2011年08月19日

一枚のハガキ4

一枚のハガキもし死なずば
ichimainohagaki公式サイト。新藤兼人監督、豊川悦司、大竹しのぶ、六平直政、大杉漣、柄本明、倍賞美津子、津川雅彦。99歳の新藤監督の実体験をベースにした戦中戦後をまたいだ戦時コメディ。タイトルは「一枚」だが実はハガキは一枚だけではなく、他のハガキも重要な意味を持っている。そして、キリストの言葉「一粒の麦もし地に落ちて死なずば、ただ一つにてあらん、死なば多くの実を結ぶべし」の「一粒の麦」とかけられているのだろう。
出征兵士の見送り、英霊の帰還、兵士の死ぬ確率までコミカルに描かれ死と隣り合わせの中のユーモアに溢れている。
「今日はお祭りですが あなたがいらっしゃらないので 何の風情もありません」。中年になって招集された兵士定造(六平直政)は広島県の山奥で銃後の守りで家にいる妻友子(大竹しのぶ)からの手紙を啓太(豊川悦司)に見せるのだけれど、六平直政の風貌と手紙の内容の「風情」とがどうしても合わないから既にコミカルだ。♪あーあーあの顔で・・・・なんていう戯れ歌もある。いやしくも友子は村でモテ女であるのに。
大掃除するために天理教の道場に集められた中年兵100人というのも「世界が100人の村だったら」的だ。大掃除が終わり、くじ引きで60人はフィリピン、30人は沖縄、10人は宝塚でまた大掃除。
晴れて引き続きこれまでやったことのない大掃除を終戦まで続ける羽目になった啓太は「どうせ死ぬんだから手紙なんて書いても仕方ない」と、とうとう辞世の手紙を認めるチャンスも逃してしまう。書いたのは「これから帰る」という味もそっけもない短文なのだが、いざ三原市の家に帰ったら、父と娘は啓太がとうに死んでいると思ってできてしまい、一枚の走り書き「ごめん」を残してトンヅラしていたのだ。戦時中は検閲で書きたいことも書けなかったのに、いざ終戦になれば書くべき中身がなくなっているという皮肉。
アプレゲールという戦後に道徳観が崩壊するという現象があるが、父と妻もある種のアプレゲールだろう。そして、2人をしつこく追わない啓太もアプレゲールの喪失感に苛まれている。その根底にあるのは死ぬはずだったのに生き残ってしまったという虚脱感だろう。
破れかぶれで伯父(津川雅彦)に家を20万円で売ってブラジルに行こうとするが、特にあてがあるわけでもない。伯父もインフレで50万円で売れると見込んで買ったのだからアプレゲールやっている。
啓太が唯一思い出した約束はくじ運が悪くてフィリピン行きになり海の藻屑となった定造との約束。手紙を友子に渡すことだった。普通ならこんな面倒なことしないだろう。啓太には生き残ってしまったという罪悪感が少なくとも戦友に対してだけには残っていた。
啓太が友子の家に立った時、既に再婚した定造の弟も父母もいない。うろちょろしてたのは要領よく“くじ引き”に参加しなかった柔道5段の村の仕切り屋吉五郎(大杉漣)。
二人は友子をめぐって決闘するのだけれど、本当の理由は戦争に参加したけど死なずに戦友を失った者と、本来戦争に参加していてしかるべきだったのにのうのうと生き延びた男との決闘だろう。啓太からすれば、こんな男に戦友の未亡人を渡してたまるかなのだ。もっと平たく言えば、やらずぶったくりは許さんぞ! なのだ。思えば啓太は父にすらやらずぶったくりされたのだ。故に啓太がブラジル行きを考えるのもやめて友子と結ばれるのもやらずぶったくりに対する怒りからだろう。
ラスト、家を焼き、麦を蒔くのだが、これは聖書から題材を得たアンドレ・ジッドの自伝的作品「一粒の麦もし死なずば」の引用だろうか。本作も新藤監督の自伝的作品なのだから。実際、あのハガキも家が焼かれた時に焼失し“死ぬ”。
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Posted by y0780121 at 23:07│Comments(0)TrackBack(9)clip!邦画イーエ | ★4

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