ピアノ音楽研究ときどき日記

ピアノ音楽の歴史を研究している上田泰史のブログ。19世紀のピアノ教育、ピアノ文化を専門に研究したり、演奏会を企画したりしています。たまにに記事を更新します。研究者としての情報はコチラ(Researchmap)をご参照ください。

新年度が始まり、はやひと月が過ぎました。年末年始から校正作業を続けていた新刊『パリのサロンと音楽家たち—パリのサロンと音楽家たち 19世紀の社交界への誘い』が、ようやく刊行されました。出版社は、サロン関連ピアノ曲集で校訂などをさせて頂いているカワイ出版です。そして、鮮やかなピンクが目を惹く装丁は、昨年の『「チェルニー30番」の秘密』(春秋社)と同じく、福井大学准教授の湊七雄氏が手掛けてくださいました。


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今から振り返ると、この本を書いたきっかけは二つあったように思います。

一つは、 学生時代に読んだ大部の翻訳書『優雅な生活—— <トゥ=パリ>、パリ社交集団の成立 1815-1848』を通読したこと。この本で、サロンが単におしゃべりや音楽を奏でる無為の空間ではなく、政治的主張をめぐる「縄張り」だったこと、そしてその縄張りを越えて、敵対する者同士がユーモアを交えて円滑に交際するのが社交のエレガンスだったことなどが、細緻に描き出されいます。複雑な人間模様を呈するパリの社交界で、音楽はどんな役割を担っていたのだろう?そんな疑問を、追究しようと思ったのが出発点でした。

二つ目は、フランスで書いた博論の一部で、パリ音楽院のヅィメルマン教授(作曲家グノーの義父)が主宰していた名高い音楽サロンを扱ったこと。ショパン、リスト、タールベルク、アルカン、クララ・ヴィーク、ロッシーニ、オベール、ドニゼッティなど、著名な音楽家が集った彼のサロンを詳細に調べるうちに、「サロン音楽とは何か」という本書の(隠れた)テーマを掘り下げ、一つの答えを出すことができました。

・内容をざっくりまとめると・・・
第一部では、パリのサロンの概略を地図を交えて説明しています。王宮や大使館など、上流サロンでの音楽家、とくにピアニストたち(カルクブレンナー、フィールド、モシェレス、ショパン・・・)を中心に、彼らの立ち居振る舞いを描いています。第二部はヅィメルマンのサロンに焦点をあてて、登場した音楽家、演奏された楽曲の詳細に迫ります。

そろそろ書店にも出回るころかと思いますので、お手に取っていただければ幸いです。

最後に、編集中、何度も読み直してくださった皆さん、有難う&お疲れさまでした!!!

・カワイ出版のページ
・Amazonのページ
・湊七雄氏のホームページ

追記:
出版後、阪大で福田公子さんが書かれた『19世紀パリのサロン・コンサート―音楽のある社交空間のエレガンス』という博論を2013年に自費出版されているのをamazonで知りました。『ルヴュ・エ・ガゼット・ミュジカル』誌に基づいて丹念に調査された大変な労作ですが、2013年はパリにいて日本の出版情報をほとんど見ていなかったために、見落としていました。福田氏の論考を引用できたらどんなに良かっただろうと思います。拙著ともいくつか重複するエピソードもありましたが、あえて基本的な違いを指摘するなら、福田氏の研究が19世紀前半のパリのサロン全体をバランスよく見渡す鳥瞰的なご研究であるのに対し、拙著はもうすこし視野を狭めてショセ=ダンタン地区に焦点をあてた、音楽家目線を重視したサロンの描写になっています。とはいえ、参考文献に入れられなかったのは心残りです。また増補・改訂の機会には、あらためて参照させていただきます。

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春がきたと思ったら、また寒い日々に逆戻りですね。今年度ももうすぐ終わり。3月から5月にかけて、あれこれ手掛けてきた仕事が順次出版される予定です。その第一弾として、シャルル・グノーのピアノ曲集が刊行されました。

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表紙は今回も城之尾武司(個人ウェブサイトはこちら)さんにお願いしました。出版社編集部がマリア様のイメージでという要望だったのですが、予想以上の美しい表紙になりました!有難うございます。
(3月21日から東京で始まる武司さんの個展情報はこちらからチェックしてみて下さい)

