February 2009

February 27, 2009

バンド用語 その2


たとえば…。

今日の夜、
レコーディングがあるので、
スタジオに行くとする。

あるいは、
ジャズ・クラブやナイト・クラブに、
演奏しに出かけたとする。


そんなとき、
私たちの挨拶は、

「おはようございます。」

なんですね。

夜なのに…。


いかにも業界っぽいし、
なんだか、
‘裏社会’に生きてるような感じがして、
個人的には、
あんまり好きではないのですが、

ま、古くからの慣習だから仕方ありません。



ところが、これ…、

アメリカでも同じなんですね。


夜遅く、
ミュージシャンやエンジニアや、
レコーディング・スタッフが、
どやどやとスタジオにやって来る。

すると、みな、
顔を合わせるたびに、

「Good Morning!」

と言うのです。

今日は、始めて会ったのだから、
これでいいんだ、

と、彼らは言ってましたが…。

(なるほど)



戦後間もなく、

アメリカの進駐軍が、
横田を始めとする日本各地の基地に、
やって来ましたね。

そこで夜な夜な繰り広げられる、
本場のジャズのセッションを見る(聴く)、
あるいは勉強するために、

日本のジャズメンたちは、
毎夜毎夜、熱心に、
基地を訪れたそうですが、


おそらく、そのときに、

むこうのジャズメンたちが、
「Good Morning!」
と言ってるのを聞いて、

真似したんじゃないかな…。


「何でも形から入る。」

これ、この世界の鉄則ですからね。


そして、
あの奇妙奇天烈な、
「バンド用語」も、

おそらく、その頃に、
誕生したのではないかと、


私は、推測しているのですが…。




『バンド用語 その2』


はい、お待ちかね。

(待ってないから)


きょうは、この、
「バンド用語」について、
詳しく講義をしてみたいと思います。

みなさん、ペンのご用意を。



まず、数字から行きますかね。


これは、
「ドイツ語の音楽表現を使うのだ」
と、先輩から教わりました。

ハ長調の、C(ド)の音を基調にして、

C(ツェー)=1
D(デー) =2
E(イー) =3
F(エフ) =4
G(ゲー) =5
A(アー) =6
H(ハー) =7

こうやるのだ、と。


ここで注目すべきは、
7の音ですね。

B(ビー)ではなく、
H(ハー)とやるあたりが、
なるほど、ドイツ語っぽい。


では、8はどう言うかというと…、

「オクターブ」の「オク」

かなり苦しいところですが、
8人編成のコンボを、
「オクテット」と言うので、

ま、これは納得。


問題は、次の9です。

これは…、


「ナイン」


「あのお…、先輩…、
 ナインは英語ですよぉー。」

と言いたいところでしたが、
ここも、じっと我慢の子。


じゃあ、10…?

これは、単純に、
1=C(ツェー)に
ジューを足すだけ。

つまり、

「ツェージュー」

(おい、ジューは日本語だろ)


そしてここから上の単位は、

ヒャク、セン、マン、

と、極めて普通に、

日本語。

(……。)


ま、これ以上考えるのが、
面倒くさかったんだろうと、

勝手に解釈。


では、実際にやってみましょうか。

<15,789円>

制限時間は3分です。

……。



はい、答えは、

ツェー(C)マン、ゲー(G)セン、
ハー(H)ヒャク、オクジュー、ナインエン。


出来ましたか?



次は、

言葉を「逆(さか)さま」にします。


3文字の名詞が、
一番やりやすいのですが、

これには一大原則があります。

面白い。
笑いが取れる。
くだらない。


「逆(さか)さま」にしても、面白くないものは、

敢(あ)えてやる必要がない。

面白ければ、
必ずしも、真正直に、
「逆さま」である必要もない。


楽器を例にしてみましょうか。

「ドラム」


これは、存在しません。

なぜか…?


「ムラド」とやっても、
「ラムド」とやっても、

面白くないから。

笑えないから。

こんなものは、
さっさと無視して、
普通に「ドラム」と言います。



え…?

いい加減だなあ、ですって…?


いいんです。

存在そのものが、

いい加減なんですから。



ベース。

これは、「スーベ」です。

簡単ですね。

ギターは、「ターギ」


では、トロンボーンは…?

「ボーントロン」

いえいえ、そんな、
かったるい表現はしません。


もっとシンプルに、

「ボントロ」

これで充分です。



サックスは、

「クーサ」

なぜか、これで通用します。

ただし、
「クッサー(くっさ〜)」とやると、
意味が変わってくるので、
要注意。

「クーサ」です、「クーサ」。


面白いのは「ピアノ」で、

これは、

「ヤノピ」


昔は、「ピヤノ」と言ったのでしょうか…?

