(ブログ『気まぐれな日々』から転載させていただきました)

滋賀県知事選で自公候補が敗北、橋下徹の正体も明らかに
2014.07.14 08:54
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 昨日(13日)投開票が行われた滋賀県知事選は、選挙期間中のマスコミの予想通り大接戦の結果、三日月大造候補が初当選を決めた。開票結果は下記の通り。


 三日月大造 無新 43歳 253,728 票(得票率 46.3%)
  小鑓 隆史 無新 47歳 240,652 票(得票率 43.9%)
  坪田五久男 無新 55歳 53,280 票(得票率 9.7%)


 当選した三日月大造候補は、民主党衆院議員を3期務め、民主党が惨敗した2012年の衆院選では選挙区(滋賀3区)では自民党候補に敗れたものの比例で復活当選し、4期目に入っていた。しかし、今回の滋賀県知事選立候補を目指して議員辞職する意向を表明し、2期目の現職・嘉田由紀子知事と協議の結果、嘉田知事の不出馬と三日月氏の出馬が決まった。三日月氏は民主党を離党し、無所属で民主党を含む政党の推薦を受けずに立候補した。


 三日月氏と激しく競り合った小鑓隆史候補は、元経産省、すなわち原発推進の総本山の官僚出身である。小鑓氏は、自民、公明、それに日本維新の会滋賀県連から推薦を受けた。


 三日月氏の滋賀県知事選出馬が決まった頃、私は正直言って、こりゃ自公候補の圧勝だろうなと思った。三日月氏と嘉田知事が候補一本化の協議をしていた頃、毎日新聞と読売新聞が嘉田知事の不出馬説を報じたが、これは現時点の目から振り返ると、両者の動きをよくつかんだ報道だった。しかし、ネットの脱原発派の間には、「出馬すれば三選され得る嘉田知事を降ろし、勝ち目のない三日月氏を出馬させようとするマスコミの謀略報道だ」と叫んで、嘉田知事に出馬を要請する向きもあった。


 私はそれを見ながら、嘉田由紀子知事も本心では三選に自信がなく、降りても良いと思っているから、出たくてたまらない三日月氏に押し切られるのも無理ないのではないかと思った。なんといっても、嘉田知事には一昨年の衆院選で小沢一郎や飯田哲也らと「日本未来の党」を立ち上げたものの惨敗したあげく、小沢一派に党を乗っ取られ、嘉田・飯田側には元社民党の阿部知子氏しか残らなかったという汚点がある。嘉田・三日月両氏が協議していた4月末から5月初めの時点では、嘉田知事と三日月氏のどちらが出馬しようが自公候補に勝てないのではないかと思われた。ただ、嘉田知事には地元で根強い人気がある可能性もあるかなとは思った。地元での人気ばかりはよそ者には容易に窺い知れないもので、あの小沢一郎ですら岩手4区では未だに人気があるらしい。だが、三日月氏にはそのメリットも少なく、やはり苦しいのではないかと思った。


 しかし、いざ選挙戦が始まると、マスコミは大接戦を伝えた。共同通信は「三日月氏と小鑓氏が接戦」、朝日新聞は「三日月氏やや先行、小鑓氏猛追」、読売新聞は「小鑓・三日月氏が横一線」との見出しをつけた。未確認情報によると、朝日調査では三日月氏が小鑓氏に8ポイント差で、読売調査では小鑓氏が三日月氏をわずか1ポイント差で、それぞれリードしていたとのこと。見出しからも明らかなように、共同通信は朝日と読売の中間で、三日月氏の票がわずかに多いという、今回の結果にもっとも近い情勢調査だった。


 私は、朝日と読売の報道は、互いの社論を反映して色がついているのではないかと思った。といっても何も両紙が数字を捏造したと言いたいわけではなく、質問の仕方によって社にとって望ましい調査結果に誘導したということだ。だから、現実の情勢に一番近いのは共同通信の予想だろうと思っていたが、その通り共同通信の情勢調査報道がドンピシャで的中する結果となった。


 50.15%の投票率は、参院選と同日で行われた前回(2010年)より低かったが、嘉田知事が初当選した前々回(2006年)よりはかなり高く、有権者の関心は決して低くなかったといえる。


 結果を左右したのは、原発再稼働の問題だったと考える。一般的には原発は票に結びつきにくいとされるが、滋賀県は多数の原発を抱える福井県と隣接しており、原発への関心は他の都道府県の平均水準よりかなり高いと思われるからだ。そこにもってきて、自民党が原発推進の総本山である経産省の官僚上がりの候補を持ってくるとは、あまりにも「再稼働へのお墨付き」狙いが露骨だった。小鑓隆史という人も、官僚臭が強く「上から目線」でものを言う人だったとも伝え聞く。これではいくら自民党(安倍晋三)が飛ぶ鳥を落とす勢いだといっても、驕りが過ぎるというものだ。滋賀県民は、そんな安倍晋三に鉄槌を下したと私はみなしている。


 朝日新聞(7/13)によると、告示1か月前の自民党の調査では、小鑓氏が三日月氏に10ポイント差をつけていたという。それがわずか1か月で逆転したことに、安倍政権が集団的自衛権行使容認を閣議決定したことを挙げている。ネット検索をかけてみると、国内他紙に加えて、アメリカのウォールストリート・ジャーナルも同様の見方をしているようだ。これについては、そうであってくれれば幸いだけれど半信半疑というのが正直な感想だ。集団的自衛権行使容認が安倍政権崩壊のきっかけとなるかどうかについては、私はかなり悲観的である。昨日も、乗った地下鉄の車内で、「9月解散で自民党350議席の圧勝」なる某週刊誌の宣伝を見て鬱になった。確かに、9月と言わずとも年内に衆議院選挙をやられたら、週刊誌が書く通りの結果になりかねないし、そうでなくても衆議院選は2016年までには必ず行われるのである。