さて、なぜグノーかと申しますと・・・今年は彼の生誕200年なんです!《アヴェ・マリア》などの独唱曲、オペラ《ファウスト》や宗教曲《聖チェチリーアのミサ》などで広く知られているグノーは、オルガンでキャリアを開始したこともあり、交響曲をはじめとする器楽や、鍵盤楽器のための曲をいくつも残しています。当時製作・販売されていた脚鍵盤付きのピアノのための協奏曲など、古典的な構成の曲から、ロマンチックなサロン風の曲まで、作風はじつに多様です。

今回は、そんなグノーがピアノのために書いたオリジナル、編曲を厳選して11曲を収録しました。

1. パストラール
2. ナザレのイエス−福音の歌
3. 王のメヌエット
4. 子どもの舞踏会−やさしいワルツ
5. 剣(つるぎ)の舞−ブルターニュの伝説
6. あやつり人形の葬送行進曲
7. 蔦(つた)
8. 無言歌第5番 春の歌
9. 即興曲 10.ガヴォット(遺作)
11.バッハの〈前奏曲〉第1番に基づく瞑想曲(アヴェ・マリア)

この中で目玉は、なんといっても『あやつり人形の葬送行進曲』と『バッハの〈前奏曲〉第1番に基づく瞑想曲(アヴェ・マリア)』でしょう!

「あやつり人形〜」は、かつてテレビ番組「ヒンチコック劇場」の主題曲だったので聞いたことのある方も多いはず。オケ版が有名ですが、オリジナルはピアノ曲です(こちらはオケ版)。


バッハの《平均律クラヴィーア曲集》にメロディを付けた《アヴェ・マリア》は、あの有名な曲には違いありませんが、作曲者によってピアノ独奏用にアレンジされています。難易度が高いので、収録を迷いましたが、上級者なら跳躍部分を頑張れば弾けるはず、ということで今回、日本初出版です。



この他、個人的には難易度はずっと低めの《即興曲》がお気に入りです。ドビュッシーの時代に近づくにつれて、グノーも全音音階を用いたりして、かなり色鮮やかな近代的色合いのワルツです。新しい手頃な曲をお求めの方は、ぜひ、お店で見かけてたら、手に取ってみてください。

ネットでのお求めはカワイ出版のサイトからどうぞ。

まだ寒さと花粉がダブルで続きますが、お風邪などひかれませんように!

2020年にベートーヴェンが生誕250年を迎えるということで、もうベートーヴェン界隈がざわざわしているのを見て、気が早いなぁ言いながら、自分もちゃっかり計画していた演奏会です(東京オリンピック2020で盛り上がってるし、ベートーヴェンだって!)。題して『ベートーヴェンヘの オマージュ・セレクション』。

★日時:

2018.2月22日(木)
19:00 開演(18:30開場)
★場所:東音ホール(東京、巣鴨)
★ピアノ:林川崇、瀬崎純子、小林えりか、京谷光真
★チケット:当日お配りする封筒に好きな金額を入れて頂く方式です。お気軽にどうぞ。
★詳細はこちら

ベートーヴェンの主題を用いて創作された1810年世代の音楽家によるパラフレーズと変奏曲だけを集めたコンサートです。前回は19世紀音楽家によるバッハへのオマージュ作品で演奏会をやりましたが、ベートーヴェンへのオマージュは、探すと意外と少ない。もちろん、交響曲のトランスクリプションやカデンツァ、記念碑建立基金集めのための作品は何人もの音楽家が手掛けていますが、「ベートーヴェンの主題による〜」(しかもショパン・リスト世代限定)というタイトルの作品は探すのに苦労しました。やはり時代はオペラが主流だったから・・・。

結局1810年世代のピアニストの作品から力作を4作品選んで時間いっぱいという感じです。どれも大作ですが、有名な主題がいくつも登場するうえ、参加してくれる4名の演奏家も、それぞれにキャラクターが違うので聴くのに苦労はしないはず、むしろ楽しく聴けるハズです!

今回はいつもご一緒してくださっている林川さん、瀬崎さんにくわえ、芸大ピアノ科を出られた小林えりかさん、学部に在学中の京谷光真が参加してくださいます。

プログラム:
★プリューダン:幻想曲「ベートーヴェンの思い出」Op.10(演奏:瀬崎純子)
主題は当時玄人たちの間で聴かれていたベートーヴェン「クロイツェル」ソナタの第2楽章。後半には第7交響曲第3楽章のトリオが登場する華麗なパラフレーズ。パリ音楽院の師ヅィメルマンに献呈、1842年刊。

★リスト:ベートーヴェンの「アテネの廃墟」による幻想曲S.389(演奏:林川崇)
劇付随音楽《アテネの廃墟》に基づくパラフレーズ。終盤にはおなじみ「トルコ行進曲」が登場。モスクワ音楽院創立者でピアノの名手、ニコライ・ルービンシテインに献呈、1865年刊。

