2012年02月28日

亀は意外と速く泳ぐ(2005)5

kame三木聡監督、上野樹里、蒼井優、岩松了、ふせえり、要潤、松重豊、村松利史、森下能幸、緋田康人、温水洋一、松岡俊介、水橋研二、岡本信人、嶋田久作、伊武雅刀。2002年の小泉純一郎首相北朝鮮電撃訪問による拉致被害者帰国騒動にインスパイアされたと思われるホラーコメディ。笑いの中に日常生活に潜む裏側の不条理な世界を描いている。タイトルは亀はのろいという常識で却って水中の亀の泳ぎの速さが見えないという寓意だろう。
とある鄙びた漁港の町。スズメ(上野樹里)は23歳の平凡な主婦で夫は海外に単身赴任していて海外電話で聞いて来るのは飼っている亀に餌やったかどうかばっかりだ。基本的に電話でしか登場しない夫も拉致のイメージが付き纏うが、スズメ自身はまるで夫はいないものと悟っているみたいで、平凡な日常の中で自分が透明人間のように感じる。
スズメの日常が崩れるのは何かが落下した時と何かが膨張した時。幼い時、百段ある石段の上からタイヤを転がり落とし、そして今、その石段から夥しいリンゴが落ちて来る。石段で倒れたスズメに小さい小さい「スパイ募集」という広告が目に入る。さらに干しかけた蒲団がアパート下の車に落下する。
誤って水浸しにした亀の餌が膨張し、ベランダが水で詰まってしまう。最中が豆腐屋の水で膨れ上がったかと思えば、スズメが試しに黒かりん糖を水に浸しておいたら微妙にウンコぽくなっている。某国のスパイのクギタニシズオ(岩松了)のアパートのトイレが巨大ウンコで詰まる。これはどうもイカ飯をトイレに流して巨大化したのかもしれない。なぜかスズメの実家には干しイカで作った飾り物がある。生まれてから腐れ縁のクジャク(蒼井優)は浜の景品クジに並んでいるうちにウンコがしたくなり、代わりにスズメに並んでもらった揚句、地引網漁を当てる。いざ地引網を引くと、人間の死体がかかり、どうも日本人じゃない外国人の死体で、不審船情報も寄せられていた。既に公安警察が動き、隠れ公安も動いている。
タイヤ、リンゴ、布団、亀の餌、かりん糖、イカ飯、ウンコ、日常の何気ないありふれたものばかりを素材にしていつしか神隠しや拉致という非日常の恐怖へとイメージが膨らむ。クジャクや最後にはスズメまでやることになる変電所切りによる停電のシーンは「パーマネント野ばら」にも出て来る。
実は2人とも感電して髪が縮れて“天然パーマ”になるのだが、「パーマネント」と言えば、本作でも髪の毛が風前の灯の温水洋一が経営する「永久パーマ」というパーマ屋まで登場している。もうすぐ禿げるのにパーマもないだろうと思うのだが、その禿げがまた別の人物に飛び火していて、若い頃、スズメが髪をほれぼれと見ていた憧れの先輩加東(要潤)が実は既に禿げていてヅラだったことが分かる。さらにその妻が文字通り裏返して見れば背中は醜いシミだらけ。その息子はまるで亀のようで、喫茶店の窓ガラスにへばりついた揚句、タイトル通りのように川に流される。
ことほど左様におよそ日常物の何気ないイメージの連鎖でストーリーが展開する手法は同監督の「インスタント沼」にも共通する。有り触れた日常的なものばかりだから笑っていられるが、「平凡」とか「普通」と見なされているものが、裏返せば恐ろしい世界になるという寓意が込められていて、そこそこ味のラーメン屋(松重豊)がその気になれば行列のできる店のような極上のラーメンを作れるとか、ただの豆腐屋(村松利史)が外国に雇われるスナイパーでともに「普通」を偽装したスパイ仲間だったことからも伺える。
じゃあ、「平凡でいろ」がスパイの使命である平凡な主婦スズメは何のためにスパイ集団に雇われたのか。ヒントになるのは、10年間、一番変わり映えしないまんまの公園のベンチババアがそろそろ年で引退時期を迎えていることだろうか。

三木聡監督の他作品:「転々」、「インスタント沼」、「俺俺」。
Clickで救えるblogがある⇒人気blogランキングにほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ

Posted by y0780121 at 23:04│Comments(0)TrackBack(1)clip!邦画カハ行〜 | ★5

この記事へのトラックバックURL

http://trackback.blogsys.jp/livedoor/y0780121/50691651
この記事へのトラックバック
現在『インスタント沼』が公開中の三木聡監督作品。主演は『奈緒子』ほかヒット作多数の上野樹里。共演に最近では『百万円と苦虫女』が記憶に新しい蒼井優。更には岩松了、ふせえり、松重豊など個性溢れるキャスティング。実は私が大変お世話になっているブロガー『カノンな
亀は意外と速く泳ぐ【LOVE Cinemas 調布】at 2012年02月29日 00:38