2014年01月01日

2013年にも様々な科学的発見や進歩がありました。サイエンス誌によって10の発見・進歩が選定されたので紹介します。最後に紹介する「その1」が最も革新的な研究として選ばれましたが、その10~2は紹介する順番が違うだけで優劣はありません。

癌の免疫療法の発達(Cancer Immunotherapy)

過去ではなく現在起こっている出来事に関してその半ばにいる以上、歴史の道程を記述することはできない。サイエンス誌に選ばれた今年の最も大きなニュースは、議論の只中で実現すらも確実ではない、そのようなトピックであった。

免疫系に癌を攻撃させようという免疫療法を選ぶことで、最終的な結果すらも分からない手法を過剰に促進してしまうことはないだろうか。ほんの一部の患者にしか触れず、さらにその一部にしか効果を発揮していない手法を、革新的な研究として称えることに無責任さはないだろうか。何かを革新的(Breakthrough)と呼ぶことは、何を意味しているのだろうか。

これらの議論の結果最終的には、癌の免疫療法は革新的と呼ばれるにふさわしいと結論付けられた。なぜならば今年、さまざまな臨床試験によってその可能性が固められ、懐疑的な意見を一掃することとなったからだ。

一連の臨床試験では、さまざまな患者の寿命を延ばすことに成功した。例えば、メラノーマから転移し肺にグレープフルーツ大の腫瘍を持つ女性は13年後の今健康に生活しており、白血病によって6歳で死のふちにいた子供は3年生になり回復しつつある。さらに転移性の腎臓癌を患った男性は、治療を止めたのにも関わらず癌細胞は減少し続けている。

これらの出来事を科学的なデータに落とし込むと、パラダイムシフトによる新たなる領域が形成されていることが分かる。免疫療法は、癌細胞そのものではなく免疫系をターゲットにするという意味で、これまでの癌治療法とはまったく違うものである。多くの現実に直面してきた腫瘍学者によると、彼らはすでにコーナーを曲がっており戻ることはないだろうという。

現在、生化学的な観点を実用的な薬へと応用することに大きなプレッシャーが存在するが、免疫療法は慎重に長い時間をかけて基礎生物学から発展していったものであるため、その成功から学べることはあるだろう。

免疫療法の初期の発展は、テキサス大学アンダーソン癌センターのJames Allison博士によって成し遂げられた。1980年代の終わり、癌治療への応用はまったく考慮に入れていなかったフランス人研究チームによって、T細胞表面上に新たな受容体が特定されCTLA-4(cytotoxic T-lymphocyte antigen 4)と名づけられた。Allison博士は、CTLA-4がT細胞のブレーキとして働き、免疫機能のフル稼働を防いでいることを発見し、このブレーキを取り除くことで癌細胞を殺すことができないかと考えた。

Allison博士の理論的根拠は長らく試験されることはなかったが、免疫抑制に焦点を当て免疫抑制の操作をターゲットとみなすため、というある研究者の言葉と共に共同研究者との意見交換を続けた。

1987年にCTLA-4が発見されて以来実現するのに時間はかかったが、Allison博士は1996年にサイエンス誌上で、CTLA-4の機能を阻害する抗体によってマウスの腫瘍が消えたことを発表した。しかし過去の失敗や当時受け入れられていた癌治療法との乖離から、製薬会社が免疫療法に協力してくれることはなかった。そのため、プリンストンに位置する小さなバイオテクノロジー会社であるMedarex(メダレックス)の協力を得て、1999年に生物学から薬への応用を始めることができるようになった。

その後11年間は目立った成果を上げることはできないでいたが、2010年にメダレックスへ20億ドル以上の融資をしていたBristol-Myers Squibb(ブリストル・マイヤーズ スクイブ)によって、末期の転移性メラノーマを患った患者の寿命が通常ならば6ヶ月のところ、アンチCTLA-4抗体によって平均10ヶ月へと延び、その約4分の1が2年以上生存しているという発表があった。末期のメラノーマ患者の寿命が延びたという成果は、どのような癌治療法と合わせても初めてのことであった。

またこれまでに、アンチCTLA-4よりも効果が高く副作用が小さい抗体は現れている。1990年代の初めには、日本の生物学者によって死に行くT細胞内で発現されるタンパク質が発見され、PD-1(programmed death 1)と名づけられ、同様にT細胞のブレーキとして働いていることが分かった。彼は癌治療への応用は考えなかったが、そう考えた研究者はいた。例えばジョンズ・ホプキンス大学のDrew Pardoll博士はメダレックスのリーダーの1人に会い、アンチPD-1抗体の臨床試験について議論を交わした。

最初の臨床試験では、5種類の癌を患った39人の患者が対象となり2006年に始まった。2008年までに試験結果を収集し、対象患者のうち手に負えない症状を持った5人の腫瘍が小さくなり、数人は予想外に寿命が延びた。