★シューマン:ベートーヴェンの主題に基づく自由な変奏曲形式の練習曲(演奏:小林えりか)
第7交響曲の第2楽章にもとづく変奏曲。《交響的練習曲》作品13と同様、「練習曲」とは名前が付いていますが、11曲から成るれっきとした厳格な変奏曲です。変奏のひとつを除いては生前には出版されず、バージョンも3つある。1830年代前半の作。

★ヘラー:ベートーヴェンの主題による21の変奏曲Op.133(演奏:京谷光真)
青年時代、ドイツでシューマンの薫陶を受け、パリで独仏のエスプリを融合したヘラーによる《熱情ソナタ》第2楽章の主題に基づく変奏曲。原曲も変奏曲とあって、老年期のヘラーの意気込みが伝わる大作。第2楽章の主題が、ベートーヴェンの交響曲や弦楽四重奏のモチーフ、シューマン、ショパンの作品へと自在に姿を変える、円熟の大作です。パリ音楽院教授E.M.ドラボルドに献呈、1872年刊。


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国際音楽学会@東京でバタバタしているうちにはじめての書籍が発売になりました。ピアノ教則本「チェルニー30番」をめぐる練習曲の歴史がテーマです。

本が出来上がってまず思うのは、一冊の本は、著者ひとりの力では産声すら上げることができない、ということでした。内容に魅力的な形を与え、読み手に相応しい体裁に整える。そのためにどれだけ多くの方が時間を割いてくれたことでしょう!

まず、チェルニーを研究されていた編集者の中川航さん強力なバックアップなしには、ここまで詳しくチェルニー像を描き出すことはできませんした。

そして、原稿を何度も読み直してくれた仲間。お蔭様で、いくつもの読み手の視点を取り込むことができ、今後の執筆の糧となりました。

そして、装丁を手掛けてくださったの福井大学准教授の湊七雄先生。幼いころから見守ってくださった湊さんに書籍の美しい顔を描いて頂き、本がすばらしい「作品」になったことは、とても感動的でした。

加えて、春秋社編集部、書籍出版のきっかけを作ってくださったPTNA連載担当の皆さまをはじめ、本書の刊行に携わられたすべての方々に厚く、そして熱く!御礼申し上げます。

まことに、この本は応援してくださる皆様の善き意志の賜物です。

内容については、春秋社やAmazonのサイトの概要説明をご覧くださいまし。http://www.shunjusha.co.jp/detail/isbn/978-4-393-93794-5/

いろいろ不行き届きもあるかもしれませんが、また折に触れてご指導ご鞭撻を頂ければ幸いです。
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お話をさせて頂く演奏会のお知らせです。

『19世紀のJ. S. バッハとピアノ ―バッハをめぐる創造的編曲の世界』
 2017.1月25日(水) 19:00 開演(18:30開場)

2009年ころから続けてきた公開録音コンサート、今年は19世紀のに書かれたバッハ作品のピアノ編曲を取り上げることになりました。題して《19世紀のJ. S. バッハとピアノ―バッハをめぐる創造的編曲の世界》。1850年のバッハ協会設立前後に拡がていったバッハ像が、ピアニスト兼作曲家たちの趣味やセンスに応じて、色とりどりに描き出されます。

演奏は作曲家・ピアニストの林川崇さん、東京芸大でソルフェージュ科の博士課程を修了されたピアニストの中村純子さんです。

ご予約はこちらからできます。 (全日本ピアノ指導者協会のサイトに飛びます)
お誘い合わせの上、足をお運び頂けましたら幸いです。 


Program
・ベルティーニ編曲:平均律クラヴィーア曲集第1巻第4番(4手)
・ダムケ:バッハへのオマージュ(4手)
・サン=サーンス編曲:カンタータ第29番より 序曲
・リスト:バッハの「泣き、嘆き、憂い、おののき」による前奏曲S.179
・グノー:バッハの第1前奏曲による瞑想曲(〈アヴェ・マリア〉)
J.シュルホフ編曲:管弦楽組曲第3番より エールとガヴォット(「G線上のアリア」)
アルカン編曲:フルート・ソナタBWV1031より シチリアーノ
ル・クーペ編曲:聖霊降臨祭のカンタータ(BWV68)より アリア
サン=サーンス編曲:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番より ガヴォット
ライネッケ編曲:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番より シャコンヌ(4手)

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