進化
2014年05月23日
背景:
地球上で最も進化しているとされるヒトは、とても複雑な生理的機能を持っている。しかしそれらの殆どは祖先から受け継がれたものであるため、ほぼ全ての動物と基本的な機能を共有している。では、基本的な機能を共有しない生物は存在するのだろうか。
要約:
有櫛動物(ゆうしつどうぶつ、クシクラゲ類)は球状、もしくは円筒状の体を持ち、獲物を捕らえることのできる触手を持つものもいる。光や獲物の存在を感知し筋系を動かすことのできる神経系やその見た目から、クラゲを含む刺胞動物の近縁であると考えられてきた。そして他の動物と同様に、神経系を持たない多細胞生物である海綿動物や平板動物からの進化の過程で枝分かれしたと考えられていた。
しかしフロリダ大学セントオーガスティン校のLeonid Moroz博士らによって有櫛動物の1種シーグーズベリー(Pleurobrachia bachei)のゲノムが解読された結果、その神経系は地球上のほぼ全ての動物が共有しているものとは異なることが分かった。そのため、有櫛動物の神経系は独立して進化したと考えられ、有櫛動物に関する謎が深まる結果となった。
地球上で反映している動物は、共通祖先から受け継いだ様々な特徴を共有している。例えば神経系では、既知の神経系のほぼ全てで基本的な10の神経伝達物質を利用している。しかし有櫛動物のゲノム解析の結果、様々な特徴が他の動物とは異なっていた。例えば、神経伝達物質は10のうち1つか2つしか利用していないようであった。
これらの結果は、有櫛動物が約5億年前に他の動物から枝分かれした後、独立して神経系を進化させたことを示している。Moroz博士によると、神経系のような複雑な機構の進化は、地球上の歴史上2度とは起こらないだろうと考えられていたが、実際には有櫛動物への進化の過程で起こっていたようだという。
また有櫛動物には他の動物にみられる多くの共通遺伝子が欠けていることから、有櫛動物は最初の動物に最も近縁な現生生物なのではないかという。その根拠の1つとして、他の動物にはみられる遺伝子を制御するためのmiRNA(マイクロRNA)が、有櫛動物には全くみられなかった。
ドイツはルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンのGert Wörheide博士によると、動物の系統樹内で神経系が独立して2度進化しているという説はとても興味深いという。しかし有櫛動物が最初の動物に最も近縁であるという説には、同意していないようだ。全ての動物の共通祖先は有櫛動物のようなものではないと考えられ、シーグーズベリーの神経系はもっと新しい時代の適応なのではないかという。しかし有櫛動物が今後どのように進化していくのかは定かではない。
シーグーズベリー
元記事:
Jelly genome mystery - Publication of the draft genetic sequence of a comb jelly reveals a nervous system like no other
http://www.nature.com/news/jelly-genome-mystery-1.15264
参照:
L. L. Moroz et al. Nature http://dx.doi.org/10.1038/nature13400; 2014
mixiチェック
地球上で最も進化しているとされるヒトは、とても複雑な生理的機能を持っている。しかしそれらの殆どは祖先から受け継がれたものであるため、ほぼ全ての動物と基本的な機能を共有している。では、基本的な機能を共有しない生物は存在するのだろうか。
要約:
有櫛動物(ゆうしつどうぶつ、クシクラゲ類)は球状、もしくは円筒状の体を持ち、獲物を捕らえることのできる触手を持つものもいる。光や獲物の存在を感知し筋系を動かすことのできる神経系やその見た目から、クラゲを含む刺胞動物の近縁であると考えられてきた。そして他の動物と同様に、神経系を持たない多細胞生物である海綿動物や平板動物からの進化の過程で枝分かれしたと考えられていた。
しかしフロリダ大学セントオーガスティン校のLeonid Moroz博士らによって有櫛動物の1種シーグーズベリー(Pleurobrachia bachei)のゲノムが解読された結果、その神経系は地球上のほぼ全ての動物が共有しているものとは異なることが分かった。そのため、有櫛動物の神経系は独立して進化したと考えられ、有櫛動物に関する謎が深まる結果となった。