このような成果を上げていても、これらの治療法が実際に体内でどのように効果を発揮しているのかを理解することはまだ難しい。他の癌治療法では効果的であるかどうかに関わらず、その答えは即座に分かることが多い。例えばアンチCTLA-4とアンチPD-1では、双方ともに癌が消える数ヶ月前に一度大きくなることがあった。

また他の事例では、抗体の投与を止めた後でも免疫系が働き続けていることがあり、このことは免疫系が根本的に変化していることを示している。また特にアンチCTLA-4では、副作用として結腸や脳下垂体などに炎症が起こることがあった。これら全ての事例は、免疫療法の影響として今後記述すべきものであり、医者は今やっと理解し始めたところであるため、学習曲線は急激に上昇するだろう。

免疫療法の他の分野でも同様の発展が続いている。アメリカ国立癌研究所のSteven Rosenberg博士らは何年もの間、癌へと遊走したT細胞を実験室内で培養し、難しい予後を過ごす患者へと再注入する手法を続けていた。この技術は、医者が癌細胞へとアクセスできる場合にのみ有効であるため、応用法はある程度限られている。

その後2010年にRosenberg博士は、患者のT細胞に遺伝的な操作を加えるCAR療法(chimeric antigen receptor therapy)についての研究成果を発表した。その後ペンシルベニア大学のCarl June博士らによって、白血病が消えたという目に見える結果が報告され、今月彼らによって、75人の白血病患者のうち45人は、後に再発した患者もいるが、回復しているという発表がなされた。現在までにCAR療法について多くの臨床試験が行われ、抗体療法と同様に新たな癌治療法となることが期待されている。

CAR療法はまだ実験段階であるが、抗体療法はゆっくりと主流になりつつある。少なくとも5の大手製薬会社に初期のためらいは見られず、アンチPD-1などの抗体開発が行われている。ブリストル・マイヤーズ スクイブの転移性メラノーマ治療薬であるIpilimumab(イピリムマブ)は2011年にアメリカ食品医薬品局(FDA)に認可されている。しかしその値段は12万ドルと高額である。

2012年と2013年初頭にはジョンズ・ホプキンス大学のSuzanne Topalian博士やイェール大学のMario Sznol博士らによって、約300人の患者へ行われたアンチPD-1療法の結果が報告された。そこでは、メラノーマ患者の31%、腎臓癌患者の29%、肺癌患者の17%は癌が半分以下の大きさへと縮まった。

今年はブリストル・マイヤーズ スクイブから、イピリムマブを投与された1800人のメラノーマ患者のうち22%が3年以上生存しているという、更に大きな成果が発表された。また6月には、イピリムマブと他のアンチPD-1抗体を組み合わせることで、約3分の1の患者に早く大きな効果があることが報告された。PD-1経路のブロックが寿命を延ばすという明確な証拠はまだ得られていないが、その生存率の高さから考えるととても有力であるようだ。

末期癌患者を亡くしてしまうことに慣れてしまった医者にとって、転移性の癌は未だに難しいとはいえ、数年前には考えられなかったほどの希望が生まれつつある。現在の免疫療法は全ての患者に利くわけではなく、研究者にとっても原因の手がかりは乏しい。そのため治療や研究をより効率的に行えるように、バイオマーカーの特定を急いでいる。もしかしたら、今後長期に渡って免疫療法が成功しない癌もあり得るかもしれない。

浮き沈みの激しい腫瘍学であるが、これだけでは確かであろう。1つの物語が閉じられ、新たな物語が始まっている。それがどのように終わるのかは誰にも分からないが。

healthy girl

元記事:
Cancer Immunotherapy
http://www.sciencemag.org/content/342/6165/1432.full
Science 20 December 2013: Vol. 342 no. 6165 pp. 1432-1433. DOI: 10.1126/science.342.6165.1432

参照:
C. June et al., “T-Cell Therapy at the Threshold,” Nat. Biotechnol. 30, 7 (July 2012).
D. M. Pardoll, “Immunology Beats Cancer: A Blueprint for Successful Translation,” Nat. Immunol. 13, 12 (December 2012).
D. R. Leach, M. F. Krummel, J. P. Allison, “Enhancement of Antitumor Immunity by CTLA-4 Blockade,Science 271, 5256 (22 March 1996).
H. Dong et al., “Tumor-Associated B7-H1 Promotes T-cell Apoptosis: A Potential Mechanism of Immune Evasion,” Nat. Med. 8, 8 (August 2002).
J. Couzin-Frankel, “Immune Therapy Steps up the Attack,” Science 330, 6003 (22 October 2010).
J. Couzin-Frankel, “The Dizzying Journey to a New Cancer Arsenal,Science 340, 6140 (28 June 2013).
J. D. Wolchok et al., “Nivolumab plus Ipilimumab in Advanced Melanoma,” N. Engl. J. Med. 369, 2 (11 July 2013).
S. L. Topalian et al., “Safety, Activity, and Immune Correlates of Anti–PD-1 Antibody in Cancer,” N. Engl. J. Med. 366, 26 (28 June 2012).

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