ピアノ音楽研究ときどき日記

ピアノ音楽の歴史を研究している上田泰史のブログ。19世紀のピアノ教育、ピアノ文化を専門に研究したり、演奏会を企画したりしています。たまにに記事を更新します。研究者としての情報はコチラ(Researchmap)をご参照ください。

台風が去ると、突然夏が終わって深まった秋がやってきました。
季節の変わり目は、体がなかなか気候に付いていかず、少々けだるい時もあります。
が、秋と言えば、食欲、運動、そして芸術。

と、いうことで・・・

書籍『パリのサロンと音楽家たち』に関連する演奏会を行うことが決まりました。

日時:11月22日(木) 10:30~12:30
場所:カワイ表参道 コンサートサロン「パウゼ」
お話:上田泰史
ピアノ:瀬崎純子、小林えりか、林川崇、京谷光真(ピアノ)
ソプラノ:小林瑞花
*詳細は、下のチラシ裏面をご覧ください。

ショパンやリストたちが訪れた1830年代のフランスは、七月王政のただ中にありました。そんな時代のパリのサロンでは、各国から名ピアニスト兼作曲家や歌手たちが集い、新しい時代の音楽を打ち立てようと、熱烈な演奏を繰り広げていました。

今回は、そんな時代のサロン音楽会を、5人の音楽家と一緒に渡り歩いてみたいと思います。ここでしか聴くことの出来ない、めずらしい、しかし美しく魅力に富んだ曲が多く演奏されますので、是非脚をお運びください。

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〜プログラムの概要〜

1. J. ヅィメルマン(1785〜1853):パリ音楽院ピアノ教授。1842年からショパンの隣人で、ショパンは彼のサロンに足繁く通った。

2. F. ショパン(1810〜1849):パリで貴族から熱狂的な支持者を得た、ポーランド青年。彼の弟子、カロル・ミクリから伝承されたという装飾付きで、名曲《ノクターン》作品9-2を演奏します。

3. H. ラヴィーナ(1816〜1809):南仏ボルドー出身の快活で光りに満ちた音楽家。パリ音楽院でヅィメルマンの弟子。10代の時に発表した、才気走った『12の演奏会用練習曲』作品1から抜粋。

4. Ch.-V. アルカン(1813〜1888):同じくヅィメルマン門下の逸材。クララ・ヴィーク(シューマン)が1839年、パリに来たとき、「ピアノのための小品の中で一番評価する」と書いた〈過ぎ越しの祭り〉ほか2曲を演奏。

5. クララ・ヴィーク(1819〜1896):のちにシューマンと結婚することでも知られる、ライプツィヒの名手。パリ来訪時に演奏した《4つの性格的小品》作品5全曲を演奏。パリでは、ヅィメルマンのサロンに呼ばれ、アルカンとも会っている。

6. イグナーツ・モシェレス(1794〜1870):ボヘミア出身で、イギリスとドイツで活躍した名手。ショパンの先輩で、モシェレスとショパンはパリの王宮に呼ばれて連弾の《大ソナタ》作品47を演奏、王族に深い感銘を与えた。その連弾曲を前半の締めくくりとして演奏します。

7. 林川崇さんによる、与えられた主題による即興
当時のピアニスト兼作曲家たちは、名人と呼ばれるひとは誰もがその場で即興を披露することができました。彼らは、その場で与えられたメロディや、人気のオペラの旋律に基づいて、一曲をその場で仕上げました。今回は、作曲家でもある林川崇さんに、このような方法で、即興演奏を披露していただきます。

8. ポーリーヌ・ヴィアルド(1821~1910):R. シューマンからも曲の献呈を受けるなど、ヨーロッパ中で名声を博した、スペイン系フランス人のアルト/メゾソプラノ歌手。リストとショパンからピアノの指導を受け、ベートーヴェンの友人A. レイハから作曲の指導を受けた音楽家です。ヅィメルマンのサロンで演奏された歌曲を含む2作品が演奏されます。

9.ジギスモント・タールベルク(1812〜1871):リストと並び称された名手です。体をほとんど動かさずに、どんな難しい技巧も難なく弾いてみせる彼の腕前は、《「モーゼ」の主題による幻想曲》作品33で初めて話題になりました。朗々と歌いながらも、輝かしいアルペッジョを同時に演奏することで、「ブリリアント」なピアノ楽派とイタリア的な「カンタービレ」なピアノ楽派を統合したことで、旋風を巻き起こしました。

最後に、アンコールでは、もう一人、同じ時代に活躍した女性の作曲家の小品を取り上げる予定です。

会場では、関連書籍・楽譜の販売も行う予定です。

それでは、会場でお待ちしております!