地球上で反映している動物は、共通祖先から受け継いだ様々な特徴を共有している。例えば神経系では、既知の神経系のほぼ全てで基本的な10の神経伝達物質を利用している。しかし有櫛動物のゲノム解析の結果、様々な特徴が他の動物とは異なっていた。例えば、神経伝達物質は10のうち1つか2つしか利用していないようであった。
これらの結果は、有櫛動物が約5億年前に他の動物から枝分かれした後、独立して神経系を進化させたことを示している。Moroz博士によると、神経系のような複雑な機構の進化は、地球上の歴史上2度とは起こらないだろうと考えられていたが、実際には有櫛動物への進化の過程で起こっていたようだという。
また有櫛動物には他の動物にみられる多くの共通遺伝子が欠けていることから、有櫛動物は最初の動物に最も近縁な現生生物なのではないかという。その根拠の1つとして、他の動物にはみられる遺伝子を制御するためのmiRNA(マイクロRNA)が、有櫛動物には全くみられなかった。
ドイツはルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンのGert Wörheide博士によると、動物の系統樹内で神経系が独立して2度進化しているという説はとても興味深いという。しかし有櫛動物が最初の動物に最も近縁であるという説には、同意していないようだ。全ての動物の共通祖先は有櫛動物のようなものではないと考えられ、シーグーズベリーの神経系はもっと新しい時代の適応なのではないかという。しかし有櫛動物が今後どのように進化していくのかは定かではない。
シーグーズベリー
元記事:
Jelly genome mystery - Publication of the draft genetic sequence of a comb jelly reveals a nervous system like no other
http://
参照:
L. L. Moroz et al. Nature http://
2014年05月16日
もし一度時間が戻ったとしたら、世界中の生物は現在と同じ姿になるように進化するのだろうか。このような、進化の方向が決まっており予測可能であるのかという疑問は、生物学界では長い間議論の対象となっている。これまでいくつかの研究では、同じ環境に生息する生物は同じ特徴を持つ傾向にあるという観測結果から、進化の仕方は環境によってある程度予測可能であるとする研究者もいれば、それらは例外を集めただけだという意見もある。
この度、イギリスはシェフィールド大学のPatrik Nosil博士らが、アメリカ西部に生息するナナフシの仲間であるティメマ(Timema)などのゲノムを比べることで、進化の大部分は予測不可能であるという結論に至った。
ティメマは2つの環境型を持ち、1つは細長い葉を持つ植物に適応し、もう1つは幅広い葉を持つ植物に適応している。Nosil博士らによって、これらの環境型がどのように現れたのかが遺伝的に解析され、また同じ見た目で違う場所に生息するナナフシの遺伝的変化は、17%しか同じものがないことが明らかにされた。これらの結果は、生息地への特異的な適応の一部は予測可能であるが、大部分はランダムに起こっていることを示唆している。
元記事:
Is Evolution Predictable?
http://news.sciencemag.org/biology/2014/05/evolution-predictable
参照:
Víctor Soria-Carrasco, et. al. Stick Insect Genomes Reveal Natural Selection’s Role in Parallel Speciation. Science. 16 May 2014: Vol. 344 no. 6185 pp. 738-742. DOI: 10.1126/science.1252136
mixiチェック
この度、イギリスはシェフィールド大学のPatrik Nosil博士らが、アメリカ西部に生息するナナフシの仲間であるティメマ(Timema)などのゲノムを比べることで、進化の大部分は予測不可能であるという結論に至った。
ティメマは2つの環境型を持ち、1つは細長い葉を持つ植物に適応し、もう1つは幅広い葉を持つ植物に適応している。Nosil博士らによって、これらの環境型がどのように現れたのかが遺伝的に解析され、また同じ見た目で違う場所に生息するナナフシの遺伝的変化は、17%しか同じものがないことが明らかにされた。これらの結果は、生息地への特異的な適応の一部は予測可能であるが、大部分はランダムに起こっていることを示唆している。
元記事:
Is Evolution Predictable?
