May 2009

May 25, 2009

犬猿の仲 その3


このシリーズの最後は、

ジャズ史上最も有名な、

「犬猿の仲(?)セッション」のお話です。


“モダン・ジャズの帝王”
マイルス・デヴィスが、
1954年に発表した不朽の名作。

『Bags' Groove(バグズ・グルーヴ)』


Bags Groove


今日のモダン・ジャズのスタイルを、
決定づけたといってもいい、
歴史的なアルバムなのですが、

このアルバムの、
もうひとつの話題は、

そのモダン・ジャズの創始者とも言うべき、
二人の偉大なプレイヤーの、
“歴史的共演”にあります。


ひとりは、言うまでもなく、

マイルス・デヴィス(Miles Davis)


ま、この人について語りだしたら、
それだけで、
軽く1週間分くらいかかりそうなので、
きょうは、やめておきますが、

一言(ひとこと)で言えば、
「マイルス=モダン・ジャズの歴史」

そう言っても過言ではないほど、
偉大な音楽家であり、革命児であり、
史上最もクールでカッコいい、
名トランペット奏者です。


そして、もうひとりが、

セロニアス・モンク(Thelonious Monk)


「ユニーク」という言葉は、
この人のためにあるのでしょうか。

あまりに風変わりなピアノ・スタイルと、
奇妙奇天烈(きみょうきてれつ)な言動で、
ジャズの歴史のなかでも、
異端児的な扱いを受けてしまいそうですが、

どっこい、さにあらず。


ビ・バップ全盛時代から、
モダン・ジャズの隆盛のために、
彼ほど寄与した音楽家も少ないのです。

『ラウンド・ミッドナイト』をはじめとする、
おびただしい数の、
素晴らしいオリジナル楽曲も、
ジャズを志す若者にとっては、
永遠のバイブルです。


その二人の巨人が共演した珍しいアルバム。

しかも、それが、

今日(こんにち)の、
モダン・ジャズのスタイルを決定づけた、
“歴史的共演”と聞けば、

こりゃ聴かないわけにはいきませんよね。


というわけで、

ジャズを始めたばかりの、
大学1年生の頃。

私はさっそく、
このアルバムを購入しました。


そして、期待をこめて、
レコード盤に針を落とす。
(今では、死語となりつつある表現だ…)

♪♪♪



おおっ!

いきなり、マイルスの、
大都会の夜のしじまに突き刺さるような、
あのクールなトランペットが、
テーマを吹き始める。


それをサポートするのが、

パーシー・ヒース(ベース)
ケニー・クラーク(ドラム)
という、

これまたクールな、

『MJQ(モダン・ジャズ・クァルテット)』
のリズム隊。

(いいぞ、いいぞ。)


そこに、
これまた『MJQ』のメンバーで、
当代随一のヴィブラフォン奏者、

ミルト・ジャクソン(Milt Jackson)が、

お洒落に、優雅に、
マイルスに絡(から)んでいく。

(く〜〜。いい感じだなあ。)


そして、テーマが終わると、
マイルスがアドリブ・ソロを取り始める。

音色、アイディア、グルーヴ感、
フレーズの多彩さ、テクニック、
ハッとするようなスリリングな展開、

もう、どれをとっても王者の風格。

ご機嫌というしかない、
トランペット・ソロが、
延々(えんえん)と続くのですが、

が…、


が……?


最初から、

セロニアス・モンクのピアノが、

まったく聴こえていないではありませんか。


普通は、

テーマ部分においても、
ソロ部分においても、

ピアノは、しっかりコードを弾いて、
ハーモニーを明確にし、
グルーヴのあるバッキングで、
テーマやソロを支えるのが役目なのですが、

どう聴いても、

ピアノがいない。


録音のバランスが小さいんじゃなくて、


いない…。


それでも、平気のへいで、
ベースとドラムだけで、
相変わらずご機嫌なソロを取る、

マイルス。

♪♪♪♪♪



そうこうしているうちに、

延々と10コーラスにも及ぶ彼のソロが終わり、

今度は、ミルト・ジャクソンのヴァイブが、
ソロを取り始めます。


と、そこに、

プニュ〜ッと、

恐る恐るといった感じで、

ようやくモンクのピアノが現れた。

♪♪♪


なぜか、ここでは、

ミルト・ジャクソンのソロでは、

何ごとも無かったかのように、

軽快なバッキングをするモンク。

(…??)



