千葉銀鳩の備忘録

なんとなく気になった事を調べて書いていきます。

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事前の予告なく記事の内容を変更したり記事そのものを削除したりすることがあります。
記事の内容は基本的に独自研究の塊であり、正確性については一切保証しません。
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【軍事】国産超音速対艦ミサイル『ASM-3』の射程距離について

本記事の要旨
  • 国産超音速空対艦ミサイル『ASM-3』の射程距離を、情報公開請求により開示された文書や海外製超音速空対艦ミサイルとの比較などを基に推定した。
  • その結果、Lo-Hi-Loでの最大射程が80NM以上、Lo-Lo-Loでの最大射程が30NM以上、最小射程が13.5NM以下である可能性が高いことが分かった。
  • 今後配備が見込まれる『ASM-3A』と『ASM-3(改)』は、これよりも長射程になるはずである。

前置き
中国海軍(人民解放軍海軍)の戦力拡大を受け、近年の本邦では国産対艦ミサイルの開発・調達計画が次々と実施されています。
主なものだけでも、
  • 超音速対艦ミサイル『ASM-3』の開発
  • 上記『ASM-3』の射程延伸事業(『ASM-3(改)』の開発、および『ASM-3A』の調達)
  • 12式地対艦誘導弾の射程延伸型改良版『17式地対艦誘導弾』の開発・調達
  • 上記『17式地対艦誘導弾』の改良型地上版『12式地対艦誘導弾(改)』と哨戒機版『新哨戒機用空対艦誘導弾』の開発
  • 上記『12式地対艦誘導弾(改)』を発展的に中止しさらなる射程延伸とステルス化をもくろむ『12式地対艦誘導弾能力向上型』とその艦載版および戦闘機版
があり、系譜の形にすると図1のようになります。

国産対艦誘導弾の系譜
図1.国産対艦ミサイルの系譜
(wikipediaの図表を改変して作成)
(English version is available here.)

また、これらとは別に要素技術研究(島嶼防衛用新対艦誘導弾の要素技術)や海外製ミサイル(F-35戦闘機用JSMなど)の導入も進んでいます。

さて、ASM-3は空自戦闘機に搭載されるASM-1とASM-2の後継であり、高速飛翔と低RCSによって敵艦の防空網を突破する超音速対艦ミサイルとして構想され開発完了したものの、本開発着手が遅れたことで周辺国海軍艦艇の防空能力が向上してしまい[註1]、主に射程距離の面で性能が陳腐化し有効性が問題視されたため量産化されませんでした。
現在は射程距離を延伸した改良型の開発が実施されています。
[註1]平成14年度での事前事業評価で本開発への移行が一旦見送られ、平成21年度の事前事業評価でようやく本開発が決定したという経緯がある。

今回は、今後配備が見込まれる『ASM-3A』と『ASM-3(改)』の射程距離を考察するための目安として、量産化されなかったASM-3の射程距離を推定してみます。


考察1:そもそもの話、どんな飛び方をするのか?
ミサイルの射程距離は飛び方次第なところがありますから、射程距離を推定するには『どんな飛び方をするとどのくらいの射程距離になるのか』という考え方をする必要があります。
そのためには、まず『そもそもどんな飛び方をするのか』を調べなければなりません。
新艦対空誘導弾(XASM-3)の事前事業評価の参考資料にその手掛かりとなる画像がありますので、それを図2に示します。

飛翔プロファイル3種
図2.飛翔プロファイル

この画像から、ASM-3の飛翔プロファイルは下記の3通りが想定されていることが分かります。
  • 低空発射-低空巡航-終末シースキミング(Lo-Lo-Lo)
  • 低空発射-高空巡航-終末シースキミング(Lo-Hi-Lo)
  • 高空発射-高空巡航-終末シースキミング(Hi-Hi-Lo)
これらの各飛翔プロファイルに対して射程距離が個別に設定されており、それらすべてが重要な設計点になっていると考えるのが自然でしょう。


考察2:飛び方によって射程距離がどの程度変わるのか?
次に、情報公開請求によって開示された『新空対艦誘導弾(XASM-3)(その1)(1)』の仕様書を見てみましょう。
この文書の付属書1ではシステム目標性能の要求が一覧表の形で列挙されており、射程距離については表1のように規定されています。

表1.システムの目標性能(抜粋)
番号 項目 目標値等 備考
(省略)
2 性能・諸元 (1)攻撃範囲 最大射程は[ア]NM以上とし、付図1-1で示された攻撃範囲以上とする。 最大射程は低高度発射、高空巡航、終末シースキムで規定する。
(省略)
(省略)


ここで言及されている『付図1-1』を図3に示します。

攻撃範囲図
図3.攻撃範囲図(注釈は管理人による)

これらから、大まかに下記の事項が分かります。
  • [ア]と[ソ]はいずれも低空発射-高空巡航-終末シースキミング(Lo-Hi-Lo)での値として規定されているので、[ソ]の値は『低空』と呼べる範囲に収まるはずである。
  • 縦軸の振り方からすると、おそらく[ソ]は4の倍数である。
  • 横軸も同様に考えると、おそらく[ア]は4の倍数である。
これだけでは物足りないので、もう少し突っ込んで考察してみましょう。

図3で明らかなように、攻撃範囲の要求は4つの点を線で結んだ境域を最低限含むという形で規定されていますから、これらの座標は全てが重要な設計点のはずです。
また、先に述べた通り、各飛翔プロファイルにおける射程距離は重要な設計点であり、実際にLo-Hi-Loでの最大射程が攻撃範囲図上で[ア]として規定されているわけですから、Lo-Lo-Loでの最小射程・最大射程も攻撃範囲図上で規定されていると見るべきです。
図3上での設計点1・2とその横軸座標R1・R2は、明らかにそれに対応しています
したがって、R1とR2と[ア]の横軸座標を図3から読み取ることで、『Lo-Lo-Loでの最小射程』と『Lo-Lo-Loでの最大射程』と『Lo-Hi-Loでの最大射程』の比率を知ることができ、13.5:30:80という結果を得ることができます。
このようにきれいな数値が出てくると、『最大射程はLo-Lo-Loで30NM以上、Lo-Hi-Loなら80NM以上、最小射程は13.5NM以下だ』と断言したくなりますが、ここまででわかったのはあくまでも距離の比率であって、距離そのものではありません。
距離そのものを割り出すには、類似品との比較などによる定量化が不可欠です。


考察3:Kh-31との比較
超音速で飛翔する対艦ミサイルはあまり例がなく、西側陣営ではほぼ皆無ですが、東側に目を向けるとロシアの『PJ-10』や『Kh-31』などがあります。
このKh-31、実は超音速ターゲットドローン『MA-31』としてアメリカに輸出されたことがあり、その詳細な情報をWeb上で手に入れることができます。
そういうわけで、Kh-31との比較を通じてASM-3の射程距離を定量化してみましょう。

こちらの資料のp.4では、図4のように飛翔中の各段階ごとの質量が記載されているので、ラムジェット燃料の有効搭載量を53kgと割り出すことができます。[註2]
[註2]ラムジェット点火時432kg、燃料枯渇時379k、差分がラムジェット燃料で53kg

Kh-31(MA-31)の飛翔中の質量変化
図4.Kh-31(MA-31)の飛翔中の質量変化
※右下の表

また、同じ資料のp.7には、図5の通りLo-Lo-Loプロファイルでの射程距離と飛翔時間が掲載されています。

Kh-31(MA-31)のLo-Lo-Lo飛翔プロファイル
図5.Kh-31(MA-31)のLo-Lo-Loプロファイル
※下側

最初の6秒間で固体ロケットによってマッハ2.5まで加速し、それ以降はラムジェット燃料を使ってマッハ2.5で巡航すると考えると、固体ロケットでまず1NMほど加速しながら飛翔して、そこでラムジェットエンジンが起動することになります。
ラムジェット燃料が切れるのは射点から13NM先ですから、ラムジェットエンジンによる巡航距離は13-1=12NMとなります。
すなわち、12NMを巡航する間にラムジェット燃料を53kg消費するわけで、計算上はラムジェット燃料1kgあたりの低空巡航距離は0.23NMしかないことになります。

