千葉銀鳩の備忘録

なんとなく気になった事を調べて書いていきます。

※注意※
事前の予告なく記事の内容を変更したり記事そのものを削除したりすることがあります。
記事の内容は基本的に独自研究の塊であり、正確性については一切保証しません。
当ブログの記述を引用する際には、必ず引用元の記事のURLを明記してください。

【軍事】P-1哨戒機の捜索用レーダ「HPS-106」のアンテナ装備数と覆域について

現在、海上自衛隊ではP-3C哨戒機の後継としてP-1哨戒機の配備が進められています。
P-1哨戒機はC-2輸送機と同時並行で国内開発された機体で、捜索用レーダ「HPS-106」はそのP-1哨戒機に搭載するための多機能レーダシステムとして開発が行われました。
このHPS-106は、レーダ波の送受信用アンテナとしてアクティブ電子走査式アレー(Active Electronically Scanned Array : AESA)アンテナを複数備えており、それらを別々の方向に向けて固定装備することで必要な覆域を確保しています。
そのAESAアンテナの装備数と覆域については
  • AESAアンテナが機体の前後左右に1面ずつ合計4面装備されていて、機体の前後左右360deg全周が走査可能である
  • AESAアンテナが合計3面しか装備されておらず機体後方が走査不能であるため、機体後方に死角がある
という2つの説があり、ネット上では見解がわかれているところです。
(英語圏のウェブサイトでは、「4面AESA装備で全周走査」としている記事がWikipedia英語版のP-1の項を筆頭に多く見受けられますが、出典が記載されている記事は見当たらず、根拠が全くもって不明です。)

HPS-106は自衛隊の装備品ですから、詳しく調べるには防衛省公式の文書を読んだり、現場の運用者に直接質問したりする必要があります。
そこで今回は、行政文書開示請求で入手したHPS-106の仕様書(初版)などを参考に、HPS-106のAESAアンテナ装備数と覆域について考えてみます。


fig1
図1.今回扱うHPS-106の仕様書の表紙(の上側)


1.仕様書の機材構成に関する記述からわかること&わからないこと
自衛隊の装備品の仕様書では、その装備品がどのようなコンポーネントで構成されていてそれらの機能・性能がどうなのか、装備品全体としての機能・性能はどうなのか、などといった内容が規定されています。
この仕様書にも、HPS-106がどのような構成品で成り立っているかについての記述があります。
それが図2です。

fig2
図2.構成品

図2中の表では、標準構成では空中線(=AESAアンテナ)が3面しかないことが見て取れます(後述する励振受信機は1つだけ)。
AESAアンテナが3面しかないのだから後方は死角に決まっている、第3部完!…と言いたいところですが、話はそう単純ではありません。
というのも、図2の表の上の一文にある通り、実際に調達されるHPS-106の構成が調達要領指定書の内容次第ではこの構成の通りになるとは限らず、AESAアンテナの数が変わる可能性が否定できないため、図2だけでは決定打にはならないからです。

ならば調達要領指定書を見ないと確定的なことは何も言えないのかというと、そういう訳ではありません。
もう一度図2の上の方の一文を見てみましょう。
この部分で、調達要領指定書によって変更されるうるという趣旨の文言の対象になっているのはあくまでも構成だけなので、構成以外の何かが調達要領指定書によって変更されうるならば、別途その旨が示されるはずなのです。
この仕様書の他の部分を見渡すと、図3と図4に示すように実際そのようになっていることが確認できます。


fig3
図3.調達要領指定書によって変更されうる箇所の例(提出書類)

fig4
図4.調達要領指定書によって変更されうる箇所の例(官給品)

このことから、そのような文言がない部分の内容は調達要領指定書による変更を受ける可能性がないので、調達要領指定書を確認せずとも正しいと判断することができます。



2.仕様書の機能や性能に関する記述からわかること

この仕様書には、レーダシステムとしての機能や性能について記述している部分があります。
その部分には、HPS-106が持つ各運用モード(水上捜索モードや対空モードなど)での探知距離や走査範囲、励振受信機やAESAアンテナをはじめとする各構成品の機能や性能に関する記述も含まれていますが、調達要領指定書によって内容が変更されうるという趣旨の文言は存在しません
したがって、各運用モードでの走査範囲についての記述を一通り確認すれば、調達要領指定書を見ずとも機体後方に死角があるかどうかがわかります。
全ての運用モードの記述から走査範囲の部分だけを切り出して提示するのは正直面倒なので、一通り確認した結果だけ書いてしまいますと、どの運用モードでも走査範囲は機体正面を中心として幅240.4degの領域全体またはその中の一部に限られていて、機体後方は走査範囲に含まれておらず死角になっています。
たとえば、航法気象モードのセクタ捜索(通常)サブモードでは、図5のとおり機体後方は走査範囲に含まれていません。

fig5
図5.航法気象モード(セクタ捜索(通常))での走査範囲
註:「1バー」とは、仰角を一定として方位1方向にビームを走査する捜索方法を指す。
利用できる運用モードが限られるが、仰角を2通りに切り替えて遠距離と近距離を捜索する「2バー」もある。

また、AESAアンテナ単体の
アジマス方向の走査可能範囲は、図6にあるとおりアンテナ正面を基準に左右方向に各47.5deg以上あるので、AESAアンテナ単体の視野の左右方向の幅が95.0deg以上であることがわかります。

fig7
図6.AESAアンテナ単体の走査可能範囲

AESAアンテナは受信した電波を受信RF信号として励振受信機に出力する機能をもちますが、この時に用いるAESA側の出力チャネルは図7のようになっています。

fig7s
図7.AESAアンテナの受信RF信号出力の内訳

図8に示す励振受信機の受信RF信号入力系統に関する記述と併せて読むと、励振受信機に接続されるAESAアンテナが最大3面であることがわかります。

fig8s
図8.励振受信機の受信RF信号入力系統
註:図示はしないが、AESAアンテナへ送信RF信号を出力する系統は狭帯域と広帯域で各3系統ある。BIT用はない。

つまり、励振受信機を2つ以上用意しない限りAESAアンテナは3面までしか使えないわけです。
「1系統を選択して受信」とあることから、励振受信機は同時に2面以上の空中線から受信RF信号を受信することはできない、ということもわかります。


