2013年03月12日

愛、アムール〜即興曲破綻調5

壊れたキー
amour1amour2公式サイト。フランス=ドイツ=オーストリア。原題:AMOUR。ミヒャエル・ハネケ監督、ジャン・ルイ・トランティニャン、エマニュエル・リヴァ、イザベル・ユペール、アレクサンドル・タロー。第65回カンヌ国際映画祭パルム・ドール、第85回アカデミー賞外国語映画賞受賞。フランツ・シューベルトの「即興曲第1番ハ短調D899,op.90」が老ピアニスト夫婦の「破綻」に導くという痛いギャグ付き。

この即興曲の出だし同様、本作もオープニングでいきなり、ドカーンという音で始まる。ガムテープで密されたベッドルームにパリの消防署員が踏み込んだのだ。
その後、本当の演奏会でジョルジュ(ジャン・ルイ・トランティニャン)とアンヌ(エマニュエル・リヴァ)の80歳の夫婦の弟子アレクサンドル(アレクサンドル・タロー)のピアノ演奏会でこの曲が演奏される。まるで、このドカーンが合図であるかのようにコンサートから帰宅した夫婦のアパルトマンに異変が起きる。ドアの鍵が壊され、ドアが閉められなくなる。ジョルジュは空き巣を疑う。文字通りキー(ピアノの鍵盤、楽曲の調)が狂い始める。この即興曲もドカーンと一発かました後、至って静かな曲に変わる。
あの泥棒どうなったのか、夫婦の勘違いで単に何かの拍子でドカーンと鍵が壊れただけなのか。きっと外出時に壊れ、夫婦が気付かなかったのだろう。泥棒の代わりにハトという可愛い侵入者がその後に現れるのだが。
翌朝、朝食を取るアンヌに異変が起きる。しばらく楽曲記号的に休符記号状態。異変を察したジョルジュは水道でタオルを水に付け、アンヌの顔を拭いてあげる。さらに救援を求めて部屋を出るのだが蛇口開放したまま。この水道水の音が刺激したのかアンヌは我に帰り、蛇口を閉じる。ジョルジュだっていくら妻の異変でパニックになったといえ、蛇口くらい閉めてよさそうなもので、彼にも確実に狂いが近付いている気配がある。
実はほとんどのシーンはこのアパルトマンの部屋の中。部屋は薄暗く、そして寂しげな風景画の絵の数々。その代わり日常の音が大きくなっている。ナイフやフォークが食器に当たる音などうるさいくらい。まるで食事中もピアノ演奏しているのかとさえ思えて来る。この大きな食器の音が「ドカーン」同様、“引き金”を引いたのかとさえ思える。
アンヌは動脈瘤の手術に失敗、半身不随に。事情を知らないアレクサンドルが訪問してシューベルトの別の曲を演奏するが、その時のアンヌの顔は生き生きとしている。
しかし、アレクサンドルが帰った後、送られて来たCDで同じドカーン即興曲をかけると、アンヌは嫌がり、一気に症状が悪化、まともに喋れなくなる。娘のエヴァ(イザベル・ユペール)が来ても自室に閉じ籠り。思えば、オープニングでアンヌが壊れた鍵を早く直そうとジョルジュに管理人を呼んで欲しいとせがむが、ジョルジュは折角のコンサートの余韻が台無しになると「明日でいいよ」と断っていた。何かここで再入院を拒み、閉じ籠りたいアンヌとそうでないジョルジュの対比が予言されていた。
閉じ籠りたい」は最終的に「人生を閉じたい」にまで至っている。そうすると、ジョルジュが部屋を密するのは、異臭が外に出るのを防ぐためではなく、彼女の希望を叶えるためということになる。
ラストもやはりドカーン即興曲と同じで、究極のドカーン。そして、やはり究極の静謐が・・・。

ミヒャエル・ハネケ監督の他作品
白いリボン
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Posted by y0780121 at 19:32│Comments(0)TrackBack(19)clip!洋画ア~サ行 | ★5

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