April 2009
April 29, 2009
犬猿の仲
私が学生時代所属していた、
「K大ライト・ミュージック・ソサエティ」
の2年後輩に、
A野君というギタリストがいます。
1年生で入部してきたときから、
そのテクニックは驚異的なレベルで、
あっさりとレギュラーを獲得。
立派なもんです。
そうだ、思い出した!
かつて『将棋と私』に登場した、
あの、‘将棋の達人’でギタリストの、
愛すべき、F井君。
(覚えてますか…?)
3年生の春、
上級生がいなくなり、
「よし、これで次のレギュラーは俺だ。」
と喜んだF井君を、
奈落の底に突き落としたのが、
この、A野君だったのです。
……。
時は流れて、4年後。
大学を卒業した彼は、
私と同じ系列会社の、
「アルファ・ミュージック」
に就職してきました。
「シュンさん、
またよろしくお願いします。」
とA野。
「うむ。しっかりやれよ。」
と、先輩面(づら)の私。
そんなある日のこと。
私は、
彼の卒業リサイタルのパンフレットの中に、
こんなページを見つけました。
そこには、
卒業生の個人写真が何枚か掲載されており、
それぞれ下にコメントが記されている。
A野○○
「最近、犬に似てきたリズムの大御所」
……。
そう言えば、
確かに似ている…。
犬に…。
ま、言い換えれば、
‘童顔’ということでしょうね。
当時の彼は、
髪の毛もフサフサで、
(アハハ、すまんA野。)
なかなかのアイドル顔。
それもそのはずで、
中・高校生のときは、
有名な某アイドル事務所に所属。
「F・リーブス」なるグループの、
バック・バンドのギタリストとして、
毎週テレビに出ていたそうですから、
可愛い顔はあたり前。
(最近は、見る影もありませんが…。
あ、いや、それは私も同じか。)
それにしても、
この表現は言い得て妙です。
その写真の彼は、
まさに、犬顔。
(もしかすると、
こいつの前世は、
犬かもしれない…。)
一瞬そう思った私でしたが、
その数日後のこと…。
彼は大きなヘマをやらかしました。
私は、当然、上司として叱る。
私「おい、A野、ガミガミ、グチャグチャ…。」
(彼は黙っている。)
私「おい、なんとか言ってみろ。◯▲▽★。」
(彼はなおも黙っている。)
私「黙っていてもわからん。
言いたいことがあれば、言ってみろ!」
しだいに、私の語気は荒くなる。
すると…、
彼の口から…、
思いもかけぬ言葉が出て来たのです。
「ワン」
人間、
切羽詰まると、
追い詰められると、
思わず本性が出るといいます。
この一言によって、
私の疑問はさらに深まりました。
(やっぱり、こいつの前世は、
犬かもしれないぞ…。)
このとき私は、
彼にアダ名を授(さず)けました。
それは、
「ポチ」
その当時、
もっともポピュラーだった、
犬の名前です。
もちろん、本人は嫌がりましたが…。
さらに、その数年後のこと。
私たちは、
仕事が終わると、
10人くらいで、
近くの居酒屋に飲みに行きました。
鍋を囲み、料理に舌鼓を打ち、
大いに飲み、大いに語る。
3、4人の女子社員も交えて、
楽しい時間を過ごしておりました。
そのメンバーの中に、
1年くらい前に入って来た、
K田君という男がいた。
この男のアダ名は、
「サル」
(この命名者は、
私ではありません。)
でも…、
アゴがちょっとしゃくれてて、
確かに言われてみれば、
猿顔。
そのサル、いやK田君が、
ポチ、いやA野君にお酌をしながら、
こう言った。
「ところで、ポチさん。」
その瞬間!