http://
参照:
Víctor Soria-Carrasco, et. al. Stick Insect Genomes Reveal Natural Selection’s Role in Parallel Speciation. Science. 16 May 2014: Vol. 344 no. 6185 pp. 738-742. DOI: 10.1126/science.1252136
2014年01月10日
背景:
生物は何億年も前から多様化・進化を繰り返しているため、枝分かれした時代が古ければ古いほど特徴も異なる場合が多い。軟骨魚は骨格が軟骨で形成されているために化石として残ることがなく、絶滅した種の研究を困難にしている。
要約:
サメは軟骨魚類の一種として数えられ、陸上生物や硬骨魚類と違い骨格が硬骨ではなく軟骨で形成されている。軟骨魚類は顎を持つ脊椎動物(顎口上綱)としては現生する最も古いグループの1つであり、4億5000万年前に硬骨脊椎動物から枝分かれしたと考えられている。この度、シンガポール国立大学、マックス・プランク研究所、北海道大学などを含む国際研究チームによって、軟骨魚類としては初めてゾウギンザメ(Elephant shark)のゲノムが解読・解析された。
予想外の研究成果として、ゾウギンザメは脊椎動物がウイルス・細菌への感染や、糖尿病や関節リウマチなどの自己免疫疾患を防ぐのに必須だと考えられていた、T細胞の一種であるTh2細胞を持たないことが分かった。例えばヒトがTh2細胞を持たないと、AIDS患者のようにウイルスや細菌の感染から身を守れなくなってしまう。
このことからサメの免疫系は原始的であるように見えてしまうが、実際にはサメにも確立された免疫系があり長く生きることができる。そのため、サメの免疫系は哺乳類などとは全く異なる構造をしており、進化の過程で感染症という同じ脅威から違った方法で身を守る方法を確立させたのだろうという。
また軟骨魚類はなぜ軟骨で骨格を形成しているのだろうか。その秘密はある種の遺伝子群にあり、硬骨脊椎動物に存在する骨の形成に必須な遺伝子群が欠けていることが分かった。この遺伝子が削除された硬骨魚類であるゼブラフィッシュは、骨の石灰化が起こらなかった。これらの遺伝子を解析することで、骨粗しょう症などの骨疾患をより深く理解し治療法開発に役立てられるだろう。
また近年生きた化石と呼ばれるシーラカンスのゲノムが解読され、進化がとても遅いことが示されたが、ゾウギンザメはシーラカンスより更に、これまで分かっているどんな脊椎動物よりも進化が遅いことが分かった。そのため、大昔に絶滅してしまった顎口上綱を研究するためのよい研究資料となることだろう。
ゾウギンザメ
元記事:
First Shark Genome Decoded
http://www.sciencedaily.com/releases/2014/01/140108133307.htm
参照:
Byrappa Venkatesh, Alison P. Lee, Vydianathan Ravi, Ashish K. Maurya, Michelle M. Lian, Jeremy B. Swann, Yuko Ohta, Martin F. Flajnik, Yoichi Sutoh, Masanori Kasahara, Shawn Hoon, Vamshidhar Gangu, Scott W. Roy, Manuel Irimia, Vladimir Korzh, Igor Kondrychyn, Zhi Wei Lim, Boon-Hui Tay, Sumanty Tohari, Kiat Whye Kong, Shufen Ho, Belen Lorente-Galdos, Javier Quilez, Tomas Marques-Bonet, Brian J. Raney, Philip W. Ingham, Alice Tay, LaDeana W. Hillier, Patrick Minx, Thomas Boehm, Richard K. Wilson, Sydney Brenner, Wesley C. Warren. Elephant shark genome provides unique insights into gnathostome evolution. Nature, 2014; 505 (7482): 174 DOI: 10.1038/nature12826
mixiチェック
生物は何億年も前から多様化・進化を繰り返しているため、枝分かれした時代が古ければ古いほど特徴も異なる場合が多い。軟骨魚は骨格が軟骨で形成されているために化石として残ることがなく、絶滅した種の研究を困難にしている。