アハハハ。

そういえば、大昔、

「会奏演ノヤピ」
というチラシを、
見たような記憶が……。


難しいのは、

「ヴォーカル」


そうです。

4文字以上になると、
ぐっと難易度があがるのです。

それに、これは、
どうやっても面白くならない。


こうした場合は、

ヴォーカル=うた(歌、唄)

と、日本語に置き換えて、

「うた=ターウ」

と、やればよろしい。


イントネーションは、
基本的にはノー・アクセントで、
まっ平(たいら)に、
が原則。

渋谷(しぶや)、B’z(ビーズ)、ZARD(ザード)。

あんな感じをイメージして下さい。



はい、応用編です。


しごと(仕事)=「ゴトシ」

「トゴシ」では、面白くないので、
この場合は、「ゴトシ」を採用です。

トイレ=「イレト」
パンツ=「ツンパ」
でんわ(電話)=「ワデン」
ふめん(譜面)=「メンフ」
バンド=「ドンバ」
はなし(話)=「ナシハ」
めがね(眼鏡)=「ガネメ」


べんじょ(便所)。

これ、我々ライト・ミュージックは、
単純に、「ジョベン」と言ってました。

しかし、ある日、
ライバルである、
W大「ハイ・ソサエティ・オーケストラ」のやつが、

「ヨジンベ」

と言ってるのを聞いて、
明らかに、こっちの方が面白いので、
即、採用。

クリエイティブな発想や、いいものは、
意地を張らないで、
すぐに取り入れる。

この柔軟性。

これが、優れたミュージシャンの鉄則です。

(どこがじゃ)



次に、2文字の場合。


例えば、

「ソロ」


これを、

「ロソ」とやると、

なんか、しまりがない。

落ち着かない。

イカさない。


したがって、この場合は、

「ローソ」と、

後の音の‘母音’を伸ばして言えばいいのです。


めし(飯)=「シーメ」
すし(寿司)=「シース」
はな(鼻)=「ナーハ」
あし(足)=「シーア」
キス=「スーキ」
さけ(酒)=「ケーサ」


ちなみに、

バカは、「カーバ」で、
カバは、「バーカ」

この辺りは、
ちょっと、ややこしい…。



後ろに「ん」が来る言葉も、
かまわずやります。


ペン=「ンペ」
ビン(瓶)=「ンビ」
ほん(本)=「ンホ」


面白ければ、
おかまいなしにやってしまう。

そういえば、私のことを、

「ンシュ」などと呼ぶ、
不遜な先輩も居ましたわ。



それから、形容詞。

これがスラスラ出るようになれば、
かなりの上級者でしょう。


おもい(重い)=「モイオ」
かるい(軽い)=「ルイカ」
きれい(綺麗)=「レイキ」
うまい=「マイウ」
まずい=「ズイマ」
はやい(早い)=「ヤイハ」
おそい(遅い)=「ソイオ」



4文字、5文字の形容詞になると、
さすがに数が限られる。


あぶない=「ナイアブ」
きたない(汚い)=「ナイキタ」
たまらない=「ナイタマラ」
むずかしい(難しい)=「カシムズイ」
くだらない=「ナイクダラ」



こんな、凄腕の先輩がいましたよ。


「きょうの試験は、
 カシムズだったなあ。
 ナイタマラもトコイイ(いいとこ)だぜ。
 ああ、イッタマ、イッタマ。
 (まいった、まいった)」


「バンド用語博物館」があったら、
入れたくなるような、
名言、迷言、珍言、奇言。

ここまで来ると、
もはや、人間国宝級ですな。

(……。)



さらに、別の先輩。

『セドリック』という車が走ってるのを見て、

「おっ、『ドックリセ』が走ってるぞ〜。」


たちまち、周りは、大爆笑。



『どんぐりころころ』
という唄を、

「♪コングリドロドロ、コンブリド〜♪」

と歌ってるやつがいましたが、

この男の「脳細胞」は、
もはや、無きに等しいと考えて、

差し支えありません。



では、

1字の場合。

例えば、「め(目)」


これは、どう表現すればいいのでしょうか。



えっ…?


1字を、どうやって逆さまにするの…?


と、思われるでしょうが、


やるのです。


ちゃんと出来るんですよ。



ウシシ。



(ああ、バカバカしい…。)




(つづく)



さて、これで前回の問題が、

スラスラ解けるはずです。


答え。


「あしたは、仕事があるから、
 おまえら1年生は、
 車3台で、
 楽器をはこぶように。
 とくに、ベースは、きをつけろよ。
 危ないからな。
 タクシー代は、あとではらう。
 譜面のケースは、重いから、
 てわけしたほうがいいな。
 じゃ、よろしく。」


……。



あっ、雪が降ってる。

どうりで寒いと思った。


みなさん、


どうぞお風邪など召しませぬように…。



SHUN MIYAZUMI

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2009 エッセイ 

February 22, 2009

バンド用語


今日も、いいお天気でしたね。

まさに、春近し。

ルンルン気分。


でも、明日からは、
ちょっと崩れると聞いているので、

今日は、駒沢公園で、
思い切り、汗を流してきました。


年始の公約どおり、
「メタボ解消」に向けて、
努力、邁進してる私ですが、

(成果出てるかなあ…?)

