2013年07月31日

背景:
キイロタマホコリカビ(Dictyostelium discoideum)はアメーバ状の単細胞生物だが、食料が少なくなるとお互いに集まることで、ナメクジ状の移動体と呼ばれる多細胞集合体となるため、社会性アメーバと呼ばれることもある。

要約:
2011年には、キイロタマホコリカビが細菌を運び適切な場所で育てる、農業のようなことを行っているという発表があり、世界最小の農家としてメ ディアで話題になった。この度、ワシントン大学とハーバード大学の共同研究チームによって、キイロタマホコリカビは餌となる細菌に加えて、自身を守るため の細菌も保持していることが分かった。また餌となる食用細菌は、自身を守るための非食用細菌が変異した姿であることも判明した。

食用細菌は非食用細菌から様々な変異を起こしていたが、たった1つの変異によってゲノムの10%もの発現に影響を与え、餌となり得ていることが分 かった。この変異によって、ある遺伝子は発現が促進され、またある遺伝子は発現が抑制されているようだ。通常はこれほど大きな変異は生存に致命的であるはずだが、生成する化学物質を変化させ捕食可能となるという驚くべき効果を与えたようだ。

キイロタマホコリカビが農業を行うという発見は、ワシントン大学のDavid Queller博士とJoan Strassmann博士の研究室の一員であるDebra Brock博士によって、ライス大学に所属していた当時行われた。キイロタマホコリカビを研究するBrock博士らが顕微鏡上で観察を行っていたところ、 とても奇妙な行動をとる株を見つけ以前の発見へと至った。

その後Brock博士は、キイロタマホコリカビから培養皿上では全く違って見える、2株の細菌を単離することに成功した。しかし外見的には全く 違って見えた2株の細菌は、共にシュードモナス・フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)と呼ばれる同種の細菌であった。さらに奇妙なことに、それらは1つは食用となりもう1つはならないという全く違う特徴を持ってい た。

その後ハーバード大学のJon Clardy博士の研究チームに所属するPierre Stalforth博士の協力によって、非食用細菌の合成する2つの重要な化学物質が明らかになった。クロメンとピロールニトリンと呼ばれる2つの化学物 質は、共に農業を行う株の胞子を増加させ農業を行わない株の胞子を減少させるようだ。またピロールニトリンは抗生物質の1つとして知られ、キイロタマホコ リカビ以外の微生物を殺す役割を持っていると考えられる。

その後、2つの細菌株のゲノムを比べたところ、食用細菌ではピロールニトリンなどの合成に関わる遺伝子を含む、広い範囲にまたがる活性化因子が変 異し不能となっていた。その結果、ゲノムの10%にも及ぶ部位の発現が変化してしまったようだ。そして非食用細菌の同じ因子を不活性にすると、食用細菌と 同様の化学的組成を示し、同時に捕食可能となった。

さらに既知の細菌株のゲノムと比べることで、食用細菌は非食用細菌から枝分かれしたものであることが分かった。Queller博士によると、自ら が食べられるように進化をするというのは、とても奇妙なものに見えるという。しかし、他所に効率よく運ばれるようになることが、この細菌にとっても有効で あったのだろうという。

補足:
2011年の発見は、以前「細菌を養殖するアメーバ」という題名で記事にしていました。興味のある方はどうぞ。

dictyキイロタマホコリカビの多細胞集合体

元記事:
Social Amoebae Travel With a Posse: Tiny Single-Celled Organisms Have Amazingly Complicated Social Lives
http://www.sciencedaily.com/releases/2013/07/130729161759.htm

参照:
Pierre Stallforth, Debra A. Brock, Alexandra M. Cantley, Xiangjun Tian, David C. Queller, Joan E. Strassmann, and Jon Clardy. A bacterial symbiont is converted from an inedible producer of beneficial molecules into food by a single mutation in the gacA gene. PNAS, July 29, 2013 DOI: 10.1073/pnas.1308199110

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