2009年10月11日

パンドラの匣5

pandora公式サイト太宰治原作、冨永昌敬監督、染谷将太、川上未映子仲里依紗、窪塚洋介、ふかわりょう、小田豊、杉山彦々、KIKI、洞口依子、ミッキー・カーチス。終戦直後、世の中の大変動から隔離された結核療養施設は終戦後も一貫して不思議な戦中的平和が保たれていた。
自分を世の中の余計者だと感じ、生きる辛さから結核による喀血を恩寵の印のように感じたひばり(染谷将太)だったが、終戦を機に新しい自分に生まれ変わろうと喀血を母に告白し、生きようと「健康道場」と称する風変わりな療養所に入所する。
pandora2そこでは、皆本名で呼び合わず渾名が本名となる。生まれ変わろうとするひばりにとって心地よいはずである。軍隊のように「やっとるか」「やっとるぞ」「頑張れよ」「ようしきた」と合言葉のような挨拶が交わされていて、ここはまだ戦中の、ひばりが生まれ変わろうとする前の、居心地の良い死が共通前提の世界でもある。そのことは実はひばりが本心で生まれ変わりたいなどと思っていないことを暗示する。
“軍隊生活”を終えたつくし(窪塚洋介)はまるで逆出征兵士のように娑婆に送り出される。彼がその後寄こす手紙は戦場の兵士から銃後の守りにつく家族への手紙のようでもある。認められた内容は戦局と恋の戦局の違いはあれど。
そこでは上官が皆健康そうな女性で、平の兵隊は皆結核患者の男性だということ。男性同士は結核という死の共通項のために平等社会が実現している。ある意味ひばりにとって桃源郷のようなあべこべの世界だ。
無邪気で元気で明るい看護婦・マア坊(仲里依紗)と、「年増」の「美人」婦長の竹さん(川上未映子)。そして、ひばりとつくし。4人の関係は、この特殊な世界と外部の世間との関係を考えないと分からない。竹さんは元々赴任してきた外部の人間。つくしも今や外部の人間。残されているのはマア坊とひばりだけなのだ。如才ないマア坊はその状況を分かっていても、ひばりはかなり鈍感だ。
ひばりは竹さんが廊下の拭き掃除をしている時のお尻の形に魅入られる。このようなシーンが2度ほどある。しかし、竹さんの姿は生々し過ぎて別世界のようにひばりには見えたはずだ。
一方のマア坊はパーマをかけて精一杯色気を演出するのだけれど、元々天真爛漫でなかなか振り向いてもらえない。
やがて物事は落ち着くところに落ち着いていくのだけれど、ひばりは蔓のように陽の当たる場所、自分が余計でない世界に辿り着けるのだろうか。実はひばりにとって結核とは「生きていけない自分」のメタファーであり、この「健康道場」は生きられないもののための一時しのぎの死を担保とした現実逃避のアジールなのだ。途中で無言の退場者が出て、決して明るいとは言えない偽りの平和が支配する場所なのだ。たとえひばりがパンドラの匣の残された希望のようなマア坊と結ばれても運命は変わらなかったと、その後の太宰治は証明している。
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Posted by y0780121 at 17:34│Comments(4)TrackBack(11)clip!邦画パ行 | ★5

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パンドラの匣 [DVD]ジェネオン・ユニバーサル 2010-08-03売り上げランキング : 71751Amazonで詳しく見る by G-Tools  私が勝手に太宰治の最高傑作と思っている『パンドラの匣』が映画化。  期待して視聴しました。       舞台となる“健康道場”のレトロで牧歌的…
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この記事へのコメント
竹さんがひばりの足を拭き、履物を脱ぐ時に顔の目の前でお尻を向けたときにはちょっとドキっとしましたよ。川上さんは初演技らしいですが、さすが芥川賞作家だけあって、この女性を完全に理解していたんでしょうね。
Posted by KLY at 2009年10月13日 23:13
あのお尻突き出しポーズ完全に意識的でしたよね。でもそういう生々しい生からはひばりは拒否されていると感じているんですね。
Posted by 佐藤秀 at 2009年10月14日 00:03
最近いつも記事を拝見しております。
自分が映画を観てもやもやしているところを霧が晴れたように的確に表現してくださる佐藤秀さんには、ほんと脱帽しております!映画を観る時、観た後の参考にしています。
ほんと、的確で素晴らしいですねえ・・・
私なんか曖昧で、ただ好きだなとしかわからなかったのに。すごいっす。
Posted by 三冬 at 2009年11月19日 20:27
観る映画にも得手不得手があるんですけど、この映画は得手の方ですね。こういう映画は書いていて楽しいのですよ。
Posted by 佐藤秀 at 2009年11月19日 21:41