でも、体を動かすということは、
本当に気持ちのいいものです。


そして、もう一つ体にいいもの。

それは、

笑い。


前回私は、

「笑う」という行為は、体にいい。
笑うと、「癌細胞」が減る。
しかし、同時に、
「脳細胞」も減る。

と、書きましたが、


では…、

こんな早い時期から、
こんな、おバカなものに慣れ親しんでいた、
私の「脳細胞」は、

もう、ほとんど、

残ってないのかもしれませんね…。


……。




『バンド用語』


これ、ご存知ですか…?


その昔、

日本のジャズ・ミュージシャンの間で、
大いに流行(はや)ったものなのですが、

今のミュージシャンはあまり使いませんね。


ま、それが賢明でしょう。

実に、くだらないから。

使わない方が身のためです。

バカだと思われますから。


とくに、ジャミン・ゼブは、

絶対ダメです。


ダメだぞ〜!



でも…、

1970年頃…。

私が、大学の音楽サークル、
『K大 ライト・ミュージック・ソサエティ』
に入部した頃は、

まさに、これの全盛でした。


この入部にまつわる話は、

かつて、
『ジャズまくり時代』というエッセイでも、
詳しく書いたことがありますが、

ジャズが上手(うま)くなりたい一心で、
胸ときめかして、
この名門クラブに入部した私は、

とにかく、

その、あまりにレベルの高さに、
いきなり、
奈落の底に突き落とされたのでした。

「こりゃ、えらいところに入ったもんだ…。」



そして…、

さらに、追い打ちをかけるように、

私たち新入生を悩ませたもの。


それが、この、

『バンド用語』でした。



入部して間もない、ある日のこと。

部室にたむろしていた、
私たち新入生のところに、
ある先輩がやってきて、

いきなり、こう言ったのです。


「あしたは、ごとしがあるから、
 おまえらつぇーねんは、
 まるくいーだいで、
 きーがをはこぶように。
 とくに、すーべは、きをつけろよ。
 ないあぶだからな。
 しーたくだいは、あとではらう。
 めんふのすーけは、もいおだから、
 てわけしたほうがいいな。
 じゃ、しくよろ。」

「…?…?…?」
   


これ…?

なんでしょうね…?

この奇妙奇天烈な言語は…?


アフリカの、どこかの国の言葉でしょうか…?

でも、あちこちに日本語も入ってるし…?

……?



私たち新入生は、

お互い顔を見合わせながら、


「ここは、ヤクザの組だったのか…。」

「いや、スパイ養成学校かもしれんぞ…。」

「しっ、聞こえるぞ…。」

「ヒソヒソ、ヒソヒソ…。」


……。



しかし、

その謎は、

まもなく解けました。


言葉を、逆さまに言うのです。

可能な限り。

そう、可能な範囲で…。


ただし、
逆さまにしても面白くないものは、
そのままにしておく。

要は、
面白いか、面白くないか。

ここに、使ってるミュージシャンの、
センスが問われるという。

(アホか)


さらに、数字も、1から順番に、

C(ツェー)、D(デー)、E(イー)、F(エフ)、
G(ゲー)、A(アー)、H(ハー)…、

ドイツ語の音楽表現を使うのです。


C(ド)が1
D(レ)が2

以下…。

ま、ここに、
音楽家としての知性が、
表現されているんだと、

その先輩は言う。

(バカか)



ホント、くだらないですね。


でも、仕方ありません。

「郷に入らば、郷に従え」です。


というわけで、

私たちは、

この「バンド用語」を覚えることが、
急務となりました。


というか覚えないと、
先輩たちの話してる内容が、
さっぱり分からない。

ひとり、置いてきぼりにされる。


このクラブの一員として、
生きていくためには、
否応無しに、

必要な掟(おきて)なのです。



こうして、

不本意ながらも、
私たちはみな、
この不可思議な言語の習得に、

膨大な時間を費やすことを、
余儀なくされたのでした。


コード・ネームや、
スケール理論を覚える前に、

こんな、くだらないことのために、

膨大な時間を…、

……。



でも…、

そのうち…、

使い方も分かってきて、
先輩たちの会話も理解でき、
スラスラ喋れるようになると、

楽しくなってくるから、
不思議ですね。


人前では、あからさまに言えないような、
下品な言葉、
あるいは猥褻な言葉も、
逆さまにすると、

なんとなく可愛い。

(ええ〜〜っ)


大声で喋っていても、
普通の人には分からないので、
これがまた楽しい。

「○○○の、△△て、××だよな。
 ギャハハハハ。」

(最近は、ちょっとバレてきたので、
 要注意…。)



最初は、
「やっぱ、ジャズって、不良の音楽だな。」
と、思っていた私でしたが、

不思議なことに、
バンド用語を使いこなすことによって、

ジャズの演奏も、
上手くなっていくような、
気がしてくるんですね。

ある種の、
マインド・コントロール…?


