2014年03月08日

それでも夜は明ける〜虐待の背後にあるもの2

本当は気が優しいエドウィン・エップス
12YRSASlave公式サイト。原題:12 Years a Slave。 スティーヴ・マックィーン監督。キウェテル・イジョフォー、マイケル・ファスベンダー、ベネディクト・カンバーバッチ、ポール・ダノ、ポール・ジアマッティ、ルピタ・ニョンゴ、サラ・ポールソン、ブラッド・ピット、アルフレ・ウッダード。邦題は何となく「遠い夜明け」からのつながりを感じなくもない。本年の米アカデミー賞作品賞作品。
実話に基づいたというものの原作は、実在の大工、ソロモン・ノーサップ(キウェテル・イジョフォー)の語りを奴隷解放派の白人が聞き取って活字化し、プロパガンダ用に使ったらしい。それを映画化するとなるとさらなる潤色もある。
ソロモンは黒人差別の前に、日本の北朝鮮拉致被害者に近い人。1841年、自由黒人の身のニューヨーク・サラトガからワシントンD.C.に招かれたらそのまんま薬を飲まされて南部の綿花畑行き。言わば「商品」として拉致されたのだ。南部に向かう奴隷船の中で逆らった黒人がナイフでグサッと刺され、船尾から海に放り投げられるが、これは原作にはないらしく、そもそも大事な「商品」を海に投げ捨てたらまずいだろう。しかし、放り捨てられた海面は外輪汽船らしい波板状の澪を描いていて手抜きがない。今のスクリュー推進とは明らかに違う風雅な澪だ。
そもそも見ているうちに主演はキウェテル・イジョフォーというより、監督と「SHAME−シェイム−」でタッグを組んだマイケル・ファスベンダー演じる“暴君農場主”エドウィン・エップスなのかと錯覚してしまいそう。メアリー(サラ・ポールソン)に奴隷少女パッツィー(ルピタ・ニョンゴ)との不倫がバレて、「SHAME」同様、ちょっとイカレ気味。
この人、どっちかと言えば気弱そう。一際それが感じられるのは、問題児の白人がソロモンの手紙をチクってエドウィンがソロモンを難詰した時、頭の良いソロモンに論破されてすごすご退散する時。その時、2人きりだったが、もし第三者が傍にいたら面目丸潰れで、引き下がるわけにはいかなかったろう。
そもそも白人上流階級にとって黒人は「商品」以上でも以下でもなく、憎悪の対象になり得ない。言わば「銀の匙 Silver Spoon」に見られる「経済動物」なのだ。彼らが残虐になるのは黒人を憎むからではなく、「商品」ごときに間接的にコケにされて体面を傷つけられた時だろう。メアリーもそうだ。エドウィンをして残虐にさせたのはこともあろうに「商品」に不倫されて面目丸潰れの“鬼嫁”メアリーが強いたものだ。黒人は単に憂さ晴らしの捌け口なのだ。
実際、3人の農場主が登場するが、取り立てて黒人に対して残虐な人間は実はいない。敬虔なキリスト教徒(本来なら同じように聖書を読んで聞かせているエドウィンだってそうだろう)らしいフォード(ベネディクト・カンバーバッチ)などはむしろ優しさの持って行き場に困っている様子。彼がエドウィンにソロモンを紹介したのもエドウィンならソロモンを大事にしてくれるだろうと信じたからだろう。ところが不倫で台無しになったというのが実情のようだ。本作は差別そのものよりも人はなぜ差別される人を虐待するかの根源に迫っているようだ。
本当に残虐そうなのは上流ではない下流の白人たち。彼らもまた黒人を憂さ晴らしにしている。そして、ソロモン自身、ニューヨークに戻れば自由黒人の身となり、また別の負い目を負うことになり、心中は複雑だったろう。
それにしても南部の自然の音、虫の鳴き声、風のささやきが人間同士の差別とは無関係に美しくも奏でられる。その自然の音に合わせるように綿摘みをしながら黒人霊歌“Roll Jordan Roll ”が歌われる。

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Posted by y0780121 at 19:06│Comments(0)TrackBack(33)clip!洋画セ、ソ | ★2

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それでも夜は明ける【C’est joli〜ここちいい毎日を♪〜】at 2014年05月31日 22:27
14日のことですが、映画「それでも夜は明ける」を鑑賞しました。  1841年、奴隷制廃止以前のニューヨーク、家族と一緒に幸せに暮らしていた黒人音楽家ソロモン 彼はある日突然拉致され、奴隷として南部の綿花農園に売られてしまい・・・ 重厚な重き作品、やはり作品賞...
奴隷という生活【笑う社会人の生活】at 2014年09月28日 22:12
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