ところで、情報公開請求によって開示された『新空対艦誘導弾(XASM-3)(その5)』の仕様書の附属書5によると、ASM-3の燃料搭載量が約135kg、有効燃料率が95%以上と規定されていますから、飛翔中に使用できるラムジェット燃料は128kg以上となります。

低空巡航中の距離あたりの燃料消費量の面でASM-3とKh-31とで大差がないと仮定すると、ASM-3はラムジェットエンジンによって29NM程度を低空で超音速巡航できることになります。
ラムジェットエンジン点火までの飛翔距離を加味すれば、ASM-3のLo-Lo-Loでの最大射程が30NM程度かそれ以上だと考えても問題はないでしょう

上で述べた通り、『Lo-Lo-Loでの最小射程』と『Lo-Lo-Loでの最大射程』と『Lo-Hi-Loでの最大射程』の比率は13.5:30:80ですから、『最大射程はLo-Lo-Loで30NM以上、Lo-Hi-Loなら80NM以上、最小射程は13.5NM以下である』と断言しても良さそうです。


結論
以上より、ASM-3の射程距離は下記のように推定されます。
  • Lo-Lo-Loでの最小射程:13.5NM以下
  • Lo-Lo-Loでの最大射程:30NM以上
  • Lo-Hi-Loでの最大射程:80NM以上
ASM-3AやASM-3(改)は、これよりも更に長射程になるでしょう。


六四天安門事件
STOP VLADOLF PUTLER
Нет войне
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【軍事】海自潜水艦の潜望鏡の運用費について

概要(忙しい人向け)
前回の記事では、NJSSで公開されている潜望鏡修理役務の入札情報を根拠に、「そうりゅう」型に搭載されている非貫通式潜望鏡1型シリーズは従来型の貫通潜望鏡と比較して修理役務発生頻度が4.6倍もあることを指摘しました。
この件をさらに掘り下げて、過去に自衛隊HPで公開されていた随意契約情報をもとに潜望鏡の運用費を算出したところ、「そうりゅう」型に搭載されている非貫通式潜望鏡1型シリーズ運用費は従来型潜望鏡の10倍超約10倍、保守部品代に至っては20倍超に達する』という事実が新たに判明しました。
今回はこの件について書くことにします。


本文(暇人向け)
まず、前回同様、海自潜水艦の潜望鏡を
  • 13m潜望鏡系統
  • 非貫通式潜望鏡1型系統
の2つに分類することとします。

今回はNJSSではなく国立国会図書館のインターネットアーカイブに収録されている海上自衛隊の契約情報のページに掲載されている文書群を用いることとしました。
2009年4月~2021年3月の間に呉地方総監部・横須賀地方総監部・艦船補給処が結んだ随意契約から潜望鏡関連のものを抽出したうえで下記のように分類し、潜望鏡の2系統についてその合計の件数と契約金額を手作業で集計しました。
  • 保守用部品(オーバーホールキットを含む)
  • オーバーホール(オーバーホール契約は部品単位)
  • 修理(臨時修理含む)・陸揚・搭載
  • 改修
  • その他(調査・検査等)
なお、13m潜望鏡なのか非貫通式潜望鏡なのか判別できなかった契約については考慮せず、また1つの契約が複数の項目にまたがる場合は1つの項目でのみカウントしています。
(そのため、全体の運用費と契約件数は正確ですが、個々の項目の契約件数と契約金額は不正確となります。)
(また、手作業で集計している関係で若干の集計ミスがあり得ます。)

集計結果は表1の通りとなりました。

Table1c
表1.13m潜望鏡と非貫通式潜望鏡1型の契約件数と運用費(2009年4月~2021年3月)
(註:当初ここに載せていた非貫通式潜望鏡1型の修理・陸揚・搭載の金額と合計金額に誤りがありましたので、修正いたしました。)

この集計結果について、前回と同様にこの期間における延べ運用本数を考慮し、潜望鏡1本を1年間運用する場合の運用費を計算すると、表2のような結果が得られます。

Table2c
表2.13m潜望鏡と非貫通式潜望鏡1型の1本1年あたりの運用費(2009年4月~2021年3月)
(註:当初ここに載せていた非貫通式潜望鏡1型の修理・陸揚・搭載の総額と合計金額、並びに1本1年あたりの金額に誤りがありましたので、修正いたしました。)

表2から、1本1年あたりの運用費は、13m潜望鏡シリーズは0.091億円で済んでいるのに対して非貫通式潜望鏡1型シリーズは1億円の大台を突破しているその10倍近くかかっているのが目を引きます。
すなわち、非貫通式潜望鏡1型シリーズと13m潜望鏡シリーズを同じ本数用意して同じ期間運用した場合、非貫通式潜望鏡1型シリーズは13m潜望鏡シリーズの11倍約10倍もの運用費を必要とするのです。
特に額と比率が大きいのは保守部品代で、非貫通式潜望鏡1型シリーズは1本1年あたりの保守部品代が6464万円と、13m潜望鏡シリーズの22倍にもなっています。

ライセンス生産品だと中核部品が輸入品になることがありますから、非貫通式潜望鏡1型シリーズの保守部品がお高いのはそのせいかもしれませんね。

…それにしても、従来と比較して修理役務の公告発布(=故障)頻度で4倍超、修理などを含めた運用費で10倍、保守部品代に至っては22倍もの差が付くとなると、いろんなところから叩かれそうな気がしますが、実際のところの評判はどうなんでしょう?
非貫通式潜望鏡1型シリーズにそれを正当化できるほどの有用性があるのか、気になるところですね。


(2021/09/13 23:40 追記ここから)
非貫通式潜望鏡の修理費用の数値に誤りがあったため、表1・表2・記事本文の内容を修正しました。
(追記ここまで)

(2021/10/16 22:30 追記ここから)
本記事は、あくまでも随意契約ベースでの議論であって、随意契約とは別建ての契約に基づく修理(例えば定期検査契約の範囲内で行うもの)については考慮にいれていません。
したがって、海自の潜望鏡整備の方針が13m潜望鏡と非貫通式潜望鏡とで異なる場合、例えば「13m潜望鏡が故障した場合には随意契約での臨時修理を極力避けて定期検査等まで放置するが、非貫通式潜望鏡はさっさと随意契約で修理してしまう」という形だとすると、本記事の内容は非貫通潜望鏡の故障頻度を実態よりも過大評価していることになります。
実際、表1にもありますが、非貫通潜望鏡のオーバーホールが随意契約で50件行われている一方、13m潜望鏡のオーバーホールは随意契約では1件も行われていないので、13m潜望鏡のオーバーホールは定期検査等で実施しているものと考えられます。
本記事を基に議論する際には、この点に留意してください。
(追記ここまで)

四天安門事件
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【軍事】海自潜水艦の潜望鏡の修理頻度について

概要(忙しい人向け)
自衛隊の装備品は普段から部隊による整備を受けていますが、神ならぬ人の手で作られたものである以上、時には部隊整備では対応できないレベルの不具合が生じることもあります。
その場合には外部の業者の手による修理が実施されることになりますが、当然税金が使われるわけで、その契約情報は一般に公開されることになります。
そのため、公開された修理役務の契約情報を眺めて同種の装備品と比較すれば、
『あの装備品はやけに頻繁に修理しているな…さては欠陥品か?』
と言った邪推傾向をざっくりつかむことができます。
Webで公開されている契約情報を実際に眺めてみたところ、『「そうりゅう」型潜水艦の潜望鏡が臨時修理を必要とする重故障を頻繁に起こしている』ことが浮き彫りになりました。
今回はこの件を手抜き仕様でネタにします。


本文(暇人向け)
現在、海上自衛隊では「おやしお」型潜水艦と「そうりゅう」型潜水艦が11隻ずつ運用されています。海上自衛隊の潜水艦は異なる機種の潜望鏡が1本ずつ合計2本装備されており、下記の3機種が運用中です。
  • 13m潜望鏡1型シリーズ
    「おやしお」型に装備。
    (以前には「はるしお」型にも採用されていた)
  • 13m潜望鏡B型シリーズ
    「おやしお」型と「そうりゅう」型に装備。
    (以前には「はるしお」型にも採用されていた)
  • 非貫通式潜望鏡1型シリーズ
    「そうりゅう」型に装備。
こうして眺めると、海自潜水艦の潜望鏡は大まかに『非貫通式潜望鏡1型』と『13m潜望鏡』の2つのシリーズに分類できることが分かります。
これらがどの艦に搭載されていて、その運用期間がどのようなものだったかを一覧表にすると、表1の通りとなります。

