東京家族〜様々な左右対称
記憶フォーマットとしての「東京物語」
公式サイト。山田洋次監督、橋爪功、吉行和子、西村雅彦、夏川結衣、中嶋朋子、林家正蔵、妻夫木聡、蒼井優、小林稔侍、風吹ジュン、茅島成美、柴田龍一郎、丸山歩夢、荒川ちか。小津安二郎監督の「
東京物語」(1953)のリメイク。というか、異なる時代背景で左右対称をなした、それ自体がオマージュぽい。今年は「東京物語」60周年であると同時に山田洋次監督の監督生活50周年記念でもある。
オリジナルの「東京物語」は言わば日本を記憶するためのフォーマット。60年前の日本を、今の日本を、さらに60年後の日本人にこの同じフォーマットで記述された二つの「日本」の違いをどう読み取ってもらえるか。そのためのリメイクだろう。その目的からすれば巷間言われているような311の「不自然」な引用など意味がないことが了解される。鼻につくとすれば、観ている側の頭が今現在のマスコミからバイアスを受けているだけのことで、映画の責任ではないだろう。このフォーマットが60年後の観客をも意識して製作されたのなら、60年後の観客の目からは、むしろ、3.11が全く出て来ないことが不自然になってしまうだろうから。
東京郊外にある医院を営む長男幸一(西村雅彦)の家。手前に階段の昇り口、奥に台所のカットは小津特有のもの。昔の急な階段をらせん状の階段の現代の住宅で再現して不自然さがなかった。ここに山田監督の覚悟のようなものを感じる。後でまたこの階段が重要な役割を担うことになるのだが、その決定的場面でも階段そのものは見せていない。
総じてこの医院での家族の会話は木訥調とでも言うべきなのか、一歩誤れば棒読み風。その典型は一家の大黒柱幸一なのだから。これも小津風なのだけれど、さすがにこの木訥調は次男昌次(妻夫木聡)と恋人の紀子(蒼井優)には受け継がれていない。
瀬戸内海の島から上京して来た老夫婦が降りるのは東京駅ではなく品川駅。多分、製作時は東京駅駅舎改装中だったからかもしれない、とは思ったが、新幹線の駅構内だけしか写っていないから無関係のようだ。品川駅ではさりげなく中国語の構内自動放送が流されている。これと左右対称のように横浜の高級ホテルでは富裕層中国人らしき男性客が中国語で居丈高に大声を出してクレームをつけ、老夫婦に少なからぬ影響を及ぼしている様子だ。
外国人と言えば、夫婦が観光バスに乗って東京スカイツリーを見上げる時に、夫婦のすぐ後部座席にヨーロッパ系と思える外国人カップルが配置されている。このカップルが印象が良いなかなかのイケメンと美女なのだ。
一方で、昌次と紀子が東日本大震災被災地のボランティアで知り合った設定になっており、とみこが昌次のアパートを訪れた際、予想に反してこぎれいに整えられているのを見て「ボランティア?」と尋ね、昌次が「まあ、そんなところ」と苦笑いする伏線を回収している。さらに周吉が幼馴染の沼田三平(小林稔侍)を訪ねた時、もう一人の遺影が3月11日に亡くなった妻の母と聞いて驚く場面と左右対称になっている。
この二つの内憂外患的左右対称のエピソード、いずれも後で周吉がこぼす愚痴、「日本はどこで間違えたのか」につながっている。
小津作品に特徴的な左右対称のシーンは映像でも発見できる。紀子が昌次のアパートを自転車で訪ねて来る時、左から現れ、角に駐車してある昌次の愛車のイタリア製ポンコツ車を回って、右側に折れていくシーン。アパートを去る時も踏切で左側に自転車に乗った紀子、右側に紀子とちょうど同年齢くらいの、同じ背丈、同じ髪の長さの女性が歩いている。紀子は誰からも好意をもって受け入れられているが、山田監督も「
おとうと」でも蒼井優を使っており、役柄だけでなく女優としても好意を受けているようで、かなり監督の思い入れのあるシーンで使われているようだ。他に次女滋子役の中嶋朋子が良かった。特に涙を流すシーンは。
“姉妹作品”:「
小さいおうち」
Clickで救えるblogがある⇒
Posted by y0780121 at 19:32│
Comments(0)│
TrackBack(20)│
clip!
│
邦画ト |
★5
この記事へのトラックバックURL
東京家族 オリジナル・サウンドトラック◆プチレビュー◆名作「東京物語」を現代に置き換えた家族ドラマ「東京家族」。小津の愛した“紀子”が希望を象徴する。 【70点】 瀬戸 ...