そして、

ミルトの素晴らしいソロが終わると、

いよいよ、


出ました!


これぞ、ワン・アンド・オンリー。

ユニークな、

モンクのピアノ・ソロが。


マイルスに負けず劣らずの、
火を噴くような内容。

力強いタッチ、独特のフレーズで、
これまた、
延々とアドリブ・ソロを展開。

(これも、ご機嫌だなあ…。)

♪♪♪♪♪



さて、

モンクのソロが終わると、

再びマイルスが登場。


すると…、

またしても…、

モンクが消えた…。


(???)


そして、そのまま、

モンクは、

最後まで登場しませんでした。



このアルバムには、

オリジナルの発売時には未発表だった、
もうひとつのテイクが、
収められているのですが、

やはり、おんなじです。


モンクは、

マイルスが演奏しているときには、

一切ピアノを弾いておりません。


(これじゃ、
 歴史的共演じゃなくて、
  “歴史的別演”ではないか…??)


……。



事の真相は、

後(あと)で知りました。


なんでも、
このセッションの直前、

マイルスとモンクは、
大喧嘩をしたそうなのです。


で…、

マイルスがモンクに、
「俺の吹いてるときはピアノを弾くな。」
と言ったという説もありますし、

モンクが、
マイルスの吹いてるときは、
嫌がらせのように腕を組み、
「絶対弾いてやるもんか。」
と、意地を張ったという説もあります。


いずれにしても、

ケッサクな話ですよね。


アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \。



しかし、録音は、
何ごともないかのように進められる。

他のメンバーや、
録音スタッフのことを思うと、
まことに、ご同情に耐えません。


このアルバムから受ける、

張りつめたような緊張感には、

そうした背景があったわけですね。



そして、

歴史に残る名盤が生まれた!!



いやあ、まいりました。

ここでも、
アメリカという国の底の深さに、

一本取られた感じです。



というか、

実力が際立ってないと、


できない芸当ではありますがね。



いや、いや、


すごい人たちだこと…。



(犬猿の仲 おわり)




幸か不幸か、私には、

「犬猿の仲」とも言うべき、

ライバルというものがおりません。


「自分のライバルは自分自身だ。」

などという大それた考えも、

毛頭ありません。



ま、あまり他人のことが気にならない。


そういう、

「ほんわか体質」に、

生まれてしまったようです。


ジャミン・ゼブはどうなんでしょうね…?



案外、同じ体質のような気も……。



SHUN MIYAZUMI

woodymiyazumi at 19:21コメント(36)トラックバック(0) 
2009 エッセイ 

May 18, 2009

犬猿の仲 その2の3


「ワウ・ワウ・ワトソンのバカ、呼んだの、
 まさか君じゃないよね?」


やれやれ…。

今度は、

デヴィッド・T・ウォーカーの番です。


D「 シュンくん。
  ワウ・ワウ・ワトソンの、
  あの、小汚い格好、どう思う?
  ここは、レコーディング・スタジオよ。
  僕たちの神聖な仕事場よ。
  ありゃ、昆虫採集か、釣りの格好ね。
  ま、育ちも悪いし、
  センスのかけらもないやつだから、
  仕方ないといえば、仕方ないか。
  ムフフフ。」
  
  (でも、スリーピースも、どうでしょうか?
   あんた、汗びっしょりですよ。)


さらに…、


D「 それに、あのギターもどうよ。
  ズキュ〜ンだの、ワカチュクだの、
  うるさいだけの、こけおどかしの、
  ハッタリだけの、お下劣な音の品評会。
  ありゃ、ギターじゃなくて、
  効果音よ、効果音。
  ムフフフ。。
  みんな、なんであんなやつを呼ぶのか、
  僕には、まったく理解できないな。」

 
 (と言って、この人も、
  カバンのなかから、
  一枚の名刺を取り出した。)

