2012年03月29日

海燕ホテル・ブルー3

kaienhotel公式サイト。船戸与一原作、若松孝二監督、片山瞳、地曳豪、井浦新(旧芸名ARATA)、廣末哲万、大西信満、岡部尚、ウダタカキ、渋川清彦、中沢青六、水上竜士、山岡一、東加奈子、真樹めぐみ。現金輸送車襲撃してオーストラリアでブドウ畑を営もうと集まった同志だったが、いざとなって立案者本人の洋次(廣末哲万)がドタキャン、仲間一人も現場から逃走した。それから7年。刑を終えた幸男(地曵豪)は裏切り者を探しに出かける。
気になるのは幸男の弟分の名前が正和(井浦新)であること。同じ若松監督の今夏公開予定の「11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち」に描かれる三島由紀夫事件の主役2人は自決した三島由紀夫と森田必勝(まさかつ)。同じ「ゆきお」に、もう一人は「まさかず」と「まさかつ」のわずかな違いだけだ。
こう考えると、原作は別として、予告編、いや、あるいは事後編めいた三島事件のパロディのような感じがする。ちなみに楯の会にも脱退者がいたし、三島由紀夫は東大全共闘の討論会で「お巡りさんが捕まえに来る前に自決しようと思っている」と言っていた。本作でも、警察官(大西信満)にマークされるが、捕まる前に死んでしまう。死に方の滑稽さは別にして。
幸男がムショを出るのは北陸の日本海に面した冬。現場を逃走した男をまずやっつけようとするが、既に女房と子供がいたので諦めるが洋次のありかだけをゲロさせて伊豆大島に向かう。ここも渺茫たる海と、火山原が舞台。
その洋次がいる海燕ホテルは現実なのか幻想なのか分からないような場所だ。
洋次を見た幸男は開口一番、「太ったなあ」と呆れる。安逸な日常生活の垢のような中年太りが許せないのだ。しかも解決手段は500万円というカネだ。安逸な日常を忌み嫌っていたわけでもないが、いやしくも同志がそうなるのは許しがたいことだった。
その同志幻想に割って入るのは洋次の妻の美女梨花(片山瞳)だが、本当に梨花が男同士の契りを台無しにしたのか実は分からない。洋次に代わり、梨花を手に入れた幸男も当初は引き締まった肉体だったのが、いつの間にか顔に張りがなくなり、日常の男に成り下がる。それを咎める正和もいつの間にか梨花に魅せられる。
しかし、梨花自身は日常とは縁遠い。煙草ばかり吸って幽霊のように消える梨花はむしろ男同士の契り以上の何かに見える。敢えて言えば、天皇陛下万歳のような崇敬の対象であり、それがまた彼らの共同幻想のような存在であるかのような。実際、2人は全員「葉隠」の「恋の至極は忍ぶ恋」、「死に狂い」を幻想の中で実践しているようにさえ思えて来る。
監督は60年代の頃の夢のような作品と言っているが、ここには3億円事件や三島事件、さらには連合赤軍事件、赤軍派によるM作戦なども重ね合わされている趣がある。
ちなみに本作も「ヒミズ」同様、東日本大震災が取り入れられており、ゲバラTシャツの酔った若者に「原発事故はなあ、俺たちの飽くなき欲望の象徴だあ!」と言わせている。しかし、語り口は現代の若者ではなく、1960年代の若者のそれで、幸男も梨花も全く反応しておらず、ゲバラTシャツも“総括”される。

若松孝二監督の他作品
水のないプール」、「キャタピラー」、「11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち」、「千年の愉楽
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Posted by y0780121 at 23:30│Comments(2)TrackBack(1)clip!邦画カ〜ナ行 | ★3

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 『海燕ホテル・ブルー』をテアトル新宿で見てきました。 (1)実は、ある映画の上映時間が遅いため、その前に何かを見てやり過ごそうと思ったところ、本作が丁度いい具合に見つかったわけです。  ただ、空き時間の穴埋めとはいえ、本作は拾い物でした。ナント、監督は『...
海燕ホテル・ブルー【映画的・絵画的・音楽的】at 2012年04月05日 21:51
この記事へのコメント
お早うございます。
本作と次作「11.25自決の日」との間に、「ゆきお」だけでなく、「まさかず」と「まさかつ」といった繋がりが見られる点(マッタク気がつきませんでした)から、「予告編、いや、あるいは事後編めいた三島事件のパロディのような感じがする」とされ、そればかりか「3億円事件や三島事件、さらには連合赤軍事件、赤軍派によるM作戦なども重ね合わされている趣がある」とまで述べておられますが、実にスリリングで到底余人に真似の出来ない切れ味の論評だと感服いたしました。
それにしても、本作を取り上げているブログが酷く少ないのは大層残念なことです。
Posted by クマネズミ at 2012年04月07日 06:53
>本作を取り上げているブログが酷く少ないのは大層残念

いやあ、それはそれでね、書いてしまったら希少価値が出ていいもんですよ。DVDになれば結構書く人多いかなあ、そうすれば先達になれるとか。
Posted by 佐藤秀 at 2012年04月08日 00:08