「ジャズには、不良性が不可欠」
と言われていた頃の、

代表的な産物。


それが、この、

「バンド用語」

だったわけですね。


というわけで、次回は、

このバンド用語の使い方に関して、
不肖、この私が、
詳しく講義をしてみたいと思います。


えっ…?

いらない、そんなもの…?


あら、ちょっと、そこのあなた、

どこ行くの…?


えっ…?


バカバカしくて、付き合ってられない…?



まあまあ、そうおっしゃらずに…。



(つづく)



では、次回のために、

ちょっと予習をしておきましょうか。


冒頭の先輩の発言の中で、
使われていたバンド用語を、
カタカナにしてみましたので、

興味のある方は、
どうぞ、訳してみて下さい。


「あしたは、ゴトシがあるから、
 おまえらCネンは、
 マルクEダイで、
 キーガをはこぶように。
 とくに、スーベは、きをつけろよ。
 ナイアブだからな。
 シータクだいは、あとではらう。
 メンフのスーケは、モイオだから、
 てわけしたほうがいいな。
 じゃ、シクヨロ。」


;;…。



SHUN MIYAZUMI


woodymiyazumi at 22:52コメント(18)トラックバック(0) 
2009 エッセイ 

February 16, 2009

私のコレクション その4 最終回


一昨日からのゼブログ騒動。

いやあ、
ジャミン・ファンのみなさんには、
大変なご心配をおかけしてしまいました。

なかには、
徹夜なさった方も、数多くいらしたようで。

本当に、何とお詫びしていいのやら…。


でも、あれじゃあ、
誤解を招きますよね。

私も、「影の声」なんて、
中途半端なメッセージなんて残さずに、
堂々と実名で“種明かし”をしていれば、

もっと早い時点で、
ここまでの騒ぎにならなかったのに、

と、悔やまれてなりません。


ああ、

本当に、申し訳ありませんでした。

今後の教訓とさせていただきます。

陳謝…。


………。

………………。

……………………………。



ということで、

気をとり直したところで、


きょうも私は、

私の道をゆく。




『私のコレクション その4 最終回』


社会人になって、

ようやく仕事にも慣れ、
結婚もし、
一家を持つようになると、

よせばいいのに、
またまた私の収集癖が、
ムクムクと、

復活してしまいました。


ある日、本屋で買ってきた、
一冊の雑誌。

それは…、

『世界の名酒事典』



それまで、
国産の安ウィスキーしか、
飲んだことのない私にとって、

それはまた、
素晴らしく未知なる、
大人の世界。

外国映画でしか見たことのない、
甘美な、男の世界。


美しいラベルの数々。

世界のブランデー。

世界のモルト・ウィスキー。

高級感溢れる、琥珀色の液体。


毎日、家に帰ると、
そんなグラビアを、
パラパラと眺めては、

うっとりと夢見る私…。


そうこうするうち私は、
ハリウッド映画の一シーンの、
主人公になってしまっている…。


……。


そこは、
ニューヨーク郊外にある、
私の大邸宅。

きょうは、その大邸宅の、
広々としたサロンに、
友人をたくさん集めての、
楽しいホーム・パーティー。

召使いたちが、
美味しそうなカクテルや、
オードブルを、
せっせとお客さまに運んでいる。


そんな中、私は、
世界中から集めた、
おびただしい数の、
お酒のコレクションを、
みんなに自慢げに見せている。

そして、葉巻をくわえ、
最上級のブランデーを片手に、
おもむろに、
グランド・ピアノの前に座り、
ビル・エヴァンスばりの、
美しいバラードを弾きだすと、

私の周りには、
ドレス・アップした美女たちで、
たちどころに、
黒山の人だかり。


そして、ふと鏡を見ると、

私の姿は、

ケーリー・グラントばりの、

これがまあ、いい男…。


……。


ん…?