3.仕様書からわかることのまとめ
ここまでで、HPS-106の仕様書から
  1. 標準構成では、AESAアンテナは3面、励振受信機は1つしかない(実物の構成は調達要領指定書での確認が必要)
  2. レーダシステムの(アジマス方向の)視野は機体正面を中心とした幅240.4degの領域に限られていて、機体後方には死角がある(調達要領指定書を見るまでもなく確定)
  3. 1つの励振受信機に接続されるAESAアンテナは最大3面であるが、接続されている複数の空中線から同時に受信RF信号を受け取ることはできない(調達要領指定書を見るまでもなく確定)
  4. AESAアンテナ単体の(アジマス方向の)走査可能範囲の幅は95.0deg以上である(調達要領指定書を見るまでもなく確定)
といったことがわかりました。

まず、機体後方に死角があることが確定しているので「全周走査可能」の可能性は明確に否定されます。
また、最大でも幅240.4degしかない走査範囲を幅95.0deg以上の走査可能範囲を持つAESAアンテナを複数用意して走査するには、AESAアンテナは3面あれば十分であって4面以上搭載しても無駄であることから、「4面搭載」の可能性もほぼ消えます。
一方、「3面AESA装備で後方は死角」説は上記1~4と矛盾しません。


4.仕様書以外のものからわかること
2015年の下総航空基地祭に行った際、地上展示中のP-1(#5510)の脇で解説しておられた乗員の方々に質問したところ、複数人から「P-1のAESAアンテナは合計3面で機体後部にはないという証言が得られています。[1][2]
また、航空祭当日にツイートとして記録に残すことはしませんでしたが、乗員の方から「P-1のレーダは機体後方が死角だが特に問題はない」というコメントも頂いています。

哨戒飛行中のP-1は常に前方に移動し続けているのだから、ある時点において機体後方の離れた場所に位置している物体はそれより少し前の時点では機体前方か側方のAESAアンテナの覆域に入っているでしょうし、そのうえ主たる捜索対象はP-1よりもはるかに鈍足な水上船舶と潜水艦ですから、機体後方が死角でも問題ないというのは頷ける話です。

WikimediaにあるP-1哨戒機の高解像度写真[3]を見ても、質感などから明らかにレドームだと判断できる部分のうち、横幅1.8m・高さ0.6mもあるAESAアンテナが収まりそうなものは機首正面と左右側面の3ヶ所以外には見当たりません。


5.結論
以上のことから、私は3面AESA装備で後方は死角」説が正しいと判断しています。
調達要領指定書を入手すればダメ押しができそうですが、4面AESA装備で全周走査可能」説が仕様書だけで否定されてしまったので、この件でこれ以上の調べ物をするつもりは今のところありません。


6.参考リンク
[1] https://twitter.com/VVspyVV/statuses/647598430341062656
[2] https://twitter.com/VVspyVV/statuses/647624999352713216
[3] https://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Kawasaki_P-1


追記ここから(2018/04/28 21:00)
ありがたいことに、匿名希望の方から開示文書をご提供いただいたので、この場で紹介したいと思います。
(提供元の方からは公開許可も頂いております)

今回ご提供いただいたのは、図9に示す「P-1固定翼哨戒機」の仕様書です。
この仕様書は、記事本文で扱っているHPS-106の仕様書(初版)と同じく防衛大臣承認を受けたものなので、そこに書いてある内容は防衛省の公式見解であると言えます。

fig9
図9.ご提供いただいたP-1固定翼哨戒機の仕様書の表紙(の上側)

ところで、P-1に搭載される装備品は多くが官給品ですが、今回ご提供いただいた仕様書では官給品とその構成品が「エンジン・APU」「電子機器」「救命装備」「航空燃料等」「用紙類」に分類されて、それぞれ表の形でまとめられています。
それらの内容が調達要領指定書などによって変更されうるという記述は存在しませんから、その内容次第ではHPS-106のAESAアンテナ搭載数を確定させることができるかもしれません。
そこで官給品の表を1つずつ眺めていくと、電子機器の表の中に図10のような部分が見つかります。

fig10
図10.P-1固定翼哨戒機の仕様書に掲載されているHPS-106の構成

これによって、P-1にはHPS-106のAESAアンテナを合計3面装備している機体が存在することが確定しました。
追記ここまで

【軍事】海自潜水艦の動力システムの変遷について

世界には、軍事情報を扱うウェブサイトが数多く存在します。
その1つに、J-Shipsの2018年2月号の28ページで「潜水艦に詳しい外国の軍事情報ブログ」として言及された「Submarine Matters」というブログがあります(J-Shipsの誌面では具体的な名前を出さずに紹介されていますが、27ページに掲載されている表に「Submarine Matters」のこちらの記事と同じ内容が含まれていることから、「潜水艦に詳しい外国の軍事情報ブログ」が「Submarine Matters」を指している可能性が極めて高いことがわかります)。
「Submarine Matters」は名前の通り潜水艦関連の情報に特化したブログでして、川崎重工製潜水艦用ディーゼル発電機についてまとめた記事もあります。
この記事は、外国人が運営しているウェブサイトに掲載されているものであることを差し引けば良くできているのですが、不正確な情報がところどころ目についてしまうのが残念なところです。
情報提供しようと思っても、修正点は1つや2つではなく、修正点の全てをコメント欄で指摘するのは私の英語力ではつらいものがあります。
(コメント欄で指摘しようと思って頑張って英語で書いてみたものの、途中で挫折しました。)

歴代の海上自衛隊潜水艦の動力システムの諸元が一覧表の形でまとまっている資料は日本語圏のウェブサイトでは見当たりませんし、書籍でもそうそうなさそうですから、不正確な情報が混ざってしまうのは仕方のないことでしょう。

そこで今回は、潜水艦電気推進装置機器通則の旧規格の解説表[3]と世界の艦船の増刊号[11]を基礎としつつ、情報公開制度によって入手した資料[4][5][6][7]などを併用して、歴代の海上自衛隊潜水艦の動力システムの諸元を表1のような形でまとめてみました。
次期潜水艦(29SS型)まで網羅している資料は(少なくとも日本語圏のウェブサイト上には)無いはずなので、それなりに価値があると思います。
資料を根拠とした推定結果には「?」を、資料に記載が無く推定ができない部分は「??」を付しています。
なお、出典とした資料の間には矛盾点が複数ありますが(例:はるしお(61SS)型の主発電機出力)、表1では防衛当局の資料の記述を優先して掲載しています。


