海上自衛隊は平成16年度以降「そうりゅう」型潜水艦を毎年1隻ずつ調達しておりますが、平成27年度調達分(27SS)以降では、AIPシステムと鉛蓄電池(LAB)が不採用になる一方でリチウムイオン蓄電池(LIB)が新規採用されるなど、電気推進装置の設計が大幅に変更されたことが既に明らかになっています。
しかしながら、その詳細はこれまで公表されておらず、不明な点が多くありました。
 
この記事では、情報公開請求制度を利用して防衛省から入手した資料を読み解き、「そうりゅう」型潜水艦の電気推進装置の構成が27SS以降でどのように変更されたのかについて、資料からわかること・推測されることを書いていきます。
(なお、この記事は随時修正されます。)

というわけで、まず「そうりゅう」型潜水艦の電気推進装置の概略図を以下に示します。

Electric_propulsion_system_Soryu_Mk1
図1.「そうりゅう」型潜水艦の電気推進装置の概略図(26SS以前)

Electric_propulsion_system_Soryu_Mk2
図2.「そうりゅう」型潜水艦の電気推進装置の概略図(27SS以降)


つぎに、27SS以降での変更点について1つずつ見ていきます。

  1. AIPシステムの不採用
    26SS以前の「そうりゅう」型では第4区画内部にスターリング式AIPシステムを装備しており、これが「おやしお」型潜水艦との最大の違いでもありましたが、27SS以降では不採用になりました。


  2. LABの不採用
    日本の潜水艦は、旧海軍での黎明期から主蓄電池としてLABを使用してきました。
    26SS以前の「そうりゅう」型では「おやしお」型と同じ「潜水艦用主蓄電池(SCG)」を搭載していますが、27SS以降では不採用になりました。



  3. LIBの採用と主蓄電池搭載数の増加
    27SS以降では、AIPシステムとLABが不採用になったのと引き換えに、LIBが「潜水艦用主蓄電池(SLH)」として採用されました。
    「潜水艦用主蓄電池(SLH)」の内部構成と外観の概要を図3と図4に示します。

    Internal configuration of submarine LIB
    図3.潜水艦用主蓄電池(SLH)の内部構成の概要


    Appearance of submarine LIB
    図4.潜水艦用主蓄電池(SLH)の外観の概要

    組電池は金属筐体とその内部に設置された電池であり、大型極板群と呼ばれる3つの角型LIBを溶接して一体化したうえ並列接続することで単電池を構成し、それを10個金属筐体に収めて直列に接続した形になっています。
    この「大型極板群」は、TRDIでの研究試作の時期、開発事業者(GSユアサ/旧YUASA)、用途、電気的仕様などを考慮すると、旧YUASAのYMLシリーズの派生形である可能性が高いと考えられます。
    電池監視ユニットは正副の2系統が金属筐体の上に設置されており、各単電池の電圧・温度および組電池の電圧を常時監視してデータバス経由で電池管理装置に送信します。
    電池監視ユニットの上には主蓄電池の端子が張り出すように備えられていますが、「潜水艦用主蓄電池(SLH)」には端子の極性が異なるものが2種類あり、タイプA・タイプBと呼ばれています。
    なお、LABだけでなくAIPシステムの設置場所もLIBに転用されたためか、主蓄電池搭載数は26SS以前は1個主蓄電池群あたり240基だったのが27SS以降では320基へと増加しています。
    主蓄電池群の数が1隻あたり2つなのは27SS以降でも変わらないので、主蓄電池搭載数は1隻あたり640基と思われます。
    以前の記事では増加率を50%(240基)程度と予想したのですが、実際には33%(160基)に留まっています。


  4. 主蓄電池群内部の電路変更
    一般論として電子機器には動作のために高い電圧を要求するものが多く、それを電池で確保するために電池ユニットを多数直列に接続することが広く行われています。
    また、大規模蓄電池システムでは必要な蓄電容量を確保するために、電池ユニットを多数直列接続して構成される列電池を更に並列接続することも広く行われています。
    26SS以前の「そうりゅう」型の場合、図5に示すように、1個主蓄電池群は240基の「潜水艦用主蓄電池(SCG)」を直列に接続することで構成されていました。
     
    A bank of main battery (LAB)
    図5.26SS以前のそうりゅう型の主蓄電池群の内部構成
     
    「潜水艦用主蓄電池(SCG)」はそれ自体が単電池であり、公称電圧は一般的なLABと同様2V程度しかないので、240基を直列接続することで主電動機を動かすのに必要な電圧を確保しています。
    一方、27SS以降で採用された「潜水艦用主蓄電池(SLH)」は組電池であるうえ、単電池電圧もLABより高いため、公称電圧は40V弱にもなります。
    27SS以降でもディーゼル発電機は変更されなかった関係で主蓄電池群の充電終期電圧は26SS以前と同程度となるため、主蓄電池の直列数は従来よりも大幅に減って16基程度になると推定できます。
    27SS以降の1個主蓄電池群に含まれる主蓄電池の数は320基なので、この16基とは列電池内の主蓄電池の直列数を指していて、1個主蓄電池群を構成する列電池の並列数は20である、と考えるのが妥当と思われます。
    このことから推定される27SS以降の主蓄電池群の内部構成を図6に示します。
     
