2013年08月28日

背景:
記憶や学習は生物には必要不可欠な要素であり、もしその能力を失ってしまうと独りでは生存することができなくなってしまう。記憶障害を伴うアルツ ハイマー病は特に先進国で大きな社会負担となりつつあるため、その治療法開発にはどのように記憶が行われるのかを解明しなければならない。

要約:
物事を記憶し思い出す能力は生物の生存に不可欠であるが、記憶がどのようにして行われどこに保存されるかは、生物学上の重要な課題の1つとなって いる。これまで長期記憶は海馬に保存されると考えられていたが、マックス・プランク研究所のMazahir T. Hasan博士やスペインはパブロ・デ・オラビーデ大学のJosé Maria Delgado-Garcìa博士らによって、実際には大脳皮質に保存されていることが分かった。

HMとして知られるヘンリー・モライゾンは、記憶研究の分野では知らぬものがいないほどの有名人であった。HMは1950年代にてんかん性発作の治療として、学習や記憶をつかさどる海馬の大部分を切除された。その後彼は重篤な記憶障害を患い、長期記憶が全く形成されなくなってしまった。そのため、 長期記憶の保存場所は海馬であると結論付けられた。

しかし実際には、HMの負った脳へのダメージは大きく過小評価されており、海馬以外にも切除、もしくは傷を負った部分が存在した。また2012年には、マックス・プランク研究所のRolf Sprengel博士やPeter Seeburg博士らによって、海馬内でNMDA受容体を生成できないように遺伝子操作を行ったマウスには、学習能力が健在であることが示されたことで、 海馬が長期記憶の保存場所であるという説に疑問が持たれることになった。

NMDA受容体は、神経細胞へと同時に複数の信号が送られたときに、神経伝達物質であるグルタミン酸に結合することで活性化する。NMDA受容体は神経細胞への信号伝達の増減に深くかかわっているため、学習に必要な中心的な要素だとされている。そこでHasan博士らは、運動皮質内でNMDA受容体を生成できないように遺伝子操作を行ったマウスを利用して、学習や記憶について研究を行った。

彼らは瞬目反射と呼ばれる実験を行った。そこでは、ある音の後に電気刺激を与えることで、音が聞こえると反射的に目を閉じるように学習をさせた。 しかし、運動皮質内でNMDA受容体を生成できないマウスは、音と電気刺激の関係を記憶することができず、音がなっても目を開けたままであった。

これらの実験結果から、長期記憶の保存場所は海馬ではなく大脳皮質内にあると考えられる。この発見は、記憶研究において長い間信じられていた説が否定されるパラダイムシフトとなった。記憶や学習のメカニズム解明は、アルツハイマー病などの記憶障害を伴う疾患の治療には不可欠であるため、より詳細な理解へとつながっていくことが期待される。

brain

元記事:
Long-Term Memory Stored in the Cortex
http://www.sciencedaily.com/releases/2013/08/130827091629.htm

参照:
Mazahir T. Hasan, Samuel Hernández-González, Godwin Dogbevia, Mario Treviño, Ilaria Bertocchi, Agnès Gruart, José M. Delgado-García. Role of motor cortex NMDA receptors in learning-dependent synaptic plasticity of behaving mice. Nature Communications, 2013; 4 DOI: 10.1038/ncomms3258

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