脳脊髄液

2013年10月19日

背景:
睡眠は多くの動物にとって必要不可欠であるが、睡眠中は無防備となってしまうため大きな危険が伴う。なぜそれほどの危険を冒しながら、動物は睡眠をとらなければならないのだろうか。

要約:
動物はなぜ睡眠をとるのだろうか。何世紀もの間科学者や哲学者によって議論されていたが、最近になってやっと、記憶の蓄積という機能が科学的に示され始めていた。この度、ロチェスター大学のMaiken Nedergaard博士らによって、睡眠中は脳細胞間のスペースが広くなり、起きているときに蓄積した毒性物質を流している可能性が判明した。

この発見は偶然に行われたものであったが、Nedergaard博士によると、睡眠は脳の構造を完全に異なる状態へと変化させているという。それによってグリンファティック系と呼ばれる、脳脊髄液をコントロールすることで脳や脊髄の周りの体液から老廃物を除去する機能を、効率化しているようだ。

彼らは元々、マウスの脳脊髄液に染料を注入し電気的活動中の脳内で、どのように流れているのかを解析する研究を行っていた。すると、マウスが睡眠や麻酔によって無意識状態のときにはその流れが速くなり、反対にマウスが覚醒しているときにはほとんど流れないことを発見した。Dr. Nedergaard博士によると、その発見は驚くべきものであったという。そしてこの事実は、意識と無意識の状態では、それぞれ脳細胞間のスペースに違 いがあることを示しているという。

この説を確かめるために、彼らはマウスの脳へと電極を差し込み、脳細胞間のスペースを直接測定した。すると無意識状態の時には、脳のスペースは60%上昇することが分かった。またマウスの脳へアルツハイマー病と深い関わりがあるとされるベータアミロイドを注入したところ、寝ているときの方が早く 脳内からベータアミロイドが除去された。

グリンファティック系では、脳細胞の一種であるグリア細胞が萎縮と膨張を繰り返すことで、脳脊髄液の流れがコントロールされている。ノルアドレナリンは細胞の体積を増加させるホルモンとして知られているが、ノルアドレナリンの役割を抑制する物質をマウスへ与えたところ、意識が遠のくのと同時に脳脊髄液の流れも速くなった。

これまでの研究によって、脳細胞間に毒性化学物質が蓄積することで、アルツハイマー病を始めとした様々な神経変性疾患が引き起こされることが示唆されている。今回の研究では、睡眠によってそれらの原因物質が取り除かれている可能性が示されたため、グリンファティック系をターゲットとすることで、広範囲の疾患を治療することが出来るようになる可能性がある。

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元記事:
Brain May Flush out Toxins During Sleep; Sleep Clears Brain of Molecules Associated With Neurodegeneration: Study
http://www.sciencedaily.com/releases/2013/10/131017144636.htm

参照:
L. Xie, H. Kang, Q. Xu, M. J. Chen, Y. Liao, M. Thiyagarajan, J. O'Donnell, D. J. Christensen, C. Nicholson, J. J. Iliff, T. Takano, R. Deane, M. Nedergaard. Sleep Drives Metabolite Clearance from the Adult Brain. Science, 2013; 342 (6156): 373 DOI: 10.1126/science.1241224

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