ポチ、いやA野の顔が真っ赤に紅潮し、
サル、いやK田の胸ぐらをつかみ、
「この野郎、おもてに出ろおもてに!!」
サル、いやK田君も、
「なにを〜!(怒)」
と、臨戦態勢。
さあ、大変。
乱闘になりそうだ。
私たち男性は慌てて、
二人の中に割って入り、
二人を引き裂く。
私は、ポチ、いやA野を抱きかかえ、
「A野、やめろ。気を鎮(しず)めろ。」
と、説き伏せる。
すると、ポチ、いやA野は、
「シュンさん、離してくれ。
俺は前から、こいつが、
大嫌いだったんだ〜〜〜〜!」
「……。」
そんな、光景を、
心配そうに見守る女子社員。
「二人ともヤメて〜。」
と、涙目の女子社員。
と、思うでしょ?
違うのです。
みんな、下を向いて、
顔を真っ赤にして、
クックッ笑っている。
止めに入っている、
われわれ男性社員の顔もみな、
実はクシャクシャ。
なかには、大声で、
「あはははははは」
と、露骨に笑うやつもいる。
そして、
まあなんとか、
二人の気を鎮め、
酒宴は再開。
そのとき、誰かが、
ボソッと、
こう言ったのが印象的でしたね。
「犬猿の仲とは、
よく言ったもんだなあ…。」
そのとき私は、
ついに確信に至ったのです。
間違いない。
あいつの前世は、
間違いなく「犬」だ!!
(つづく)
さて、いよいよ、
ゴールデン・ウィーク。
浮き浮きするような季節ですね。
みなさんは、
どんなプランをお持ちなのでしょうか。
海外旅行?
里帰り?
ピクニック?
山登り?
スポーツ観戦?
温泉?
etc.etc.
いやあ、
楽しそうですねえ。
どうぞ有意義なGWを、
お過ごし下さい。
えっ…?
私…?
私は、家に籠(こも)って、
「会社の決算」と「アレンジ」です。
むむむ…。
……。
ま、これも宿命…。
SHUN MIYAZUMI
April 20, 2009
グレン・ミラー物語
先日。
「かまくら」というお題で、
私とジャズとの出会いについて、
書きました。
予想以上に、
面白がっていただきました。
なによりです。(笑)
しかし、
よく考えてみると、
それよりずっと前に、
私には、ある映画を通じて、
ジャズとの出会いがあったようです。
ただし当時は、
それが「ジャズという音楽」であるとは、
知りませんでした。
そんな知識もありませんでした。
ただ、
漠(ばく)然と、心地(ここち)よく、
自然にそんな音楽を、
受け入れていただけのことです。
♪♪♪
それは私が、
中学一年生のときですから、
1964年頃のことです。
ある日私は、
所属していたブラス・バンド部の先輩に、
映画に誘われました。
それは、
『ティファニーで朝食を』
『グレン・ミラー物語』
という、
古いアメリカ映画の二本立て。
『ティファニーで朝食を』の方は、
子供の私には何がなんだか、
チンプンカンプン…?