台風24号は久々に猛烈な台風でした。夜に窓の外を見ると雨が横に降り、窓が揺れ、壁が揺れ・・・自然の驚異をガラス一枚隔てて感じる、ある意味、崇高な(?)夜でした。

さて、台風が去る、やさしいピアノ曲集「ピアノで感じる19世紀パリのサロン」(林川 崇校訂/上田泰史解説)のインタビュー動画が公開されました。



動画では、パリの国際的な音楽シーンに注目した経緯を話しています。ショパン、リスト、カルクブレンナー、アルカンのほか、まだ日本でも海外でもしっかり紹介されていない女性の作曲家、ジョゼフィーヌ・マルタンの《子守歌》も収録しています。よろしければ、楽譜を手に取ってみてください!

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週末はまた台風・・・備えあれば憂いなし、風雨には十分な準備をしてお過ごしください。

まだ暑さが残り、30度を超える日がありますが、叢では虫が鳴き、風にも秋の匂いが混じるようになりました。

5月に刊行された書籍『パリのサロンと音楽家たちーー19世紀の社交界への誘い』(カワイ出版)に関連する企画として、ピアノ曲集『ピアノで感じる19世紀パリのサロン』が刊行されました。

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これまでは、作曲家の林川崇さんと校訂を手がけてきましたが、今回は役割分担をはっきりさせて、林川さんが校訂、解説を私ということにしました。著者標目が分かれているのはそのためです。
装丁は、書籍のカバーを手がけてくださった、版画家で福井大学准教授の湊七雄です。

さて、サロンに関連する曲集はこれが二冊目。
一冊目は、『19世紀パリのサロンが生んだ知っておきたいピアノ曲集』でした。こちらは、カワイ出版から、それまでに刊行された曲集のダイジェストです(内容はこちら)。

今回の曲集では、書籍に登場する、一九世紀前半のサロンを彩った音楽家の作品から、初〜中級程度の作品を選びました。難易度の低い曲を選ぶというのは、今日にの出版事情に鑑みると、必然的な条件になっています。

もっとも、当時のサロンでは最も難しい演奏技巧と新しいピアノ音楽の様式を追究した作品も多く演奏されていたのですが。しかし、魅力的な小品を多く含めることが出来たので、ひとまず入り口としてはこのような体裁も良いだろうと思っています。

収録されている音楽家は、いずれもフランスや諸外国からパリに来て、サロンや演奏会、教育機関で活躍した人々です。全10名の作曲家による15曲。


内容:
アンリ・エルツ:
    『 初心者のための24のとてもやさしい練習曲』より第11番「狩り」、第13番「セレナード」
    『小さな手のための24のやさしい練習曲』より第4番「鐘」
⇒オーストリア出身、幼少時にパリに移住。パリ音楽院ピアノ教授。1888年に没した後も、フランスを代表するピアニスト兼作曲家として尊敬を集めた。パリ音楽院のために制作された練習曲の初級編より3曲を抜粋。

ステファン・ヘラー:『若者に捧げるアルバム』より第5番「舟唄」、第25番「空気の精 第3番」
⇒ハンガリー出身。ドイツ時代にシューマンの激賞を受け、1838年にパリに移住。ショパン没後、ショパン、シューマン、メンデルスゾーンらと並び称される。シューマンの『若者のためのアルバム』から着想を得た教育的作品より2曲を抜粋。

ラヴィーナ:『あやし言葉−−子どものメロディ』
⇒ボルドー出身。アルカンの学友として1838年から作曲家として頭角を現す。過激な青年期を経て、穏健なサロン音楽家に転身。色鮮やかな和声のコントラストを特徴とする。彼のスペイン趣味はマスネやビゼーの範となったと思われる。ごく平易な初級作品を1曲のみを収録。

ジョゼフィーヌ・マルタン:『天使たちの子守歌』
⇒1821年生まれの女性ピアニスト兼作曲家。次のヅィメルマンの弟子。おそらく生涯未婚で、30点あまりの作品を出版した。現代的作品の演奏に定評があり、存命中は教師、ヴィルトゥオーゾとして名声を博した。平穏ながら、思わぬ転調をする子守歌を一曲収録。

