始業式が終わると、教師たちは職員室で明日以降の予定の確認が行われて、解散となった。エリス学園の教師は職員専用の寮で生活している。もちろん、外出は自由なのだが、辺鄙な場所な為、長期休暇を除いては教師も生徒と同様に学園内で生活する。
職員寮から少し離れたところに、二階建ての家屋が二戸並んでいる。手前側の建物が私の職員寮という名目の家であり、生活拠点となる。充分にプライベートの空間が確保されていて驚きだったが、それは不破幸獅郎の口利きによるところが大きいはずだ。特別待遇の理由は不明だが、しばらくは辞めないで一緒に仕事をして欲しいと彼が言っていたことがある。ちょっと特殊な場所だから、信用できる人しか働かせたくないのだとも言っていた。
一階にはキッチン、ダイニング、シャワールームと洗面所、そして少し狭いがベッドと机が備え付けられている部屋がある。ランドリールームには洗濯機と乾燥機が備え付けられている。
二階はマスターベッドルームで私の寝室である。部屋の中には洗面所と広い浴室が完備されていて、トイレも独立した小部屋である。
壁に掛かっている時計は午後三時を示していた。明日はホームルームしかないので、特に授業の準備は必要ない。ホームルームは学務担当の事務員が担当するので、私の仕事は基本的に授業だけである。もちろん、生徒たちと交流することは奨励されているのだが、教師としての評価は彼女たちの学業成績や大手予備校が実施する校外模試の結果によって決まると聞いていた。
給与等の詳細な説明はされていないが、不破幸獅郎の「絶対に悪いようにはしないから」という言葉を全面的に信じている。少なくとも彼がそういう態度を取る時は、私が想像する以上の何かを与えてくれていた。と言っても、学生時代、私は彼を金蔓にしたことは一度もなく、周囲の学生に比べても、彼に対しては極普通に接していたように思う。幸獅郎にはそれが心地良かったのかもしれない。彼の周りには、不破家の威光に屈している人々が多くいたように感じる。
時間があるので、最初の授業の準備でもしようかと思い、机に向かった。一コマ九十分の授業が、毎日五コマ行われる。私の担当は一年生の英語が中心で、週に五コマの授業がある。 学習進度の目標はかなり早く、一年生の間に一般的な公立学校の三年間の量をこなすように設定されている。私はそれに合わせて、授業スケジュールの概要は既に作ってあるので、細かい部分を詰めていかないといけない。宿題や課題は必要だと思う量を存分に課すよう指示を受けており、達成できない生徒には自由裁量で罰則を与えても良いことになっている。今や流行らないスパルタ教育ではないか、と思いながらも、徹底的に学ぶ姿勢というのは将来的には必ず役立つので、間違っている教育方法だとは思わなかった。
玄関のチャイムが鳴った。
私は部屋を出て、玄関口に向かった。
そこには、大きなスーツケースと大きなショルダーバッグを担いだ、東雲海荷が立っていた。彼女は少し息を切らしていた。
「あっ、初めまして。一年生の東雲海荷です」
「あぁ、うん、初めまして」
私は返事をしたが、彼女の荷物の量に目が行く。生徒にはそれぞれ学生寮の一室が与えられているはずで、そこで共同生活をすることになっている。
「どうしたの?その荷物は」
「あれ、何も聞いていないのですか?私は今日からこちらで生活するようにと事務の方から言われております。一階の、あっ、あの部屋だと思います」
彼女は家の中に入って、一階の狭い部屋に進んで行く。
「えっ、あっ、そうなの?」
私は驚きの表情のまま、彼女がてきぱき荷物を運ぶのを手伝う。
「ありがとうございます。えっと、高城尚輝先生ですよね」
「うん、そうだよ、宜しくね」
状況が呑み込めないが、断るという選択肢は無いようだ。
「宜しくお願いします」
彼女は丁寧に頭を下げた。
私は軽く手を振り、その部屋を出た。
職員寮から少し離れたところに、二階建ての家屋が二戸並んでいる。手前側の建物が私の職員寮という名目の家であり、生活拠点となる。充分にプライベートの空間が確保されていて驚きだったが、それは不破幸獅郎の口利きによるところが大きいはずだ。特別待遇の理由は不明だが、しばらくは辞めないで一緒に仕事をして欲しいと彼が言っていたことがある。ちょっと特殊な場所だから、信用できる人しか働かせたくないのだとも言っていた。
一階にはキッチン、ダイニング、シャワールームと洗面所、そして少し狭いがベッドと机が備え付けられている部屋がある。ランドリールームには洗濯機と乾燥機が備え付けられている。
二階はマスターベッドルームで私の寝室である。部屋の中には洗面所と広い浴室が完備されていて、トイレも独立した小部屋である。
壁に掛かっている時計は午後三時を示していた。明日はホームルームしかないので、特に授業の準備は必要ない。ホームルームは学務担当の事務員が担当するので、私の仕事は基本的に授業だけである。もちろん、生徒たちと交流することは奨励されているのだが、教師としての評価は彼女たちの学業成績や大手予備校が実施する校外模試の結果によって決まると聞いていた。
給与等の詳細な説明はされていないが、不破幸獅郎の「絶対に悪いようにはしないから」という言葉を全面的に信じている。少なくとも彼がそういう態度を取る時は、私が想像する以上の何かを与えてくれていた。と言っても、学生時代、私は彼を金蔓にしたことは一度もなく、周囲の学生に比べても、彼に対しては極普通に接していたように思う。幸獅郎にはそれが心地良かったのかもしれない。彼の周りには、不破家の威光に屈している人々が多くいたように感じる。
時間があるので、最初の授業の準備でもしようかと思い、机に向かった。一コマ九十分の授業が、毎日五コマ行われる。私の担当は一年生の英語が中心で、週に五コマの授業がある。 学習進度の目標はかなり早く、一年生の間に一般的な公立学校の三年間の量をこなすように設定されている。私はそれに合わせて、授業スケジュールの概要は既に作ってあるので、細かい部分を詰めていかないといけない。宿題や課題は必要だと思う量を存分に課すよう指示を受けており、達成できない生徒には自由裁量で罰則を与えても良いことになっている。今や流行らないスパルタ教育ではないか、と思いながらも、徹底的に学ぶ姿勢というのは将来的には必ず役立つので、間違っている教育方法だとは思わなかった。
玄関のチャイムが鳴った。
私は部屋を出て、玄関口に向かった。
そこには、大きなスーツケースと大きなショルダーバッグを担いだ、東雲海荷が立っていた。彼女は少し息を切らしていた。
「あっ、初めまして。一年生の東雲海荷です」
「あぁ、うん、初めまして」
私は返事をしたが、彼女の荷物の量に目が行く。生徒にはそれぞれ学生寮の一室が与えられているはずで、そこで共同生活をすることになっている。
「どうしたの?その荷物は」
「あれ、何も聞いていないのですか?私は今日からこちらで生活するようにと事務の方から言われております。一階の、あっ、あの部屋だと思います」
彼女は家の中に入って、一階の狭い部屋に進んで行く。
「えっ、あっ、そうなの?」
私は驚きの表情のまま、彼女がてきぱき荷物を運ぶのを手伝う。
「ありがとうございます。えっと、高城尚輝先生ですよね」
「うん、そうだよ、宜しくね」
状況が呑み込めないが、断るという選択肢は無いようだ。
「宜しくお願いします」
彼女は丁寧に頭を下げた。
私は軽く手を振り、その部屋を出た。
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