2013年09月02日

背景:
生物の機能は通常老化とともに衰えていく。それは記憶力や学習能力も例外ではなく、齢をとるごとに物覚えが悪くなり、物忘れが激しくなってしまう。この症状が重くなると認知症となり、日常生活にも支障をきたすようになってしまう。

要約:
認めたくはない事実ではあるが、ヒトは30歳を過ぎると記憶力が徐々に減退していく。しかし、なぜ記憶力の減退は起こってしまうのだろうか。その原因として、初期アルツハイマー病によって徐々に記憶力が落ちていくのか、もしくは全く異なるメカニズムによって起こっているのかが、長い間議論の対象と なっていた。

近年の研究では、アルツハイマー病と加齢による記憶力減退には、記憶の形成や管理をつかさどる海馬内の異なる神経回路が関わっていることが示されていた。そしてこの度、コロンビア大学のScott Small博士らによって、記憶と直接関係があると見られるタンパク質が発見され、同時にアルツハイマー病による記憶力減退とは異なっていることが示され た。この発見によって、加齢による記憶力減退を防ぐ治療が可能となるだろう。

アルツハイマー病の進行についてはよく研究されており、神経細胞内にアミロイドベータと呼ばれるタンパク質が徐々に蓄積していくことで、脳組織が萎縮していってしまう。しかし加齢による記憶力減退については判明している事実はほとんどなく、分子レベルで何が起こっているのか、多くの謎が残っている。Small博士によると、それこそがこの論文で述べられていることであるという。

まず彼らは、33~86歳の8人の健康な人々を対象に、タンパク質などを生成するための遺伝子発現の差を比べ、同時にマウスの脳内でもどのような 変化が起こっているのかを解析した。するとある遺伝子の発現が、ヒトとマウスの両方で加齢とともに50%減少することが発見された。

この遺伝子はRbAp48と呼ばれるタンパク質を発現し、海馬の歯状回と呼ばれる部分の遺伝子発現をコントロールする。一方、アルツハイマー病によって影響を受ける海馬の部位は、加齢による遺伝子発現の変化は見られなかった。 またRbAp48を生成できないように操作を行ったマウスは、老齢のマウスやヒトと同様の認知能力低下を起こし、更に老いたマウスにRbAp48を与えたところ、若いマウスと同程度の記憶力へと回復した。

これらの実験結果は、RbAp48が加齢による記憶力減退に深く関わっていることを示している。しかし、RbAp48が実際にどのような役割を持っているのかはまだ明らかになっていない。現在のところは、記憶力減退を防ぐのに適度な運動などが推奨されているが、将来的にはRbAp48のようなタンパク質をターゲットとすることで、薬学的な治療を行えるようになるだろうという。

アメリカ国立衛生研究所(NIH)は国立老化研究所(NIA)のMolly Wagster博士によると、この研究はとてもすばらしく、加齢による記憶力減退を分子レベルで理解するのに重要な役割を果たすだろうという。 しかしこの研究では、海馬という脳の一部分だけに焦点を当てて研究を行っているが、加齢による記憶力減退は、脳の様々な部位が相互作用することで 起こっている可能性も考慮に入れなければならないという。今後は、マウスで観察された影響が、ヒトでも同様に見られるのかどうかを調べていく必要があるだろうという。

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元記事:
Memory Protein Fades With Age
http://news.sciencemag.org/brain-behavior/2013/08/memory-protein-fades-age

参照:
Elias Pavlopoulos, Sidonie Jones, Stylianos Kosmidis, Maggie Close, Carla Kim, Olga Kovalerchik, Scott A. Small and Eric R. Kandel. Molecular Mechanism for Age-Related Memory Loss: The Histone-Binding Protein RbAp48. Sci Transl Med. 28 August 2013: Vol. 5, Issue 200, p. 200ra115 Sci. Transl. Med. DOI: 10.1126/scitranslmed.3006373

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