しだいに眠気が…。

zzz…。


………。



と、ここで、目が覚める。

現実に戻る。

「なあんだ、夢か…。」


そして、

私のそばの小さなテーブルの上には、

相変わらず、
『サントリー・ホワイト』という、
安いウィスキーの空き瓶と、

もはや氷も解けて、
ぬる〜くなったグラスがポツンと、
置かれている…。


でも、目の前には、
買って来たばかりのグラビア雑誌、
『世界の名酒事典』が、

開いたままに…。

……。


このとき、

私は決意しました。

「よーし。今度はこれだ!
 いつしか俺の部屋を、
 世界の名酒で埋め尽くしてみせよう。」


しかし、如何せん、

安月給、新米社会人の私には、
とうていこれは、
叶わぬ夢。


そこで注目したのが、

『ミニ・ボトル』の蒐集。


これなら、
場所もとらないし、
ラベルや中身も本物なんだし、
見た目も可愛い。

それに、これだったら、
私の収入でも、
無理なく集めることが出来る。

「よし、今はこれだ…。」



思い立った私は、
この『ミニ・ボトル』の蒐集を、
始めることにしました。

給料やボーナスを利用して、
次第に集まっていく、
世界の名酒の「ミニ版」

10本、20本と揃っていくうちに、
しだいに部屋は、
なんだか豪華な景観になっていきました。

リッチになったような、
錯覚を覚えるのです。

「ミニ」といえども、
あなどれませんね。



が、しかし…、

これも…、

長続きしませんでした。


なぜか…?


飲んじゃうからです。


(ダメじゃん)



ある日、帰宅した私は、

酒が無いのに気がつきました。


酒屋はもう閉まってるし、
当時は酒の買えるコンビニなんて、
ありません。

「困ったなあ…。」


しかたなく私は、
その『ミニ・ボトル』の中から、
比較的買いやすい一本を取り出し、

「ええい、すぐに補充すれば、
 いいんだから。」

と、封を開け、
氷の入ったグラスにドボドボ。


「く〜、うまい!
 グレン・モーレンジって、
 こんな味だったのか。」

大きなグラスだと、
一本なんてすぐに無くなるので、
今度は別のボトルを一本開ける。

「くわ〜〜、これもうまい!!
 これがヘネシーってやつか。」

さらに、

「どれどれ、これはどんな味なんだろう。
 どっひゃ〜、これもうまいなあ。」

……。



というわけで、

もうだめです。


補充なんてする前に、

あんなに苦心して集めた、
数十本のコレクションは、

たちどころに、
なんの変哲もない、

ただの空き瓶と化してしまいました。

あ〜あ…。



こうして、

このコレクションも、
なんら成立することなく、
あっという間に、

空しい終焉を迎えたのです。

やれやれ…。



繰り返しますが、

やはり私は、
「コレクター」という名の人間には、

ほど遠い性格に生まれてきたようですね。


ということで、
もう止めておきましょう。

どうせ、何も完成しないことが、
わかってるから。

残念ながら…。


でも、こうして思い出してみると、
人生の節々において、
とっても楽しませてもらったことだけは、

確かなようです。

ま、それだけは感謝ですかね。

みんな、ありがとう!



最後に…。

これは「コレクション」と言えるかどうか、
わかりませんが、
そんな私にも、
今だに続いているものが、

ひとつだけありました。


それは…、


漫画『ゴルゴ13(サーティーン)』
の単行本。

(誰だ、笑ったのは)



リイド社から出ている、
カラー表紙の、
豪華な単行本。

その数、なんと、

151巻。

(2009年2月15日現在)


151巻というと、
すごい数ですよ。

床に並べたら、
おそらく20帖くらいのスペースが、
必要になるでしょうね。

聞くところによると、
この最終回は、すでに書かれてあって、
著者、さいとうたかを氏の金庫に、
厳重に保管されているとか…。


というわけで、こうなったら、

私は、さいとうたかを氏より先に、
死ぬわけにはいきません。

ゴルゴの最後と、
イチローの最終安打数を見届けるまでは、

死ねるもんですか。

ええ。



しかし…、

57年も生きてきて、

パーフェクト・コレクションが、

「漫画」だけというのも、


ちょっと寂しい気がしてきましたね…。


さすがに…。



(おわり)



あんな事があったから、

か、どうかはわかりませんが、
昨日のゼブログは、

未曾有のにぎわいでした。

1,200人を超える訪問者数。
10,000を超えるページ・ビュー閲覧数。

いずれも、過去最高の記録です。

ビックリしました。


みなさんに大いに感謝して、

メンバー共々、
ますます気を引き締めて、
頑張らなければ、いけませんね。

はい、頑張ります。

(おおい、聞いたかー)



では、私は、

目標のアレンジも完成したことだし、


きょうは一杯飲むとしますか。


(なんだかんだ言って、
 けっこう飲んでるだろ)


……。



SHUN MIYAZUMI

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2009 エッセイ 

February 09, 2009

私のコレクション その3


ああ、人恋しい…。

みなさん、お元気ですか。


この一週間、

私は、ほとんど家に籠(こも)って、
五線譜と格闘しておりました。

ジャミンの新曲が2曲。
3/28の鎌倉での、
コロラトューラ・ソプラノ
サイ・イエングアンさんとの共演曲が1曲。

いやあ、書いた、書いた。


外界との接触といえば、

気晴らしに出かける駒沢公園の景色と、
スタッフのショーちゃんとの、
電話による業務連絡のみ…。


ううむ…。

世の中、どうなっているんでしょう。

日本は、無事ですか…?

