2012年10月02日

ストーカー(1979)5

ソ連的パンドラの箱
stalkerソ連映画。英題:Stalker。ストルガツキー兄弟原作、アンドレイ・タルコフスキー監督、アレクサンドル・カイダノフスキー、アリーサ・フレインドリフ、アナトリー・ソロニーツィン、ニコライ・グリニコ、ナターシャ・アブラモヴァ。隕石の落下、UFO襲撃とも言われ、軍隊も全滅した「ゾーン」と呼ばれる廃墟にゾーンの案内人ストーカー(アレクサンドル・カイダノフスキー)は科学者(ニコライ・グリニコ)と作家(アナトリー・ソロニーツィン)を案内する。
原子力発電所らしき建物(実際には大型火力発電所か)が映されていることから一部にはこのゾーンを1986年に起きたチェルノブイリ原発事故を預言したものだという評価もあるが、後講釈だろう。むしろ参考にされているのはツングースカ大爆発だろうか。この爆発はいまだ謎で諸説あるが、中にはUFOが墜落したためというものまであった。
むしろ、ゾーンに相当するのは同じタルコフスキー作品「惑星ソラリス」に出て来る知的活動を行っていると言われる「ソラリスの海」だろう。ストーカーは「ゾーンは我々の意識に反応して変化するらしい」と仄めかしている。また作家は「この世界は退屈だ。全て物理の法則の奴隷でその範疇から抜け出せない」「中世はまだ神がいて良かった」「現在と未来が合流してしまった」などと嘆いている。とすると、作家は物理法則の範疇から抜け出た特異点のようなものを見出そうとしているように見えるが、同時に「ゾーンだってどうせその範疇内の出来事だろう」と醒めてもいる。
一方の科学者はどちらかと言えば寡黙で、どうもソ連当局から逆らって何かを企んでいるらしい。
物理法則範疇外の出来事が起こるとすれば、それは奇跡であり、超常現象だ。SF仕立てだが俄かに科学対宗教、無神論対神の様相を呈して来る。実際、案内人のストーカーはゾーンの中にある「部屋」と呼ばれる希望が叶えられる場所に案内しようとするが、実はストーカー自身、部屋の中に入ったことがない。作家はキリストの真似をして茨の冠を被る。
ここら辺り、むしろ、「禍いをもたらすために触れてはいけないもの」を意味し、残ったのは「希望」だけという「パンドラの箱」を想起させる。「パンドラの箱」は元々は「パンドラの壺」だったようで、本作でも「壺」という言葉が出て来る。科学者は20キロトンの小型原爆らしきもので「部屋」を爆破しようとするが、結局、失敗し、水の中に埋もれてしまう。その水に血らしきものが撹拌して来る。
オープニングとエンディングはセピア調のバー。3人とも酒を飲んでいるのでソ連社会で問題になったアルコール依存症との関連性が考えられる。ロシア語でウォッカの語源は水を意味するボーダ。ゾーンにも夥しい水が登場しているし、水の中で火が焚かれているのは、火がつくウォッカなのかとも思える。水のある沼の中で眠るシーンがたびたび登場するのはアルコールで泥酔しているメタファーとも読める。そうすると、彼らのゾーンへの探索はアルコール中毒者の夢の中の物語なのか。その夢の中だけは瑞々しい色彩に溢れている。科学者が破壊しようとしたのは「絶望的な夢」そのものか。
その水の中にはソ連的な機械工業を象徴する金具(ソ連旗のシンボル)やロシア正教のイコンが沈んでいる。もし、本作が何かを預言しているとしたらチェルノブイリ原発事故よりも1991年のソ連崩壊だろうか。バーの2本の蛍光灯の1本がずっとチカチカしていて今にも消えそうなのはその兆しだろう。
ラストで「範疇外」の「奇跡」が起きる。オープニングでは列車の振動で動いた酒の空き瓶が今度は身障者のストーカーの娘が念力?で空き瓶を動かし、床に落とす。それまで「未来」は「現在」から計画(ソ連の五カ年計画)される「範疇内」の世界だったが、未来を担う筈の娘がアル中を排除して未来を「現在」から解放しようとしているようにも見える。正に身障者の娘だけが「希望」として残った。

アンドレイ・タルコフスキー監督の他の作品
ノスタルジア」、「サクリファイス
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Posted by y0780121 at 12:02│Comments(0)TrackBack(1)clip!洋画ス | ★5

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地上に突如出現した不思議な空間”ゾーン”。 このゾーンの奥には人間の願いをかなえる部屋があるという…。 SFサスペンス。
ストーカー 【象のロケット】at 2012年10月03日 07:49