要約:
サメは軟骨魚類の一種として数えられ、陸上生物や硬骨魚類と違い骨格が硬骨ではなく軟骨で形成されている。軟骨魚類は顎を持つ脊椎動物(顎口上綱)としては現生する最も古いグループの1つであり、4億5000万年前に硬骨脊椎動物から枝分かれしたと考えられている。この度、シンガポール国立大学、マックス・プランク研究所、北海道大学などを含む国際研究チームによって、軟骨魚類としては初めてゾウギンザメ(Elephant shark)のゲノムが解読・解析された。
予想外の研究成果として、ゾウギンザメは脊椎動物がウイルス・細菌への感染や、糖尿病や関節リウマチなどの自己免疫疾患を防ぐのに必須だと考えられていた、T細胞の一種であるTh2細胞を持たないことが分かった。例えばヒトがTh2細胞を持たないと、AIDS患者のようにウイルスや細菌の感染から身を守れなくなってしまう。
このことからサメの免疫系は原始的であるように見えてしまうが、実際にはサメにも確立された免疫系があり長く生きることができる。そのため、サメの免疫系は哺乳類などとは全く異なる構造をしており、進化の過程で感染症という同じ脅威から違った方法で身を守る方法を確立させたのだろうという。
また軟骨魚類はなぜ軟骨で骨格を形成しているのだろうか。その秘密はある種の遺伝子群にあり、硬骨脊椎動物に存在する骨の形成に必須な遺伝子群が欠けていることが分かった。この遺伝子が削除された硬骨魚類であるゼブラフィッシュは、骨の石灰化が起こらなかった。これらの遺伝子を解析することで、骨粗しょう症などの骨疾患をより深く理解し治療法開発に役立てられるだろう。
また近年生きた化石と呼ばれるシーラカンスのゲノムが解読され、進化がとても遅いことが示されたが、ゾウギンザメはシーラカンスより更に、これまで分かっているどんな脊椎動物よりも進化が遅いことが分かった。そのため、大昔に絶滅してしまった顎口上綱を研究するためのよい研究資料となることだろう。
ゾウギンザメ
元記事:
First Shark Genome Decoded
http://
参照:
Byrappa Venkatesh, Alison P. Lee, Vydianathan Ravi, Ashish K. Maurya, Michelle M. Lian, Jeremy B. Swann, Yuko Ohta, Martin F. Flajnik, Yoichi Sutoh, Masanori Kasahara, Shawn Hoon, Vamshidhar Gangu, Scott W. Roy, Manuel Irimia, Vladimir Korzh, Igor Kondrychyn, Zhi Wei Lim, Boon-Hui Tay, Sumanty Tohari, Kiat Whye Kong, Shufen Ho, Belen Lorente-Galdos, Javier Quilez, Tomas Marques-Bonet, Brian J. Raney, Philip W. Ingham, Alice Tay, LaDeana W. Hillier, Patrick Minx, Thomas Boehm, Richard K. Wilson, Sydney Brenner, Wesley C. Warren. Elephant shark genome provides unique insights into gnathostome evolution. Nature, 2014; 505 (7482): 174 DOI: 10.1038/nature12826
2014年01月04日
背景:
生物は変異し環境に適応することで進化している。進化の要因は様々に考えられているが、それらが具体的にどれほど影響しているのかは定かではなく、様々な説が飛び交っている。
要約:
ダーウィンの種の起源は所々修正を加えながらも現在の進化論の基礎となっている。進化論の説の1つによると、同じ環境に競合する異種の生物が存在した場合、進化しなければどちらかはいずれ絶滅してしまうとされている。そのため同じ環境に似た生物が存在することは大きな進化圧となり、それらの種は他の環境に生息する種に比べて進化が早くなると考えられていた。
しかしオックスフォード大学のJoe Tobias博士が中心となった研究チームによるカマドドリ(亜科)の研究の結果、同じ環境に生息している異種のカマドドリが異なる環境に生息する異種のカマドドリよりも違って見えるのは、単にそれらのカマドドリが他の環境で進化した後に同じ環境で生息するようになっただけであり、実際に同じ環境に生息する異種は異なる環境で生息する異種に比べて進化が早いという事実はなく、特徴によっては逆によく似るようになることが分かった。
