2005年10月30日

靖国と「春の雪」

前回、映画「春の雪」の問題点を指摘したが、私自身、この映画そのものをダメなどと言う気はしない。映像は美しいし、配役もバランスが取れていて、ほんのわずかしか登場しない役に岸田今日子若尾文子真野響子らを配するなど絢爛豪華でさえある。ただ、この映画には原作にあった毒が綺麗に取り除かれている。
清顕は「今、夢を見ていた。又、会うぜ。きっと会う。滝の下で」と本多に最後の言葉を告げて死ぬ。これは、もちろん「聡子にまた会う」という意味ではなく、“戦友”本多にまた会おう、という意味だ。実際、第二巻の「奔馬」で本多は滝の下で清顕の生まれ変わりと見られる飯沼勲にも転生の印、黒子を発見する。ここには先の大戦で仲間に「靖国で会おう」を合言葉に戦場に向かった出征兵士たちの思いが重ねられている。
また清顕が聡子に会うために月修寺に何度も詣で、病に倒れて挫折するのが2月26日である。天皇への忠義を信じ、決起した青年将校の二・二六事件と重ねられている。三島は二・二六事件の首謀者の一人、磯部浅一の遺稿について書いた『「道義的革命」の論理――磯部一等主計の遺稿について』で純粋な希望を論じ、清顕にも純粋な希望を託している。
英霊の声」では人間宣言した昭和天皇を英霊たちが「「などてすめろぎはひととなりたまいし」と嘆かせている。
戦後、生き残った本多は「天人五衰」の末尾で月修寺の門跡となった聡子に「清顕さんという方は、お名をきいたこともありません。そんなお方は、もともとあらしゃらなかったのと違いますか? 何やら本多さんが、あるように思うてあらしゃって、実ははじめから、どこにもおられなんだ、ということではありませんか?」とけんもほろろに言われているが、これは明らかに終戦後、人間宣言をした天皇=聡子であり、「私は現人神ではありません。あなたが勝手に神と思い込んで恋していただけでしょう?」と宣告しているのだ。
つまり、清顕も、勲も本多の作り上げた幻であり、青年将校や英霊の思いも葬り去られるのだ。
聡子は勅許が降りたから「不可能」な存在になったのではない。月修寺に篭ったから絶対の禁忌=天皇になった。清顕も勲も天皇のために戦死するという点で同じで、その思いを伝えようとした本多は最後に裏切られる(片思いと分かり失恋する)のだ。
三島の戦後日本に対する当てこすりがこめられていることは言うまでもない。
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Posted by y0780121 at 20:47│Comments(14)TrackBack(16)clip!三島由紀夫 | 邦画ハ

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http://blogs.yahoo.co.jp/minafumiko/trackback/809589/2661854
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この記事へのコメント
TBありがとうございました。
TB返しで間違って違う映画のTBをつけてしまいましたので、削除をお願いします。ごめんなさい。
Posted by wako at 2005年10月30日 21:33
こんにちは♪
こちらからは同じ記事しかTBできなくてごめんなさい。
とても興味深く読ませていただきました。
実は4部作すべてを読んでいないのでなんともいえませんが、すべては本多の夢とのことですね?
三島の作品を読んでいると言葉も美しいし、日本人でいることに感謝したくなります。
Posted by ミチ at 2005年10月30日 21:54
【長文なので、分割してカキコします】

 私は、聡子=天皇とまでは解釈していませんでしたが、成る程と思いました。そうなのかもしれませんね。
 私は、清顕・勲・ジンジャン=存在、本多=認識主体という設定のもとで、”実存”を中心主題として描いた作品と捉えています。作中、主人公は行為者、本多は認識者である旨が繰り返し述べられ、強調されています。その中心主題に、三島個人の美意識やイデオロギーを反映させつつ、物語としてもドラマティックに仕立て上げた作品と解釈しています。
Posted by ニート1号  at 2005年10月31日 00:33
 『実存は本質に先立つ』という有名な考え方がありますが、本作品では認識主体の不確実性に起因する存在の危うさや不条理を表現しているのではないでしょうか。認識主体を常人以上に論理的で常識的な人物に設定している事は、その不確実性の強調でしょう。『禁色』では最後に、美の存在と不条理(生きていないと美を官能できないが、美は生を越えて存在する)について、老作家が語り、死んでいきます。実存とは永遠の哲学テーマですが、三島にとっても最後に死をかけて描きたかったのではないでしょうか。『禁色』では小説という表現主題を自虐的に述べていますが、三島に他の表現手段はないですから。(演劇や政治など、多彩な活動をしていたようですけど)