表1.潜望鏡とその搭載艦および運用期間
Table1

表1をもとに、『非貫通式潜望鏡1型』と『13m潜望鏡』の2つのシリーズについて、非貫通式潜望鏡1型の初採用事例となった「そうりゅう」が就役した直後の2009年4月1日から2021年3月31日までの期間における延べ運用本数をそれぞれ計算すると、以下のような結果が得られます。
  • 非貫通式潜望鏡1型:71(本・年)
  • 13m潜望鏡:383(本・年) ※1型系列が156(本・年)、B型系列が227(本・年)
なお、これらの潜望鏡は用途も使用環境もほぼ同じですから、単純に考えれば修理が必要となる重故障の発生件数は延べ運用本数の比率に従うと考えられます。
したがって、この期間(2009年4月1日~2021年3月31日)における非貫通式潜望鏡1型系統の修理役務の発注件数は13m潜望鏡系統の19%程度になるはずです。

では、実際のところはどうなのでしょうか。
2009年4月1日~2021年3月31日までの期間について、入札情報速報サービス(NJSS)で適当なキーワードで修理役務の件数を検索したところ、下記のように期待を裏切る結果が得られました。
  • 非貫通式潜望鏡+修理:23件ヒット
  • 非貫通式潜望鏡+臨修:18件ヒット
  • 13m潜望鏡+修理:40件ヒット
  • 13m潜望鏡+臨修:8件ヒット
非貫通式潜望鏡の修理役務が合計41件、13m潜望鏡が合計48件ヒットしているので、単純に計算すると非貫通式潜望鏡1型シリーズの修理役務の発注ペースは13m潜望鏡シリーズの85%程度あるということになります。
これは、本来期待される19%という数字の4.6倍に相当します。
すなわち、非貫通式潜望鏡1型シリーズと13m潜望鏡シリーズを同じ本数用意して同じ期間使った場合、非貫通式潜望鏡1型シリーズは13m潜望鏡シリーズの4.6倍の件数の修理役務が発生するわけです。

今回の調査方法はあくまでも簡易的なものであり、ヒットした役務の内容については一切精査していないので、修理役務の件数そのものは正しくないかもしれませんが、「そうりゅう」型に搭載されている非貫通式潜望鏡1型シリーズが修理役務を必要とするレベルの故障を頻発している問題児であることは明白でしょう。

時間や予算などの制約で潜望鏡の修理が間に合わなくなれば、艦そのものが出撃不能となり、艦隊としてのローテーションに穴が開く事態になりかねません。
そういったヤバい事態になっていないことを祈るばかりです。

…それにしても、なんでこんなに頻繁に壊れて修理してるんでしょうね?
潜望鏡本体の元々の設計がタコなのか、ライセンスに基づいて国内で製造したときに何かやらかしたのか、艦とのインテグレーションでチョンボしたのか、よほどの蛮用で次々とイカレているのか、それとも…?
従来比で4倍以上の修理頻度というのは、いくら何でも何かがおかしいと思うのですが…


(2021/09/11 18:00 追記ここから)
続編記事を公開しました。
過去12年分の随意契約情報から13m潜望鏡と非貫通潜望鏡1型の運用費を算出し比較しています。
ご興味のある方はこちらからどうぞ。
(追記ここまで)

(2021/10/16 22:30 追記ここから)
本記事は、あくまでも随意契約ベースでの議論であって、随意契約とは別建ての契約に基づく修理(例えば定期検査契約の範囲内で行うもの)については考慮にいれていません。
したがって、海自の潜望鏡整備の方針が13m潜望鏡と非貫通式潜望鏡とで異なる場合、例えば「13m潜望鏡が故障した場合には随意契約での臨時修理を極力避けて定期検査等まで放置するが、非貫通式潜望鏡はさっさと随意契約で修理してしまう」という形だとすると、本記事の内容は非貫通潜望鏡の故障頻度を実態よりも過大評価していることになります。
本記事を基に議論する際には、この点に留意してください。
(追記ここまで)

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【軍事】島嶼防衛用高速滑空弾の射程について

人民解放軍による南西諸島方面への軍事的圧力が高まりつつある昨今、本邦の防衛当局は島嶼防衛能力の拡充に力を注いでいます。
その一環として、防衛装備庁(ATLA)は平成30年度から『島嶼防衛用高速滑空弾の要素技術』なるものの研究を進めています。

Fig1
図1.島嶼防衛用高速滑空弾の運用構想図(事前事業評価書の参考資料から抜粋)

事前事業評価書にある通り、この研究は『高度な対空迎撃能力を持つ敵が島に攻め寄せてきたら、その対空迎撃網を突破できる高速で高機動な弾を別の島から放り込んでやる』という構想の下で行われていますが、その射程がどの程度なのかについては明らかになっていません。
今回は、行政文書開示請求で開示された仕様書等をもとに、島嶼防衛用高速滑空弾の射程を推定することにします。


まずは飛翔速度の推定から

岩本三太郎氏によって公開されている『島嶼防衛用高速滑空弾の要素技術(その1)の研究試作』の仕様書の附属書2には、島嶼防衛用高速滑空弾の風洞試験に使用する滑空体模型に対する要求事項として下記の内容が挙げられています。

Fig1
図2.滑空体模型への要求

一般論として、風洞試験は実際の飛翔状態における挙動を縮小模型を使って模擬するもので、その際にはマッハ数(大雑把に言うと気流の速度)を可能な限り実際の飛翔状態に近づける必要があります。
逆に言うと、ここで名前が挙がっている試験風洞で実現できるマッハ数が分かれば、滑空体の飛翔速度を推定することができるのです。

JAXAによると、JAXA保有の極超音速風洞には
  • マッハ5とマッハ7での試験に使用する『0.5m風洞』
  • マッハ10での試験に使用する『1.27m風洞』
の2つの測定室があるので、この時点で滑空体の対応できる最大飛翔速度がマッハ5以上であることがわかりますが、より正確な推定のためには実際に使う測定室がどちらなのかを知りたいところです。


Fig2
図3.応募資格

この項の内容は明らかに島嶼防衛用高速滑空弾の風洞試験を念頭に置いたものであり、そこに『0.5m極超音速風洞』と『1.27m極超音速風洞』の両方が挙げられています。
言い換えると、『マッハ7の試験に使用できる風洞』と『マッハ10の試験に使用できる風洞』の両方を使うわけです。
このことから、『滑空体が対応可能な最大飛翔速度はマッハ7以上である』と推定できます。


飛翔速度をもとに射程を推定
島嶼防衛用高速滑空弾は『高高度を超音速で滑空』するものですが、滑空開始までの飛び方は弾道ミサイルと変わりありません。
言い換えると、滑空しない場合には発射から着弾まで弾道ミサイルと全く同じように飛ぶわけです。
ということは、滑空しない飛び方をした場合の射程は弾道ミサイルの射程を推定するのと全く同じやり方で計算できるはずで、そのためには最大飛翔速度が既知である必要があります。

そういうわけで、最大飛翔速度を2382.03m/s(海面高度におけるマッハ7)と仮定したうえで、こちらに解説されているようなやり方で飛翔距離を計算すると、仰角43.6degのときに最大値607kmを取ることが分かります。この時の弾道側視図は図4の通りで、弾道頂点高度は148kmです。

Fig3
図4.滑空しない飛び方で飛翔距離が最大となる条件での弾道側視図

つまり、滑空体の能力だけ見れば、弾道ミサイル同様の滑空しない飛び方をした場合に600km程度の射程を実現できる能力があると考えられます。
滑空する飛び方をすることで更に飛距離を伸ばすことができますから、『滑空体自体は600km以上の射程に対応しうる』と判断できます。


結論
『滑空体自体は600km以上の射程に対応しうる』とは言うものの、そもそもの飛翔速度自体は加速に使うロケットモータの能力次第です。
したがって、全体の結論としては『滑空体の能力を無駄にしない程度の能力がロケットモータにあれば、島嶼防衛用高速滑空弾は600km以上の射程を実現しうる』といった形になります。


