2010年06月10日

ゆれる(2006)2

yureru西川美和監督、オダギリジョー、香川照之、伊武雅刀、真木よう子、新井浩文、木村祐一、田口トモロヲ、蟹江敬三、ピエール瀧。「マイ・ブラザー」は兄がアフガン戦争から帰還したのをきっかけに兄弟の心が別人のようにゆれる話だったが、これは兄弟が吊り橋を渡ったのをきっかけに兄弟の心がゆれる、という話。吊り橋のゆれは平衡感覚を狂わすが、兄弟の心の平衡感覚まで狂わす。
山梨の実家の母親の一回忌の法事で語られる住職の説話。「いくつになっても、どんなに裕福になっても、見えねえものを見たと言っちゃ泣き、見えるものを見逃したと言っちゃ泣くことの繰り返しをするもんじゃ・・・泣きてえような気持ちをぐうっとこらえて自分の弱いとこ、人に悟られまいと、いかめしくして見たり、周りの者に反対に牙をむいてみたり、ますます卑しくなるんです」。これが実はこの映画のテーマになっている。
東京でカメラマンとして成功した格好いい弟の猛(オダギリジョー)。自然と格好悪いのは故郷で家業のガソリンスタンドに勤める兄の稔(香川照之)の方だと思い込ませられる。両者を演じる役者からしてそうだ。
2人の幼馴染の智恵子(真木よう子)は29歳で独身のまま故郷に残って同じガソリンスタンドで働いていた。猛に憧れて易々と一夜を共にした後、翌日3人で吊り橋のある渓谷に遊びに行くが、稔が岸辺の2人をおいていかにも不自然に川の中ではしゃいでいる姿を見て、智恵子は「あの人、気付いているかもしれない」と猛に言う。
猛は「俺、クソして来るわ」と吊り橋に向かう。この台詞は、智恵子に「着いてくるな」と言っている訳で、言い換えれば、「稔の相手してやれよ」と言っているのと同じ。前夜、一緒に過ごしておきながら勝手なものだが、猛の心もゆれている。
猛が離れると、稔は「俺、高いのとか、揺れるのとか駄目だからさ、いつもおいてきぼりでさあ」と智恵子に言う。これには二重の解釈が隠されているようで、稔からすれば「俺は猛を放っておいて智恵子とここで一緒にいたい」という意味。けれど、智恵子からすれば、吊り橋を東京に置き換えて、「冒険して東京に出た猛に魅かれるが、ここにとどまる稔は駄目な人」ということになる。
案の定、智恵子の返事は「私も渡ってみようかなあ。稔さんここで待ってて」だ。
その後、仕方なく追いかけてきた稔と智恵子の吊り橋での行為は、一部始終川上にいる猛に目撃されているように描かれている。なのに駆けつけた猛の台詞は「どうした?」だ。この時点で猛は後々のことを予想して嘘を演じているように見える。
ちなみに智恵子が転落した川は急流のように見えるが、岩があちこち露出して深くはなく、よほどの増水でない限り大人が転落してもすぐに流されるような場所ではない。打ちどころが悪く頭を打って死亡しても岩と岩の間に引っ掛かる程度だろう。このロケーションは不自然だ。
その後の残された2人は互いに住職の説話のようように「見えねえものを見たと言っちゃ泣き、見えるものを見逃したと言っちゃ泣く」状態になってしまう。観る側も彼ら兄弟が本当のことを言っているのか嘘を言っているのか最後まで判然としない。ラストで稔が猛に手を差し出して助ける少年時代のビデオを見て猛がハッとするが、だから何、という感じで、稔が智恵子を突き落としたのか、事故だったのか決定的なことは分からないまま、映画そのものもゆれたままで終わる。実際、問題、あの距離から見て突き飛ばしたか事故か判断するのは微妙に難しい。
それはそれでいいのだけれど、最も不自然なのは稔が殺人罪で刑を受けることそのもの。ガソリンスタンドの客にブチ切れて車を傷つけて逮捕され、吊り橋事件も自白する。精神が錯乱していたのなら突然の自白にも疑いを向けて当然だろう。なのに裁判での検事(木村祐一)の追及は情緒的で温く、裁判の緊張感が失せている。
猛の“決定的証言”だっておかしい。通常、法廷で証人に立つ者は、口裏合わせする恐れがあるので兄弟といえども被告との接見は禁止されるはずなのではないか。現場近くにいた猛は重要参考人なのだ。しかし、猛は証言する前に何度も接見している。そもそも兄弟でこんなに証言が変われば信用性がなく、証拠採用されないだろう。こうした裁判描写が甘いので結局、尻切れトンボの印象を免れない。

西川美和監督の他作品
蛇イチゴ」、「ディア・ドクター」、「夢売るふたり
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Posted by y0780121 at 19:06│Comments(0)TrackBack(6)clip!邦画ヤ行 | ★2

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