彼らはカマドドリの90%以上の種についてクチバシ、脚、鳴き声を比べ、また遺伝的な解析によって研究を行った。すると同じ環境に生息する種のクチバシや脚は、異なる環境に生息する種のそれよりも違いが明確であるということはなく、鳴き声にいたっては同じ環境に生息する種同士はよく似ていた。この事実は、長年信じられていた、同じ環境に生息する種は異種との混乱を避けるために、違った鳴き声を発達させるという説に反することになる。
また遺伝的な解析の結果、ほとんどのカマドドリは自身ともっとも近縁な種とは、地理的に隔絶され分化した後、数百万年は同じ環境で生息していなかったことが分かった。このことは、ある種から新たな種が分かれる時には、ほとんど全ての場合において地理的な隔絶が起こっているという事実と一致し、これほど長期間隔絶されることで異なる進化をする時間は十分にあったと考えられるという。
カマドドリは、長く曲がったものから短く真っすぐなものまで、様々な特徴のクチバシを持っている。しかしこれらは、お互いが地理的に隔絶されていた時代に進化した特徴であるようだ。そしてこれらの事実は、同環境での競合は主な進化圧とはならないことを示唆している。逆に似た鳴き声を発達させるなど、逆の影響もみられる。
なぜこのようなことが起こるのか、その原因を特定するには更なる研究が必要であるが、似た鳴き声を進化させたのは、攻撃性や縄張りを示すのに同じ言葉を利用することに利点があったのではないかと考えられるという。例えば、近縁種が似た鳴き声を持つことで、不要な接触を避けお互いの縄張りを守ることにつながるのかもしれない。
研究チームの1人であるNathalie Seddon博士によると、この研究で本当に新しいことは、種の進化における齢(歴史)を解析に組み込むことができたことだという。現在生息するカマドドリは、一見するとダーウィンの説に反することはないように思えるが、実際に遺伝的な解析によって種の齢を特定し、同じ歴史的時間を共有した種のみを比べることが出来るようになったという。
元記事:
'Be Different or Die' Does Not Drive Evolution, Bird Study Finds
http://www.sciencedaily.com/releases/2013/12/131222161809.htm
参照:
Joseph A. Tobias, Charlie K. Cornwallis, Elizabeth P. Derryberry, Santiago Claramunt, Robb T. Brumfield, Nathalie Seddon. Species coexistence and the dynamics of phenotypic evolution in adaptive radiation. Nature, 2013; DOI: 10.1038/nature12874
mixiチェック
生物は変異し環境に適応することで進化している。進化の要因は様々に考えられているが、それらが具体的にどれほど影響しているのかは定かではなく、様々な説が飛び交っている。
要約:
ダーウィンの種の起源は所々修正を加えながらも現在の進化論の基礎となっている。進化論の説の1つによると、同じ環境に競合する異種の生物が存在した場合、進化しなければどちらかはいずれ絶滅してしまうとされている。そのため同じ環境に似た生物が存在することは大きな進化圧となり、それらの種は他の環境に生息する種に比べて進化が早くなると考えられていた。
しかしオックスフォード大学のJoe Tobias博士が中心となった研究チームによるカマドドリ(亜科)の研究の結果、同じ環境に生息している異種のカマドドリが異なる環境に生息する異種のカマドドリよりも違って見えるのは、単にそれらのカマドドリが他の環境で進化した後に同じ環境で生息するようになっただけであり、実際に同じ環境に生息する異種は異なる環境で生息する異種に比べて進化が早いという事実はなく、特徴によっては逆によく似るようになることが分かった。
彼らはカマドドリの90%以上の種についてクチバシ、脚、鳴き声を比べ、また遺伝的な解析によって研究を行った。すると同じ環境に生息する種のクチバシや脚は、異なる環境に生息する種のそれよりも違いが明確であるということはなく、鳴き声にいたっては同じ環境に生息する種同士はよく似ていた。この事実は、長年信じられていた、同じ環境に生息する種は異種との混乱を避けるために、違った鳴き声を発達させるという説に反することになる。
