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虫歯だらけ、口腔崩壊 生かされない検診結果 貧困、受診できぬ子ども

毎日新聞 2014年05月03日 大阪朝刊
http://mainichi.jp/area/news/20140503ddn013100044000c3.html


 前歯がほとんど溶けてマスクが手放せない子、虫歯でものがかめず給食を満足に食べられない子−−。大阪府歯科保険医協会(大阪市浪速区)が昨年度、府内の公立小中学校に実施したアンケート調査で、虫歯が10本以上あるなど「口腔(こうくう)崩壊」状態にある児童が数多く報告された。学校歯科検診後の受診率も低く、歯科を受診できない子どもの存在が浮き彫りになった。【反橋希美】


 調査は昨年9月、府内の公立小中学校計1480校を対象に実施し、うち小学校246校(回答率24%)、中学校98校(同21%)が回答。「さまざまな事情で歯科治療を受けられず、口腔崩壊状態にある児童にこの2、3年内に出会ったことがあるか」との質問に「ある」と答えた養護教諭が、小学校で54%、中学校で55%いた。


 2012年度の学校歯科検診の結果、歯科を受診した生徒の割合も聞いた。小学校では、検診を受けた生徒の37%が「要受診」と診断されたが、歯科が学校に処置内容を知らせる受診報告書を学校に提出した生徒はその48%だった。中学校でも全体の37%が「要受診」と診断されたが、報告書を提出したのは、うち30%にとどまった。小中とも学校によって差があり、8〜9割が受診する学校もあれば、受診率が1割に満たない学校もあった


 受診報告書の様式は自治体で異なり、治療完了後に提出するものと、治療中でも提出できるものがある。文部科学省によると、学校歯科検診後の受診率や治療率について全国的な統計はない。


 府歯科保険医協会の戸井逸美副理事長は「受診しても報告書を学校に提出しなかったり、途中で治療をやめる生徒がいるため、実際の受診率はもう少し高い可能性がある」としつつも、「半数に満たない結果はショックだ」と話す。


 ●短い医療費助成


 「小1で20本中18本が虫歯。多くが歯の根しか残っていない」「軟らかいものしかかめないため、(給食で)歯ごたえのあるものはかなり減らしている」−−。養護教諭から寄せられた事例からは、過酷な状況が浮かぶ。一方、文科省の調査によると、12歳児の永久歯の虫歯の平均数は、1993年度の4・09本から昨年度は1・05本と改善。全体として子どもの歯の状況が良くなっている中、二極化がうかがえる。


 学校歯科検診にも参加している大阪府松原市の小児歯科「ジョイファミリー歯科」の大土努院長は、背景に「経済的事情」を挙げる。大阪府の子どもの通院に関する医療費助成は3歳未満と全国で最低水準だ。助成時期は全国的に中学卒業までが多い中、府内では同市など就学前までの自治体が目立つ。大土さんは「『今月はもうお金がないので次の予約は来月に』と頼まれたり、親が失業して途中で治療に来なくなった子もいる」と明かす。


 30年以上の勤務経験がある府内の小学校養護教諭(55)も「貧困家庭に育つ子どもの状況は年々悪くなっている印象だ」と話す。靴下から足指が3、4本出ている子や、「夕食にカップラーメンすら買えない」と話す子……。「健康診断で早急に精密検査が必要な結果が出ても、受診できない子がいる。虫歯は命の危険がないと後回しにされているのでは」と推測する。


 ただ就学援助を受ける子どもの場合、特定の疾患に医療費が援助される「学校病」制度があり、虫歯は原則無料で治療が受けられる。調査では、医療費がかからない家庭でも「面倒くさい」などと親が子を受診させない、養育放棄(ネグレクト)が疑われる事例も指摘される。また経済的事情がなくても仕事や習いごとで親子とも時間的余裕がないケースもあり、現場では一筋縄ではいかない対応を迫られている。


 ●全国調査の必要


 日本学校歯科医会(東京都千代田区)の川本強専務理事は「以前から二極化や治療しない子の問題は指摘されていた。理事の中からは、今回の調査に『一石を投じられた』として全国的な受診率の調査が必要との声がある」と話す。


 貧困を背景とする子どもの虫歯について調べてきた全日本民主医療機関連合会(同文京区)の江原雅博歯科部長は「口腔崩壊の子どもがいるのは把握していたが、ここまでとは思わなかった。受診率の低さも驚きだ」と指摘。「単純な受診指導では効果がない。どんな取り組みが必要か検討するためにも、国が責任を持って実態調査を実施すべきだ」と訴える。


 ◇乳歯の虫歯、永久歯に影響


 受診しない理由として、「乳歯の虫歯なら、生え変わるから治療しなくてもよい」との誤解がある。だがジョイファミリー歯科の大土努院長は「未治療の虫歯が1本あると、口内の虫歯菌が大幅に増え、他の歯まで虫歯になりやすくなる」と話す。乳歯の虫歯がひどくなると、下にある永久歯を痛めることもある。また虫歯を放置して、抜かざるをえなくなってしまうと、空いたスペースに他の歯が寄ってきてしまい、永久歯が生えても歯並びが悪くなる可能性がある。


 大土さんは「虫歯になる前から、かかり付けの歯科医を持ち、定期検診や虫歯予防のフッ素塗布をするのが理想的だ」と話す。


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