2020年03月31日

夕凪の街 桜の国(2007)5

佐々部清監督死去を受け再アップ
yuunagisakura公式サイト大田洋子原作、こうの史代漫画原作、佐々部清監督、田中麗奈、麻生久美子、堺正章、藤村志保、吉沢悠、伊崎充則、中越典子、粟田麗、金井勇太、田山涼成。桜と原爆はほとんど関係ないように思われるのだけれど、まことに不思議な組み合わせだ。実は原作の原作の「桜の国」は戦時中に書かれた戦意高揚小説で、中国は黄色、朝鮮は紫、日本は緑豊かな国で春には桜が咲く国と、「桜の国」は日本の優越性を誇示する意味が込められていたという。そのタイトルが現代日本篇のタイトルに使われている意味は何だろうか。(初出2010年4月3日)
前編の「夕凪の街」は1958年の広島の「不法占拠禁止」と看板が立った原爆スラム。登場人物の姓名全て広島市内の地名から採られている中で、皆実(麻生久美子)が主人公。原爆症の少女というのは昔から語り継がれていて皆実はそうしたモデルから構築されたに違いない。
何を演じさせてもうまい麻生久美子は皆実役を静かに、しかし「やったあ! また一人殺せた・・・ちゃんと思うてくれとる?」と最大の敵意をこめて果てる。
その前に「うちらは誰かに死ねばいいと思われた」「死ねばいいと思われる人間に自分が本当になっとる」と言っていたのを受けた言葉なのは明らかで、「誰か」とは、投下時に殺された累々たる死体の恨み節で断じてはなく、原爆を落とした相手のアメリカにほかならない。弟の旭(伊崎充則)が「なんで原爆は広島に落ちたんじゃ」と言うのに対し「それは違うよ。原爆は落ちたんじゃのうて落とされたんよ」と皆実はたしなめている。国威発揚とは直接関係なくても、皆実の台詞にはどこか戦時中の国威を受け継いだ最後の意地のようなものを感じざるを得ない。「過ちは 繰返しませぬから」の対極にある言葉だ。
それから高度成長を経た49年後に、既に定年になった旭(堺正章)は、ボケを装うように失踪する。気配に気づいていた娘の七波(田中麗奈)はそっと尾行し、偶然会った小学校時代の級友東子(中越典子)と一緒に夜行バスで広島に行く。実は皆実の50回忌のお参りに行っていたのだ。凛とした敵意を最後まで持ち続けていた皆実に比べ、現代の旭には、そんな根性もなくなり、子供たちにも過去の忌まわしい出来事を語らず、現代風事なかれ主義者のように見える。
yuunagisakura後で旭は七波が尾行していたことに気付いていたことが分かるが、恐らく、それは皆実の墓参りしていた時だろう。磨かれた御影石の墓石は鏡として充分役割を果たしていたはずだ。ふと見上げたら「皆実」が目の前にいる。実は後ろからそっと旭の様子を監視していた七波の顔が映っていたのだけれど、旭にはそれが一瞬、皆実と思えたに違いない。この映画の中で最も印象的なシーン。
結婚したくてもできなかった皆実と、28歳になっていまだ結婚相手が見つけられない七波が同じ桜の簪を付けている。金魚を飼っていた皆実とアリを飼育している凪生(金井勇太)。このアリのシーン、多分「この世界の片隅に」にも受け継がれている。
2人ははからずも同じ「ごはんだよ」と餌を与える。あの金魚って狂おしい生命の血の象徴なのだろう。今際の時に金魚の刺繍入り入り手ぬぐいを掲げる皆実は日章旗を掲げているかのようだ。
それが何で今は働きアリなのか。実はこのアリも「夕凪」篇に登場していて皆実は「アリ公って働き者じゃね」と旭に言うシーンがある。皆実は体が弱っても働き者だった。そのアリに凪生は砂糖をやるのだ。甘い砂糖を食わされる飼いならされたアリとは誰のことなのだろうか。
「桜の国」は戦時中と現代の両方を重ねているように見える。実はこの映画もある意味“戦意高揚”の映画で、決して単純な反戦、反核の映画ではない。「戦意」の意味合いが違うだけだろう。もっと主体的な日本、誇りを持った日本を皆実は願っているように見える。原爆症というのは現実に続く病魔であると同時に日本人が忘れかけてしまった痛みの隠喩だろう。
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Posted by y0780121 at 19:38│Comments(0)clip!邦画ヤ行 | ★5
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