また遺伝的な解析の結果、ほとんどのカマドドリは自身ともっとも近縁な種とは、地理的に隔絶され分化した後、数百万年は同じ環境で生息していなかったことが分かった。このことは、ある種から新たな種が分かれる時には、ほとんど全ての場合において地理的な隔絶が起こっているという事実と一致し、これほど長期間隔絶されることで異なる進化をする時間は十分にあったと考えられるという。
カマドドリは、長く曲がったものから短く真っすぐなものまで、様々な特徴のクチバシを持っている。しかしこれらは、お互いが地理的に隔絶されていた時代に進化した特徴であるようだ。そしてこれらの事実は、同環境での競合は主な進化圧とはならないことを示唆している。逆に似た鳴き声を発達させるなど、逆の影響もみられる。
なぜこのようなことが起こるのか、その原因を特定するには更なる研究が必要であるが、似た鳴き声を進化させたのは、攻撃性や縄張りを示すのに同じ言葉を利用することに利点があったのではないかと考えられるという。例えば、近縁種が似た鳴き声を持つことで、不要な接触を避けお互いの縄張りを守ることにつながるのかもしれない。
研究チームの1人であるNathalie Seddon博士によると、この研究で本当に新しいことは、種の進化における齢(歴史)を解析に組み込むことができたことだという。現在生息するカマドドリは、一見するとダーウィンの説に反することはないように思えるが、実際に遺伝的な解析によって種の齢を特定し、同じ歴史的時間を共有した種のみを比べることが出来るようになったという。
元記事:
'Be Different or Die' Does Not Drive Evolution, Bird Study Finds
http://
参照:
Joseph A. Tobias, Charlie K. Cornwallis, Elizabeth P. Derryberry, Santiago Claramunt, Robb T. Brumfield, Nathalie Seddon. Species coexistence and the dynamics of phenotypic evolution in adaptive radiation. Nature, 2013; DOI: 10.1038/nature12874
2013年07月30日
背景:
腸内細菌は全ての人々が持っており、消化吸収や免疫系の形成・維持などに重要な働きをしていると考えられているが、一人一人が違った組成を持っている。そしてそれは細菌に感染するウイルスも同様であるが、それらは時とともにどのような変化を起こしているのだろうか。
要約:
人間は自身の細胞が構成する組織や臓器だけで成り立っているわけではなく、腸内細菌のような共生生物も重要な役割を持っている。腸内細菌の組成は一人一人で異なるため、そこに感染するウイルスの集団(ヴァイローム)にも差がある。
そこでペンシルベニア大学ペレルマン医学校のFrederic D. Bushman博士率いる研究チームによって、ある個人のヴァイロームが2年半以上に渡って解析され、その変化が明らかにされた。論文によると、腸内細菌に感染する一定量のウイルスにはとても早い進化が見られ、ヴァイロームを大きく変化させていることが分かった。
実験では、884日の間16回に分けて健康な男性の大便サンプルから、様々な手法を使ってウイルスを抽出し、そのDNAを解析した。 Bushman博士によると、このような方法で2年半の間ウイルスがどのように変化しているのかを解析することができたという。そして、これまでヒトのヴァイロームを扱ったものの中で、最も長期間で広範囲に渡る結果を得ることに成功した。
実験中ヴァイロームの80%は殆ど変化することはなかったが、特定の種はその姿を大きく変えていた。特に一鎖の円形DNAをゲノムのとして持つファージの一種、ミクロウイルス科では顕著であった。ウイルスの進化は、塩基の置換、逆転写酵素によるレトロエレメントの変化、ウイルスと細菌のゲノムの融合など様々な要素によって起こっていた。
このようなヴァイロームの素早い進化は、Bushman博士の研究室では最も驚くべき発見であった。Bushman博士によると、個々人はそれぞれ違った組成の腸内細菌を持ち、同様に違った組成のウイルスを持っている。しかし、その違いは単にそこに生息する種が異なるというだけではなく、ウイルスの進化によるヴァイロームの素早い変化に起因しているようだという。
ヴァイロームのほとんどは、ヒトの細胞ではなく細菌へと感染するバクテリオファージであったが、その進化によって最終的にはヒトへ影響を及ぼしているようだ。Bushman博士によると、ファージは細菌へ遺伝子を送り込むことで毒物を生成させ、そのために無害であった細菌が有害となってしまうのだという。