(ニュースくらい見ろ)


さらに今週は、あと2曲、
書かねばなりません。

ふ〜…。


しかし、きょうは、ちょっと息抜き…。

楽しい(?)、ブログの更新。


現実を忘れて、

過去の自分にタイム・スリップ。


こういう時間も、


大事、大事…。


(ですよね…?)




『私のコレクション その3』


小学生の私が、
夢中になって集めていた、

「マッチのラベル」

そして、

「切手」


今は、どちらも、
中途半端なまま、

実家の押し入れの中に眠っています…。


しかし、私の蒐集欲は、
飽きることを知りません。

中学に上がった頃からは、

今度は、音楽に目覚めました。


「レコード・コレクター」


これが、次の私の、

目指すところでありました。


が…、


これも、ダメでしたね。


詳しくは、
過去ログにある、
『レコード買いまくり時代』
を、お読みいただけるとわかるのですが、

好きなジャンルが多すぎるのです。



最初はクラシックでした。

中学生の分際で、
生意気にも、
「レコード芸術」などという専門誌を読み、

小遣いは、すべてレコード代に投資。


とにかく、曲をいっぱい知りたいので、
演奏の質や、著名な演奏家などには、
まったく、こだわらない。

これ、無名の演奏家だよ…?
「安いから、買いま〜す。」

水につかったレコード…?
「廉価盤、大歓迎で〜す。」

人のお古…? 傷がついてる…?
「けっこう、けっこう。
 何枚でも下さ〜い。」


てな調子で、
せっせと集めては、

時間があると、
毎日のように聴いておりました。

まさに、クラシック漬け。


しかし…、

中学校の後半からは…、

ビートルズ、モンキーズ、ビーチ・ボーイズ。
シュープリムスやママ・パパに、
ライチャス・ブラザース。
セルメンのボサノバに、ジャクソン5に、
オーティス・レディング。
アズナブールやベコーのシャンソン。
ジリオラ・チンクエッティやミルバのカンツオーネ。
etc.etc.

が然、洋物ポップスにハマる。

クラシックと併行して、
今度は、ポップスのレコードが加わる。

こっちも、せっせと買う。


さらに…、高校に入ると…、

ドアーズ、クリーム、ジミヘン、
BS&Tにシカゴにツェッペリン、
スティービーに、アレサに、バカラックに…、

そして…、ついに…、


ジャズ。


あ〜あ〜〜〜…。



もう、いけません。

この節操のなさは、

コレクターには向きません。


この時点で、

「レコード・コレクター」の道は、

あきらめました。


ビートルズとプレスリーを、
全部揃えていた、
高校1年の同級生のN君。

クラシックひと筋20,000枚の、
東芝EMIのHさん。

ジャズならおまかせ6,000枚の、
凄腕コレクター老人。


ちょっぴり、羨(うらや)ましくもありますが、

仕方ありません。


でも、いい物はいい。

私の場合、
どんなジャンルでも、
無節操に好きになってしまうのですから、

こうなったら、

親を呪(のろ)うしかありません…。


でも、今にして思えば、

この無節操体質こそ、


歓迎すべきもの、

だったのかも、しれませんが…。



さて、

大学に入ると、

今度は、
映画のパンフレット集めに、
夢中になりました。

(まだ、やるか)


この頃の週末は、

きまって、
渋谷、新宿の安い映画館に、
通っておりました。


日比谷のロード・ショーなんて、
高いから、
めったに行きません。

半年も経てば、
渋谷や新宿の映画館に、
降りてくるんですから。

「渋谷文化」
「渋谷全線座」
「東急名画座」
「京王名画座」

100円2本立て。
200円3本立て。

(「全線座」は、雨ザーザーでしたが…。)


いやあ、懐かしい。

おりしも、その時代は、
「アメリカ青春映画」全盛の頃。

私も、青春の頃。

(え…? どうでもいい…?)