 いずれにせよ、天才三島が幾重にも仕掛けを施している奥の深い作品であると思っています。
 長文、失礼しました。
Posted by ニート1号  at 2005年10月31日 00:34
後半部分の ”表現主題” ⇒ ”表現手段” です。

失礼しました。
Posted by ニート1号 <誤字訂正> at 2005年10月31日 00:36
小説『春の雪』、それを「毒」というのが適当かどうかはわかりませんが、ある意味でとてもバランスの悪い作品なんじゃないかと思うんです。
映画の方、それをバランス良く、バランス良くとまとめたら、結局なにがなんだかわからないような感じになってしまったということじゃないですか。新橋駅のシーンなど、私はデヴィッド・リーンの『旅情』を思い浮かべてしまいました(笑)。だから、聡子の出家も、なにかの腹いせのようで、そんならあわせてやればいいのにって気がしてしまいます。
この映画のカメラ・ワーク、みなさん美しい、美しいと言ってますが、その美しさ、変なたとえにきこえるかもしれませんが、私にはカラヤンが演奏する音楽の「美しさ」と共通しているように思え、かえって空しくなりました。
Posted by lunatique at 2005年10月31日 01:03
そんなこつより竹内結子たんの生のお姿を獅童クンと同じラベルで拝見したいということでひとつ
Posted by マルセル at 2005年10月31日 14:54
ニートさん、すみませんが何を仰りたいのか、結局、よく分かりませんでした。
lunatiqueさん、「旅情」は私も見ましたが、ちょっとついていけません。
マルセルさん、そっちの方面はこの映画では期待しない方がいいです。
Posted by 佐藤秀 at 2005年10月31日 19:28
三島由紀夫の遺作「豊饒の海」って「春の雪」、「奔馬」、「暁の寺」、「天人五衰」からなる4部作ですよね
長編小説と言うと、紫式部の「源氏物語」、ロマン・ロランの「魅せられたる魂」、ドストエフスキーの「罪と罰」、そしてマルセル・ブルーストの「失われた時を求めて」などがあるけど、これらを書くのは物凄く大変なことだし、この中の1つでも全部読んだ人はそうはいない
Posted by マルセル at 2005年10月31日 20:25
「失われた時を求めて」はアラン・ドロンも出た「スワンの恋」という映画がつくられましたが、ルキノ・ビスコンティの「失われた時を求めて」はシナリオはつくられましたが、結局映像化できぬままにビスコンティは他界してしまいました
ビスコンティすら映像と文学はまったく別のものだと言っていたような気がしますし、こういう作品の一部を取り上げて映像化するのは、結局どこかに不満を残すような気がします
まだ観てませんが、ボクは三島作品を映像化したことを褒めてやりたいと思います
Posted by マルセル at 2005年10月31日 20:25
初めまして。先日はトラバありがとうございました。
本多の幻想ではないかという見解から自分なりの見解が出てきて日記に書いたのですが、わかりやすくこのように書いてくださったおかげでなるほど、という思いに到りました。(日記を書き直してこちらを紹介させていただきました)
トラバさせていただきました。
Posted by plum.apricot at 2005年11月11日 18:02
トラック・バックを有難うございます。
行定監督は、四部作総てを映画化するつもりでしょうか。
だとすれば、それなりに野心的な試みになるでしょう。
Posted by 雪斎 at 2005年12月01日 06:58
雪斎さん、4部作全部映画化したいと言っておられるのは藤井浩明氏なので、作るにしても監督は変わる可能性ありますね。
Posted by 佐藤秀 at 2005年12月01日 09:37
TBありがとう。
ああ、藤井さんは4部作の映画化を考えているんですか。野心的ですね。商業映画の枠組みの中で困難なことは多くあると思いますが、ぜひとも、挑戦していただきたいと思います。
Posted by kimion20002000 at 2006年06月14日 02:01