  
D「 シュンくん。
  ほら、コレ、僕の名刺。
  今度、ロスでセッションするときは、
  真っ先に僕に連絡するといい。
  あんな野蛮人の、イカレポンチじゃなくて、
  もっと、ちゃんとしたギターを、
  紹介してあげるからさ。
  悪い事は言わない。
  ね、ぜひそうするといい。わかるね。
  ムフフフフ。。。」

S「あ、わ、わかりました。」


D「 オッケー。
  じゃ、次のセッションもがんばろう。
  ま、ギターのことなら、この僕に、
  まかせておいてちょうだい。」


と、言うと、
ニコッと笑って立ち上がり、
ウィンクをして、

これまた、
悠然と立ち去った。

 
 (なんだかなあ…。)



私は、ますます不安になりました。

 (こう仲が悪いと、
  いつレコーディングが壊れても、
  おかしくない…。)


しかたなく、私は、

アレンジャー&サウンド・プロデューサーの、
ジーン・ペイジさんに、
事の顛末(てんまつ)を、

報告することにしました。



すると…、

このジーン・ペイジ氏。


笑いながら、

こう言ったのです。



G「いやあ、やっぱり言って来たか。
  アハハハ。
  なあに、心配はいらないよ、シュン。
  あの二人は、いつも、ああなんだから。。
  でね、アメリカのプロデューサーや、
  アレンジャーはみな、
  あの二人が仲の悪い事を、
  ちゃんと知ってるのね。
  だからこそ、、、
  逆にみんな、面白(おもしろ)がって、
  敢(あ)えて、あの二人を、
  一緒に呼ぶんだよ。」

S「というと…?」


G「つまり、こういうこと。。
  一方が「どうだ、この野郎!」
  と、挑発すると、
  もう片方は、
  「やったなー!」とばかりに、
  負けじと、よりパワフルな演奏をする。
  ま、これの繰り返し。」

S「で…?」


G「ところが、
  二人とも、まったくスタイルが違うから、
  サウンド上の喧嘩には、絶対ならない。
  ましてや二人とも、
  超一流の腕前だからね。
  むしろ、、
  ムキになって火花を散らしてくれた方が、
  こっちとしては、
  よりいい、二人の演奏が手に入る。。。
  だからみんな、
  あの二人をセットで使う。
  とまあ、こういうことなんだよ。」

 (す、すごい…。)


アメリカ音楽界の底の深さを、

まざまざと見せつけられた思いでした。



さて、
そんなことを話してる間にも、
スタジオのなかでは、

またまた、激しいバトルが再開。


「テケテケ♪ クインクイン♪」
と、渋いデヴィッド・T。

「ズキュ〜ン!」「ワカチュク!」
と、ド派手なワウ・ワウ。


「キッ」と、
ワウ・ワウを睨(にら)みつける、
デヴィッド・T。

「ワハハ、どうだ、この野郎、まいったか。」
とばかりに、意地悪そうな、
うす笑いをうかべるワウ・ワウ。


しかし…、

ジーン・ペイジ氏の言ったとおり、


二人が火花を散らせば散らすほど、

サウンドは、

ますます熱のこもった、

素晴らしいものになっていくのでした。


♪♪♪♪♪



こうして、

私の心配などなんのその。


二日間にわたるレコーディングは、
何ごともなかったかのように、
無事終了。

私は、次々と帰り支度をする、
ミュージシャンやスタッフに、
感謝を述べ、
一人一人と握手。


と、そこへ…、

ギターを背にしょった、
ワウ・ワウ・ワトソンがやって来た。


W「ヘイ、シュン。
  楽しかったぜ。
  また、やろう。
  ところで、今夜の予定は?」


今宵は、
ジーン・ペイジや吉田美奈子と、
会食の予定があり、

私が、その旨を彼に伝えると、

ワウ・ワウはこう言いました。


W「そいつはいいや。
  ジーンは金持ちだからな。
  しっかり、ご馳走になるといいぜ。」


 (で、ここで周りを気にしながら、
  ちょっと小声になり)


W「でもな。気をつけろよ。
  ヤツは、勘定を人におしつけて、
  トンズラすることが、たまにあるからな。
  なんとか、あいつに払わせるように、
  うまく立ち回るんだぜ。
  じゃあな。」