「オードリー・ヘップバーンって、
綺麗だなあ…。」
くらいの印象しかありませんでしたが、
(あ、、大人になってからは、
ちゃんと観ましたからね。ちゃんと。。)
『グレン・ミラー物語』には、
ものすごい感動を覚えました。
その後、たて続けに7回も、
映画館に通ったことを、
覚えていますから、
よほど、
気に入ったのでしょう。
……。
そんな、
『グレン・ミラー物語』

ご覧になった方も多いでしょうから、
ここで敢(あ)えて、
くどくどと内容は書きませんが、
いわゆる「伝記映画」としては、
“歴史に残る傑作”
と言えるのではないでしょうか。
グレン・ミラーと、
ほぼ同時期に活躍した、
「ジャズ・クラリネットの名手」を描いた映画、
『ベニー・グッドマン物語』とは、
大違いです。
この『ベニー・グッドマン物語』は、
ベニー・グッドマン(クラリネット)
テディ・ウィルソン(ピアノ)
ジーン・クルーパ(ドラム)
ライオネル・ハンプトン(ヴァイブ)
といった、伝説の名プレイヤーの、
‘本物の’演奏が観られる(聴ける)という、
素晴らしさはありますが、
「映画という芸術」
「映画というエンターテインメント」
という視点からは、
あまり感銘を受けませんでした。
(私はね。)
しかし、
『グレン・ミラー物語』の方は、
古き良き、
ハリウッド映画の香りがプンプンで、
娯楽映画としても最高。
じつに楽しい。
彼の人生の、
いろんなエピソードが、
ユーモアやペーソスを織り交ぜて、
快適なテンポで、
見事に描かれています。
主役の、
ジェームズ・スチュワートや、
ジューン・アリソンも、
心暖まる名演。
♪♪♪
ところで…、
中学一年生といえば、
私はクラシックに、
どっぷりハマっておりました。
(「レコード買いまくり時代」
「私のコレクション」参照。)
ところが、
この映画の数々の名シーンのなかには、
(どれも素敵なシーンですが)
特に「クラシック中毒」の私を、
ひどく揺さぶるシーンが、
いくつかあったのです。
その一つは、
グレンが「軍楽隊」の指揮者になって、
若い兵士を前線に送り出すシーン。
なんと彼は、
ジャズのスタイルで演奏を始めるのです。
これが有名な、
♪セントルイス・ブルース・マーチ♪
最初は戸惑いながらも、
しだいに、表情がほぐれていく兵士たち。
苦虫をかみつぶしたような顔の上官。
意外にも、ニコニコ笑いながら見つめる将軍。
(厳粛な行進曲も好きだけど、
こんな遊び心のあるサウンドも、
いいなあ。浮き浮きしてくる…。)
それから、
ロンドン郊外での演奏会中に、
突然、ドイツ軍の空襲があるシーン。
観客はみな、逃げ惑うのですが、
グレン・ミラー楽団は、
相変わらず演奏をやめない。
「あ、あぶない!」
と思った時だけ、演奏が止まる。
戦闘機が去ると、
また、そこから演奏が始まる。
この繰り返し。
これが、
曲の中で何度もブレイクがあることで有名な、
♪イン・ザ・ムード♪
(面白い発想だにゃあ…。)
代表作、
♪ムーンライト・セレナーデ♪
誕生のシーンも、
それはそれは印象的でした。
リハーサル中に、
肝心のメロディを吹くトランペッターが、
唇を痛めてしまい、
ひらめきで、クラリネットで代用したら、
思いもよらぬ、
今までに無い新しいサウンドが、
出来上がった。
(なんとも柔軟な対応だわさ…。)
しかし、なによりも、
それまで、
クラシックやポップスしか知らなかった私が、
もっとも驚いたシーン。
それは、
新婚のグレン・ミラー夫妻が、
ハーレムの、
とあるジャズ・クラブに遊びに行くシーン。
そこで演奏していたのは、
あの、ルイ・アームストロング(本人)
のバンド。
ルイは、例のダミ声で、
グレンに、
こう呼びかけます。
「やあ、グレンじゃないか。
どうだい、一曲、一緒にやらないか。」
すると、グレンは、
店の従業員から、
トロンボーンを受け取り、
ステージに上がって、
一緒に演奏を始めたのです。
「どうして、あんなことが、
出来るの…???」
それまで、
「譜面」を「忠実」に演奏する、
クラシックやブラス・バンド
の世界しか知らない私にとって、
これは、衝撃でした。
私が、アドリブ(即興演奏)や、
ジャム・セッション、
というものの存在を知るのは、
それから何年も後、
高校三年生の時ですが、
そのときの衝撃と疑問は、
ずっと私の中で、
潜在的に眠っていたのです。
(あんな風に、
打ち合わせもリハーサルもなしに、
素敵なアンサンブルができるなんて、
どうなってるんだろう?