表1.歴代の海上自衛隊潜水艦の動力システムの諸元一覧表
歴代の海自潜水艦の動力システムの諸元一覧表


a)ディーゼル機関の出力や
発電機効率(典型的には90%付近)などを合わせて考えると、この数値は水上航行時(surfaced)のものである可能性が高い。
b)
ディーゼル機関の出力や発電機効率(典型的には90%付近)などを合わせて考えると、この数値はスノーケル航行時(snort)のものである可能性が高い。
c)おそらく、水中&前進&10分間定格
d)おそらく、水中&前進&5分間定格
e)水中&前進&5分間定格
f)水中&前進&連続定格 (27SS型の主電動機には短時間定格の規定が存在しないため、連続定格の数値を記載した。)
g)連続定格
h)資料によって異なる名称が記載されているため、ここでは[11]のものを採用した。


60年にわたる歴史をこうして眺めると、
  • ディーゼル機関と主発電機の出力は増加傾向にあり、60年間で2倍以上になった
  • 主電動機の回転数は低下傾向にあり、60年間で1/3程度に激減した
  • 主電動機の出力は、うずしお(42SS)型で1軸推進が実用化された際に約2倍に増加したが、合計出力ではそこまで大きな変化はない
などといったことが見て取れます。
はやしお(34SS)型が「異端児」に見えますが、これは船体規模が小さいためでしょう。

主電動機回転数の低下は静粛性の追求によるものと考えられますが、その一方で主電動機の合計出力にさほど大きな変化がないのは、
  • 出力を大きく向上したところで速力の向上幅は限定的である
  • 消費電力の激増と主蓄電池容量の制約により高速を維持できるのは短時間に限られるため、実任務においては使いどころがない
などといった理由が考えらえれます。

そうりゅうMk.2(27SS型)の主電動機の型式が「SMC-8B」ではなく「SM-8B」である点を不審に思った方がいるかもしれませんが、これが正しい表記です。
「SMC-8B」とは、主電動機「SM-8B」と主制御盤「SC-8B」および冷却装置「WCD-8B」で構成されるシステムであって、主電動機の名称ではありません。
そうりゅうMk.1(16SS型)についても同様です。

ところで、29SS向けのディーゼル発電機の試作品には
  • 現行機種よりも連続定格が30%引き上げられるとともに「2モード出力運転」が可能になる
  • 現行機種よりもスノーケル発電システム総体としての放射雑音が小さい
  • 現行機種よりも燃料消費率が少ない
  • 現行機種よりも艦前後方向の長さが短い(ただし重量は増える)
という特徴があります[4][5]
『「2モード出力運転」が可能になる』とは、具体的には、従来から定義されている「連続定格出力」とは別個に、数十分間限定で約3MWの電気出力をスノーケル航走において確保できる「短時間定格出力」が新たに定義されて利用可能になることを指しています[5]
以前の記事の最後の方で触れたとおり、これによってIndiscretion Ratioが更に低減されるものと見られます。



出典
[1]防衛省. 防衛省規格 NDS F8004-1 潜水艦電気推進装置機器通則 第1部:直流式主電動機装置搭載艦.
http://www.mod.go.jp/atla/nds/F/F8004_1.pdf
[2]防衛省. 防衛省規格 NDS F8004-2 潜水艦電気推進装置機器通則 第2部:交流式主電動機装置搭載艦.
http://www.mod.go.jp/atla/nds/F/F8004_2.pdf
[3]防衛庁. 防衛庁規格 NDS F8004C 潜水艦電気推進装置機器通則. ※解説表はPDFファイル39ページ以降
http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3947818/www.mod.go.jp/trdi/data/pdf/F/F8004C.PDF
[4]防衛省技術研究本部. 委託仕様書 スノーケル発電システム(その1). ※情報公開制度により入手
[5]防衛省技術研究本部. 試作仕様書 スノーケル発電システム(その2). ※情報公開制度により入手
[6]海上幕僚監部装備部艦船・武器課. 海上自衛隊仕様書 潜水艦用主電動機装置(SMC-8). ※情報公開制度により入手
[7]海上幕僚監部装備部艦船・武器課. 海上自衛隊仕様書 潜水艦用主電動機装置(SMC-8B). ※情報公開制度により入手
[8]防衛装備庁. 契約に係る情報の公表(中央調達分) 平成27年度 月別契約情報/随意契約(基準以上). ※2870行目を参照
http://www.mod.go.jp/atla/souhon/supply/jisseki/rakusatu/xls/27zuikeikijunijou.xls
[9]防衛装備庁. 契約に係る情報の公表(中央調達分) 平成28年度 月別契約情報/随意契約(基準以上). ※2726行目を参照
http://www.mod.go.jp/atla/souhon/supply/jisseki/rakusatu/xls/28zuikeikijunijou.xls
[10]防衛装備庁. 平成29年度調達予定品目(中央調達分)(艦船調達官). ※3ページ目最下行を参照
http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10993089/www.mod.go.jp/atla/souhon/supply/jisseki/choutatuyotei_pdf/33_kansen.pdf
[11]阿部安雄. 海上自衛隊潜水艦の技術的特徴 2 機関. 世界の艦船 vol.665 増刊号. : 124-129. ※エンジンの名称や出力など。
[12]幸島博美. 新型潜水艦「そうりゅう」の技術的特徴 船体. 世界の艦船 vol.713. : 84-91.
[13][写真特集] 海上自衛隊潜水艦の発達 「くろしお」から「そうりゅう」型まで. 世界の艦船 vol.713 : 21-39.
[14]国立科学博物館. 4サイクルディーゼル機関の技術系統化調査.
http://sts.kahaku.go.jp/diversity/document/system/pdf/044.pdf ※エンジンのボアやストロークなど。PDFファイル35ページを参照
[15]https://www.derbysulzers.com/japan.html ※同系列の機関車向け機種「8LDA25A」を参照
[16]GSユアサ. 昭和53年4月以降のユアサ技術史. ※SCF-BについてはPDFファイル32ページ、SCGはPDFファイル35ページを参照
https://www.gs-yuasa.com/jp/technic/yuasa/no96/pdf/(p28-p37)web.pdf


