2014年01月26日

小さいおうち〜長く生き過ぎた変われない私5

littlehouse公式サイト。中島京子原作、山田洋次監督。松たか子、黒木華、片岡孝太郎、吉岡秀隆、妻夫木聡、倍賞千恵子、橋爪功、吉行和子、室井滋、中嶋朋子、林家正蔵、ラサール石井、あき竹城、松金よね子、螢雪次朗、市川福太郎、秋山聡、笹野高史、小林稔侍、夏川結衣、木村文乃、米倉斉加年。原作のタイトルはバージニア・リー・バートン「ちいさいおうち」が下敷きにされ、環境が一変しても変われない姿を象徴しているようだ。
オープニングは、あまりに「永遠の0」のオープニングと類似している。火葬場での会話で、荒井軍治司(小林稔侍)が基本的なタキ(倍賞千恵子)の死亡の詳細情報を今頃になって聞くなんて。とうに知っておかなきゃいけない筈のことを聞くのは観客への説明用がアリアリ過ぎて、もう一つ何とかならんかったのか。あわや二の舞かと思ったのだけれど、玉にキズなのはここまでで、心配は杞憂に終わった。
東京家族」が「東京物語」という日本の過去をベースに仕立てられていたのに対し、タキの自叙伝を通して日本の現代を過去に逆照射している趣がある。戦前のことは表面的知識しかない軽さ爆発の健史(妻夫木聡)が、若い時に山形から「おしん」のように奉公して勉強する機会がなかった大伯母のタキに「誤字は直すから」ばかり繰り返すのは、実は微笑ましくも悲しい台詞ではある。妻夫木は「東京家族」と変わらないキャラで、「年寄り呼ばわり」ネタは「東京家族」から引き継がれていた。
玩具メーカー常務の夫雅樹(片岡孝太郎)や社長(ラサール石井)の台詞、「東京オリンピック(1940年中止)で玩具が売れる」、「(当時の首都南京陥落で)中国との戦争はすぐ終り、4億の市場が開ける」なんて今と発想が同じ。「油揚げのヒジキあえとビフテキの違い」でアメリカとは戦争にならないという楽観論、いざ戦争になったらなったで、そんなこと忘れて「勝てる」と逆方向に楽観する空気に支配される体質も今の日本と変わっていない。終戦間際まで空気(環境)が変わっただけで「小さいおうち」(日本人の思考習慣)は基本的に何も変わっていないのはオリジナルの原作と同じことに気付く。そもそも坂の上にあるこの家は、司馬遼太郎の「坂の上の雲」(西欧風近代国家)をかなり意識していそう。ついでながら、女同士の「お受験」の話も今と変わらない。
littlehouse2「東京家族」のメンバーは橋爪功、吉行和子はそのまんま夫婦役、夏川結衣、中嶋朋子、林家正蔵、妻夫木聡、小林稔侍も続投。さらに蒼井優の代わりに顔が同系統の黒木華。廊下から階段、奥の部屋を映すショットも継続されている。
それにしても時子役の松たか子、女中のタキ役の黒木華が盤石過ぎる最強主演コンビ。お互い本音を出せない立場で、静かな神経戦を演じる。松たか子は「夢売るふたり」続きの妖しいエロスをところどころに放ち、黒木はまだ23歳なのに既に円熟しているかのような演技。タキも小児麻痺の息子恭一(秋山聡)のマッサージ、さらに時子の脚のマッサージ、以前の奉公先小中先生(橋爪功)の足裏揉みに慎ましいながらエロの衝動を予感をさせる。
鈍感過ぎる雅樹といかにも場違いな社員板倉正治(吉岡秀隆)と時子を巡る三角関係は鈍感に空気に流されたまんまの会社人間、男社会、国への当てつけも籠められている。さらに板倉と、時子、タキを巡る三角関係は立場の違う女性同士の静かな戦いで、二重の三角関係が絡み合う。開封されなかった手紙は、どう見ても主導権を奪ったタキの策略だろう。タキにとっては最初で最後の逢瀬?
「長く生き過ぎた」と涙する現代のタキの本意は「自分だけが小さいおうちになってしまった」ということだろう。タキは現代でも独り暮らしの「小さいおうち」の住民だ。
ただ、板倉は戦後にタキを探さなかったのだろうか。タキも板倉は有名人になったのだから気付いても良さそうなものだ。健史だって気付いて・・・。
ちなみに実年齢65歳の笹野高史が50代でタキの見合い相手とは一見、違和感あるが、戦前の男性、特に田舎の人は今より老けて見えただろうから実はこれはこれでリアルなのかもしれない。
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Posted by y0780121 at 19:37│Comments(4)TrackBack(23)clip!邦画タ、チ | ★5

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□作品オフィシャルサイト 「小さいおうち」□監督 山田洋次□脚本 山田洋次、平松恵美子□原作 中島京子□キャスト 松 たか子、黒木 華、片岡孝太郎、吉岡秀隆、妻夫木 聡、倍賞千恵子■鑑賞日 1月25日(土)■劇場 TOHOシネマズ川崎■cyazの満足度 ★★
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小さいおうち【タケヤと愉快な仲間達】at 2014年10月11日 05:43
☆☆☆☆(8点/10点満点中) 2013年日本映画 監督・山田洋次 ネタバレあり
映画評「小さなおうち」【プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]】at 2015年02月22日 10:31
やはり、第64回ベルリン国際映画祭、最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞した黒木華の、純朴な昭和顔が、とても雰囲気で、圧倒的存在感! 奥様を演じる、松たか子の華やかさともども、とてもハマってました。ただ、個人的に、板倉正治役は、吉岡秀隆も誠実に好演してましたが、も
小さいおうち【のほほん便り】at 2015年03月02日 09:23
JUGEMテーマ:邦画     昭和初期の不倫を扱ったちょっと暗い感じのする映画でした。   見ているだけでちょっと滅入ってしまうのが難点ですね。   暗い時代が舞台なので当たり前かもしれませんが   もう少し華やかな部
映画 小さいおうち【こみち】at 2015年03月23日 07:35
この記事へのコメント
これ、評判いいですが、佐藤さんも気に入られたみたいですね。
『永遠の0』に対しての山田洋次からの返答になっていましたか?
Posted by とらねこ at 2014年01月31日 01:35
> 『永遠の0』に対しての山田洋次からの返答になっていましたか?

山田さんは別に『永遠の0』を意識してないでしょうね。意識していたのは自分の「東京家族」かな。
Posted by 佐藤秀 at 2014年01月31日 14:33
4
黒木華は無名時代に野田秀樹の芝居で、蒼井優のドッペルゲンガー役を好演してたので、さもありなん て感じです
素朴な疑問が残ったのは、生涯未婚だったタキにどうして孫(妻夫木)が???
Posted by Kはん at 2014年02月01日 20:47
> 素朴な疑問が残ったのは、生涯未婚だったタキにどうして孫(妻夫木)が???

妹の孫で甥に当たるんですよ。
Posted by 佐藤秀 at 2014年02月01日 21:01