でも、楽しそう…。)
……。
そして、6年後。
運命的なジャズとの出会い…。
そのとき…、
中学生のときから抱(いだ)き続けていた、
すべての謎が解けたのでした。
そして私は、即興演奏の楽しさに、
のめり込んでいく…。
♪♪♪
私が、音楽をやる上で、
いつも心がけていること。
「遊び心」
「自由な発想」
「柔軟な対応」
そして、
「アドリブ(即興)の面白さ」
ジャズのみならず、
音楽をやる上で不可欠、
かつ、最も重要ではないかと思ってる、
こうした要素は、
この映画によって、
最初に教えられたような、
そんな気がするのです。
それ以来…、
私は人から、
「あなたの一番好きな映画は何ですか?」
と聞かれたら、
真っ先にこの映画をあげるのが、
ずっと習慣になってしまいました。
(2番以降は、そのつど変わるけど、
この映画だけは、
いろんな意味で別格です。)
というか、
「好きな…」
なんて言葉じゃ言い足りない。
「人生を決められてしまった…。」
と言った方が、
いいかもしれませんね。
なぜなら、中学生のとき、
この映画を初めて観たときから、
私は心のなかで、
「将来、音楽の仕事で食べていきたい。」
と、かってに決めてしまったのですから…。
どうしてくれる。
え、『グレン・ミラー物語』
え、え、え、
……。
SHUN MIYAZUMI
April 11, 2009
A' TRAIN
東横線学芸大学の改札を左(西口)に出て、
すぐにUターン。
5メートルくらい、
線路に沿って歩いた左側に、
交番があります。
その角を右に曲がって3軒目。
赤い看板があって、
そこには、
こう書いてあります。
『JAZZ
A'TRAIN』

中に入ると、
そこは、
18人も入ればいっぱいの、
小さなジャズ・バー。
しかし、右側には、
立派なグランド・ピアノが、
所狭しと、
で〜んと横たわっている。

壁という壁には、
ジャズの名プレイヤーの写真や絵が、
飾られている。

そして、
「黒い帽子、黒いシャツ、黒いズボン」
のマスターが、
今日もヒマそうに、
節煙パイポをくわえている。
マスター
「いらっはい。」
私
「おや、ヒマそうだねえ。」
マスター
「クーキャナイ ターントゥー」
(注:クーキャとはバンド用語で、
客(キャク)のこと。
「Who Can I Turn To」
(フー・キャナイ・ターン・トゥー)
という有名なジャズ・スタンダード曲、
を文字った、くだらない洒落(しゃれ)。
クーキャ(客)ナイ(無い)。
つまり、「客がいない」という意味。)
私は、さっさと無視して、
いつものように、
カウンターの左隅に腰掛けて、
麦焼酎のボトルを出してもらい、
麦茶で割ってもらう。
「く〜〜、美味い!」
こうして、
今宵も始まりました。
「エートレ」の夜が。
ここで夜を過ごすのが、
ほとんど日課のようになっている私…。
平日は、ほぼ毎日。
少なくとも、週の半分は行く。
外出をして、
ここへ寄らないで、
まっすぐ家に帰ることは、
まず、ありません。
いわば、私にとっての、
ホーム・グラウンド。
憩いの場。
癒しの場。
「この店が無くなったら、
私は、どうすればいいんだろう…?」
きっと、困るでしょうねえ。
ま、私にとっては、
それほど貴重な、
そんな、お店です。

さて、
私がこのお店を気に入ってる理由は、
以下のとおり。
1.駅から近い。(10秒くらい)
2.安い。ほんとに。
3.歩いて帰れる。
4.気の合う仲間がいっぱいいる。
5.何よりも、マスターと、
(Kイチさんとしておきましょう)
いろんな意味で気が合う。
ありとあらゆる趣味がおんなじ。
食い物の趣味も、スポーツの趣味も、