更新履歴
2018/02/28 23:50
うずしお(42SS)型とゆうしお(47SS)型のディーゼル機関の名称が資料によって異なることを明記した。

2018/03/03 14:00
おおしお(36SS)型の主制御盤の名称の誤りを訂正した。
発電機出力の記述を水上航行時とスノーケル時の2通りに改めた。

2018/03/16 21:00
機械翻訳を考慮して文章表現を改めた。


wispywood2344/@VVspyVV
無断転載禁止

【軍事】10式戦車の装甲の防護力について

先日、軍事研究誌上で活躍中の岩本三太郎氏によって10式戦車の開発資料が公開されました。
今回は、公開された資料のうちの「10式戦車仕様書」と「新戦車(その5) 試作品設計書(装甲部)」から、10式戦車の各部に装備される装甲の直接防護力について書いていきます。

(能書きは要らないからさっさと結論をよこせというせっかちな方は表3をご覧ください)


10式戦車の装甲の構成

すでに広く知られていることですが、10式戦車は重量の装甲を着脱可能な外装式とすることで74式戦車並みの被輸送性を実現し、付加装甲の装着により質量増と引き換えに90式戦車と同等以上の直接防護力を確保可能としています。
装備状態と質量の関係は具体的には以下の通りです。
  • 輸送時質量:40.0t以下(砲塔と車体を分離せずに輸送する場合。)
  • 空車質量:43.2t以下(標準型モジュール装甲装備。燃料と油脂類などを全量搭載。付加装甲は無し。)
  • 全備質量:44.4t以下(空車状態に人員と弾薬と機関銃2丁を積載した場合。)
  • 最大質量:48.1t以下(付加装甲装備時の車両質量の上限値。)
資料から、10式戦車の直接防護力を担う装甲についての記述を抜粋したものが表1と表2となります。

表1.モジュール装甲と防盾に関する記述
10TK-モジュール装甲


表2.付加装甲に関する記述
10TK-付加装甲


これをもとに、各装甲の正体について考えていきます。

  1. 防盾と砲塔モジュール装甲と車体モジュール装甲
    表1より、防盾と砲塔モジュール装甲と車体モジュール装甲はいずれも[あ]への耐弾が要求されており、砲塔モジュール装甲と車体モジュール装甲に関しては[あ]の射距離と存速も規定されています。
    したがって、この[あ]はKE弾であることがわかります。
    正面に飛来するKE弾の候補は多くありますが、MBTである以上は敵MBTから発射される主砲弾に抗堪できなければ話になりませんし、実際に正面要部耐弾性試験ではモジュール装甲に対して射距離250mから徹甲弾Ⅳ型を発射していますから、この[あ]は120mm級APDSFSである可能性が高いと言えます。
    正面要部を防護する砲塔モジュール装甲と車体モジュール装甲は複合装甲であることを合わせて考えると、防盾と砲塔モジュール装甲と車体モジュール装甲はいずれも120mm級APDSFSに抗堪できる受動装甲であり、後者2つは複合装甲であると言えます。


  2. 付加装甲Ⅰ型
    表2より、側面に装着される付加装甲Ⅰ型の内部には
    • 爆発性の物質[7-2 ウ]
    • 起爆装置[7-2 エ]
    • 何らかの力によって飛翔させられ、メタルジェットと干渉させられる物体[7-2 ク]
    があることがわかります。
    したがって、付加装甲Ⅰ型は成形炸薬弾に抗堪できる爆発反応装甲であると断定できます。
    このことから、[す]は成形炸薬弾で、[ち]装甲型とは反応装甲型であると考えることができます。
    試作時に対戦車ロケット弾に対する耐弾性試験の労務借上契約が随意契約になった理由に、付加装甲Ⅰ型とⅡ型についての言及があること、このⅠ型とⅡ型の少なくとも一方は対戦車ロケット弾の成形炸薬弾に対する抗堪性を持っていると見られ、Ⅰ型がそれだと思われることから、付加装甲Ⅰ型は対戦車ロケット弾への対策を主眼に置いているものと考えられます。
    なお、弾子破片をまきちらす[お]は(おそらく155mm級)榴弾の曳火射撃[き]mm機関銃弾は12.7mmまたは14.5mm機関銃弾のことを指すと思われます。
    [き]が機関弾ではなく機関弾という表記になっていることから、付加装甲Ⅰ型はIFVに搭載されるような機関砲弾には耐えられないものと考えられます。

    [2017/10/10追記]
    「新戦車(その5) 試作品設計書(装甲部)」のp.2とp.11とp.14からは
    • [7-2 イ]は付加装甲Ⅰ型の構成要素であり、耐弾効果を発揮する部位である
    • [7-2 イ]は付加装甲Ⅰ型に内装する形で装備される
    • 付加装甲Ⅰ型には、高さが約[7-2 ヒ]mmのもの(各部共通用および操縦手下部防護用)と、約[7-2 ヘ]mmのもの(砲塔部吊部用)がある
    • [7-2 イ]の分割方法は、付加装甲Ⅰ型のうち高さが約[7-2 ヒ]mmのものについては縦4分割である
    • [7-2 モ]は[7-2 イ]に内装され、被弾により[7-2 ヤ]する
    といったことも読み取れます。
    これらより、
    • [7-2 イ]は爆発反応装甲板本体を指す
    • 爆発反応装甲板は付加装甲Ⅰ型の内部に内装する形で装備される
    • 付加装甲Ⅰ型1つに内装される爆発反応装甲板の枚数は、各部共通用および操縦手下部防護用の場合で4枚である
    といったことがわかりますから、付加装甲Ⅰ型は米陸軍のARAT-1(M19)と同様の構造であると推定できます。
    [追記終了]


  3. 付加装甲Ⅱ型
    表2より、付加装甲Ⅱ型はⅠ型と同様に側面に装備されるものであることが分かります。
    しかし、装甲型が付加装甲Ⅰ型と異なり[ち]装甲型ではなく[つ]装甲型なので、付加装甲Ⅱ型は爆発反応装甲ではないと考えられ、[つ]は受動装甲型になると思われます。
    また、側面に装着する装甲は付加装甲Ⅰ型とⅡ型しかないこと、90式戦車と同様にIFVからの機関砲弾に耐えられる程度の耐弾性を側面に持たせるにはⅠ型とⅡ型のどちらかは機関砲弾に抗堪できる必要があること、Ⅰ型は成形炸薬弾対策の爆発反応装甲であり機関弾には耐えられない可能性が高いことから、付加装甲Ⅱ型は機関砲弾に抗堪できるものと思われます。
    一口に機関弾と言っても色々ありますが、試作時の耐弾性試験で30mm徹甲弾が用いられていることから、30mm級徹甲弾への抗堪は視野に入っていると考えて良いでしょう。
    したがって、[せ]は30mm級徹甲弾と推測でき、付加装甲Ⅱ型は30mm級徹甲弾に抗堪できる受動装甲であると考えられます。
    付加装甲Ⅱ型もⅠ型と同様、155mm級榴弾の曳火射撃([お])による弾子破片12.7mmまたは14.5mm機関銃弾に抗堪できるようです。