と、言うと、ニコッと笑い、
ウィンクをして、
陽気に立ち去った。



すると、今度は、

デヴィッド・T・ウォーカーが、

ギターを持って帰るところにバッタリ。


D「ハ〜イ、シュンくん。
  楽しかったよ。
  また、やろうね。
  ところで、今宵のスケジュールは?」


と、同じようなことを聞いてきたので、

私は、同じように伝える。


すると、

デヴィッド・T・ウォーカー、


D「 そりゃいい。
  彼はお金持ちだからね。
  うんと美味しいものを。
  ご馳走になるといい。」


 (で、ここで周りを気にしながら、
  ちょっと小声になり)


D「 でもね、彼はときどき、
  食べるだけ食べると、
  勘定を人におしつけて、
  さっさと消えることがあるからね。
  気をつけるんだよ。
  じゃ、また。」


と、言うと、ニコッと笑い、
ウィンクをして、
これまた、

クールに立ち去った。


 (こういうとこだけは、気が合うんだな、
  このふたり…。)



ま、そんなお話でした。


それにしても、

こんなこと、

日本では考えられませんね。


こと、ポップ・ミュージックに関しては、

やっぱり、すごい国です、

「アメリカ」って国は…。


ケッサクな話ながらも、

大いに学ばせてもらった、

若き日の私でした。



あのとき貰(もら)った、

二人の大物ギタリストの名刺は、


今でも私の、


大切な宝物です。



いろんな意味でね…。



(犬猿の仲 その2 おわり)




先週の四国旅行を、

息子のシマムくんが、

写真満載でレポートしてますので、

気になる方はチェックしてみて下さい。


(右上の、Link(Friends)、
 「宮廷作曲家シマム♪」
 をプチッとクリックすると、
 たどり着けます。)


ほとんど一緒に行動していたので、

私の見て来た景色も、

これと、ほぼ同じです。


おかげで、手間が省(はぶ)けました。(笑)

ありがとう、シマムくん!


ああ…、


また、行きたくなってきた…。



SHUN MIYAZUMI

woodymiyazumi at 01:00コメント(17)トラックバック(0) 
2009 エッセイ 

May 12, 2009

犬猿の仲 その2の2


何から何まで正反対の、
ギターの大物二人。

ワウ・ワウ・ワトソンと、

デヴィッド・T・ウォーカー。


動と静。

陽気で明るいワウ・ワウ・ワトソンに、
クールで無口なデヴィッド・T・ウォーカー。

Tシャツにデニムの短パンといった、
ラフな格好のワウ・ワウと、
スリーピースのスーツにネクタイといった、
フォーマルなスタイルのデヴィッド・T。

現代的なサウンド・エフェクトを駆使した、
豪快かつ華麗なプレイのワウ・ワウに対し、
ブルース・フィーリングに溢れた、
クールで、いぶし銀のような渋いサウンドの、
デヴィッド・T・ウォーカー。


いやあ、同じ黒人で、

同じギタリストでありながら、

こうも違うかという、
二人の大物ギタリストが弾くサウンドは、
まさに、これぞ本物の、

R&B(リズム・アンド・ブルース)♪


子供の頃から憧れ、
モータウンやクインシー・ジョーンズなどの、
レコードで慣れ親しんで来た、
これぞ本場の、一流の、

ソウル・ミュージック♪♪


(最高だ〜〜!)


そして、

演奏を終え、
ヘッドフォンをはずし、
コンソール・ルームにやって来て、
プレイ・バックを聴く様(さま)も、

これまた、正反対の、

二人。


全身で体を動かしながら、
「イエ〜イ」「イエ〜イ」と奇声をあげ、
ベースやドラムやキーボード奏者たちと、
ニコニコしながらハイ・タッチを繰り返す、
陽気でうるさいばかりの、
ワウ・ワウ・ワトソン。

その一方で、
部屋の片隅に一人佇(たたず)み、
瞑想でもするかの如く、
目をとじ、腕を組み、
静かにプレイ・バックに耳を傾ける、
デヴィッド・T・ウォーカー。


(いやあ、いいコンビだ。)