人物評も、映画の話も、
くだらないジョークも、駄洒落のタイミングも、
ピッタシ・カンカンに合う。
6.ジャズ・バーなのに、
誰もジャズの話をしない。
くだらないジョークの応酬で、
いつも笑いがいっぱい。
7.迷惑防止条例に違反するような客は、
マスターが排撃してくれるので、
安心して飲める。
8.だから、女の子一人でも、
安心して来れる。
そして…、
9.ピアノが素晴らしい。
サウンドがご機嫌。
ま、ざっと、そんな感じでしょうか。
そんな『A'TRAIN』の、
楽しい仲間たち。
その筆頭は、
もちろん、マスターのKイチさん。
B級グルメの帝王。
野球、相撲、サッカー、ボクシングと、
スポーツ何でも好き。
特技は形態模写。
とくに、
かつての麻原彰晃の横山弁護士と、
かつて学大にあった、
とある中華料理店の女将(おかみ)の真似は絶品。
知るもの、抱腹絶倒。
五木ひろしの真似も最高ですが、
なぜか、
私にしか見せません。
独学でマスターした、
ロックン・ロール・ピアノも、
素晴らしい。
そして常連客では…、
まず、
赤ら顔の、
「こいでおしまい」こと、
K出先生。
くだらない、まったく笑えない駄洒落を、
これでもか、これでもかと連発して、
他のお客を疲れさせるのを、
極上の楽しみとしている、
中学校の困った教頭先生。
この人も、毎晩、
まっすぐ家に帰らずに、
学大のあちこちを徘徊しています。
ある晩、道でバッタリ会ったので、
「先生、どこ行くの。もう遅いよ。
早く帰んなよ。」
と言ったら、
「いや、僕は、アルク(歩く)ハイマーだから。
アハハハ。」
「……。」
それから、
台湾料理屋の若ママで、
可愛い顔をした女の子のくせに、
酒なんか一滴も飲めないくせに、
キツ〜いジョークをかまし、
カッカッカッと豪快に笑い飛ばす、
Y恵ちゃん。
この人の得意技は、
常連客の声帯模写。
(みなさん、気をつけましょう。)
でも実は、英語、中国語ペラペラの、
超インテリなのです。
映画も、詳しい、詳しい。
さらに、
九州男児で、
スポーツ観戦オタクで、やはり映画通の、
「暴れん坊将軍」こと、
松平健にそっくりな、
謎のデイ・トレーダー、K原君。
この人は、
面白い話をしようとして、
自分だけ結論を知ってるもんだから、
話が途中なのに、
先に、我慢できずに笑い出してしまう。
「マスター、あのね、ほら、あの人、
実はね、あ、あ、ア、アハハハハハハ。」
周りは、みんなポカ〜ン。
すかさずマスターが、
「おまえの、話は、つまらん!」
有名な大企業、F通にお務めのF野さんは、
いつも、終電間近に、
ニコニコ笑顔でやって来て、
「マスター、ビール下さい。」
と言うなり、
すぐに寝てしまう…。
大海原に漂流する船のごとく、
ゆらゆら、ゆらゆら。
マスターが、
「はい、お待ちどう。」
と、ビールを持って来た頃には、
すでに爆睡状態。
そして、1時間くらい経った頃、
パっと、目を覚まし、
「お勘定して下さい。」
と言って、また笑顔で帰って行く。
「……。」
かつて常連だった人も、
転勤や、引っ越しや、
それぞれの事情で来なくなったりで、
今は、私を含めたこの5人が、
「ウルトラ常連」
といったところでしょうか。
マスターを含め、
くだらないジョークの応酬で、
お互いの「脳細胞」を破壊しあう。
もうもう、お腹が痛くなるほど、
笑いこけてるうちに、
時計を見たら、深夜の2時。
「はい、みんな、もう帰って〜。」
とマスター。
(仕方がない。帰ってやるか…。)
外へ出て、
「じゃ、みんな、またね〜。
おやすみなさ〜い。」
と言って別れるが、
あくる日も、その次の日も、
結局、おんなじ。
おんなじメンバーで、
