「特定秘密保護法は報道に重大な脅威」 国連報告者が初調査

2016年4月20日  東京新聞

 高市早苗総務相の「電波停止」発言などメディア規制の動きが懸念される中、言論や表現の自由の状況について日本で現地調査をしていた国連のデービッド・ケイ特別報告者(米国)が十九日、暫定的な調査結果を公表した。特定秘密保護法や政府の圧力などで、報道の独立性が重大な脅威に直面していると警告した。

 ケイ氏はこの日、東京都千代田区の日本外国特派員協会で記者会見。番組に政治的公平を求める放送法四条の廃止を提言し、「メディア規制から手を引くべきだ」と述べた。高市氏には何度も面会を申し入れたが、会えなかったという。

 特定秘密保護法については特定秘密の定義があいまいだと指摘し、法改正を提案。ジャーナリストを罰しないことを明文化すべきだと提言した。一方で、記者クラブ制度についても「情報へのアクセスを弱体化させている。廃止すべきだ」と述べた。ヘイトスピーチに関連して反差別法の制定も求めた。

 ケイ氏は米カリフォルニア大アーバイン校の教授。二〇一四年、国連人権理事会から特別報告者に任命された。十一日に日本政府の招待で初めて公式訪問し、政府機関や報道関係者、市民団体などから聞き取り調査をしていた。正式な報告書は、一七年に同理事会に提出する。

 <国連の特別報告者> 特定の国の人権状況やテーマ別の人権状況について事実調査・監視を行う。国連人権理事会が任命する。いかなる政府、組織からも独立した資格で調査に当たる。金銭的報酬はない。北朝鮮やイラン、ミャンマーの人権問題、子どもの人身売買やポルノ問題、集会や結社の自由に関する人権状況などの報告者がいる。デービッド・ケイ氏は国際人権法や国際人道法の専門家。

◆国連報告者メディア調査 詳報

 国連のデービッド・ケイ特別報告者の暫定調査結果の詳細は以下の通り。

 【メディアの独立】 放送法三条は、放送メディアの独立を強調している。だが、私の会ったジャーナリストの多くは、政府の強い圧力を感じていた。

 政治的に公平であることなど、放送法四条の原則は適正なものだ。しかし、何が公平であるかについて、いかなる政府も判断するべきではないと信じる。

 政府の考え方は、対照的だ。総務相は、放送法四条違反と判断すれば、放送業務の停止を命じる可能性もあると述べた。政府は脅しではないと言うが、メディア規制の脅しと受け止められている。

 ほかにも、自民党は二〇一四年十一月、選挙中の中立、公平な報道を求める文書を放送局に送った。一五年二月には菅義偉(よしひで)官房長官がオフレコ会合で、あるテレビ番組が放送法に反していると繰り返し批判した。

 政府は放送法四条を廃止し、メディア規制の業務から手を引くことを勧める。

 日本の記者が、独立した職業的な組織を持っていれば政府の影響力に抵抗できるが、そうはならない。「記者クラブ」と呼ばれるシステムは、アクセスと排他性を重んじる。規制側の政府と、規制される側のメディア幹部が会食し、密接な関係を築いている。

 こうした懸念に加え、見落とされがちなのが、(表現の自由を保障する)憲法二一条について、自民党が「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」との憲法改正草案を出していること。これは国連の「市民的及び政治的権力に関する国際規約」一九条に矛盾し、表現の自由への不安を示唆する。メディアの人たちは、これが自分たちに向けられているものと思っている。

 【歴史教育と報道の妨害】 慰安婦をめぐる最初の問題は、元慰安婦にインタビューした最初の記者の一人、植村隆氏への嫌がらせだ。勤め先の大学は、植村氏を退職させるよう求める圧力に直面し、植村氏の娘に対し命の危険をにおわすような脅迫が加えられた。

 中学校の必修科目である日本史の教科書から、慰安婦の記載が削除されつつあると聞いた。第二次世界大戦中の犯罪をどう扱うかに政府が干渉するのは、民衆の知る権利を侵害する。政府は、歴史的な出来事の解釈に介入することを慎むだけでなく、こうした深刻な犯罪を市民に伝える努力を怠るべきではない。

 【特定秘密保護法】 すべての政府は、国家の安全保障にとって致命的な情報を守りつつ、情報にアクセスする権利を保障する仕組みを提供しなくてはならない。

 しかし、特定秘密保護法は、必要以上に情報を隠し、原子力や安全保障、災害への備えなど、市民の関心が高い分野についての知る権利を危険にさらす。

 懸念として、まず、秘密の指定基準に非常にあいまいな部分が残っている。次に、記者と情報源が罰則を受ける恐れがある。記者を処分しないことを明文化すべきで、法改正を提案する。内部告発者の保護が弱いようにも映る。

 最後に、秘密の指定が適切だったかを判断する情報へのアクセスが保障されていない。説明責任を高めるため、同法の適用を監視する専門家を入れた独立機関の設置も必要だ。

 【差別とヘイトスピーチ】 近年、日本は少数派に対する憎悪表現の急増に直面している。日本は差別と戦うための包括的な法整備を行っていない。ヘイトスピーチに対する最初の回答は、差別行為を禁止する法律の制定である。

 【選挙の規制】 (略)

 【デジタルの権利】 インターネット上の自由の分野で、日本がいかに重要なモデルを示しているか強調したい。政府の介入度合いが極めて低いのは、表現の自由への政府のコミットメントを表している。

 政府は盗聴に関連した法律やサイバー空間のセキュリティーの新たな取り組みを検討しているが、自由の精神や通信の安全、オンライン上の革新性が保たれることを望んでいる。

 【市民デモを通じた表現の自由】 日本には力強く、尊敬すべき市民デモの文化がある。国会前で数万人が抗議することも知られている。それにもかかわらず、参加者の中には、必要のない規制への懸念を持つ人たちもいる。

 沖縄での市民の抗議活動について、懸念がある。過剰な力の行使や多数の逮捕があると聞いている。特に心配しているのは、抗議活動を撮影するジャーナリストへの力の行使だ。