♪♪♪



こうして、

あっという間に最初の2曲を、
快調に録り終えると、

ちょっと休憩に入る。


なにはともあれ、
順調に滑り出したので、
ホッと、ひと安心の私は、

ロビーで一服。


プハ〜〜。

♧♧♧



と、そこへ…、

ワウ・ワウ・ワトソンがやって来た。


そして、私に握手を求め、

馴(な)れ馴(な)れしく、

茶目っ気たっぷりに、

話しかけてきた。


W「ヘ〜イ、おれ、ワウ・ワウ。
  え〜と、あんた、名前なんだっけ?」
S「シュン(Shun)です。シュン・ミヤズミ。」

W「おお、そうだった、シュンだ、シュン。
  よろしくな。」
S「いや、こちらこそ。」


(で、ここで周りを気にしながら、
 ちょっと小声になり)


W「ところで、シュン。
  ひとつ質問があるんだけど。」
S「なんでしょう?」


W「デヴィッド・T・ウォーカー呼んだの、
  あんた?」
S「いや、ミュージシャンの選択は、
  ジーン・ペイジさんに、
  全部まかせてあるんだけど…。」


W「ガハハハ。やっぱそうだったか。
  思ったとおりだ。」
S「それが、なにか?」


W「いや、デヴィッド・T・ウォーカーの、
  あの格好見た?
  笑っちゃうだろ。漫画だろ。
  ここは、スタジオだぜ。
  あんな暑苦しいスーツ着て気取ってるけど、
  誰に見せようってのかねえ。
  しかも、全然似合ってないし。アハハハ。」

 (ま、それは同感。
  そして、ワウ・ワウはさらに…。)


W「いつもああなんだぜ、あの男は。
  でも中身は、ただの田舎モンよ。
  キザに振る舞ってるけど、
  あれが、実は軽くて、C調な男なんだぜ。
  気をつけたほうがいいぞ、あいつだけは。
  な、シュン。わかるだろ?」
S「……。」


(そして、カバンのなかから、
 一枚の名刺を取り出して、
 こうも言った。)


W「シュン。コレ、おれの名刺。
  今度、ロスでセッションするときは、
  真っ先に、おれに電話しな。
  あんなキザな、イカサマ野郎なんかより、
  もっといいギター紹介してやっからさ。
  悪いことは言わねえ。
  な、そうしろよ。シュン。」
S「あ、ああ、わ、わかった…。」


W「ようし、じゃあ次のセッションも、
  バッチリ、がんばってくるからな。
  ギターだけは、まかせといてくれよ。」


と言って、ガハハハと豪快に笑い、
ウインクをして、
陽気に立ち去った。
  

(なんだかなあ…。)


私は、ちょっと不安になってきました。

レコーディングは始まったばかりだし、
この後も、明日もあるし、
このまま、何ごともなく、

無事に終わってくれるといいんだけど…。



そんな気持ちのまま私は、
スタジオに戻る。

3曲目が始まる。

しかし、そんな不安をよそに、
ますます演奏は快調です。


エド・グリーンのシャープなドラム。

ゴードン・エドワーズの、
パワフルなベース。

グレッグ・フィリンゲスの、
知的で華麗なキーボード。


そして、なによりも、

デヴィッド・T・ウォーカーの、
ブルース・フィーリング溢れるギターが、
相変わらず、
「これぞ、ファンク!」
というビートをきざんでいる。


そこに、

「ズキュ〜〜〜ン!」
という、ワウ・ワウの、
強烈な、ギター・エフェクト・サウンドが、
情け容赦なく飛び込んでくる。


すると、デヴィッド・T・ウォーカーは、
一瞬「キッ」とワウ・ワウを睨みつける。

しかし、すぐに冷静になり、
譜面を見ながら、
「テケテケ♪ クインクイン♪」
と、渋い、いぶし銀プレイに戻る。


そこに、またしても、ワウ・ワウが、
「ワカチュク!ワカチュク!」
と、挑発する。


そして、そんな、
「ズキュ〜〜ン!」や「ワカチュク!」
が鳴り響いたときの、
ワウ・ワウの顔をふと見ると、

これが…、

デヴィッド・T・ウォーカーを、
バカにしたように見ながら、

「どうだ。この野郎、まいったか。」
とばかりに、
あざ笑っているのです。


(あ〜あ、あんなに挑発しちゃって…。)