ジョゼフ・ヅィメルマン:『ピアニスト兼作曲家の百科事典』より「ノクターン」
⇒パリ音楽院ピアノ科教授。ピアノ、宗教曲、オペラなど幅広い作曲に取り組んだが、生涯を教育にささげた。父はドイツからの移民でピアノ製作者。100名を超える弟子がおり、中にはアルカン、ラヴィーナ、マルモンテル(ドビュッシーの先生)、プリューダン、ルフェビュル=ヴェリー、マルタンなど多数の才人がいる。ショパンやリストが訪れるサロンを開いていた。1840年にパリ音楽院のために書いたピアノと作曲のメソッドから、清澄さをたたえたフィールド風の「ノクターン」を収録。

フレデリック・カルクブレンナー:『溜息——2つのロマンス』より第1番「エオリアン・ハープのため息——ロマンツェ」

⇒ヅィメルマンと同年(1785年)生まれのピアニスト兼作曲家。ショパンは、パリに到着したころカルクブレンナーの演奏を最も高く評価していた。ピアノ製造社プレイエルと組んでピアノ製造・販売にも携わる。イギリスでクレメンティに師事し、パリではサン=サーンスの師スタマティらを育てた。神秘的な序奏を持つ無言歌風の小品を1曲収録。


シャルル=ヴァランタン・アルカン:『12か月—12の性格的小品』より第4番「過ぎ越しの祭」、第11番「死にゆく人」
⇒ヅィメルマンの門弟の中でも際立って個性的で知的な作曲家。収録する『12か月』は、クララ・ヴィーク(のちにシューマン夫人)が1839年にパリに来た時に、たいへん高く評価した。アルカンは、ヅィメルマンにクララを紹介され、シューマンの《幻想曲》などを演奏した。ドイツとフランスの当代を代表する音楽家の記念となる、四季折々の情景を描いた小品集から2曲(4月と11月)を収録。


アントワーヌ・コンツキ:『1つのポロネーズと6つのマズルカ』より第3番「第1マズルカ」
     『2つのマズルカ』より第1番「第1マズルカ」

⇒ショパンと同じくポーランド出身の名手。音楽一家に生まれ、1830年代の後半にパリでデビュー。ヅィメルマンのサロンの常連だった。晩年には日本に来て自作やショパンのスケルツォを演奏している。1840年代にパリで刊行されたマズルカから2曲を収録。


ロッシーニ(リスト編曲):『音楽の夜会』より第6番アルプスの羊飼いの女——チロレーゼ
⇒ピアノ界のスーパー・スター、フランツ・リストの編曲作品。彼がイタリアを訪れた際に制作された曲集で、ロッシーニの声楽曲集『音楽の夜会』からの抜粋。ヨーデル風のスタイル。

ショパン:ノクターン第2番(カロル・ミクリによって伝承されたショパンの装飾付き)
⇒ショパンの名曲、ノクターン第2番の異稿。ショパンは演奏のたびに装飾を変化させて自在に演奏したという。その一つを、弟子のカロル・ミクリが書き写した楽譜に基づくとされる、後代の楽譜(ショルツ編)を収録。

*11月22日に、出版イベントを計画しています。詳細はこちらで改めて報告します。

新年度が始まり、はやひと月が過ぎました。年末年始から校正作業を続けていた新刊『パリのサロンと音楽家たち—パリのサロンと音楽家たち 19世紀の社交界への誘い』が、ようやく刊行されました。出版社は、サロン関連ピアノ曲集で校訂などをさせて頂いているカワイ出版です。そして、鮮やかなピンクが目を惹く装丁は、昨年の『「チェルニー30番」の秘密』(春秋社)と同じく、福井大学准教授の湊七雄氏が手掛けてくださいました。


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今から振り返ると、この本を書いたきっかけは二つあったように思います。

一つは、 学生時代に読んだ大部の翻訳書『優雅な生活—— <トゥ=パリ>、パリ社交集団の成立 1815-1848』を通読したこと。この本で、サロンが単におしゃべりや音楽を奏でる無為の空間ではなく、政治的主張をめぐる「縄張り」だったこと、そしてその縄張りを越えて、敵対する者同士がユーモアを交えて円滑に交際するのが社交のエレガンスだったことなどが、細緻に描き出されいます。複雑な人間模様を呈するパリの社交界で、音楽はどんな役割を担っていたのだろう?そんな疑問を、追究しようと思ったのが出発点でした。

二つ目は、フランスで書いた博論の一部で、パリ音楽院のヅィメルマン教授(作曲家グノーの義父)が主宰していた名高い音楽サロンを扱ったこと。ショパン、リスト、タールベルク、アルカン、クララ・ヴィーク、ロッシーニ、オベール、ドニゼッティなど、著名な音楽家が集った彼のサロンを詳細に調べるうちに、「サロン音楽とは何か」という本書の(隠れた)テーマを掘り下げ、一つの答えを出すことができました。

・内容をざっくりまとめると・・・
第一部では、パリのサロンの概略を地図を交えて説明しています。王宮や大使館など、上流サロンでの音楽家、とくにピアニストたち(カルクブレンナー、フィールド、モシェレス、ショパン・・・)を中心に、彼らの立ち居振る舞いを描いています。第二部はヅィメルマンのサロンに焦点をあてて、登場した音楽家、演奏された楽曲の詳細に迫ります。

そろそろ書店にも出回るころかと思いますので、お手に取っていただければ幸いです。

最後に、編集中、何度も読み直してくださった皆さん、有難う&お疲れさまでした!!!