映画レビュー「東京家族」【映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評】at 2013年01月19日 23:13
世界の映画史でもベストテンに入る物語を、山田洋次監督・脚本で現代の設定にして映画化した。登場人物の名前や美容院の名称もほぼ同じという設定でありながら、見事に今の日本の閉塞感を表現している。2013年の邦画ベストワンかな。
東京家族。 2013年の邦画ベストワンかな【とらちゃんのゴロゴロ日記-Blog.ver】at 2013年01月19日 23:35
瀬戸内海の小島で暮らす平山周吉、とみこ夫婦が上京し、東京の郊外で個人病院を営む長男・幸一、美容院経営者の長女・滋子、舞台美術の仕事をしている次男・昌次ら、家族が久しぶりに顔を合わせた。 ところが子供たちは仕事で忙しく、二人を東京見物に連れて行く暇もない。
東京家族【象のロケット】at 2013年01月21日 00:33
監督50周年を迎えた山田洋次監督81本目の作品。名匠・小津安二郎監督の名作『東京物語』をモチーフとした(現在)の家族の物語『東京家族』。出演は橋爪功、吉行和子、西村雅彦、夏川結衣、中嶋朋子、林家正蔵、
変わるもの、変わらないもの『東京家族』山田洋次・監督【映画雑記・COLOR of CINEMA】at 2013年01月23日 01:39
普通なら、スルーするタイプの作品だったけど、他に観たい作品が公開されていなかったので・・・
「オフィシャルサイト」
【ストーリー】
瀬戸内海の小さな島で生活している平山周吉と妻のとみこは、子供たちに会うために東京にやって来た。
ふたりは個人病院を開く長男...
東京家族【いい加減社長の映画日記】at 2013年01月23日 06:52
昨日、映画『東京家族』の完成披露試写会に行きました。上映に先立って山田洋次監督と
「東京家族」:小津版に負けぬ秀作【大江戸時夫の東京温度】at 2013年01月23日 21:20
□作品オフィシャルサイト 「東京家族」□監督 山田洋次 □脚本 平松恵美子 □キャスト 橋爪 功、吉行和子、西村雅彦、夏川結衣、中嶋朋子、 林家正蔵、妻夫木 聡、蒼井 優■鑑賞日 1月20日(日)■劇場 TOHOシネマズ川崎■cyazの満足度 ★★
『東京家族』【京の昼寝〜♪】at 2013年01月24日 08:32
ぴあ映画生活さんの独占試写会で鑑賞した。客入りは8〜9割くらい、幅広い客層だ。
映画「東京家族」@スペースFS汐留【新・辛口映画館】at 2013年01月24日 14:40
本日紹介する作品は、日本映画界の巨匠である山田洋次が撮ったこちらになります。
【題名】
東京物語
【製作年】
2012年
【製作国】
日本
【ロケ地】
広島県大崎上島、東
東京家族 : 至極のホームドラマ (つД`σ。゚.o。感動。o.゚。【こんな映画観たよ!-あらすじと感想-】at 2013年01月24日 17:44
映画「東京家族」観に行ってきました。「男はつらいよ」シリーズなどで知られる、山田洋次監督が手掛けた81作目の映画作品となるファミリー・ドラマです。2012年の5月。東京...
映画「東京家族」感想【タナウツネット雑記ブログ】at 2013年01月24日 22:35
東京家族 ★★★ 3.5 変わるものと変わらないもの 家族の中にある普遍と喪失の物語 小津安二郎監督の名作『東京物語』をモチーフにした 山田洋次監督81作目となるファミリー・ドラマ。 『東京物語』といえば、 2012年英国映画協会発行の「サイト・アンド・サウンド」誌で 世
『東京家族』あなたの、わたしの、だれかの物語【Healing】at 2013年01月26日 10:43
映画「東京家族」を鑑賞しました。
映画「東京家族」【FREE TIME】at 2013年01月26日 20:05
★★★☆ 製作:2012年日本 上映時間:146分 監督:山田洋次 小津安二郎監督の不朽の名作『東京物語』へのオマージュとして、山田洋次監督が現代の家族像を描くヒューマン・ドラマである。これで山田洋次監督の作品はなんと81作目になるという。それにしてもな
東京家族【ケントのたそがれ劇場】at 2013年01月29日 15:30
「東京物語 」と言えば小津安二郎 の名作。 小津 の作品「東
東京家族【LIFE ‘O’ THE PARTY】at 2013年01月31日 15:11
名作『東京物語』をモチーフに山田洋次監督が創り上げた人間ドラマです。 『東京物語』は観ていたので、あの作品をどのようにして現代風にしたのだろうと気になっていました。 丁寧な台詞回しの中で紡がれる家族の姿に、様々な想いが横切りながらも、 心がほっとするような物
東京家族【とりあえず、コメントです】at 2013年02月02日 23:12
2012年・日本/配給:松竹 監督:山田洋次脚本:山田洋次、平松恵美子プロデューサー:深澤宏、矢島孝 撮影:近森眞史 音楽:久石譲 「男はつらいよ」シリーズ、「おとうと」等の山田洋次監督が、映画監督生
「東京家族」【お楽しみはココからだ〜 映画をもっと楽しむ方法】at 2013年02月03日 00:51
余韻が広がる。
切なくも温かい後味。
東京家族【Akira's VOICE】at 2013年02月04日 17:07
山田洋次監督が、小津安二郎監督に捧げる作品。
小津の「東京物語」(1953年度)をベースに、今の日本の家族の物語を描く―。
東京家族【シェイクで乾杯!】at 2013年02月06日 23:19
『東京家族』を渋谷シネパレスで見ました。
(1)本作については、最近の山田洋次監督の作品はあまり評価できない上に(注1)、小津安二郎の『東京物語』(1953年)をリメイクしている作品と聞いて、二の足を踏んでいたのですが、あちこちで評判を耳にするものですから、...
東京家族【映画的・絵画的・音楽的】at 2013年02月25日 05:48
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2003年日本映画 監督・山田洋次
ネタバレあり
映画評「東京家族」【プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]】at 2013年12月15日 20:18