(おまけ)滑空する場合はどのくらい飛びそうなのか
一般的に、『滑空』と言うとグライダー飛行機のようにゆっくり高度を下げながら水平方向に長距離移動するイメージが強いと思います。
しかし、こちらのATLA公式の文書からすると、島嶼防衛用高速滑空弾の『滑空』は、水切りの石が水面をバウンドするようなものと考えるのが適切なようです。
この類推から、島嶼防衛用高速滑空弾における『滑空』による射程延伸効果がどの程度見込めるのかをざっくり推定してましょう。
ひとまず、
  • 滑空開始までの弾道は図4と同じとする。
    ※具体的に言うと、初速2382.03m/sの最小エネルギー弾道である。
  • 弾道頂点を通過して高度80kmまで降りてきたところで『バウンド』して上下方向の速度をゼロとし、そこから先は自由落下するものとする
    ※高速滑空弾は『高高度を滑空』するものであるが、この『高高度』が仕様書上では高度50~80kmを指していることを参考にした。
    ※実際には『バウンド』によって降下から上昇に転じるはずだが、そのときの上昇速度が不明なので、ここでは単に上下方向の速度がゼロになると考える。
  • 水切りと異なり、『バウンド』の際には進む向きだけが変わり、減速はしないものとする。
  • 空気抵抗による減速等の力学的エネルギーの損失を考慮しない。
  • 『バウンド』は1回のみとする。
    ※本来は減速を伴う『バウンド』を何回かするはずだが、1回あたりの減速量が不明なので、ここでは減速なしの『バウンド』を1回だけすると考える。
という単純な考えの下で弾道を計算すると、弾道側視図は図5のようになり、飛翔距離は171km(28%)ほど伸びて778kmとなります。

Fig4
図5.滑空を考慮した場合の弾道側視図
(緑色は高度50~80kmの範囲)

マッハ7以上あるはずの最大飛翔速度をマッハ7ちょうどとして計算した結果がこれなので、実際の射程はこれより長くなる可能性があります。
ひょっとすると、島嶼防衛用高速滑空弾は800km級、あるいはそれ以上の射程を見据えているのかもしれません。
『島嶼間射撃』と言うのは表向きの話で、実際には中国大陸の策源地を焼くのが狙いだったりして…
まさかね?


六四天安門事件
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【軍事】「そうりゅう型潜水艦のソーナーシステムはアクティブ式なのか」論争について


前置き

今年の2月8日、海上自衛隊のそうりゅう型潜水艦1番艦「そうりゅう」が民間貨物船と衝突事故を起こしました[1]。
事故原因としては、乗員の周囲確認が不十分であった可能性が指摘されています[2]。
さて、この事故の後、一部の界隈で「そうりゅう型潜水艦のソーナーシステムはアクティブ式なのか否か」が論争になっていたようです[3]。

実際のところは純粋なパッシブ式らしいのですが、この記事では行政文書開示請求によって入手した文書を根拠にこのことを示します。

下ごしらえ

今回のネタ元がこちら、そうりゅう型潜水艦11番艦「おうりゅう」に搭載されている潜水艦用ソーナーシステム「ZQQ-7D-2」の仕様書です。

表紙
図1.ZQQ-7D-2の仕様書の表紙


システム全体の構成は下記のようになっています。
構成
図2.ZQQ-7D-2のシステム構成図
(註:赤枠は管理人による)


構成図の左端に並んでいる艦外センサのうち、音響信号を扱うものは赤枠で囲んだ
  • 艦首型アレイ
  • 側面型アレイ
  • 雑音監視受波器
  • えい航型アレイ
  • 逆探用アレイ
  • サウンドヘッド

の6つです。

ZQQ-7D-2がアクティブソーナーであるか否かは、これらが探針音を敵艦に向けて送波する機能を持つか否かで判断することができます。


サクッと料理しますよ

そういうわけで、上記の各センサについて順番に見ていきましょう。
  • 艦首型アレイ
    艦首型アレイについての規定は仕様書の付属書Aにあります。
    機能についての記載があるのは下記の部分です。

    艦首型アレイ
    図3.艦首型アレイの機能

    このとおり、「音響信号を受波」すると明記されていますが、送波についての記載は存在しません。
    したがって、艦首型アレイには音響信号の送波機能が存在しないと判断できます。
     
  • 側面型アレイ
    側面型アレイについての規定は仕様書の付属書Bにあります。
    機能についての記載があるのは下記の部分です。

    側面型アレイ
    図4.側面型アレイの機能

    こちらも艦首型アレイと同様、「音響信号を受波」という記載はあっても送波についての記載はありません。
    したがって、側面型アレイには音響信号の送波機能が存在しないと判断できます。
     
  • 雑音監視受波器
    雑音監視受波器についての規定は仕様書の付属書Eにあります。
    機能についての記載があるのは下記の部分です。

    雑音監視受波器
    図5.雑音監視受波器の機能

    「雑音監視"受波器"」という名前からして当然ではあるのですが、「音響信号を受波」という記載はあっても送波についての記載はありません。
    したがって、雑音監視受波器には音響信号の送波機能が存在しないと判断できます。
     
  • えい航型アレイ
    えい航型アレイについての規定は仕様書の付属書Cにあります。
    機能についての記載があるのは下記の部分です。

    えい航型アレイ
    図6.えい航型アレイの機能

    「音響信号を受波」という記載はあっても送波についての記載はありません。
    したがって、えい航型アレイには音響信号の送波機能が存在しないと判断できます。
     
  • 逆探用アレイ
    逆探用アレイについての規定は仕様書の付属書Dにあります。
    機能についての記載があるのは下記の部分です。

    逆探用アレイ
    図7.逆探用アレイの機能

    「音響信号を受波」という記載はあっても送波についての記載はありません。
    したがって、逆探用アレイには音響信号の送波機能が存在しないと判断できます。
     
  • サウンドヘッド
    サウンドヘッドについての規定は仕様書の付属書Gにあります。
    機能についての記載があるのは下記の部分です。

    サウンドヘッド
    図8.サウンドヘッドの機能

    「送波器と受波器との間で超音波パルスを送受」という文面から、サウンドヘッドには音響信号の送波機能があることが分かります。
    しかしながら、あくまでもこの機能は「水中の音速を計測するため」であり、敵艦に対して探針音を送波するためのものではないので、アクティブソーナーとして使うものではないと判断できます。

これらのことから、「おうりゅう」のソーナーシステムは純粋なパッシブ式であり、アクティブ式ではないことがわかります。
画像は示しませんが、「とうりゅう」のソーナーシステムについても同様のことが言えますので、「そうりゅう」型のソーナーシステムは全艦パッシブ式であると思われます。


結論
以上より、そうりゅう型潜水艦のソーナーシステムはアクティブ式ではないと判断できます。


参考

[1]内閣官房長官記者会見(令和3年2月8日)
https://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/202102/8_p.html
[2]潜水艦衝突、人的ミスが原因か(共同通信:令和3年2月9日)
https://www.47news.jp/5826269.html
[3]そうりゅう型潜水艦にはアクティブソナーを積んで無いって本当ですか?(令和3年2月8日)
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q14238558954



六四天安門事件
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【軍事】潜水艦の平均速力とIndiscretion Ratioの関係について


このブログでは海自潜水艦を題材にすることが多く、以前はそうりゅう型とたいげい型のIndiscretion Ratio(以下IR)を計算したこともあります。
しかし、このときは特定の発揮速力におけるIRしか計算しておらず、「発揮速力が変わったらどうなるの?」というところまでは十分に踏み込めていませんでした。
今回は、そうりゅう型とたいげい型について、平均速力とIRの関係を推定し、もうすこしだけ考察を深めてみようと思います。


