2014年03月07日

背景:
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染すると後天性免疫不全症候群(AIDS)を発症してしまい、免疫機能が低下することで、やがて死に到る。AIDSが確認されてから、現在までに約3000万人が犠牲になっており、依然として3500万人以上の人々がHIVに感染しているとみられている。

要約:
現在、HIVへの感染やAIDSに対する根本的な治療法は確立されておらず、HIVの感染から完治した例も限定的にしか報告されていない。その1人であるティモシー・ブラウン(ベルリンの患者)は、2008年にHIVに耐性を持つドナーから受けた骨髄(造血幹細胞)移植の後、体内のHIVが一掃され完治した。

HIVへの耐性は約200人に1人が持つとされる。通常HIVはヒトへ感染すると、免疫細胞のタンパク質を利用して免疫系から隠れてしまう。しかし、CCR5と呼ばれる遺伝子に変異が起こっていると、HIVはCCR5に発現されるタンパク質を利用できずに、免疫細胞から隠れることができなくなるため、ヒトが自然に持つ免疫系によって感染が防がれる。

しかし骨髄移植には大きな危険が伴い、また低確率で適合するドナーを待たなければならないため、ティモシー・ブラウンに行われたような治療法は現実的ではない。そこでペンシルベニア大学のCarl June博士やPablo Tebas博士率いる研究チームによって、患者から採取した血液に対してCCR5を除去する遺伝子操作を行い、その血液を患者に戻すことでHIVへの耐性を獲得させる臨床試験が行われた。その結果、患者のHIVへの耐性が高まっていることが示された。

臨床試験は抗ウイルス薬治療を受けている12人のHIV感染者を対象にして行われた。研究チームは、対象者から採取した血液を培養し、そこでジンクフィンガヌクレアーゼ(ZFN)と呼ばれる手法を利用して、CCR5遺伝子の機能を消去した。この血液を患者に戻すと、通常HIVによって破壊されてしまう免疫細胞の1つT細胞の量が増加した。

その後12人中6人の抗ウイルス薬治療を止め経過を観察すると、HIVの量は通常よりもゆっくりと増えていき、T細胞の量は数週間高いまま維持されていた。これにより、HIVの存在によってCCR5遺伝子を欠いた免疫細胞が増加していると見られ、HIVはこの遺伝子操作を行った細胞を破壊できていないだろうと考えられる。

また2つ1組のCCR5のうち1つにすでに変異を持つ患者には、この治療法はより効果的であり、抗ウイルス薬治療を止めた後でも12週の試験中にウイルスの量が増えることはなかった。この結果から、今回行われた治療法はCCR5の1つに変異を持っているHIV感染患者に有効であるとみられ、今後の臨床試験の指針として利用されていくことだろう。

Tebas博士によると、この小規模な最初の臨床試験に限ってみれば、HIV感染の遺伝子療法は安全であるようだ。今回みられた最も大きな副作用といえば、治療の過程で利用された化学物質によって、患者の体が数日間悪臭を放つというものであったという。

アメリカ国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)のAnthony Fauci博士によると、これで完成というわけではないが、HIV感染の遺伝子療法としてはとても大きな一歩となっただろう。また今後さらなる研究を続けていかなければならないが、幹細胞移植に比べればより実践的で応用可能な手法とみることができるという。

今回は遺伝子操作にZFNが利用されたが、現在はタレン(TALEN)やクリスパー(CRISPR)といったより新しく効果的な遺伝子操作技術が発表されている。ZFNでは遺伝子をただ排除するだけであったが、TALENやCRISPRではDNAを入れ替えることができるため、より効果的な応用が可能となる。これらの手法が医療技術へと広く応用されるにはまだ数年はかかるだろうが、すでに様々な疾患に対しての研究が始められている。

また南カリフォルニア大学のPaula Cannon博士は、様々な免疫細胞へと分化する造血幹細胞内のCCR5をターゲットとして同様にZFNを利用している。この手法がうまくいけば、更に効果的なHIV耐性を獲得させられる可能性がある。現在彼女らは、今年末には臨床試験が始められるように準備を行っているようだ。

gene mutation

元記事:
Gene-editing method tackles HIV in first clinical test - Enzymes alter immune cells with no apparent side effects
http://www.nature.com/news/gene-editing-method-tackles-hiv-in-first-clinical-test-1.14813

参照:
Tebas, P. et al. New Engl. J. Med. 370, 901–910 (2014).

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