このようなヴァイロームの変化による腸内の変化によって、病気への感受性や耐性が変化し、同時に様々な薬や治療の効果にも影響を与えていくことになる。腸内細菌の組成と合わせて理解することで、様々な応用が期待される。
元記事:
Evolution On the Inside Track: How Viruses in Gut Bacteria Change Over Time
http://www.sciencedaily.com/releases/2013/07/130726191528.htm
参照:
S. Minot, A. Bryson, C. Chehoud, G. D. Wu, J. D. Lewis, F. D. Bushman. Rapid evolution of the human gut virome. Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS), 2013; 110 (30): 12450 DOI: 10.1073/pnas.1300833110
mixiチェック
腸内細菌は全ての人々が持っており、消化吸収や免疫系の形成・維持などに重要な働きをしていると考えられているが、一人一人が違った組成を持っている。そしてそれは細菌に感染するウイルスも同様であるが、それらは時とともにどのような変化を起こしているのだろうか。
要約:
人間は自身の細胞が構成する組織や臓器だけで成り立っているわけではなく、腸内細菌のような共生生物も重要な役割を持っている。腸内細菌の組成は一人一人で異なるため、そこに感染するウイルスの集団(ヴァイローム)にも差がある。
そこでペンシルベニア大学ペレルマン医学校のFrederic D. Bushman博士率いる研究チームによって、ある個人のヴァイロームが2年半以上に渡って解析され、その変化が明らかにされた。論文によると、腸内細菌に感染する一定量のウイルスにはとても早い進化が見られ、ヴァイロームを大きく変化させていることが分かった。
実験では、884日の間16回に分けて健康な男性の大便サンプルから、様々な手法を使ってウイルスを抽出し、そのDNAを解析した。 Bushman博士によると、このような方法で2年半の間ウイルスがどのように変化しているのかを解析することができたという。そして、これまでヒトのヴァイロームを扱ったものの中で、最も長期間で広範囲に渡る結果を得ることに成功した。
実験中ヴァイロームの80%は殆ど変化することはなかったが、特定の種はその姿を大きく変えていた。特に一鎖の円形DNAをゲノムのとして持つファージの一種、ミクロウイルス科では顕著であった。ウイルスの進化は、塩基の置換、逆転写酵素によるレトロエレメントの変化、ウイルスと細菌のゲノムの融合など様々な要素によって起こっていた。
このようなヴァイロームの素早い進化は、Bushman博士の研究室では最も驚くべき発見であった。Bushman博士によると、個々人はそれぞれ違った組成の腸内細菌を持ち、同様に違った組成のウイルスを持っている。しかし、その違いは単にそこに生息する種が異なるというだけではなく、ウイルスの進化によるヴァイロームの素早い変化に起因しているようだという。
ヴァイロームのほとんどは、ヒトの細胞ではなく細菌へと感染するバクテリオファージであったが、その進化によって最終的にはヒトへ影響を及ぼしているようだ。Bushman博士によると、ファージは細菌へ遺伝子を送り込むことで毒物を生成させ、そのために無害であった細菌が有害となってしまうのだという。
このようなヴァイロームの変化による腸内の変化によって、病気への感受性や耐性が変化し、同時に様々な薬や治療の効果にも影響を与えていくことになる。腸内細菌の組成と合わせて理解することで、様々な応用が期待される。
元記事:
Evolution On the Inside Track: How Viruses in Gut Bacteria Change Over Time
http://
参照:
S. Minot, A. Bryson, C. Chehoud, G. D. Wu, J. D. Lewis, F. D. Bushman. Rapid evolution of the human gut virome. Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS), 2013; 110 (30): 12450 DOI: 10.1073/pnas.1300833110