<推定の手順>

  1. 潜航状態・スノーケル航走状態のそれぞれについて、発揮速力と総消費電力の関係を計算し、数表の形にまとめる。
    スノーケル航走状態については、充電電力についても計算する。
    ※実際にやっていることは以前の記事と同じです。

    fig1
    表1.速力と艦内総消費電力と充電電力の関係

  2. 作成した数表をもとに、スノーケル航走時の主蓄電池への充電で潜航中の電力消費を過不足なく賄うという前提のもとで、「潜航中とスノーケル航走中の発揮速力をそれぞれいくらにすると、潜航状態とスノーケル航走状態をひっくるめた平均速力はいくらになるか」を計算する。

    fig2
    表2.潜航中とスノーケル航走中の速力と平均速力の関係

  3. 2と同様に、「潜航中とスノーケル航走中の発揮速力をそれぞれいくらにすると、潜航状態とスノーケル航走状態をひっくるめたIRはいくらになるか」を計算する。

    fig3
    表3.潜航中とスノーケル航走中の速力とIRの関係

  4. 計算結果から、「平均速力が特定の値となるような潜航速力とスノーケル速力の組み合わせパターン」を整理する。
    考え方としては、
    • X軸にスノーケル航走中の速力
    • Y軸に潜航中の速力
    • Z軸に平均速力

    を取った3Dグラフをプロットしたうえで、等高線を引けばよい。

    fig4
    図1.特定の平均速力に対応する潜航速力とスノーケル速力の組み合わせ

  5. 4と同様に、「IRが特定の値となるような潜航速力とスノーケル速力の組み合わせパターン」を整理する。

    fig5
    図2.特定のIRに対応する潜航速力とスノーケル速力の組み合わせ
     
  6. 2つの等高線グラフを突き合わせて、『特定の平均速力を発揮できる速力組み合わせパターンの中で、最もIRが小さいもの』を平均速力ごとに決定する。
    これによって、「目標とする平均速力」と「その目標平均速力において達成可能な最小IR」と「その最小IRを実現できる速力組み合わせパターン」の対応関係が求まる。

    fig6
    図3.目標平均速力に対してIRを最小化できる速力組み合わせパターン
     
  7. 上記の対応関係から、『平均速力』と『その平均速力での最小IR』を抽出し、グラフ上にプロットする。



<推定結果>

上記の手順に従って、「潜航状態とスノーケル航走状態をひっくるめた平均速力」と「その平均速力で達成可能な最低IR」の関係を
  • そうりゅう前期型(Soryu Mk.1)※AIP不使用状態。主機関は12V25/25SB、主蓄電池はSCG。
  • そうりゅう後期型(Soryu Mk.2)※主機関は12V25/25SB、主蓄電池はSLH。
  • たいげい前期型(Taigei Mk.1)※主機関は12V25/25SB(?)、主蓄電池はSLH。
  • たいげい後期型(Taigei Mk.2)※主機関は12V25/31S(短時間定格出力)、主蓄電池はSLH。

の4パターンについて推定したものが下の図4になります。
なお、上記4パターンの違いは、手順1の数表の内容を適宜書きかえることで反映させています(*)。

Fig4
図4.海自潜水艦の平均速力と最小IRの関係


<考察>

推定結果から、全体的な傾向としては
  • そうりゅう後期型とたいげい前期型は、主蓄電池にLIBを採用し高速充電が可能になったため、すべての速度域でそうりゅう前期型よりもIRが低減されている。
  • そうりゅう後期型とたいげい前期型は、主蓄電池と発電機が同じものであるため、10kt以下の低速域ではIRに大差はない。しかし、艦体の大型化により、たいげい前期型は10kt以上の領域でそうりゅう後期型よりも劣る。
  • たいげい後期型は、新型高出力発電機の採用により、すべての速度域でIRの低減が一段と進んでいる。
といったことが言えます。
もう少し詳しく見てみると、
  • 最小IRが9.0%になる平均速力は、そうりゅう前期型の場合は4.0kt、そうりゅう後期型とたいげい前期型は5.0kt、たいげい後期型は6.4ktである。
    すなわち、敵ASW戦力の展開によりIRを9.0%以下にしなければならない場合、そうりゅう前期型の平均速力はAIP不使用であれば4.0kt以下に制約されてしまうが、そうりゅう後期型とたいげい前期型は5.0kt、たいげい後期型は6.4ktまで発揮可能となる。
ということもわかります。

この場合においては、そうりゅう後期型とたいげい前期型の「逃げ足の速さ」はそうりゅう前期型の1.25倍、たいげい後期型では1.6倍になるわけです。
逃げ足の速さは、敵ASW戦力に対してより広い海域の捜索を強要することにつながりますから、潜水艦の生存性に大きく寄与することでしょう。

ただ、いくら速力が向上すると言っても、それを有効活用するには戦技研究もさることながらソーナーシステムの改良も必要になると考えられます。
将来潜水艦用ソーナー装置の試作事業では「哨戒速力向上に対応」が謡われていますし、とうりゅう(28SS)で搭載されたTASSがおうりゅう(27SS)のものより大型化しており使用可能速力が向上している可能性が高いことが行政文書開示請求によって公開された文書から伺えますから、その点については抜かりなく対応がなされるようです。

(*)具体的には下記のような考え方で推定を行っています。

  • そうりゅう前期型の数表は、以前作成したものをそのまま流用。充電電力の上限は主蓄電池の受け入れ能力(2331kW)で制約されるものとし、充電に投入されたトータル電力量の87%が放電として使用できるものとする。
  • そうりゅう後期型の数表は、そうりゅう前期型のものと同様とする。ただし、主蓄電池がLIBであるため、発電機は必ず最大出力で稼働するものとし、充電電力は発電機出力から発電システム補機消費電力、推進システム消費電力、ホテルロードを差し引いたものと考える。また、充電に投入されたトータル電力量の95%を放電として使用できるものとする。
  • たいげい前期型の数表は、艦体の大型化を考慮してそうりゅう前期型のものの発揮速力の部分を書き換えたものを使用する。それ以外はそうりゅう後期型と同様とする。
  • たいげい後期型の数表は、たいげい前期型のものと同等とする。ただし、発電機出力の向上に伴い、充電電力の上限を引き上げる。
  • なお、ホテルロードは一律150kW、発電システム補機消費電力は一律で発電機出力1kWあたり0.06455kWとする。






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【軍事】JM33と10式APDSFSの腔圧について


さて今回は、JM33と10式APDSFSの仕様書から、両者の(カタログ)スペックを比較することにします。1年ぶりの投稿ですが、ネタ切れが激しいので内容はスカスカです。

そういうわけで、まずはカタログスペックを一覧表にしてみます。
特に意味はありませんが、10式APDSFSと同時期に開発された徹甲弾IV型も入れてあります。
表1.諸元比較表
120ammo


こうして眺めてみると、

・常温環境下でのピーク腔圧の平均値は、10式APDSFSの方がJM33よりも2割ほど高い
  ※10式APDSFSは640MPa、JM33は515MPa
・10式APDSFSの常温環境下でのピーク腔圧の平均値は、JM33の高温環境下でのピーク腔圧の最大値をも上回る
  ※10式APDSFSの常温平均値で640MPa、JM33は高温最大値で630MPa
・高温環境下と常温環境下での腔圧の差異は、10式APDSFSのほうがJM33よりも小さい
  ※21℃環境下でのピーク腔圧平均値と高温環境下でのピーク腔圧最大値の差を比較
  ※10式APDSFSは67MPa、JM33は115MPa

といった点が目を引きます。

10式APDSFSは、弾丸部(サボーと侵徹体)の質量はJM33から1割弱しか増えていないのに、腔圧が2割も高いということになりますから、相当な高初速弾なのだろうと思われます。


(2021/01/21 22:45 追記)

すこし10式APDSFSの初速について推定してみましょう。
まず、10式APDSFSの腔圧をJM33の1.2倍とします。
発射薬の燃焼ガスが弾丸部になした仕事も1.2倍になると考えると(ただし弾丸部が摩擦などで受ける抗力は無視する)、弾丸部の砲口エネルギーも1.2倍になります。
10式APDSFSの弾丸部の質量はJM33の1.07倍なので、初速はJM33の1.06倍となります。
JM33の初速は1650m/sとされているので、10式APDSFSの初速は1650×1.06≈1750m/sと推定できます。
きわめて単純化した考え方による推定値ではありますが、10式APDSFSが高初速な弾丸であるとはいえるでしょう。

(2021/01/21 23:20 誤字修正)