    A bank of main battery (LIB)
    図6.27SS以降の主蓄電池群の内部構成

    このように、26SS以前と27SS以降では主蓄電池群の内部構成が全く異なるものとなります。
    26SS以前の艦にLIBを搭載するには、配線から何から何まですべて変更する必要がありますから、そうそう簡単には踏み切れないでしょう。
    なお、27SSはNDS-F8016Bの適用対象外である可能性が高いため、「潜水艦用主蓄電池(SLH)」が電池室内にどのような規則で配置されるのかについては、現時点では手掛かりがありません。


  5. 主電動機の内部構成変更
    「そうりゅう」型の主電動機は複電機子式永久磁石電動機であり、1つの回転軸を2つの永久磁石電動機が共有する構成になっています。
    ちょうど1本の串に団子が2つ刺さっているような感じですね。
    26SS以前では2つの電動機は大きさも形も異なっていましたが、26SS以降では同じものになります。
    また、電動機の回転子に使用されている永久磁石の材料がより保磁力が高いものに変更されたため、高効率化が期待できます。
    なお、主電動機全体の外寸に変更はなく、重量もほぼ変わっていません。


  6. 主制御盤の内部構成変更
    26SS以前の「そうりゅう」型の主制御盤は、複数のインバータユニットからなる6群のインバータ群で構成され、第1群が第1電動機を、それ以外の第2~6群が第2電動機を駆動する形になっていました。
    27SS以降ではインバータ群の数が4群に減少し、第1・3群が第1電動機を、第2・4群が第2電動機を駆動するようになっています。
    インバータ群の数が減っただけでなく各インバータ群の容量も微減した関係で主インバータユニットの容量の総和が5MVA前後まで減少したため、主電動機に供給可能な電力は力率と効率が共に100%だとしても5MW前後にとどまり、主電動機の最大軸出力は26SS以前よりも小さくなっています。


  7. 水冷却装置の内部構成変更
    27SS以降では主電動機と主制御盤の最大出力が下がり発熱量も低下したためか、それらを冷やす水冷却装置はより低出力なもので済んでいます。
    冷却ポンプが低出力化すればそのぶん静粛性の面で有利になりますが、低出力化したからといって水冷却装置自体が小型化されたわけではありません。
    なお、主電動機などの内部構成変更に合わせて冷却水の通水量の配分が変更されています。


  8. 主電動機の運転区分の変更
    27SS以降では、主電動機や主制御盤に大幅な変更がなされたことに対応して、主電動機運転区分も大幅に変更されています。その一部を表1に示します。

    表1.主電動機の運転区分
    主電動機
    運転番号
    26SS以前 27SS以降 備考
    1 5900kW
    (5分間定格;過負荷容量)
    主制御盤容量低下と過負荷運転の
    無効化により設定自体が消滅
    水中特殊全力
    2 4170kW
    (1時間定格/効率92.0%)
    4170kW
    (連続定格/効率約93%)
    水中全力
    3 約3MW
    (連続定格)
    運転番号2が連続定格になったため
    設定自体が消滅
    -
    9 56.8kW
    (連続定格)
    AIPシステムが不採用になったため
    設定自体が消滅
    AIP使用時
    基準速力

    表1より、27SS以降では主電動機の最高出力が26SS以前のそうりゅう型よりも低下することがわかります。
    防衛省の平成26年度ライフサイクルコスト管理年次報告書において、24SSの水中速力が「20ノット」とされているのに対して27SSは「約20ノット」となっているのは、このことを反映したものと思われます。
    主電動機の最高出力が低下した一方で、連続定格出力が引き上げられているのが目を引きます。
    前回の記事で作成した表と照らし合わせると、26SS以前と27SS以降の発揮速力の面での違いは
    • 26SS以前の艦は、電池残量以外の時間制限なしで最大16kt前後で走ることができ、その気になれば1時間限定で18kt前後、5分間限定で20ktまで発揮できる
    • 27SS以降の艦は、電池残量以外の時間制限なしで最大18kt前後で走ることができるが、それ以上の速力は発揮できない
    といった感じになると考えられます。
    また、運転番号2での効率が向上していることから、損失が減り冷却装置への負担が軽減されると考えられ、高速域での静粛性が向上したものとみられます。
    なお、哨戒海域での水中基準速力に対応する運転区分での主電動機出力は変更されなかったため、哨戒時水中速力は4kt前後と思われます(艦体形状に変更がないのだから当然ではあります)。


AIPシステムの不採用を筆頭に電気推進装置の構成が変更されたこと、それに伴って速力とその持続時間が変わったことが、実任務に対して好ましいものであるかどうかは、外野には判断できません。
しかし、「防衛省と海上自衛隊が、新規設計の29SSの調達開始を前にして、建造費の高騰を忍んでまで27SSの電気推進装置の構成と性能をこのような形に設定した」
という事実は、きわめて示唆的であると考えられます。



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