2005年08月16日

小泉政権の評価

以下の拙文は内田樹氏のブログ「内田樹の研究室」の最新の記事「靖国というコントローラー」へのコメントとして書き込んだものです。なかなか面白い視点だなあと感心して書いているうちに、長さがどんどん長くなってしまったので、以下にコピーしておきます。

小泉首相が「冷血漢」であり、「独裁的」手法をとっているので、けしからんというのは方々で耳にする批判です。内田先生とは政治的には相容れないであろう西尾幹二インターネット日録にもそのような趣旨の批判が載っています。確かに昨晩の「たけしのTVタックル」で福岡正行氏が述べたように「聖徳太子の和の精神」を以て懸案が処理できれば、ベストでしょう。ただ、この期に及んで、政治家小泉の人格を取り上げても何の意味もないのではないでしょうか。今まで何をしてきたか、何をする可能性が高いかで値踏みすべきでしょう。自民党を「ぶっ壊す」ことを宣言し、郵政民営化を執拗に且つ声高に唱えたにも関わらず、自民党員(87%の党員票が小泉に集中したはず)及び自民党議員は、小泉純一郎を自民党総裁に選出した以上、公約違反をしてはならないのです。公約違反を言い出せば、終戦記念日に靖国神社に参拝するという彼のもう一つの公約は守られていません。このことは非常に遺憾なことのように思えますが、内田先生の指摘のような背景があるのであれば、狙いの一策であったのかもしれません。  
 彼の最大の功績は、故小渕首相がレールが敷いたトップダウンの権力を最大限に活用し、派閥順送り人事を破壊し、官僚トップの人事権を実質的に剥奪したことにあります。また、政治資金規制法に拠って、党本部の県連への支配力を強めました。県連の反対があっても、今は党本部から各県連へ直接選挙資金が流れている以上、党本部が本気になれば、各県連をコントロールできる仕組みです。このような風通しの良いトップダウンの政治体制を築いたのは小泉首相自身ではない以上、彼の政治手法の「独裁性」を非難するのは非常にむなしい行為です。彼は目の前にあった権力を自民党総裁/首相として最初に活用しただけでしょう。   
 彼の改革についても、見かけ倒しで中身がない、一部官僚の焼け太りを許容しているなどの批判は山のようにありますが、小泉の登場以前に、財政の出口改革に相当する特殊法人(例:道路公団)の改革に手をつけた首相が一人でも居ましたか。いかに不徹底に終わったとしても、又はある作家の権勢欲に利用されたとはいっても、聖域であった利権団体の改革に兎にも角にも手をつけた意義は非常に大きいと言わざるを得ません。入口改革に相当する今回の郵政民営化法案でも、郵政民営化法案に反対した連中を中心に(アリバイ作りのためか)その不徹底性がまた槍玉に挙がっていますが、政治には戦略的後退はつきものでしょう。財務省の改革に手をつけていないとの批判も散見しますが、彼が首相に就任した後、財務省主計局の権力(=予算編成権)は低下する一方で、先を見越した賢い財務省官僚の政界転身が相次ぐ状態になりました(彼らの政界進出の理由は小泉が旧大蔵族だからだけではありません)。   
 小泉首相の外交政策についても、一定の評価を与えるべきだと思います。日本政府の対中姿勢は、日中首脳会談後、江沢民が強く主張した「謝罪」の文言を共同声明の中に入れることを拒否した故小渕首相(彼は凡庸そうな外見にも関わらず、気骨ある人物だったと思います)のあたりから徐々に変わり始めましたが、中国が「歴史カード」を濫用して、これまでに得た巨額のODA(賠償金の代わりではあったのですが)のみならず、日本からのODAで整備した軍事力を背景に、日本の領土や海底資源まで略奪し始めている現状を止めようとしたことは高く評価すべきだと思います。小泉のせいで、アジア外交が閉塞したと仰る暢気な御仁もいるかもしれませんが、それでは、中共の海底資源略奪を黙って許容すればいいのでしょうか。沖縄も石垣島も尖閣諸島も、中共の主張通り、中国の領土になれば良いというのでしょうか。これらの政策は日本の首相が誰になろうと殆ど変わらなかっただろうと思います。そのスピードが鈍化するか加速するかの違いでしかありません。
 民主党の岡田には聞いてみたいものです。対中外交を立て直すと言っているが、靖国神社の参拝を止めること(こんなことは誰でも出来ます)以外にどんな対策があるのかと。旧社会党関係者が民主党の議員の半数を未だに占めている今、民主党はかつての社会党の十八番である媚中朝路線に復帰するだけでしょう。  
 戦後民主主義や憲法第9条の平和主義は、所詮穏やかな海でしか生きられない天然記念物に他なりません。周囲が反日しかアイデンティティを持たない精神構造を持つ中朝韓三国という極めて劣悪な環境にあっては生きのびることは残念ながら出来ないでしょう。まずは、時間のかかる憲法改正(第9条の廃棄)よりも、素早くできる核軍備を急いだ方が良いでしょう。その方が集団的自衛権を持つ「普通の国」への転換がずっと早くなります。平和主義という理想は理想として堅持するとしても、まずは現実を直視すべきでしょう。
今思ったのですが、内田氏の見解の多くは副島隆彦氏の本の中に書いてあることだったかもしれませんが、「独裁的」だから小泉がけしからんというのは、おかしいのですね。現在の政治システム(政治資金の流れを含む)が、小泉登場以前に、既にトップダウンの体制になってしまっているのですから、表面的に彼だけを非難しても意味がないと思うのです。彼もまた現在の日本の政治構造の中に組み込まれている一要素にすぎないのです。