出典
[1]補給統制本部弾薬部. 陸上自衛隊仕様書 120mmTKG、JM33装弾筒付翼安定徹甲弾. ※情報公開制度により入手
[2]陸上自衛隊. 一般弾薬整備実施規定(補給処整備用) 別冊 図面集(平成26年2月18日). ※情報公開制度により入手
[3]http://yadda.icm.edu.pl/yadda/element/bwmeta1.element.baztech-article-PWAA-0019-0007/c/httpwww_witu_mil_plwwwbiuletynzeszyty20070102p69.pdf#page=10
[4]苫小牧民報. 不明徹甲弾に不具合 昨年8月に演習場で戦車から発射
https://megalodon.jp/2014-0411-0054-46/www.tomamin.co.jp/20140411640

[5]https://toro.5ch.net/test/read.cgi/army/1391893950/891
[6]補給統制本部弾薬部. 陸上自衛隊仕様書 10式120mm装弾筒付翼安定徹甲弾. ※情報公開制度により入手
[7]防衛省. 仕様書予算執行事前審査等調書(平成22年度第3四半期)
https://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/meeting/materials/kanshi-koritsu/sonota/pdf/05/01.pdf#page=104

[8]防衛装備庁. 10式戦車の試作関連の文書(詳細不明)の付属書

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【軍事】将来戦闘機のデジタルモックアップ「26DMU」について

航空自衛隊が運用するF-2戦闘機の退役が2030年頃から始まるのにあわせて、その後継機となる将来戦闘機を国内で開発しようとする動きがあります。
防衛装備庁では将来戦闘機の概念設計が行われ、平成23年から26年にかけて機体構想の研究の一環として1年度につき1種類、合計4種類のデジタルモックアップ(DMU)が作成されました。
今回は、4種類のDMUのなかで最も新しい「26DMU」について、防衛装備庁技術シンポジウム2016で行われた講演の発表スライドをもとに書いて行きます。


官公認の「26DMU」の画像は少ない
将来戦闘機の機体構想研究で作成された4種類のDMUのうち、23DMU・24DMU・25DMUの3種類については防衛装備庁の発表資料から切り出された画像が出回っており、どのDMUがどのような外形であるかは良く知られています。
しかしながら、26DMUについては「アレは23~25DMUのどれとも違う形だから多分26DMUだろう」という扱いで、本当に26DMUだという根拠が弱いものが多いのが実情です。
いくらステルス戦闘機だからってそんなところまでステルスにしなくても…
官によって「これが26DMUだ」と明示されている画像がもしあれば、そういった根拠の弱い画像が本当に26DMUだという確認が取れることでしょう。
数年前に開示請求して入手した前述の発表スライドに、官公認の26DMU画像がバッチリ掲載されているので、改めてこの場で晒すことにします。

X-2とDMU4兄弟
図1.X-2と23~26DMUの比較
(註:透かし加工と出典表記は管理人による)

26DMUの三面図
図2.26DMUの三面図(図1の比較図から切り出し)
(註:透かし加工と出典表記は管理人による)

こうやって26DMUとそれ以外のものを比べてみると、
  • IRSTの配置はどれもだいたい同じ
  • 胴体形状は25DMUに近いが翼形状は大違い(特に主翼アスペクト比)
  • 24&25DMUでは尾翼が邪魔で真横方向からはエンジンノズルが見えないが、26DMUでは下側が少し見える
などといった点が目につきます。
特にエンジンノズルの件は、23DMU→24DMUで側方ステルス性確保のために真横方向からエンジンノズルが見えないようにしたにもかかわらず、なぜ26DMUでは(側方ステルスを謳いつつも)下側が少し見えるようになっているのか、詳しい解説が欲しいところです。


謎の機内透視図を発見、その正体は?
ところで、前述の発表スライドの別のページには謎の機体の内部透視図が2枚掲載されています。
謎の機内透視図(上側)
図3.謎の機体の内部透視図(下側)
(註:透かし加工と出典表記は管理人による)

謎の機内透視図(下側)
図4.謎の機体の内部透視図(上側)
(註:透かし加工と出典表記は管理人による)

透視図なだけあって内部の構造材まで描き込まれているのが印象的ですが、この機体の正体については発表スライド中では一切触れられていません。
せっかく26DMUの三面図があるので、この機体が26DMUかどうかを確認することにしましょう。
やり方は簡単で、この機内透視図が機体をどの方向から見たものであるかを計算によって求め、その結果を基に前掲の三面図を変形させて、機内透視図と外形を比較するだけです。
面倒な計算過程はすっ飛ばして、結果を見てみましょう。

謎の機体の内部透視図(下側) vs 26DMU三面図
図5.謎の機体の内部透視図(下側)と26DMU三面図の比較
(註:画像の切り出し・変形・補助線追加・透かし加工・出典表記は管理人による)


謎の機体の内部透視図(上側) vs 26DMU三面図
図6.謎の機体の内部透視図(上側)と26DMU三面図の比較
(註:画像の切り出し・変形・補助線追加・赤線除去・透かし加工・出典表記は管理人による)

一目瞭然。
機体の外形が26DMUと一致するので、この内部透視図は26DMUのもので間違いありません。


26DMUの中身
内部透視図の正体が26DMUであることが分かったので、次は外形以外の部分に目を向けてみましょう。
将来戦闘機の兵装としてAAM以外のものが話題に上ることは少ないのですが、図5の胴体下部兵装庫の右舷側に注目すると500lbs爆弾らしきものが少なくとも2発格納されていることが分かります(1発は安定翼だけが見えている)。
空対空任務だけでなく対地・対艦任務も当然やるということなのでしょう。
また、機首に斜め上向きのレーダアンテナが、前胴の上下にIRSTが、主翼前縁にES用アンテナが確認できます。
他にも、胴体側面のSRAAM用兵装庫の前あたりにレーダアンテナ(側方受信用)らしき物体が機首レーダアンテナと同じ色で描かれていたり、胴体後部下面のエンジンのあたりに和製EODASの下方監視用IRST部らしき物体が微かに見えたりと、興味が尽きません。
23~25DMUと比べてみると面白いことが分かるかもしれません。



…というわけで、これまでよく知られていなかった26DMUについて書いてみました。
今後の展開が楽しみですね。


wispywood2344
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【軍事】P-1哨戒機の捜索用レーダ「HPS-106」の運用モードについて

前回の記事では、HPS-106の仕様書(初版)をもとにAESAアンテナ装備数と覆域について書きましたが、今回は運用モードについて着目して書いていきます。


HPS-106の運用モード

HPS-106には、基本となる「スタンバイモード」のほかに、以下のような運用モードが用意されています。

  • 水上目標捜索モード(maritime surface search)
    遠距離から近距離までの水上船舶を検出します。
    サブモードとして
    • 遠距離の広方位範囲を捜索する「通常捜索サブモード」
    • 近距離の広方位範囲を捜索する「近距離捜索サブモード」
    • 方位を限定し通常捜索より遠距離を捜索する「セクタ捜索サブモード」
    を備えており、この中から1つを選択して実行します。
     
  • 小目標捜索モード(small target search)
    水上の潜望鏡等の小目標を検出します。
    このモードでは、静止目標と移動目標の探知を異なる方式の信号処理によって行うこととされており、静止目標捜索と移動目標捜索は別々のレーダ波を用いています。
    TRDI50年史にある「対潜哨戒機用レーダシステム」の解説には、前者の信号処理は高分解能パルス圧縮と高精度スキャン間積分、後者は高精度Adaptive-DPCAが適用されるとあります。[1]
    高精度スキャン間積分と高精度Adaptive-DPCAに関しては東芝が特許を取得しており[2][3]、その内容は特許庁のHPから確認できます。
    サブモードとして、
    • 遠距離の遠距離の広方位範囲を捜索する「通常捜索サブモード」
    • 近距離の広方位範囲を捜索する「近距離捜索サブモード」
    • 遠距離と近距離を交互に走査しつつ広方位範囲を捜索する「2バー捜索サブモード」
    • 方位と距離を限定した「セクタ捜索(1バー)サブモード」
    • 方位を限定しつつ遠距離から近距離まで捜索する「セクタ捜索(2バー)サブモード」
    を備えており、この中から1つを選択して実行します。
     
