2012年06月20日

背景:
アルツハイマー病は高齢者に頻発し認知症などを引き起こし、やがて死にいたる。特に先進国では患者数が増大し今後も増えていき、社会や経済に大きな負担となると考えられている。そのため、アルツハイマー病の治療法や予防法がさかんに研究されている。

要約:
アルツハイマー病を患っている患者の脳内には、例外なくベータアミロイドの蓄積がみられることから、両者は深くかかわっていると考えられており、ベータアミロイドがアルツハイマー病の原因となっていると多くの研究者は考えている。またベータアミロイドはクロイツフェルト・ヤコブ病や狂牛病を引き起こすプリオンのように、少量のそれが新たな原因物質の形成を促進することで広がっていくと考える研究者も存在する。

そこでこの度、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のStanley Prusiner博士らによって、マウスの脳内に移植された少量のベータアミロイドが、新たな形成を促進し脳全体へと広がることが示された。これまでにアルツハイマー病が伝染したという記録はないが、アルツハイマー病がプリオン病のように振る舞うとしたら、治療法や予防法について新たに考え直さなければならない可能性がある。

この研究では、彼らは他のマウスから取り出され精製された、最も有害であるとされるベータアミロイドをマウスの脳の片側へと注入し、蛍光性のある分子によってその蓄積を観察した。すると脳内でベータアミロイドの蓄積が広がり、300日後には脳全体へと広がっていった。また合成されたベータアミロイドでも、精製されたものよりはゆっくりとではあるがその広がりが確認された。

これまでにもベータアミロイドがプリオンのように振る舞う可能性は示唆されていたが、今回のように合成されたベータアミロイドが脳内にベータアミロイドの蓄積を促進するという、直接的な結果は得られていなかった。この結果により、ベータアミロイドはシーディングエージェント(seeding agent、元になる因子)として働くことが示された。

しかし研究チームは、マウスへ移植されたベータアミロイドの構造や、マウスの行動学的な変化を確認することは出来なかったため、今後はこれらを研究していくようだ。実際に今回の研究では、ベータアミロイドのどのような形態がプリオンのような挙動を引き起こしているのかは分からず、小さなアミノ酸鎖であるオリゴマーが問題であるのか、大きな繊維状の固まりが問題であるのかは判明していない。

バージニア大学の神経学者であるGeorge Bloom博士は、この結果は必ずしもベータアミロイドがプリオンのように働くことを示しているわけではないという。例えば、余分なベータアミロイドがその生成や除去に影響を与え、結果として新たな蓄積となって表れた可能性もある。しかし今回の結果は確かにプリオン病とよく似た挙動をしているという。

2002年には合成されたベータアミロイドをワクチンのように使って免疫反応を喚起する、軽度のアルツハイマー病患者を対象とした臨床試験が行われた。もし合成されたベータアミロイドがプリオンのように働くとしたら、彼らの中にベータアミロイドの更なる蓄積がみられるはずだが、これまでのところそのようなデータは得られていない。カリフォルニア大学サンディエゴ校のEliezer Masliah博士によると、もし合成ベータアミロイドにそのような事実があったとしても、それが表れる可能性はとても低いのだろうという。

brain

元記事:
Like a prion, Alzheimer's protein seeds itself in the brain
http://www.sciencenews.org/view/generic/id/341619/title/Like_a_prion%2C_Alzheimers_protein_seeds_itself_in_the_brain

参照:
J. Stöhr et al. Purified and synthetic Alzheimer’s amyloid beta(Aβ) prions. Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS). doi: 10.1073/pnas.1206555109.

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