まあ、まあ。


でも、いい映画ばかりでしたね。

「明日に向かって撃て」
「マッシュ」
「俺たちに明日はない」
「いちご白書」
「ウッドストック」
「青春の光と影」
「シンシナティ・キッド」
「アメリカン・グラフィティ」
「スティング」
「卒業」
「タクシー・ドライバー」

などなど、などなど…。


そして、そこには、

ロード・ショーで売り残した、
「オリジナル・パンフレット」が、
400円くらいで、
売られているのです。

そのオリジナル・パンフレットを買って、
家に帰ると、
その映画の名シーンを思い出しては、

ひとり、ニヤニヤしたり、

感傷に耽(ふけ)ったり。

(やっぱ、暗いぞ)


そんな、

今となっては懐かしい映画のパンフレットが、

かれこれ、
100冊近くも溜(た)まったでしょうか。



しかし…、

それも…、

ジャズに狂い初め、

社会人になって、
仕事に翻弄(ほんろう)され、

ビデオや衛星放送で、
容易に映画が楽しめるようになると、

自然消滅…。


この、膨大なパンフレットも、

やはり実家の、

押し入れの中…。



こうしてみると、

私は、

終始一貫して、
何かを完璧に揃えるといった、
コレクターズ精神には、

ほど遠い体質なのかも、

しれませんね。



しかし、


私は懲りないのです。


今度は…?



(つづく)



ああ、人恋しい。

お酒飲みた〜い。


でも、我慢です。

明日から、また、

創作の日々です。


書いて、書いて、書きまくるのだー。



ん…?


いかん…。


こんなこと書いたら、

本当に、飲みたくなってしまった。


あ、何支度(したく)してるんだ、

おまえは…。


こら、やめろ。

意志の弱いヤツめ。


おい…。


……。



SHUN MIYAZUMI

woodymiyazumi at 18:08コメント(36)トラックバック(0) 
2009 エッセイ 

February 02, 2009

私のコレクション その2


昭和37、8年頃だったでしょうか…。

私は、小学校5、6年生。


ある物の蒐集が、

ちょっとしたブームになりました。


それは、

大人から始まり、
またたく間に、
私たち小学生(特に男子)にも、
‘飛び火’した物なのですが…、

私も、ご多分にもれず、
その蒐集には、
夢中になってしまいました。


ダッコちゃん…?

古過ぎですよ、あーた。


フラフープ…?

それも、ずっと前です。

しかも、あんなもん集めて、
どうすんの…?


プラモデル…?

だからー、私は、手先が、
不器用なんですって…。


さて、それは…、

……、



『私のコレクション その2』


「マッチのラベル」コレクションが、
思いもかけず、
早々と成立不可になってから、

すぐさま、
私を夢中にさせた蒐集。


それは…、


切手でした。



ある日の放課後のこと。

クラスの仲間数人に誘われるがままに、
デパートに行った私は、

そこに…、

思いもかけぬ‘売り場’があることを、
初めて知ったのです。


それは、

「記念切手」の売り場でした。



それまで、

「切手」といえば、

ときどき、
封筒に貼られて家にやって来る、
スタンプが押してある、
額面が10円の、
さして美しくもない、
「通常切手」

(そう、当時は10円でしたね。)

一色刷りの、
なんの変哲もない、
ただの切手。


それしか、知りませんでしたから、

今、目の前の、
ガラスの陳列棚に並んでいる、
色鮮やかな、美しい、
もちろんスタンプなんか押されていない、
「記念切手」の数々を見たときには、

ため息が出るような、

感動を覚えましたね。

(なんだ、これは…。)



「浮世絵シリーズ」
「季節の花シリーズ」
「国立公園シリーズ」
「国定公園シリーズ」
「皇太子ご結婚記念切手」
「北陸トンネル開通記念」
「マナスル登頂記念」
「関門海峡トンネル開通記念」

などなど、などなど…。


その、眩(まばゆ)いばかりの色彩感。

美しいデザインの数々。

(へえ、世の中には、
 こんなものがあったのか…。)



さらに驚いたのは、

額面はみな10円とか5円なのに、

それらの切手には、
40円だの、100円だの、500円だの、
中には数千円といった値段が、

付けられているではありませんか。

(なんで…?)