“脳細胞破壊合戦”
……。
これに、
「準常連」とも言うべき、
何人かが、
時々加わる。
渋谷の方に引っ越したので、
最近は頻度が落ちましたが、
私の相棒のベーシスト、
エディ河野。
学大で人気抜群のお好み焼き屋、
「キャベツ亭」の従業員、
Kョウ子ちゃん。
精神科医のくせに、
ジャズ・ピアノ抜群のM浪先生。
温厚なジェントルマンで、
ジャズ好き弁護士のK村先生。
(このお二人は、ともに、
東大出のエリートですが、
なかなかファンキーなオジサマです。)
それから、
私が、「三宿のジョニー・ハートマン」
と命名した、
甘〜いジャズ・ヴォーカルを聴かせる、
三宿の寿司屋のキンちゃんこと、
N口さん。
オーボエでジャズをやる、
珍しいミュージシャンの、
ケロンパ・Tモカちゃん。
ピアノの弾き語りで、
渋いスタンダードを聴かせる、
やり手実業家のJ・A君。
野口五郎、西城秀樹、郷ひろみ、森進一、
の声色を使い分けて唄う、
「My Romance(マイ・ロマンス)」
は、けっこう笑えますよ。
などなど…、
キリがないのでこの辺にしておきますが、
それはそれは、
「ジャズ・バー」とは名ばかり。
古典落語に出てくるような、
江戸の下町の長屋の井戸端会議、
と言った方が、
ピッタリかもしれません。
そんな『A'TRAIN』が、
本来の、
「ジャズ・バー」「ジャズ・クラブ」
つまり、「ジャズのお店」
に戻る日が、
月に一度だけあります。
それが、月末の最終金曜日の、
私が月に一度だけピアノを弾く、
「ミッドナイト・セッション」
夜の11時くらいに始まり、
最後は、朝の5時まで、
始発電車が動き出すまで、
プロ、アマ入り乱れての、
狂乱のセッションが、
果てしなく続くのです。
こんな楽しいセッションを始めて、
もうかれこれ、
10年になります。
が、しかし、
次回、4/24(金)から、
時間を早めて開催することにしました。
理由のひとつが、
最近、
「A'TRAINに行きたいんだけど、
そんな時間じゃとても無理。」
という人が増えてきたこと。
ま、そりゃそうですわ。
常識では考えられない、
時間帯ですからね。
さらに、
私の最重要仕事である、
ジャミン・ゼブのライブやイベントが、
翌日にあって、
ほぼ不眠状態で朝早く現場に行く、
といったケースが、
増えてきたこともあります。
でも、なによりも問題なのは、
「寄る年波」
というやつでしょうか。
私もマスターも、
50代後半を迎え、
アラカン(還暦)街道を、
まっしぐらの年令です。
もう、あんまり無茶をやってると、
寿命を縮めることになりかねない。
ま、そんなわけで、
彼とも相談した結果、
次回(4/24)からは、
こんなスケジュールで行くことにしました。
20:00 オープン
21:00〜22:00 一回目
22:30〜23:30 二回目
(終電には充分間に合います)
0:30〜1:30 三回目
(深夜族、ジモティーのために、
もう一セッション。)
あとは、ダラダラ・セッション。
そして、3時にはお開き。
帰って、即寝。
これから、ジャミンも、
ますます忙しくなるでしょうしね。
健康のことも考えたら、
ま、無難な選択ではないかと…。
どうぞ、ご理解の上、
どしどし遊びに来て下さい。
詳細は、カテゴリー別アーカイブにある、
「ライブのご案内」
をご覧下さい。
きょうは、スペシャル版でした。
明日は完全休養日にします。
「STB139」の反響が良くて、
嬉しいです。
では、おやすみなさい。
zzz……。
SHUN MIYAZUMI
April 05, 2009
恋するセゾン
さくら〜♪ さくら〜♪
みなさん、
もう花見は行かれましたか…?