私の心配は、

つのる一方ですが、

でも、サウンドはますますご機嫌♪♪


そして、

アレンジのジーン・ペイジも、
他のスタッフも、
ニコニコしながら、
なにごとも無いかのように、
演奏を見守っている…。


なんとも不思議な光景ではありました。


こうして、さらに2曲を録り終えると、
再び休憩。


(やれやれ、まあなんとか、
 うまくいったようだなあ…。)


そして私は、

またしてもロビーで一服。


プホ〜〜。

♧♧♧



と、そこへ…、

今度は、

デヴィッド・T・ウォーカーがやって来た。


いかにも、Gentleman(紳士)。

といった感じを漂わせながら、
ニコッと笑って、
私のソファの隣に座ると、

渋〜い低音で、

こう言った。


D「ハ〜イ、僕は、デヴィッド・T・ウォーカー。
  え〜と、君の名前は、なんだったかな?」
S「シュン(Shun)です。シュン・ミヤズミ。」

D「ああ、そうだったね、ミスター・シュン。
  よろしく。」
S「いや、こ、こちらこそ。」


(で、ここで周りを気にしながら、
 ちょっと小声になり)


D「ところで、シュンくん。
  ひとつ、質問があるんだけど。」
S「なんでしょう?」


D「ワウ・ワウ・ワトソンのバカ、呼んだの、
  まさか君じゃないよね?」


「……。」



(つづく)




四国、行ってきました!

お天気にも恵まれ、

最高の3日間でした。


雄大な屋島の古戦場。

美しい瀬戸内海の島々。


そして、

美味しいうどん、美味しい魚、

酒、酒、酒。

あたたかいおもてなし。

(みなさん、ありがとうございました。)



初めて四国に行った、

息子のシマムくんも、

とても楽しそうでした。

(よかった、よかった。)



きょうは、現実に戻るのが、

なかなか大変でしたね。


というか、


まだ、戻ってないかも…。



SHUN MIYAZUMI

woodymiyazumi at 19:30コメント(14)トラックバック(0) 
2009 エッセイ 

May 06, 2009

犬猿の仲 その2


1978年の初夏。

私は、
アルファ・レコードのディレクターとして、
ロス・アンジェルスを訪れました。

吉田美奈子『愛は思うまま』
というアルバムの、
レコーディングをサポートするためです。


このアルバムのアレンジは、
ジーン・ペイジ(Gene Page)という人に依頼。

モータウンやアトランティックといった、
R&Bやソウル系の老舗レーベルで、
数々のヒット曲を手掛け、
「バリー・ホワイト」や「ラブ・アンリミテッド」
のアレンジでも知られる、
有名なアレンジャー&プロデューサーです。


(どんな、サウンドが出来るんだろう…?)

前日、彼のオフィスで、
入念な打ち合わせを終えた私は、
ワクワクしながら、

レコーディング初日を迎えました。


そのスタジオに、

続々とやってくる、
スタジオ・ミュージシャンは、
私の想像をはるかに超える、

すごい顔ぶれでした。


まず現れたのが、
ドラムのエド・グリーン。

(うわっ、エド・グリーンだ。
 この人、白人だったのか…。)

モータウンを代表する数々のアルバムで、
素晴らしいプレイを聴かせてくれる、
昔から私が大好きだった、
超有名ドラマー。

ジーンさんに紹介された私は、
「ナ、ナイス・トゥ・ミーチュー」
と、かなり興奮気味…。


そしてベースは、
ボブ・サップかと思わせるような大男の、
ゴードン・エドワーズ。

(なぬ、あのゴードン・エドワーズだと!)

この人も、
「スタッフ」や「デオダート」をはじめ、
膨大な数のアルバムにその名を残し、
ジョン・レノンのアルバムにも参加している、
すっごい大物。

「ア、ハ、ハジメマシテ;…。」


さらには、
グレッグ・フィリンゲス。

「スティービー・ワンダー」や、
「クインシー・ジョーンズ」
のアルバムにも参加している、
新進気鋭のキーボード奏者。

(まいったなあ、こりゃ…。)



と、そこへ…、

ギターを持った、
No天気な、
いかにもC調な感じの黒人が現れた。

よれよれのT・シャツに、
デニムの短パン。
昆虫採集にでも行くのかといった格好。

そして、
底抜けにでっかい声で、

「ヘイ、メ〜〜ン!」


これが、なんと、あの、

ワウ・ワウ・ワトソン
(Wah Wah Watson)


