2013年05月24日

背景:
薬のほとんどはその細かいメカニズムまで明確になっていないため、想像できないような副作用や逆に効能が見られることがある。昨年には、癌治療薬として利用されているベキサロテンが、アルツハイマー病にも効くことが示されていた。

要約:
昨年、癌治療薬として利用されているベキサロテン(Bexarotene)がアルツハイマー病にも利用できる可能性が示され大きな注目を集めたが、その後の追試験によってその効果に疑問が持たれることになった。元の論文はケース・ウェスタン・リザーブ大学医学校のGary Landreth博士らによって発表されたが、この度追試験を行った4つの独立した研究チームは、Landreth博士らの結果を完全に再現することはできなかった。

アルツハイマー病患者の脳内には例外なくベータアミロイドの蓄積がみられることから、原因物質として考えられている。Landreth博士らは、ベキサロテンがマウスの脳内のベータアミロイド濃度を減らし、さらに認知能力を回復させることを示していた。彼らの研究結果では、ベキサロテン導入後72 時間で、脳内の蓄積アミロイドが50%減少したことから、その大きな効果に注目が集まった。

ジョンズ・ホプキンス大学のPhilip Wong博士によると、これまでそれほどの効果を見せる薬が開発されたことはないため、多くの研究者がその研究の再現を試みたという。2つの研究チームに よって、後に蓄積する可能性のある水溶性のベータアミロイド濃度の減少が確認されたが、4つの研究チームのどこも蓄積されたベータアミロイドを除くことは できなかった。

また全ての研究チームがマウスの記憶力について調べたわけではないが、ピッツバーグ大学のRadosveta Koldamova博士率いる研究チームは、ベキサロテンがマウスの認知能力を回復させることを示すことができた。

Landreth博士によると、ベキサロテンの効果は誰が実験をしても再現できるものだと思っていたが、実際にはそうではないようで、なぜかは分からないという。彼は、おそらくほかの研究チームはベキサロテンを用意する過程に違いがあり、それによって脳内のベキサロテン濃度が変化したか、もしくは ベキサロテンの生化学的活性が変化してしまったのではないかという。

これらの追試験を受けてサイエンス誌へLandreth博士が投書した記事では、いくつかの追試験では先の論文の重要な2つの結論である、水溶性ベータアミロイド濃度の低下と認知障害の回復は示されていることが強調されている。また蓄積ベータアミロイドとアルツハイマー病とには、関係がない可能性 も考慮に入れなくてはならない。実際に過去10年間、様々な神経学者によって、脳に有害なのは蓄積したベータアミロイドではなく、水溶性のベータアミロイ ドなのではないかという疑問が提示されている。

このような議論はまだまだ続いているが、Koldamova博士によると彼女やLandreth博士が示した認知能力の改善によって、ベキサロテンがアルツハイマー病治療薬としてとても有望であることには変わりないという。アルツハイマー病患者は、ベータアミロイドの蓄積をみて医者へ行くのではな く、記憶力の減退を感じて医者に行くのだからという。

しかしこのように矛盾した研究結果は、アルツハイマー病の治療にベキサロテンを利用する前に、もっと多くの基礎的な研究が必要だということを示し ているという研究者もいる。フロリダ大学医学校のKevin Felsenstein博士らは、水溶性のベータアミロイドも蓄積したものも低下の証拠を示すことはできず、ベキサロテンのメカニズムについてはまだ明確 となっていないという。

またFelsenstein博士は、Landreth博士の研究結果によってベキサロテンが誤用されることを危惧している。通常研究中の薬を手に 入れることはそれほど簡単ではないが、ベキサロテンはアメリカ食品医薬品局(FDA)によって認可され皮膚癌の治療に使われているため、もうすでに市場に 出回ってしまっている。

実際に2012年8月には、The New England Journal of Medicine(ニューイングランド医学誌)によって、アルツハイマー病治療薬としてベキサロテンの無認可利用が広まっており、医者には臨床試験の結果 を待つようにと警告が発せられている。

Landreth博士の研究チームはすでに健康な人々を対象とした初期臨床試験を始めているため、医者や研究者の持っている疑問はやがて明らかになることだろう。

補足:
この記事の元となった研究は当ブログでも取り上げていたので興味のある方はどうぞ。
アルツハイマー病特効薬の開発2


brain

元記事:
Studies cast doubt on cancer drug as Alzheimer's treatment - Independent researchers fail to replicate bexarotene results
http://www.nature.com/news/studies-cast-doubt-on-cancer-drug-as-alzheimer-s-treatment-1.13058

参照:
Fitz, N. F., Cronican, A. A., Lefterov, I. & Koldamova, R. Science http://dx.doi.org/10.1126/science.1235809 (2013).
Price, A. R. et al. Science http://dx.doi.org/10.1126/science.1234089 (2013).
Tesseur, I. et al. Science http://dx.doi.org/10.1126/science.1233937 (2013).
Veeraraghavalu, K. et al. Science http://dx.doi.org/10.1126/science.1235505 (2013).
Cramer, P. E. et al. Science 335, 1503–1506 (2012).
Landreth, G. E. et al. Science http://dx.doi.org/10.1126/science.1234114 (2013).
Benilova, I., Karran, E., De Strooper, B. Nat. Neurosci. 15, 349–357 (2012).
Lowenthal, J., Hull, S. C. & Pearson, S. D. N. Engl. J. Med. 367, 488–490 (2012).

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

トラックバックURL

コメントする

名前
 
  絵文字