桜の開花とともに、
春の訪れを歓ぶ。
毎年この季節になると、
「日本人に生まれて良かったなあ。」
と、しみじみ思いますね。
とくに今年は、
開花したあと「寒の戻り」があって、
その分、例年より長持ちしてくれたとか。
おそらく、
この週末が、
満開のピークでしょう。
さ、まだの方、
花見に出かけましょう。
ワッショイ、ワッショイ。
しかし…、
その一方で、
満開の桜を見ると、
私には、
ある苦(にが)い想い出が、
よみがえってしまいます。
毎年、
この季節になると、
決まって…。
『恋するセゾン』
今、私の目の前にある、
一枚のシングル盤。
アナログ・プレイヤーの無い、
今の私にとって、
それを聴くことは叶いませんが、
私がプロデュースした中でも、
生涯忘れることのできない、
作品の一つです。
いろんな意味で…。
その曲とは、
松原みき
『恋するセゾン〜色恋来い〜』

松原みきちゃんといえば、
真っ先に浮かぶのが、
『真夜中のドア』
という曲。
70年代の終わりに、
当時流行(はや)り始めていた、
「フュージョン・サウンド」を、
いち早く歌謡曲(J-POP)に取り入れて成功した、
画期的な作品でしたね。
また、
『GU-GU ガンモ』
というアニメの主題歌も、
子供たちから、
圧倒的な支持を得ました。
覚えてらっしゃる方も、
多いのではないでしょうか。
あれは、1985年の年初め。
(だったと思います)
私は、ポニー・キャニオンから、
この、松原みきちゃんの、
プロデュースの依頼を受けました。
85年というと、
私は33才。
アルファを辞めて、
フリーになって間もなくの頃です。
自由奔放に、
のびのびと制作に励んでいた時代です。
しかも、彼女の、
ややハスキーな声と、
パンチのある歌い方は、
とても好きでしたから、
喜んでお引き受けしました。
さらに、この依頼には、
もうひとつ条件がありました。
当時、アルファ・レコードの専属で、
絶頂期を迎えていた、
「カシオペア」のようなサウンドを、
うまく取り入れて欲しい、
ということでした。
それも、おやすいご用です。
さすがに、
カシオペア・サウンドの中核である、
リーダー、野呂一生(ギター)君の器用は、
勘弁してもらいましたが、
キーボードの向谷実君を、
サウンド・プロデューサーに仕立て、
ドラムの神保彰君、
ベースの桜井哲夫君、
らにも参加してもらいながら、
録音は快調に進行。
フレンチ・ポップスの香りを漂わせ、
ヨーロピアン・ムードを狙った、
お洒落で、エレガントなサウンドは、
まさに、私の描いていた、
みきちゃんのイメージにピッタリ。
レコード会社の中には、
「ちょっと、お洒落すぎないか…?」
「サウンドにばかりこだわりすぎて、
楽曲が難しすぎないか…?」
「今流行りのポップスのサウンドから、
逸脱していないか…?」
といった、不安の声もあったようですが、
私は一向に気にしない。
初志貫徹。
私には自信がありました。
(なあに、このコンセプトは、
絶対受けるさ。)
アルバム・タイトルは、
『Lady Bounce』
私の大好きなジャズ・ピアニスト、
エロール・ガーナーが、
フランスの曲ばかりを集めたアルバム、
『パリの印象』の中にあった、
「Paris Bounce」
という曲名を文字る。
こんなとこまで、
フランスかぶれ。
さらに、私の自信をかきたてるもの。
それは…、
強力なシングル・カット曲の存在。
作詞:康珍化
作曲:亀井登志夫
両君の手による、
素晴らしい曲が、
出来つつあったからなのです。
とくに、作詞の康(かん)君とは、
その数年前に、
三好鉄生『涙をふいて』という曲を、
一緒に作った仲でもあり、
しかも、その当時、
『桃色吐息』(高橋真梨子)