  • 対空モード(air-to-air search)
    飛来する戦闘機等を検出します。
    P-1には逆探装置(HLR-109)と自機防御装置(HLQ-4)が搭載されていますが、この動作モードの存在は、P-1がそういった機材だけでは生残性が十分確保できないような環境に投入されることを強く示唆しています。
    対空モードと銘打ってはいますが、レーダシステムのPRFの上限値がさほど高くないらしく(2kHzあたり?)、メインローブクラッタの影響を受けやすいと思われ、ルックアップはともかくルックダウンでの探知距離は厳しいものがあると見られます。
    空中巡洋艦とか即席AEWとしての役割は荷が重いでしょう。
    P-3CのAN/APS-137やP-8AのAN/APY-10は対空モードを持ちませんが、インド海軍のP-8Iに搭載されるAN/APY-10(India)やNimrod MRA.4に搭載されていたSearchwater 2000MRにはHPS-106と同様に対空モードがあるそうで、このあたりの違いが何に由来するのかを考察すると面白いかもしれません。[4][5]
    サブモードとして
    • 遠距離の広方位範囲を捜索する「通常捜索サブモード」
    • 近距離の広方位範囲を捜索する「近距離捜索サブモード」
    • 方位を限定し通常捜索より遠距離を捜索する「セクタ捜索サブモード」
    を備えており、この中から1つを選択して実行します。
     
  • 陸上移動目標検知モード(ground moving target detection)
    島嶼の陸上を移動する車両を検出します。
    近年は島嶼防衛が重視されていますが、その動きはHPS-106にこのモードが付与された時点で既に始まっていたのかもしれません。
    後述するSARモードでの監視対象は静止目標ですから、移動目標を対象とするこちらのモードとの住み分けはできているようです。
    P-1にAGM-65の運用能力が付与された背景には、このモードの存在があるのかもしれません。
    サブモードとして
    • 遠距離の広方位範囲を捜索する「通常捜索サブモード」
    • 方位を限定し通常捜索より遠距離を捜索する「セクタ捜索サブモード」
    を備えており、いずれかを選択して実行します。
     
  • ISARモード
    水上の指定された1目標のISAR画像を生成します。
    開口時間を延長した「ロングアパーチャ」が実施できます。
     
  • SARモード
    固定目標のSAR画像を生成するします。
    サブモードとして
    • 進行方向に対して側方の帯状の画像を生成する「ストリップマップサブモード」
    • 進行方向に対して側方の指定された領域の高分解能画像を生成する「スポットライトサブモード」
    を備えており、いずれかを選択して実行します。
     
  • 航法気象モード(navigation & weather avoidance)
    雲や雨域の状況、周辺地形を表示します。
    サブモードとして
    • 遠距離の広方位範囲を捜索する「通常捜索サブモード」
    • 近距離の広方位範囲を捜索する「近距離捜索サブモード」
    • 遠距離の方位を限定した「セクタ捜索(通常)サブモード」
    • 近距離の方位を限定した「セクタ捜索(近距離)サブモード」
    を備えており、この中から1つを選択して実行します。
     
  • 同時2モード1(simultaneous dual mode #1)
    水上目標捜索モードと小目標捜索モードを同時に(おそらく時分割での切り替え)実行します。
    水上目標捜索モードと小目標捜索はいずれも通常捜索サブモードでの動作となります。
     
  • 同時2モード2(simultaneous dual mode #2)
    水上目標捜索モードと対空モードを同時に(おそらく時分割での切り替え)実行します。
    水上目標捜索モードは通常捜索と近距離捜索のいずれか、対空モードは通常捜索とセクタ捜索のいずれかのサブモードを選択できます。
     
  • 同時2モード3(simultaneous dual mode #3)
    水上目標捜索モードとISARモードを同時に(おそらく時分割での切り替え)実行します。
    水上目標捜索モードは通常捜索サブモードでの動作となります。
     
この中で目を引くのは、なんといっても同時2モードでしょう。
AN/APY-10シリーズやSearchwaterシリーズをはじめとする諸外国の固定翼哨戒機用レーダにはこのような運用モードは見当たらないという点で、HPS-106特有の機能と言えます。

(訂正:2018/08/18)
SeaSprayシリーズには同時2モードが実装されているようです。[7]
(訂正ここまで)

また、同時に実行される2つの運用モードの組み合わせには海上自衛隊がP-1に何を期待しているのかが端的に表れていると見ることができます。

ところで、HPS-106は2010年代の戦場を想定して開発されたものですが、2020年代には近隣諸国の潜水艦隊にAIPやLIBや電子光学マストの普及が進むと予想されるため、今後は潜水艦をレーダで探知できる機会がますます少なくなると思われます。
防衛省も手をこまねいているわけではなく、現在ATLAで進行中の「哨戒機搭載システムの対潜能力向上の研究試作」ではレーダシステムの能力向上も図られています。

従来の対潜哨戒機用レーダシステムはいずれも潜水艦のマストからの反射波を捉えることで潜水艦を探知するものであり、海面からの反射波(シークラッター)はさまざまな工夫により不要信号として除去されてきましたが、この研究試作ではシークラッターを有効活用して海面の海水の動きを監視することで潜航中の潜水艦の探知までをも目指しています。
具体的な手法は東芝が取得した特許から確認できます[6]
これが実用化されれば、マスト類を海面上に出さずに浅深度を潜航している潜水艦を上空からレーダで探知できるようになるので、仮想敵の潜水艦の行動に制約を課すことができるようになるでしょう。

この研究試作で製造されたレーダシステムはHPS-106を改造したものであるため、この研究試作の成果が将来的に既存のHPS-106にも適用される可能性は十分にあります。
また、あさひ型護衛艦で採用されたOPS-48はHPS-106の派生型なので、もしかするとこちらにも適用されるかもしれません。
今後どう化けるか楽しみですね。


参考リンク
[2]特開2000-266840 レーダ目標検出処理装置及び方法
[3]特開2005-249404 移動目標検出レーダ装置及び移動目標検出処理方式
[6]特開2015-45543 レーダ装置及び目標推定方法

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【軍事】P-1哨戒機の捜索用レーダ「HPS-106」のアンテナ装備数と覆域について

現在、海上自衛隊ではP-3C哨戒機の後継としてP-1哨戒機の配備が進められています。
P-1哨戒機はC-2輸送機と同時並行で国内開発された機体で、捜索用レーダ「HPS-106」はそのP-1哨戒機に搭載するための多機能レーダシステムとして開発が行われました。
このHPS-106は、レーダ波の送受信用アンテナとしてアクティブ電子走査式アレー(Active Electronically Scanned Array : AESA)アンテナを複数備えており、それらを別々の方向に向けて固定装備することで必要な覆域を確保しています。
そのAESAアンテナの装備数と覆域については
  • AESAアンテナが機体の前後左右に1面ずつ合計4面装備されていて、機体の前後左右360deg全周が走査可能である
  • AESAアンテナが合計3面しか装備されておらず機体後方が走査不能であるため、機体後方に死角がある
という2つの説があり、ネット上では見解がわかれているところです。
(英語圏のウェブサイトでは、「4面AESA装備で全周走査」としている記事がWikipedia英語版のP-1の項を筆頭に多く見受けられますが、出典が記載されている記事は見当たらず、根拠が全くもって不明です。)

HPS-106は自衛隊の装備品ですから、詳しく調べるには防衛省公式の文書を読んだり、現場の運用者に直接質問したりする必要があります。
そこで今回は、行政文書開示請求で入手したHPS-106の仕様書(初版)などを参考に、HPS-106のAESAアンテナ装備数と覆域について考えてみます。


fig1
図1.今回扱うHPS-106の仕様書の表紙(の上側)


1.仕様書の機材構成に関する記述からわかること&わからないこと
自衛隊の装備品の仕様書では、その装備品がどのようなコンポーネントで構成されていてそれらの機能・性能がどうなのか、装備品全体としての機能・性能はどうなのか、などといった内容が規定されています。
この仕様書にも、HPS-106がどのような構成品で成り立っているかについての記述があります。
それが図2です。

fig2
図2.構成品

図2中の表では、標準構成では空中線(=AESAアンテナ)が3面しかないことが見て取れます(後述する励振受信機は1つだけ)。
AESAアンテナが3面しかないのだから後方は死角に決まっている、第3部完!…と言いたいところですが、話はそう単純ではありません。
というのも、図2の表の上の一文にある通り、実際に調達されるHPS-106の構成が調達要領指定書の内容次第ではこの構成の通りになるとは限らず、AESAアンテナの数が変わる可能性が否定できないため、図2だけでは決定打にはならないからです。