  4. 付加装甲(上面用)
    表2より、付加装甲(上面用)は付加装甲Ⅰ型と同種とわかるので、Ⅰ型と同様[ち]装甲型とは反応装甲型であると考えられます。
    ただし、想定脅威が[す]ではなく[そ]であることから、付加装甲Ⅰ型とは異なる脅威への対策であることが見て取れます。
    上面であることを考えると、[そ]はおそらくトップアタック式ATMの成形炸薬弾でしょう。
    このことから、付加装甲(上面用)はトップアタック式ATMに抗堪できる爆発反応装甲であると考えることができます。
    付加装甲(上面用)は、これに加えて155mm級榴弾の曳火射撃([お])による弾子破片に耐えられるようです。

    [2017/8/19追記]
    成形炸薬弾対策でなく自己鍛造弾対策である可能性もあります。
    [追記終了]


  5. 付加装甲(操縦手足元防護)
    表1と表2より、付加装甲(操縦手足元防護)は防盾や砲塔モジュール装甲や車体モジュール装甲と同様[あ]に対する耐弾性が要求されており、装甲の種類としては付加装甲Ⅱ型と同じ[つ]装甲型であることがわかります。
    したがって、付加装甲(操縦手足元防護)は120mm級APDSFSに抗堪できる受動装甲であると思われます。


  6. 低脅威対応型砲塔モジュール装甲および低脅威対応型車体モジュール装甲
    表1と表2より、低脅威対応型モジュール装甲は砲塔用・車体用ともに標準型モジュール装甲の構成要素の一部を換装したもので、装甲の種類としては[と]装甲型であること、また付加装甲Ⅰ型と同様[す]に対する耐弾性が要求されていることが読み取れます。
    したがって、低脅威対応型砲塔モジュール装甲と低脅威対応型車体モジュール装甲は成形炸薬弾に抗堪できる複合装甲であると考えられます。
    低脅威対応型と銘打っていることから、歩兵携行型対戦車ロケットへの対処が主目的なのでしょう。


ところで、付加装甲(操縦手足元防護)が付加装甲のくせに砲塔や車体のモジュール装甲と同等水準の対KE弾耐弾性を確保しているのは注目に値します。
車体モジュール装甲と同等水準の防護力でしかも装備位置が車体モジュール装甲と近いのであれば、車体モジュール装甲と一体化してしまっても良さそうなものなのですが、実際にはそうなっておらず、考えてみれば不思議な話です。
表2を見てもわかるのですが、実は付加装甲(操縦手足元防護)は10式戦車の量産仕様書には規定があるのに試作品設計書(装甲部)では全く言及がなく、いつどういった経緯で導入されたのかはよくわかっていません。

試作品設計書(装甲部)は平成18~19年に試作が行われた「新戦車(その5)」の納入図書であること、10式戦車の量産仕様書の変更日時が平成26年10月であることから、付加装甲(操縦手足元防護)が導入されたのは平成18年4月~平成26年10月のあいだのどこかということになります。
付加装甲を新たに導入するとなると仕様変更や設計変更、場合によっては関連試験をあらたに行わねばならず、それには相応の理由が必要なので、実際に導入した以上は緊急性の高い理由があったと見るべきでしょう。
時期と緊急性を考慮すると、英国陸軍のチャレンジャー2戦車がイラクで車体正面下部を爆発反応装甲もろともRPG-29で撃ち抜かれた事件が2007年(平成19年)に報じられたことを受けて急遽導入したと考えるのが自然です。
これなら、車体モジュール装甲と付加装甲(操縦手足元防護)が一体化されていないことの説明が付きます。
付加装甲(操縦手足元防護)が砲塔や車体のモジュール装甲と同等の対KE弾耐弾性をもつ受動装甲となったのは、付加装甲Ⅰ型やⅡ型の防護範囲を車体正面下部に拡大する方法ではタンデム式HEAT弾頭を搭載するRPG-29には対処できず急遽砲塔や車体のモジュール装甲と同様の複合装甲か防盾と同様の特殊鋼板を付加装甲として車体正面下部に装備できるようにすることで対処したからなのかもしれません。
ということは、砲塔と車体のモジュール装甲と防盾がRPG-29級のタンデム式HEAT弾頭にも抗堪できる可能性が出てきます。
(防盾は複合装甲ではないので、砲塔も車体のモジュール装甲よりも分が悪いかもしれませんが…)

また、付加装甲Ⅰ型はタンデム式HEATには耐えられないと考えられることから、付加装甲Ⅰ型と同じく[す]に対する耐弾性を有すると定められている低脅威対応型モジュール装甲もタンデム式HEATには耐えられないと思われます。

以上を踏まえて、10式戦車の装甲の防護力をまとめたのが表3です。

表3.10式戦車の装甲の防護力(推定)
10TK-防護力まとめ


こうして見てみると、10式戦車の正面要部以外の直接防護力は付加装甲頼みであることがよくわかります。
90式戦車を含む第三世代主力戦車は素の状態の側面装甲でも機関砲弾に耐えられる程度の耐弾性を有していますが、10式戦車は輸送形態での重量を削減するため素の状態の装甲ではなく付加装甲Ⅱ型で対処しています。
最近の列国の第三世代主力戦車は機関砲に耐えられる側面装甲の上にさらに爆発反応装甲を装備するようになってきており、10式戦車でこれと同等の防護力を確保しようとすると付加装甲Ⅰ型とⅡ型を同じ場所に重ねて装着する必要がありますが、それが可能かどうかは不明であるため、側面の直接防護力には不安が残ります。

[2017/10/10追記]
「新戦車(その5) 試作品設計書(装甲部)」のp.2の記述は、側面の直接防護力は機関砲弾と成形炸薬弾のいずれかに対処できることが要求されていると解釈できるので、同時にその両方に対処できるようにはなっていないと思われます。
[追記終了]

しかしながら、機関砲弾と対戦車ロケット弾への耐弾性を同時に要求される状況がどれだけあるかは議論の余地があり、もしかすると機関砲弾と対戦車ロケット弾への耐弾性を同時に満足できなくても実用上は問題ないのかもしれません。
ただし、この議論は十分な数の付加装甲が部隊に行きわたっていることが前提であり、もし足りていないならば正面要部以外の直接防護力が90式戦車未満になるという恐ろしい事態になりかねません。
付加装甲の調達数が足りているのかどうか気になるところです。
(10式戦車の調達要領指定書に調達数が書いてあるようなので、過去の調達要領指定書をすべて調べれば答えが出るはずですが、誰かやりません?)

