2010年08月15日

キャタピラー4

caterpillar公式サイト。江戸川乱歩「芋虫」などをモチーフにした。タイトルの「キャタピラー(caterpillar)」は建設用機材などに使われる無限軌道ではなく、芋虫、または毛虫のこと。若松孝二監督、寺島しのぶ、大西信満、吉澤健、粕谷佳五、増田恵美、河原さぶ、石川真希、飯島大介、寺田万里、柴やすよ、椋田涼。折笠尚子、地曵豪、ARATA、篠原勝之、小倉一郎。「いーもーむーしー、ゴーロゴロ♪ 軍神さーまー、ゴーロゴロ♪」。シゲ子(寺島しのぶ)はとうとう夫の“軍神”久蔵(大西信満)を蔑むように歌い出す。
四肢を失い、耳も不自由になった久蔵の残された“武器”はもはや一物だけである。これほどに傷痍したのに、あっちの方は全く衰える気配がない。他にできることもないからしょうがないと言えばしょうがないのだが、実は五体満足だった時もそうだったようだ。そのたびに寺島しのぶは脱がされるのだが、こんなに繰り返し脱ぐのも珍しい。
時々挿入されるフラッシュバックから推察すると久蔵がなぜこんな体になったのかおよそ想像できる。中国の戦地で抵抗する中国娘を二階まで追って押さえつけ、娘の体に乗っかって正にやっている最中、階下で爆発、四肢は吹っ飛んだが、娘の体が防護壁になって頭と胴体、特に一物は無事でした、というものと思われる。実際、久蔵が戦闘中に負傷したシーンは出て来ない。
軍部はそんな破廉恥な“武勲”を公にするわけにもいかず、己の欲望のための“肉弾戦”を肉弾三勇士のようなお国のための“肉弾戦”にすり替えて軍神に祭り上げたものと思われる。とんだ食わせ者の軍神様なのだ。久蔵は自分を讃えた新聞記事や勲章を見たがるが、嬉しがっているというより戸惑っている風情だ。
シゲ子も最初は甲斐甲斐しく夫の要求に応じるのだけれど、文字通り皮膚感覚で次第に感じ取っているのが分かる。元々夫からは出征前から暴力を振るわれ、それが軍神様と村で崇められていること自体に違和感を持っていたことがシゲ子の表情から読み取れる。それはシゲ子を取り巻く環境の嘘臭さとシンクロしている。
立場は逆転し、もはや夫を尊敬しなくなったシゲ子は逆レイプまでする。それは久蔵からすれば、妻に復讐されているというより、あの中国娘が突然妻に憑依して復讐されているような恐怖と屈辱だったろう。
終戦の日、シゲ子は元々村ではぐれ者扱いされていたクマ(篠原勝之)とともに万歳三唱する。一方の久蔵はその日の瞬間から軍神でなくなり、ただの芋虫になってしまう。芋虫のように這って辿り着いた池で己の姿を映した水面には毛虫の死骸が浮いている。

主題歌↑でも分かるようにこの映画のテーマは戦争で殺された女の子に代表される抑圧された女性の男への復讐物語だろう。

若松孝二監督の他作品
水のないプール」、「海燕ホテル・ブルー」、「11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち」、「千年の愉楽
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Posted by y0780121 at 21:59│Comments(2)TrackBack(23)clip!邦画キ | ★4

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2010年:日本映画、若松孝二監督、寺島しのぶ、大西信満、吉澤健、粕谷佳五、増田恵美、 河原さぶ、石川真希、飯島大介、安部魔凛碧、 寺田万里子、柴やすよ出演。
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この記事へのコメント
そうですね<抑圧された女性の男への復讐物語だろう。
確かにそういう視点だったかもしれません!
戦争が原因だけでなう現代の介護問題まで考えてしまいました。TBさせてください。
Posted by Cartouche at 2010年08月21日 18:30
思えば女性だけでなく抵抗したくても抵抗できない人々の復讐だったのかなあ、とも思いました。
Posted by 佐藤秀 at 2010年08月21日 20:54