 自民党と連立を組む公明党が、来年(2015年)の統一地方選への影響を懸念して、集団的自衛権行使容認に伴う関連法案の今秋の臨時国会を先送りさせたくらいだから、現実に年内解散の可能性は低いとは思うが、あの悪夢の小泉郵政選挙(2005年)を引き合いに出すまでもなく、解散権は総理大臣の切り札である。安倍晋三の腹一つで決まってしまう。


 実際には、次の衆院選をにらんだ野党の離合集散が今後始まるのだろうが、今回の結果に打撃を受けたのは、何も自民党だけではない。ある意味で、自民党以上に打撃を受けたのは、日本維新の会、結いの党、それに民主党の前原誠司や細野豪志らが立ち上げを目指している「新党」構想だろう。


 今回の選挙結果に私が快哉を叫んだのは、日本維新の会の橋下徹が、明確に小鑓候補を支持し、応援演説を行ったにもかかわらず、小鑓候補が敗れたことだった。


 橋下が小鑓候補を応援したのは、選挙の情勢報道で小鑓氏の苦戦が予想されたことに焦った菅義偉官房長官のじきじきの要請を受け入れたためだが、ここで絶対に記憶しておかなければならないことがある。それは、自民党、特にその中の極右勢力(現在は安倍晋三が中心)がピンチに陥った時には必ず橋下が助っ人として立ち現れるということだ。先の集団的自衛権行使容認の時もそうだった。橋下は、集団的自衛権行使容認への支持を言明し、このことが安倍晋三が公明党に圧力をかけるための大きな助けになった。公明党と組まなくとも、みんなの党や石原新党(「次世代の党」という、実体と正反対の名前がついている)や維新と連立を組んでやっていけるよ、という脅しである。もちろんあっさりとそれに屈した公明党が批判されるべきは当然だけれど。


 橋下に話を戻すと、今回もその通り、安倍晋三の助っ人として橋下が立ち現れたわけだ。そもそも、安倍晋三が総理大臣に返り咲くきっかけをつかんだのも、2012年の終戦記念日に、橋下と松井一郎が安倍晋三を維新のリーダーとしてスカウトしようとしていることを朝日新聞にスッパ抜かれて1面トップ記事にされたことだ。これによって、安倍晋三を維新に行かせまいとする動きが自民党内に起き、それがあろうことが安倍の総裁復帰というあってはならない結果につながってしまった


 こんな橋下を、「超保守と対決するために活用したい」とか、「脱原発に頑張る橋下市長を応援しよう」などと言って持ち上げるのは愚の骨頂なのである。「リベラル」や「左翼」の諸賢は、事実を直視しなければならない。橋下は今後も、いざという場面になったら必ず安倍晋三を助ける選択肢を選ぶ。そのことは100%間違いない。だから、橋下はただひたすら打倒の対象でなければならない。


 痛快だったのは、日本維新の会の支持者たちが橋下の動きに応えなかったことだ。朝日新聞の出口調査の結果によると、維新支持者の59%が三日月候補、6%が共産党推薦の坪田五久男候補に投票し、小鑓候補に投票したのは36%にとどまった。橋下はもはや維新支持者にも見放されたというわけだ。これは、今後の新党構想にも影響を与えるだろう。今や橋下とくっつくメリットが他党にとってほとんどないという事実を、今回の滋賀県知事選はまざまざと示したといえるからだ。橋下が応援した候補は落選したし、橋下はお膝元の票を固めることすらできなかったのである。


 なお、同じ朝日の出口調査で、公明党支持者の92%が小鑓候補に投票し、自民支持者の79%を上回っているが、記事も指摘する通り、公明党支持者の棄権が目立った。彼らは、党の支持する候補の対立候補に投票する勇気までは持たないが、棄権することで党に抗議することは現実に行っているといえようかこの場合、棄権の最大の理由が集団的自衛権行使容認であったとは私も思う


 論点を変えて、安倍晋三の名前をとったネーミングでもてはやされた安倍政権の経済政策がうまく行かなくなり始めていることも、小鑓候補敗戦の一因だろうと思う。私見では、同経済政策は、金融緩和とインフレターゲットには効果が認められるものの、政権の財政出動が旧来型の公共事業に偏重しており、より積極的な再分配政策には全く不熱心である(公共事業もそれなりの再分配効果は持つが、東京に本社を持つ企業が潤う効果が大きく、一般国民への再分配の効果は大きくない)こと、それどころか労働の規制緩和や安価な労働力としての外国人労働者のとしての受け入れなど、私が「逆再分配」とみなす政策にばかり熱心である。これでは、緩和マネーは投機及びそれがもたらすバブルの形成(とそれに続く崩壊)にしかつながらず、金融緩和の副作用が今後顕著に表れる結果にしかならないと思う。政権の政策が効果をあげるためには、金融緩和と同じくらい大胆な再分配政策が必要だと思うが、安倍政権の性格上、そんな政策をとる可能性は万に一つもない。だから、こんな政権は一刻も早く打倒しなければならない。


 もちろん、その道ははるか遠い。しかし、安倍政権打倒のためには、最低でも滋賀県知事選で自公の候補に土をつける必要があった。そしてそれはなんとか達成された。そのほか、くどいほど書くが、橋下徹の正体と限界が誰の目にも明らかになった。


 この記事で、当選した三日月候補への論評はほとんどしなかった。正直言って、あまりピンとこない政治家である。だが、この選挙は、三日月候補が勝ったことよりも、自公が敗れたことと、橋下の正体が明らかになったことによって収穫があったと思わせるものであった。