また、将来的にタンデムHEAT弾頭を搭載した個人携行対戦車ロケットが普及すると現状の付加装甲では対処不能になると考えられるので、その対策も必要になるでしょう。
将来的には防衛装備庁で研究中のアクティブ防御システムが搭載されることになるのかもしれません。


(禁無断転載 free tibet)

【軍事】将来戦闘機用エンジンについて

航空自衛隊が運用するF-2戦闘機の退役が2030年代に予定されていることから、その後継機となる将来戦闘機を国内で開発しようとする動きがあります。
防衛装備庁は、戦闘機の心臓部たるエンジンの国産化を目指して各種の技術開発を行ってきており、平成28年度からは「戦闘機用エンジンシステムの研究試作」と称される事業でエンジン全体の試作と試運転が始まっています。

今回は、情報公開制度を利用して入手した行政文書をもとに、将来戦闘機のエンジンについて書いていきます。


「戦闘機用エンジンシステムの研究試作」で製造されるプロトタイプエンジン[1][2]
戦闘機用エンジンシステムの研究試作では、
  • 戦闘機用エンジンシステム(エンジン本体、試験用FADECシステム、ステルス性評価用実物大模型)
  • エンジン試験用支援器材(エンジン用架台、インレットダクト、ステルス性評価用器材など)
  • 補用品(予備部品)
の製造と地上試験がおこなわれます。

エンジン本体には「XF9-1」という形式番号が割り振られており、その形状は図1、寸法は表1のようになっています。

XF9-1
図1.XF9-1
(透かし加工は筆者による)

表1.XF9-1の各部の寸法
直径[m] インレット 約1(0.99)
バイパスダクト外装 (1.00)
アフタバーナダクト外装 (0.93)
ノズル部外装前端 (1.07)
全長[m] 約4.8
[註] かっこ内の値は図1を用いて計算した推定値である。

XF9-1の海面上標準大気状態における目標最大推力は、ウェット推力15tf(147kN)以上ドライ推力11tf(108kN)以上と定められています。
表1と合わせて考えると、XF9-1はF110エンジンと概ね同等規模の寸法でF119エンジンに近い推力を目指していることがわかります。
ハイパワーと燃料消費率低減を両立すべく、超音速巡航時の燃料消費率低減も盛り込まれています。

また、電子制御部(FADECシステム)には「JEC-91」という形式番号が割り振られており、
  • 機体制御システムとエンジン制御システムが密接に連携したIFPC制御機能
  • 電気系統などが故障した際に故障の程度に応じて制御系を再構成する制御機能
を有しています。

なお、この研究試作事業では行われるエンジン製造コストの試算は、
  • エンジン製造台数:125台、250台、500台
  • エンジン調達期間:10年、20年
という形で、製造台数3通り・調達期間2通りの合計6通りの条件を想定して行われます。
F-3が双発になったら最大250機までありうる…?


「推力偏向ノズルの研究試作」で製造される排気ノズル[2]
推力偏向ノズルの研究試作で製造される推力偏向ノズル本体には「XVN3-1」という形式番号が割り振られており、その形状は図2のようになっています。

XVN3-1
図2.XVN3-1
(透かし加工は筆者による)

XVN3-1はコンバージェント・ダイバージェント型式で、排気ガス流をエンジンの回転軸に対して全周囲0~20degの範囲で偏向させることができます。
戦闘機用エンジンシステムの研究試作で製造されXF9-1に装着される排気ノズルは、推力偏向機能を持たない通常のコンバージェント・ダイバージェントノズルですが、XVN3-1の試験を行う際には、XF9-1に通常型ノズルの代わりにXVN3-1を装着することになっています。

(2018/05/05 追記)
なお、XVN3-1を装着すると通常型ノズル装着時よりも約200kgほど重くなります。
(追記終了)


防衛技術シンポジウム2016で発表された「将来戦闘機用エンジン」[1][3][4][5]
防衛技術シンポジウム2016のポスターセッションでは、図3に示す将来戦闘機用エンジンの実寸大ポスターが「戦闘機用エンジンの構想断面図」として展示されました。

戦闘機用エンジンの構想断面図
図3.戦闘機用エンジンの構想断面図
(透かし加工は筆者による)

図3から各部の寸法を推定した結果を表2に示します。

表2.戦闘機用エンジンの各部の寸法
直径[m] インレット 0.96
バイパスダクト外装 1.06
アフタバーナダクト外装 0.98
ノズル部外装前端 1.05
[註] 全長を4.80mと仮定した。

実寸大ポスターが展示されている様子を写した写真はツイッター上[5]で公開されていますが、これを用いて射影変換を施すことでインレット直径と全長を推定すると図4のような結果が得られます。

写真からの推定
図4.実寸大ポスターによる推定

表1・表2・図4を比べると、将来戦闘機用エンジンはXF9-1と比べて
  • インレットとノズル部外装の直径はほぼ同じ
  • バイパスダクト外装とアフタバーナダクト外装の直径はやや大きい
と言えそうです。
さて、エンジンのコア部の開発には多額の費用と多くの時間がかかり、一度設計したものが使い回されることも多いため(たとえばF7-10のコア部はXF5-1とほぼ同じ)、XF9-1のエンジンコアは将来戦闘機用エンジンでも流用されるものと思われます
このことを利用して、図5に示すように、図1と図3のコア部の形状と寸法が同じになるように図1を変形して、その結果を図3と比較することで、XF9-1と将来戦闘機用エンジンの相違点を炙り出してみます。

