2012年05月15日

ポテチ2

運命の悪戯も大した違いなし
potechi公式サイト。伊坂幸太郎原作、中村義洋監督・出演、濱田岳、木村文乃、大森南朋、石田えり、中林大樹、松岡茉優、阿部亮平、桜金造。ちなみに竹内結子もエキストラで出演していたらしい。伊坂・中村コンビは「アヒルと鴨のコインロッカー」「フィッシュストーリー」「ゴールデンスランバー」以来。今回も舞台は仙台市。
同じ年の同じ日に同じ病院で生まれたという理由で空き巣業今村忠司(濱田岳)は地元プロ野球団の控え選手尾崎(阿部亮平)を異常に応援している。そして、何と尾崎の自宅に空き巣に入るのだが、何も取らずに野球中継を観ているだけ。そもそも空き巣というのは世の中から存在を消すことで成り立つ商売なので、本作に登場する空き巣仲間たちは本当にこの世に存在しているのかという雰囲気がまずある。あたかも「愛しの座敷わらし」ならぬ愛しの座敷荒らしだ。これは伊坂作品に共通することなのだけれど。そのことは本作のモチーフにも絡んでいる気配がある。
似たもの同士と言えば、タイトルになっている若葉(木村文乃)と車内で食べるポテトチップス。塩味とコンソメ味。若葉はコンソメ味を頼んだのだが、忠司は間違えて塩味を渡してしまう。けれど、「これもいいか。間違ってもらって、かえって良かったかも」と若葉は気にせずに塩味を食べる。塩味とコンソメ味の違いはあっても大した違いじゃない。これが本作のメインモチーフ。
ただ、それを後部座席で見ていた兄貴分の黒澤(大森南朋)は「違い分かるのか?」と意味深なことを言う。どうも、健康診断で血液型が有り得ない組み合わせなので、忠司と尾崎は取り違えられて育てられたらしい、と忠司は思う。けれど、だからと言って取り違えられた相手が尾崎であるかどうか分からない。病院でたまたまその日生まれた赤ちゃんが2人だけならそうかもしれないが、それを思わせるような台詞なかったと思う。またなぜ忠司が尾崎と同じ病院で生まれたか分かったのかもよく分からなかった。
さらに、尾崎の血液型は一致するのかも証拠は提示されていなかったと思う。とすると、忠司の思い込みはあくまで思い込みの域を出ないままになっている。尾崎の自宅に空き巣に入ったからといって証拠物件見つかったわけでもないみたい。黒澤が言いたかったのは、そういうことなのかも。
尾崎の母親は既に死亡し、忠司の母親(石田えり)は今も元気で忠司の部屋に遊びに来る。そうすると、ポテチ談義の後、忠司が流した涙の理由も微妙になる。もし、忠司と尾崎が“交換トレード”されていたのなら、忠司の実母は既にいないことになる。再会するチャンスは既に途絶えている。一方で実母を知らないままの尾崎には申し訳が立たない。
一方で自殺未遂を忠司に救われて同棲している若葉は自殺を真剣に考えた気配は微塵もなく、狂言自殺なのか本気自殺なのか定かでない。何となく本人は大した違いないと思っているらしいことくらいか。母親とも相性が合うらしく、恐らくはこのままゴールインするかもしれない。
となると、元甲子園スターで今は万年控え選手で孤児になってしまった尾崎と空き巣業の忠司とではどちらが不幸なのか、幸福なのか。どっちにしても大して違いがないではないか。忠司が何としても監督の私的怨念で控えになっている尾崎に輝いてもらいたいと思うのは、複雑過ぎる申し訳なさだろう。本当はただの思いこみかもしれないのに。
世界的にはニュートンがとっくに発見した万有引力の法則やピタゴラスが発見した三角形の内角の和が180度になることを忠司が個人的に大人になって発見する。世界はシンプルな法則で動いている。けれど、現象としての世界は複雑で、分かりづらい。膨大な「もしも」や「イフ」に埋め尽くされている。
その現実を紛らわすのは若葉の「大した違いない」的な生き方。黒澤の役割は、数学的に言えば虚数のような存在。表舞台では大っぴらに活躍しない虚数の存在によって東日本大震災が尾崎のホームランを生ませる。
そもそも、本作は東日本大震災が起きていなかったら製作されていなかった作品なのだから、それほど表に出てこない東日本大震災自体が虚数ということになる。ここには大震災があったかなかったかも大した違いはない、そう思わないとやってられない死生観が少し見える。
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Posted by y0780121 at 18:57│Comments(2)TrackBack(11)clip!邦画パ行 | ★2

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やっぱ濱田岳だな。彼の醸し出す独特の存在感がイイ!
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□作品オフィシャルサイト 「ポテチ」□監督・脚本 中村義洋□原作 伊坂幸太郎□キャスト 濱田 岳、木村文乃、大森南朋、石田えり、中林大樹、松岡茉優、阿部亮平、       中村義洋、桜 金造■鑑賞日 5月26日(土)■劇場 チネチッタ■cyazの満足度 ★★
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12年/日本/68分/コメディ・ドラマ/劇場公開(2012/05/12) −監督− 中村義洋 『ゴールデンスランバー』 −原作− 伊坂幸太郎『ポテチ』 −脚本− 中村義洋 −音楽− 斉藤和義 −主題歌− 斉藤和義『今夜、リンゴの下で』 −出演− *濱田岳『ロボジー』・・・今村
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 いや〜、今日はお休みです。休みの日は、家でのんびりと過ごしたい派なので、昨日借りたDVDでも観ようかな。では、本日紹介する作品は、のんびりしたい日におすすめの一本で
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この記事へのコメント
こんばんは。
出産が立て込んだ病院で取り違えられた経緯や手順などはわからないんですが、
黒澤が若葉に「自分が過去に関わったある人物が(映画化もされた別作品の主人公ですが)DNA鑑定したら尾崎にヒットした」とホテルの部屋で告げる場面があるので、
一応、今村の思い込みではないということになっています。
もっとも、黒澤が台詞で簡単に説明するだけなので、絶対確実とは言い切れませんが。
Posted by 悠雅 at 2012年05月15日 21:05
確かそんなこと言ってましたね。けれど、「DNA鑑定したら尾崎にヒットした」って、捜査機関じゃあるまいし、どうやって鑑定したのかものすごく曖昧ですね。そこら辺がちょっと弱いのが残念。そもそもそこに至るプロセスも曖昧だし。
Posted by 佐藤秀 at 2012年05月15日 21:15