ならば調達要領指定書を見ないと確定的なことは何も言えないのかというと、そういう訳ではありません。
もう一度図2の上の方の一文を見てみましょう。
この部分で、調達要領指定書によって変更されるうるという趣旨の文言の対象になっているのはあくまでも構成だけなので、構成以外の何かが調達要領指定書によって変更されうるならば、別途その旨が示されるはずなのです。
この仕様書の他の部分を見渡すと、図3と図4に示すように実際そのようになっていることが確認できます。


fig3
図3.調達要領指定書によって変更されうる箇所の例(提出書類)

fig4
図4.調達要領指定書によって変更されうる箇所の例(官給品)

このことから、そのような文言がない部分の内容は調達要領指定書による変更を受ける可能性がないので、調達要領指定書を確認せずとも正しいと判断することができます。



2.仕様書の機能や性能に関する記述からわかること

この仕様書には、レーダシステムとしての機能や性能について記述している部分があります。
その部分には、HPS-106が持つ各運用モード(水上捜索モードや対空モードなど)での探知距離や走査範囲、励振受信機やAESAアンテナをはじめとする各構成品の機能や性能に関する記述も含まれていますが、調達要領指定書によって内容が変更されうるという趣旨の文言は存在しません
したがって、各運用モードでの走査範囲についての記述を一通り確認すれば、調達要領指定書を見ずとも機体後方に死角があるかどうかがわかります。
全ての運用モードの記述から走査範囲の部分だけを切り出して提示するのは正直面倒なので、一通り確認した結果だけ書いてしまいますと、どの運用モードでも走査範囲は機体正面を中心として幅240.4degの領域全体またはその中の一部に限られていて、機体後方は走査範囲に含まれておらず死角になっています。
たとえば、航法気象モードのセクタ捜索(通常)サブモードでは、図5のとおり機体後方は走査範囲に含まれていません。

fig5
図5.航法気象モード(セクタ捜索(通常))での走査範囲
註:「1バー」とは、仰角を一定として方位1方向にビームを走査する捜索方法を指す。
利用できる運用モードが限られるが、仰角を2通りに切り替えて遠距離と近距離を捜索する「2バー」もある。

また、AESAアンテナ単体の
アジマス方向の走査可能範囲は、図6にあるとおりアンテナ正面を基準に左右方向に各47.5deg以上あるので、AESAアンテナ単体の視野の左右方向の幅が95.0deg以上であることがわかります。

fig7
図6.AESAアンテナ単体の走査可能範囲

AESAアンテナは受信した電波を受信RF信号として励振受信機に出力する機能をもちますが、この時に用いるAESA側の出力チャネルは図7のようになっています。

fig7s
図7.AESAアンテナの受信RF信号出力の内訳

図8に示す励振受信機の受信RF信号入力系統に関する記述と併せて読むと、励振受信機に接続されるAESAアンテナが最大3面であることがわかります。

fig8s
図8.励振受信機の受信RF信号入力系統
註:図示はしないが、AESAアンテナへ送信RF信号を出力する系統は狭帯域と広帯域で各3系統ある。BIT用はない。

つまり、励振受信機を2つ以上用意しない限りAESAアンテナは3面までしか使えないわけです。
「1系統を選択して受信」とあることから、励振受信機は同時に2面以上の空中線から受信RF信号を受信することはできない、ということもわかります。


3.仕様書からわかることのまとめ
ここまでで、HPS-106の仕様書から
  1. 標準構成では、AESAアンテナは3面、励振受信機は1つしかない(実物の構成は調達要領指定書での確認が必要)
  2. レーダシステムの(アジマス方向の)視野は機体正面を中心とした幅240.4degの領域に限られていて、機体後方には死角がある(調達要領指定書を見るまでもなく確定)
  3. 1つの励振受信機に接続されるAESAアンテナは最大3面であるが、接続されている複数の空中線から同時に受信RF信号を受け取ることはできない(調達要領指定書を見るまでもなく確定)
  4. AESAアンテナ単体の(アジマス方向の)走査可能範囲の幅は95.0deg以上である(調達要領指定書を見るまでもなく確定)
といったことがわかりました。

まず、機体後方に死角があることが確定しているので「全周走査可能」の可能性は明確に否定されます。
また、最大でも幅240.4degしかない走査範囲を幅95.0deg以上の走査可能範囲を持つAESAアンテナを複数用意して走査するには、AESAアンテナは3面あれば十分であって4面以上搭載しても無駄であることから、「4面搭載」の可能性もほぼ消えます。
一方、「3面AESA装備で後方は死角」説は上記1~4と矛盾しません。


4.仕様書以外のものからわかること
2015年の下総航空基地祭に行った際、地上展示中のP-1(#5510)の脇で解説しておられた乗員の方々に質問したところ、複数人から「P-1のAESAアンテナは合計3面で機体後部にはないという証言が得られています。[1][2]
また、航空祭当日にツイートとして記録に残すことはしませんでしたが、乗員の方から「P-1のレーダは機体後方が死角だが特に問題はない」というコメントも頂いています。

哨戒飛行中のP-1は常に前方に移動し続けているのだから、ある時点において機体後方の離れた場所に位置している物体はそれより少し前の時点では機体前方か側方のAESAアンテナの覆域に入っているでしょうし、そのうえ主たる捜索対象はP-1よりもはるかに鈍足な水上船舶と潜水艦ですから、機体後方が死角でも問題ないというのは頷ける話です。

WikimediaにあるP-1哨戒機の高解像度写真[3]を見ても、質感などから明らかにレドームだと判断できる部分のうち、横幅1.8m・高さ0.6mもあるAESAアンテナが収まりそうなものは機首正面と左右側面の3ヶ所以外には見当たりません。


5.結論
以上のことから、私は3面AESA装備で後方は死角」説が正しいと判断しています。
調達要領指定書を入手すればダメ押しができそうですが、4面AESA装備で全周走査可能」説が仕様書だけで否定されてしまったので、この件でこれ以上の調べ物をするつもりは今のところありません。


6.参考リンク
[1] https://twitter.com/VVspyVV/statuses/647598430341062656
[2] https://twitter.com/VVspyVV/statuses/647624999352713216
[3] https://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Kawasaki_P-1


追記その1 ここから(2018/04/28 21:00)

ありがたいことに、匿名希望の方から開示文書をご提供いただいたので、この場で紹介したいと思います。
(提供元の方からは公開許可も頂いております)

今回ご提供いただいたのは、図9に示す「P-1固定翼哨戒機」の仕様書です。
この仕様書は、記事本文で扱っているHPS-106の仕様書(初版)と同じく防衛大臣承認を受けたものなので、そこに書いてある内容は防衛省の公式見解であると言えます。

fig9
図9.ご提供いただいたP-1固定翼哨戒機の仕様書の表紙(の上側)

ところで、P-1に搭載される装備品は多くが官給品ですが、今回ご提供いただいた仕様書では官給品とその構成品が「エンジン・APU」「電子機器」「救命装備」「航空燃料等」「用紙類」に分類されて、それぞれ表の形でまとめられています。
それらの内容が調達要領指定書などによって変更されうるという記述は存在しませんから、その内容次第ではHPS-106のAESAアンテナ搭載数を確定させることができるかもしれません。
そこで官給品の表を1つずつ眺めていくと、電子機器の表の中に図10のような部分が見つかります。

fig10
図10.P-1固定翼哨戒機の仕様書に掲載されているHPS-106の構成

これによって、P-1にはHPS-106のAESAアンテナを合計3面装備している機体が存在することが確定しました。
追記その1 ここまで(2018/04/28 21:00)

追記その2 ここから(2018/08/18 14:30)
HPS-106の動作モードについての記事を書きました。
興味のある方はこちらからどうぞ。
追記その2 ここまで(2018/08/18 14:30)

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