ところが、
一足先に、その存在を知っていた、
クラスの仲間どもは、

「俺、きょうは、コレとコレ買おうっと。」

「あっ、俺、コレ探してたんだー。
 おねえさん、コレ下さい。」

と、財布の中からお金を出して、
惜しげもなく、
額面よりも、はるかに高い切手を、
買うのです。


そして、こうも言う。

「これ、今は50円だけど、
 半年もすると、
 絶対、(値が)上がるぜー。
 楽しみだなあ。」

「……。」



そうなんですね。

この頃は、
切手が‘投機’の対象になっていて、
持っていると、
自然と値段が上がっていく時代。

それがまた、
大ブームの原因でもありました。


物によっては、

50円に値付けされた切手が、
半年後には100円に上がり、
1年後には300円で、
売買されたりもする。


もっと、すごいのになると…、

「浮世絵シリーズ」の、
『月に雁』や『見返り美人』
といった、もともと数が少なく、
入手困難な切手は、

当時でも、
20,000円から30,000円といった、
信じられない値段がついていましたし、

戦前の「国立公園シリーズ」なども、
一枚5,000円から10,000円はするものが、
ズラリ…。


そして、

切手商が子供に襲われたり、
子供たちの間で、
高価な切手が取引されたり、

しだいに、そのブームは、
社会問題にもなるほど、

エスカレート。

……。


ま、今にして思えば、
大人が始めたにせよ、

小学生にとっては、
あまり歓迎すべきブームでは、
ありませんでしたね。


しかし、私はハマった…。

ええ…、

すっかりハマってしまいました。


通常の切手とちがって、
綺麗なカラーで印刷された切手が、
一枚一枚、
スクラップ・ブックに増えていくのを眺めるのが、

極上の楽しみになりました。



いや、本当に綺麗なんです。

海外の切手と比べても、
日本の切手の方が、
ずっと色彩感が素晴らしい。

当時の日本の印刷技術は、
世界でも、
有数だったのではないでしょうか。


当時、私の小遣いは、

せいぜい、
月に300円から500円、
といったところですが、

お年玉も、
親戚からお小遣いを貰っても、
ほとんどが切手代に消える。

それでも、欲しい切手は、
次から次へと出てくる。

まるで、アリ地獄。

(こんな、気の遠くなるようなコレクションを、
 始めても、いいのだろうか…?)

でも、楽しい。

もう、やめられない。


そんな、毎日でした。


それに加えて、

幼心にも、
自分の財産が増えていく楽しさもある。


毎年更新されるカタログを見ては、

「おお、こんなに上がってるぞー!」

「いっそのこと、売ってやろうかな。」


しだいに増えていく切手と、カタログを、
飽きもせず、
交互に眺める日々。

そんな日々を、送っておりました。



そんなある日…、

またしても、芸術的センスに乏しい、
私の父親が、
部屋にやってきた。


私は、嬉しそうに、
その綺麗な切手の何枚かを見せる。

「おとうさん、見て、見て。」


すると、この父親…、

「おまえ、この切手、いくらで買ったんだ‥?」

(また、そうきたか…。)


私、
「100円だよ。」

父、
「おまえねえ、ここには10円て書いてあるだろ。
 ということは、使うときは、
 10円の価値しかないってことだよ。」

私、
「だから…?」

父、
「だから、10円の価値のものに、
 なんで100円も払うんだよ。
 そんな金があるんだったら、
 参考書でも買ったらどうなんだ。
 ええ…?」

私、
「……。」



これ以上話すのもウザイので、
さっさと、
こんな父親は部屋から追っ払い、

私は、ふたたび、この、
私だけの、
小さな世界に没頭する。

しばし、ウットリと眺める。

(やっぱり、暗かったのか)



さらには…、

いつの日か、
このコレクションが、

莫大な財産となって、
私を狂喜させることを夢見て、

ひとり、ほくそ笑む。

(ウシシシ…)



ところが…、

そうこうするうちに…、

このブームは全国規模になり、
飽和(ほうわ)状態になり、
巷(ちまた)に、物があふれすぎ、

今度は値段が、

どんどん下がって行ったのです。


中には、
買ったときより下がるものも、
いっぱい出て来た。

まるで、何かと似てますかね…?


そして…、

あんなに高いお金を出して買った切手が、
どんどん二束三文の値段になるに従って、

私の熱も、

しだいに、

冷めていったのでした。



悲しいですねえ。

最初は、そんなつもりで、
始めたわけじゃないのに…。


結局は、お金の価値に、

心まで左右される。

……。



「これが、人間の性(さが)というやつか…。」


もちろん、ガキの分際で、
そんな気の利(き)いたセリフを、
吐いたとは思えませんが、

残念ながら、
このコレクションも結局、
中途半端に終わったことだけは、

確かです。



でも…、

たまに実家に戻ると、
当時のスクラップ・ブックを、
開くことがありますが、

やはり、今見ても、

美しいと思いますね。


そして、不思議なことに、

あとから無理して買った、
高価なものより、

少年時代に、
少ないお小遣いの中から苦労して買った、
30円、50円といった、
可愛い値段の「記念切手」のほうが、

私にとっては想い出深く、
ずっとずっと、
美しく思えるのです。

ずっと、尊いものに思えるのです。


いや、

そういうものかもしれませんね。


お金の価値じゃない尊さ…。

……。



今後の教訓としますか。


(遅いかな…。)



(つづく)



ところで、

切手蒐集って、

やってたのは男子ばかり。


クラスで、
嬉しそうに自分のコレクションを見せ合う、
我々、男子の群れを、

実に冷ややかな目で見ておりましたね、

女子…。


なぜでしょう…?

なぜ、女の子は、

興味がなかったのでしょう…?


今頃になって、

不思議な気がしてきました。


ま、


どうでもいいか…。



SHUN MIYAZUMI

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2009 エッセイ