの関係を表2と同様にまとめると、表3のようになります。

表3.主電動機の回転速度と出力とスノーケル速力の関係(htm版はこちら)
スノーケル時回転数軸馬力


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