(おいおい、ワウ・ワウまで来るのか…。)

「ハービー・ハンコック」や、
「クインシー・ジョーンズ」
のアルバムでも聴かれる、
あの強烈なワウ・ギターが、
目の前で見られるのか…。


そして、もう一人…、

全然違うタイプの、
黒人ギタリストが来た。

こっちは、
チェックの3ピースのスーツに、
ネクタイまで締めて、

およそスタジオ・ミュージシャンとは思えない、
“ダンディ”なスタイル。


と思ってるのは、
たぶん本人だけで、
実は全然、似合っていない。

なんか場違い。

「ぷっ。」
と吹き出しそうな気障(きざ)ったらしさが、
やけに可笑(おか)しい男なのですが、

これが、

これまた、世界的に有名なギタリストの、

デヴィッド・T・ウォーカー
(David T Walker)



まいりました。

一人一人握手をする私も、
さすがに震えがくるような、
大物ばかりです。

(こりゃ、楽しみだな〜。)


そして、

ゾクゾクするような興奮の中、

いよいよセッションが始まる。

♪♪♪♪♪



いやあ、これだ、これだ!!

昔から聴いていた、
本物のR&Bのサウンドだ。

これがモータウン・サウンドだ。
アトランティックだ。

シュプリームスだ。
スティービーだ。
テンプテーションズだ。
フォー・トップスだ。
アレサだ。
マレーナ・ショウだ。


イェ〜〜〜イ!

キャ〜〜〜〜!

ドヒェ〜〜〜!


昔から、
愛聴してきた憧れのサウンドが、

今、私の目の前で、
華やかに繰り広げられている。


私は、

仕事を忘れて、

もう完全にミーハー気分。

(こりゃ、たまらん…。)



特に、印象的だったのが、
ギターの大物二人。

ワウ・ワウ・ワトソンと、

デヴィッド・T・ウォーカー。


この二人。

何から何まで好対照。


格好も正反対なら、
(方や、よれよれのTシャツに短パン。
 方や、3ピースのスーツにネクタイ。)

プレイも好対照です。


私の大好きなデヴィッド・T・ウォーカーは、
いつもの、あの、
渋い、ブルージーなサウンドで、
「テケテケ♪ クインクイン♪」
と、いぶし銀のようなバッキングを展開。

そこへ、
ジェット機の爆音のような、
ワウ・ワウ・ワトソンの、
「ズキュ〜〜〜ン♪」
「ワカチュク♪」
という強烈な間の手が入る。

(ああ、音楽を文章で表現するのは、
 難しい…。)


でも、この、
まったく相容れないかのような、
全然個性の違う二人のギタリストによる、
別次元のサウンドが、

不思議にも、
うまく混ざり合って、

ご機嫌なサウンドを生み出すのです。


そういえば、

この二人が同時に参加したアルバムも、

過去に何枚か聴いたことがあります。


(きっと、ああ見えても、
 実は仲良しなんだろうな。
 だから、ああやって、
 いつも一緒にプレイしてるんだろうな。)


そんな二人の演奏を、

微笑ましくも、
敬意を持って見ていた(聴いていた)
私ですが、

実は、これが、


大違いだったのです。



(つづく)



ありゃりゃ。

面白いところへいく前に、
終わってしまいましたね。

ま、次回をお楽しみに、
ということで…。


さて、GWもそろそろ終わり。

みなさん、
いかがでしたか。

私のGWは、
達成率50%でした。

決算は無事終わりましたが、
アレンジは撃沈しました。

アハハハ。

(やや自虐的)


ま、こういうこともある。

リセットだ、リセット。

気を取り直して、
初夏、夏の陣に向けて、
頑張りましょう。

楽しい企画を、
いっぱい考えてますからね。

乞うご期待です。


週末は四国です。

(親戚の法事)

シマムくんも一緒です。

(彼、初四国。)



お天気だといいなあ。



SHUN MIYAZUMI

woodymiyazumi at 20:53コメント(16)トラックバック(0) 
2009 エッセイ