『悲しい色やね』(上田正樹)
『君だけに』(少年隊)
といった、ヒット曲を連発。
冴えに冴えていたので、
大いに期待していましたが、
やはり、
狙った通りの、
素晴らしい詞が来ました。
「来い(こい) 来い(こい)
色恋(いろこい) 来い(こい)
花が咲く この心に
来い(こい) 来い(こい)
色恋(いろこい) 来い(こい)
ときめき待つ この胸に ♪」
どうです。
鮮やかでしょ。
2コーラス目のサビはこうです。
「来い 来い 色恋来い
花がまだ 咲いてるまに
セゾン セゾン 愛しても
すぐにあせる夢の色 ♪」
曲もポップで、弾(はじ)けてて、
スケールが大きくて、感動があって、
もう、文句無く素晴らしい。
まさに、春にピッタリの唄です。
折しも、
レコーディングは、
桜が満開の頃。
スタジオは、
かつて「カツオくんと私」にも登場した、
桜新町にある、
『スタジオ・ジャイヴ』
桜新町といえば、
その名のとおり、
桜の名所。
スタジオの周りも、
公園も、道という道も、
もうもう、
気も狂わんばかりの桜、桜、桜。
そんな桜をいっぱいに浴びて、
スタジオに入ると、
みきちゃんの、
天真爛漫な歌声が響きわたっている。

洗練された、都会的な、
カシオペアのようなサウンドに乗って。
♪♪♪
そしてアルバムは完成。

(楽しい打ち上げの写真)
私は、ヒットを確信しました。
満開の桜をバックに、
溌剌(はつらつ)と歌ってる彼女の、
プロモーション・ビデオ、
かなんかを想像しながら、
「これ、化粧品のCMにピッタリだな。
アハハハ。」
「いや、エアー・フランス航空もいいなあ。
ウシシシ。」
しかし…、
私は…、
プロデューサーとしてはあるまじき、
致命的なミスを犯していたのです。
通常、作品が完成してから、
発売になるまでは、
約3ヶ月の時間を必要とします。
したがって、
桜が満開のときに完成した、
この曲(アルバム)が発売されたのは、
6月…。
6月といえば梅雨の季節。
毎日、毎日、
鬱陶しい雨、雨、雨。
湿気ムンムン。
こんな曲をかけてくれる、
ラジオ局は、
どこにもありません。
ドラマの主題歌も、
CMも、
季節感が違うとハネられる。
……。
結果は…、
芳(かんば)しくありませんでした。
申し訳ないことをしました…。
数年後に、
このアルバムを、
もう一度聴いたことがあります。
たしかに、
コンセプトやサウンドにこだわりすぎて、
「唄(うた)」
というものを、
おろそかにした感じは受けました。
若気の至りとでもいいましょうか。
あのとき、
周りの何人かから受けた批判も、
今となっては、
甘んじて受けましょう。
しかし、
あの唄だけは、
どうしても、
当てたかった。
『恋するセゾン〜色恋来い〜』
だけは…。
……。
時は流れて、
2004年のある日のこと。
「そういえば、松原みきちゃん。
ずいぶん会ってないけど、
元気かなあ。」
と、突然思い出し、
ポニー・キャニオンの友人に、
電話を入れてみたところ、
信じられないような答えが、
帰ってきました。
「彼女、死んだよ。」
「……。」
気丈な彼女は、
誰にも悟られないように、
最後まで明るく振る舞っていたそうですが、
病名は、
「子宮頸癌」
44才という若さでした。
かわいそうに…。
私は、
毎年、
この季節になると、
東横線の中目黒駅を降りて、
目黒川の桜を見にいくのですが、
美しい桜並木を見るたびに、
どうしても、
彼女と、
あの唄を、
思い出してしまいます。
そして、天国のみきちゃんに、
そっと手を合わせ、
心の中で、こう呟(つぶや)くのです。
「みきちゃん、ゴメン。
ヒット曲を、
はずしてしまった…。」
もう、許してくれてるかな…。
SHUN MIYAZUMI