変形と比較2
図5.図1と図3の比較

図5を見ると、XF9-1と将来戦闘機用エンジンはコア部だけでなくファン部とノズル外装も共通であるように見えますが、その一方で、バイパスダクトとアフタバーナダクトとノズル部の直径は異なっているように見えます。
XF9-1はプロトタイプエンジンですから、将来戦闘機用エンジンはそのコアを流用しつつバイパス比などを調整した発展系という位置づけなのでしょう。

ところで、防衛技術シンポジウム2016で行われた「~将来技術の獲得に向けて~航空装備研究所の取り組み」という講演の発表資料には、図6のような散布図が掲載されています。

散布図
図6.散布図
(透かし加工は筆者による)

この散布図から数値を読み取ることで、将来戦闘機用エンジンは最大推力168kN推力重量比9.0であることがわかります。
また、最大推力と推力重量比から、エンジン質量は約1900kgであることがわかります。
図6にある「同推力エンジン」は、最大推力が156kN、推力重量比が9.0であることからエンジン質量は約1770kgであるとわかるので、その正体はF-22戦闘機に搭載されているF119-PW-100と見て間違いないでしょう[6]
F119の全長は16フィート11インチ(5.16m)であり[7]、将来戦闘機用エンジンよりも若干長いですから、将来戦闘機用エンジンは予定通りに完成すればF119よりも小型かつ低燃費でありながら最大推力で上回ることになるのです。


今わかっていることを一通り並べてみると、将来戦闘機用エンジンは「ハイパワー・スリム・エンジン」というコンセプト通りのものであると言えそうです。
とはいえ、戦闘機用の実用エンジンを一から設計・製造するのは戦後初ですし性能目標も野心的ですから、外野としては本当に成功するのかかなり不安ではあります。
搭載母機もそうですが、無事に完成すると良いですね。


出典
[1]防衛装備庁試作仕様書 「戦闘機用エンジンシステムの研究試作」 (情報公開制度により入手)
[2]防衛装備庁試作仕様書 「推力偏向ノズルの研究試作」 (情報公開制度により入手)
[3]防衛装備庁 「戦闘機用エンジンシステムの構想断面図」 (情報公開制度により入手)
[4]防衛装備庁技術シンポジウム2016 「~将来技術の獲得に向けて~航空装備研究所の取り組み」 発表資料 (情報公開制度により入手)
[5]https://twitter.com/dragoner_JP/status/798509998028398592
[6]http://www.rand.org/content/dam/rand/pubs/monograph_reports/2005/MR1596.pdf#page=82
[7]http://web.archive.org/web/20071212201849/http://www.nationalmuseum.af.mil/factsheets/factsheet.asp?id=881


Free Tibet
無断転載禁止

【軍事】そうりゅう型潜水艦の充電性能(Indiscretion Ratio)について

これまで本ブログでは海上自衛隊のそうりゅう型潜水艦の主蓄電池についての話題を複数回扱ってきました。
しかしそれらは主蓄電池の配置や容量に着目したもので、充電に関しては一切触れていません。
そこで、今回は充電について考えてみたいと思います。


潜水艦に求められる「充電性能」とは
潜水艦の最大の武器は「水中に潜ることで発揮される低被探知性」ですから、当然ながら任務中には可能な限り水上に顔を出さないことが要求されます。
通常動力潜水艦は主蓄電池の残量がなくなったら露頂なり浮上なりして発電機を回して充電する必要がありますが、その間は水上に顔を出すことになり低被探知性が大きく損なわれますから、その頻度と1回の充電にかける時間は可能な限り少なくすることが望ましいです。
これを定量的に評価するための指標の1つに、航行時間のうちに占める露頂時間の割合を表すIndiscretion Ratio(以下IRと表記)というものがあります。
ある期間のうちずっと潜航していたならその期間のIRは0%で、ずっと露頂/浮上していたなら100%となり、低ければ低いほど優秀です。
IRを低減するには、
  1. 主発電機の電力供給能力を引き上げる
  2. 艦全体の消費電力を引き下げる
  3. 主蓄電池の電力受け入れ能力を引き上げる
などといった手段があります。

  1. 主発電機の充電時の電力供給能力の引き上げ
    通常動力潜水艦は露頂時に発電機を回して発電しますから、単純に考えれば発電機の出力を引き上げばその分だけ充電に回せる電力が増えると考えられます。


  2. 艦全体の消費電力の引き下げ
    潜航中の艦内の消費電力が多ければそれだけ主蓄電池の残量の減り方も早くなりますから、潜航時の消費電力を低減すれば潜航時間を長くすることができ、IRの低減につながります。
    また、通常動力潜水艦は露頂時に発電機を回して発電しますが、その電力は蓄電池への充電だけでなく艦内の補機や推進用電動機にも使われますから、充電以外のことに使われる電力を減らせばその分多くの電力を充電に回して充電時間を短縮でき、IRの低減につながります。


  3. 主蓄電池の電力受け入れ能力の引き上げ
    前述の方法で充電に回せる電力を増やしても、主蓄電池の側の電力受け入れ能力がボトルネックになってしまっては何の意味もありません。
    潜水艦には一般的に鉛蓄電池(以下LAB)が使われており、そうりゅう前期型(16SS~26SS:以下Mk.1と表記)でもLABを採用していますが、LABは充電時に大電流を流すと水素ガスが発生する上に寿命に悪影響が出る関係で充電電流をあまり大きくできないため、ボトルネックになりえます。
    英国のOberon級潜水艦の場合、主蓄電池モジュール単体の公称容量が7420Ah、公称電圧2.2V、これを224個直列接続して充電する際の最大電流が1650A、最大電流時の最高電圧が538Vなので、規格化した最大電流は0.22C(1時間の定電流充電で電池容量の22%を充電できる電流値)となります。
    なお、最大電流時に供給される電力の最大値で定電力充電すると、計算上は1時間で電池のエネルギー容量の24.3%を充電できます。
    一方、リチウムイオン蓄電池(以下LIB)は10C以上の大電流での充放電が可能なものがあるなど、一般的にLABよりも電力受け入れ能力が優れていますから、LABをLIBに交換することでボトルネックを解消できればIRの低減につながります。