・カワイ出版のページ
・Amazonのページ
・湊七雄氏のホームページ

追記:
出版後、阪大で福田公子さんが書かれた『19世紀パリのサロン・コンサート―音楽のある社交空間のエレガンス』という博論を2013年に自費出版されているのをamazonで知りました。『ルヴュ・エ・ガゼット・ミュジカル』誌に基づいて丹念に調査された大変な労作ですが、2013年はパリにいて日本の出版情報をほとんど見ていなかったために、見落としていました。福田氏の論考を引用できたらどんなに良かっただろうと思います。拙著ともいくつか重複するエピソードもありましたが、あえて基本的な違いを指摘するなら、福田氏の研究が19世紀前半のパリのサロン全体をバランスよく見渡す鳥瞰的なご研究であるのに対し、拙著はもうすこし視野を狭めてショセ=ダンタン地区に焦点をあてた、音楽家目線を重視したサロンの描写になっています。とはいえ、参考文献に入れられなかったのは心残りです。また増補・改訂の機会には、あらためて参照させていただきます。

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春がきたと思ったら、また寒い日々に逆戻りですね。今年度ももうすぐ終わり。3月から5月にかけて、あれこれ手掛けてきた仕事が順次出版される予定です。その第一弾として、シャルル・グノーのピアノ曲集が刊行されました。

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表紙は今回も城之尾武司(個人ウェブサイトはこちら)さんにお願いしました。出版社編集部がマリア様のイメージでという要望だったのですが、予想以上の美しい表紙になりました!有難うございます。
(3月21日から東京で始まる武司さんの個展情報はこちらからチェックしてみて下さい)

さて、なぜグノーかと申しますと・・・今年は彼の生誕200年なんです!《アヴェ・マリア》などの独唱曲、オペラ《ファウスト》や宗教曲《聖チェチリーアのミサ》などで広く知られているグノーは、オルガンでキャリアを開始したこともあり、交響曲をはじめとする器楽や、鍵盤楽器のための曲をいくつも残しています。当時製作・販売されていた脚鍵盤付きのピアノのための協奏曲など、古典的な構成の曲から、ロマンチックなサロン風の曲まで、作風はじつに多様です。

今回は、そんなグノーがピアノのために書いたオリジナル、編曲を厳選して11曲を収録しました。

1. パストラール
2. ナザレのイエス−福音の歌
3. 王のメヌエット
4. 子どもの舞踏会−やさしいワルツ
5. 剣(つるぎ)の舞−ブルターニュの伝説
6. あやつり人形の葬送行進曲
7. 蔦(つた)
8. 無言歌第5番 春の歌
9. 即興曲 10.ガヴォット(遺作)
11.バッハの〈前奏曲〉第1番に基づく瞑想曲(アヴェ・マリア)

この中で目玉は、なんといっても『あやつり人形の葬送行進曲』と『バッハの〈前奏曲〉第1番に基づく瞑想曲(アヴェ・マリア)』でしょう!

「あやつり人形〜」は、かつてテレビ番組「ヒンチコック劇場」の主題曲だったので聞いたことのある方も多いはず。オケ版が有名ですが、オリジナルはピアノ曲です(こちらはオケ版)。


バッハの《平均律クラヴィーア曲集》にメロディを付けた《アヴェ・マリア》は、あの有名な曲には違いありませんが、作曲者によってピアノ独奏用にアレンジされています。難易度が高いので、収録を迷いましたが、上級者なら跳躍部分を頑張れば弾けるはず、ということで今回、日本初出版です。



この他、個人的には難易度はずっと低めの《即興曲》がお気に入りです。ドビュッシーの時代に近づくにつれて、グノーも全音音階を用いたりして、かなり色鮮やかな近代的色合いのワルツです。新しい手頃な曲をお求めの方は、ぜひ、お店で見かけてたら、手に取ってみてください。

ネットでのお求めはカワイ出版のサイトからどうぞ。

まだ寒さと花粉がダブルで続きますが、お風邪などひかれませんように!

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