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この記事へのコメント
単純に、靖国は自民党の票につながるから、参拝はワシントンコンセンサスとなっているのでしょうが、副島さんや内田さんの推察ぐらいのことは、アングロサクソンには朝飯前のことだと思いますよ。wnm さんのエントリ、内田さんのエントリ、おもしろく拝見させていただきました。

「和の精神」については、明日、私の方のエントリで触れてみましょう。
Posted by Leilan at 2005年08月16日 20:01
仰るとおり、アメリカの側からすれば、一方を他方にけしかけているだけなんでしょうね。まさに分割統治。無重力さんのブログにも書き込んだところ、その辺も含んだコメントが返ってきました。ただ、副島さんの主張で解せないのは、中共に対する批判を一切認めないんですね。アジアの中で喧嘩をしてはいかんと。それはまあまあ分かる気もするのですが、某S学会への批判も一切認めないそうです(ソースは忘れました)。何か変ですよね。アポロの月面着陸がでっちあげだ(昔からある話ですが)という本の中で、それまで持ち上げていた工学系の人をくそみそにこき下ろすなど、周り中の人間を全て罵倒しまくる勢いの副島さんが、なぜか中共とS学会にはあの舌鋒を封印するのです。アポロ関連の写真や映像をあれだけの猜疑心を持って子細に調べる彼が、最近喧しい「南京虐殺」の証拠写真(とされてきたもの)の批判的検証も彼はスルーするみたいです。
Posted by wnm at 2005年08月16日 23:30
 はじめまして、毎々有り難く読ませて頂いております。
 今回の騒ぎでは『民主主義=独裁者民選制』VS『日本主義=話し合い至上全会一致制』の闘いでもあったように思います。
 亀井先生の作る新党はたぶん『国家社会主義日本外郭団体党』とでもいった性格になるのでしょうか。
 今の民主党は執行部を見る限り、実質『国際共産主義日本労働組合党』ですね。
 どちらも“大きな政府”系政党になりそうで。細々とした内部のねじれが正しい民主化(!)によって是正されることを願っております。
Posted by sammyadd at 2005年08月17日 03:51
官尊民卑の造反議員の新党結成? 
造反議員の消えた後の自民党が真の新党だ! とアタシは思っています。
TBありがとうございました。
Posted by tetsuyak04 at 2005年08月17日 13:52
トラバックありがとうございます。
媚中・朝鮮・ロシアを続けて行けば,最終的にはわが国は国家ではなく,中共の1自治区と成り下がるのは必定。
イオン岡田民主党のように、なんでも反対とともに、党首の浅はかな理論では、狡猾な中共にはいいように手玉に取られ、ODAはやり放題、海底資源はとられっぱなしの上、おきなわまで中凶の領土となるでしょう。
社会党の極左が中枢に座っている限り、民主党には政権は渡せません。
Posted by hide at 2005年08月17日 14:34
TB有り難う御座居ます.
強力なリーダーシップをとる指導者を即「独裁者」「ファッショ」と言う傾向が日本では特に強いですよね.何がどう違うのかと問われれば難しい面もありますが.

小泉改革は妥協を強いられ志半ばな面もありますが,小泉以降の政権は小泉路線を踏襲しなければ国民からソッポ向かれると思います.其れが自民党であれ民主党であれ国民新党であれ.

そういう観点からすれば小泉総理は今後の日本の方向性を大きなエネルギーを費やして示したと思います.後は此れからの政権が,勿論小泉総理を含めて,巧くモディファイして行く作業が続くと思います.そして其の青写真が選挙の争点でもあり,選挙後の作業過程が見所でしょうね.
Posted by project0 at 2005年08月17日 23:13
sammyaddさん、tetsuyak04さん、hideさん、project0さん、コメントどうも有り難うございました。レス、遅くなって済みません。自民党の造反議員達はいずれ淘汰されるのではないでしょうか。結局、なんだかんだいって、利権政治家ですから、利権から遠くなってしまえば、選挙民にとっても用済みということになりそうです。防衛政策については、やはり核ミサイルを持つべきではないでしょうか。どこぞの国でミサイル発射準備が始まったときには日本から攻撃することは「専守防衛」と矛盾しないという答弁をあのプラモデルおたく石破防衛庁長官(当時)が国会でしていて、その時にどの党も異議を唱えなかったはずなので、その準備の時点で反撃を行うことは現行憲法に些かも矛盾しません。その意味で日本がこれから核軍備をすると公言するだけでも、だいぶ違うと思うのです(同じような主張は最近刊行された東アジア情勢に関連する本の中でもよくなされています)。
Posted by wnm at 2005年08月18日 16:25
最後に、hideさんやproject0さんの主張に関連して、反中韓一色になってしまうのも、外交的なオプションが少なくなってしまうのでまずいかなという気が少しはします(海底資源や尖閣諸島の問題など譲る必要は100%ないのですが)。ただ、日本はそんな心配をしなくても、拉致被害者を罵倒することを生き甲斐にしていると思しき田嶋陽子とか岡崎トモ子とか、腐るほど居ましたね。
Posted by wnm at 2005年08月18日 16:28