以上のことを踏まえて、そうりゅう型潜水艦のIRを推定してみましょう。
まず、前提条件を以下のように定めて計算モデルを作っていきます。

  1. 主発電機の充電時の電力供給能力
    そうりゅう型潜水艦には、露頂時の単機連続定格出力1850kWの発電機が2台装備されています。
    したがって、露頂時の電力供給能力は最大で3700kWとなります。


  2. 艦全体の消費電力
    艦内の消費電力には、推進所要電力、発電機の補機の消費電力、主蓄電池の充放電で発生する損失による消費電力、それ以外で固定的に発生する消費電力(ホテル負荷)などがあります。
    まず、推進所要電力は発揮速力に依存するので、ここでは以前の記事で作成した数表を用いることとします。
    次に発電機の補機の消費電力ですが、情報公開請求の結果から主発電機の出力の6.45%と考えることにします。
    主蓄電池そのもので発生する消費電力については、資源エネルギー庁の資料をもとに、充放電効率をLABで87%・LIBで95%として計算することにします。
    そうりゅう型Mk.1にあるスターリング発電機の補機の消費電力は10kW程度と考えられるので、ここでは12kWとします。
    そうすることで、そうりゅう型Mk.1のAIP基準速力時の運転条件から、ホテルロードは150kWちょうどとなります。


  3. 主蓄電池の電力受け入れ能力
    以前行った推定によれば、そうりゅう型Mk.1の主蓄電池の総エネルギー容量は9.6MWhと考えられます。
    上述したように英国のOberon級は1時間で電池の総エネルギー容量の24.3%を充電できますが、そうりゅう型Mk.1も同じ割合で充電できるものとすると、受け入れ可能な電力は最大で2331kWとなります。
    そうりゅう後期型(27SS~28SS:以下Mk.2と表記)はLIBを採用しており、以前の推定からその総エネルギー容量は32.1MWh程度と考えられますが、仮にこれも英国Oberon級のLABと同じ割合で充電できるとすると、受け入れ可能な電力は7804kWとなり、発電機の最大出力の2台分と比べてすら大きな値となります。
    なお、この記事で行う推定では、発電機出力から艦内消費電力を差し引いた残りの電力を主蓄電池の受け入れ能力の範囲内で充電に回すものとし、充電開始から終了までずっと定充電電力を行うものと考えます。

このモデルによる推定結果を表1に示します。

表1.Indiscretion Ratioの推定結果(English version)
IR推定

*1:スノーケル基準速力とした。
*2:平均速力が8ktとなるように潜航時の発揮速力を定め、それに対応する軸出力と総合効率を数表から求めた。
*3:発電量あたりの移動距離が最大になるような発揮速力の組み合わせを求め、それに対応する軸出力と総合効率を数表から求めた。
*4:Mk.1よりも総合効率が改善されているが、ここではMk.1と同等とした。


ここでは、そうりゅう型Mk.1とMk.2について、基地と哨戒海域の間の移動中と哨戒海域内での低速哨戒中の2つの場合に分けてIRを計算しています。

まずMk.1についてみていきましょう。
移動中の方は、スノーケル時にLABの充電に回される電力がLABの受け入れ能力を下回っています。
スノーケル基準速力を発揮しながらLABを全力で充電するには発電機を全力運転しても電力が足りないので、LABに回る充電電力が割を食っているわけですね。
IRは23.8%と大きな値をとっていますが、これは潜航中の発揮速力が7ktと高めなせいで消費電力も高くLABの残量が早く減るせいです。
哨戒中の方は、スノーケル時でもLABには受け入れ能力の上限一杯の電力で充電できていますが、主発電機は全力運転していません。
言い方を変えると、LABの電力受け入れ能力がボトルネックになっているせいで発電機を全力で回せていないのです。

次にMk.2についてです。
移動中の方は、スノーケル時にLIBの充電に回せる電力はMk.1と変わっていません。
しかし、主蓄電池の充放電効率が改善された関係で潜航中に主蓄電池から引き出せる電力量が増え、結果としてIRが23.8%→22.7%と改善しています。
哨戒中の方は、LIBの電力受け入れ能力が高いことによりボトルネックが解消され、スノーケル時でも主発電機を全力で運転できるようになったため、哨戒海域における充電電力はMk.1より0.9MWほど多く確保できています。
その結果、IRは10.3%→7.1%と大幅な改善がみられます。


ところで、表1での推定ではそうりゅう型Mk.1にあるAIPは無視して考えていました。
ではAIPを考慮に入れるとどうなるか、考えてみましょう。


AIPは出力が低く低速時でしか使えない関係で基地と哨戒海域の間の移動中は出番がないため、その活躍の場は哨戒海域内に限られます。
海自潜水艦隊は一度の任務で2~3ヶ月ほど航海するとされていますが、潜水艦隊の主な哨戒海域である三海峡が母港からさほど離れていないことを考慮すると、哨戒海域に滞在する期間は7週間程度かそれ以上と考えられます。
哨戒海域に丸7週間(1176時間)滞在している間の総露頂時間を考えると、そうりゅう型Mk.1は(AIP不使用とすると)滞在期間の10.3%にあたる5.1日間(121時間)、Mk.2は7.1%の3.5日間(83時間)となります。
そうりゅう型Mk.1がAIPで丸2週間凌げるとすると、7週間のうちの2週間は露頂する必要が無いので、残りの5週間の10.3%にあたる3.6日間(87時間)が総露頂時間となり、ここから哨戒海域の滞在期間全体でのIRを計算すると7.4%となります。

この例から、哨戒海域でのIRの面でLAB+AIPの組み合わせよりもLIBのみの方が有利となる条件が存在することがわかります。
今回のモデルでは、哨戒海域での滞在期間が6.3週間(44.2日間=1060時間)を超えることがその条件となります。


そうりゅう型Mk.2は発電機には手が入っていないのにMk.1と比べてこれだけの改善がなされていますが、29SS以降の新型潜水艦では発電機が刷新され出力が向上するため、更なるIRの低減が見込まれます。
もしそうりゅう型Mk.2の船体に新型発電機を載せたとすると、哨戒海域で発電機を連続定格運転した場合のIRは6%未満となり、短時間定格運転であれば5%を下回ります
ここまで減れば露頂のタイミングを選ぶ自由度も増えるので、潜水艦の戦術面にも大きな影響を及ぼすものと思われます。
今後の進化に期待したいところですね。


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