2014年03月20日

あなたを抱きしめる日まで3

“社会的強者”と“社会的弱者”の珍道中
Philomena公式サイト。イギリス映画。原題:Philomena。マーティン・シックススミス原作、スティーヴン・フリアーズ監督。ジュディ・デンチ、スティーヴ・クーガン、ソフィ・ケネディ・クラーク、アンナ・マックスウェル・マーティン、ミシェル・フェアリー、バーバラ・ジェフォード。実話に基づく。原作者でもあるマーティン(スティーヴ・クーガン)はBBCのモスクワ、ワシントン特派員を経て英国のブレア政権で広報担当も務めたエリート、フィロミーナ(ジュディ・デンチ)はフツーのおばちゃん。
50年前にアイルランドのカトリック系ショーン・ロス修道院で生き別れた息子を捜すために娘の仲介で2人が会った時、マーティンはスキャンダルに巻き込まれてBBCを辞し、ロシア史の本を書こうと思っていたのだが、そんな堅い本売れるわけないし、金稼ぎの手段を弄っている様子。なので、最初は仕方なしに聞いてやるという上から目線。いちいち「ストーリー的にはそうだね」とかフィロミーナに面白いネタになりそうな話を早く喋って欲しいヨネ、的に応対する。
新聞の三面記事について「あれは心の弱い人が読む記事だ」と小馬鹿にする。この「心の弱い人」というのはマーティンの宗教観にも通じていて教会に行かなくなったのも、彼はニーチェのようにキリスト教信者は弱者と断じたのだ。個人的には「俺はレベルの低い三面記事書く記者じゃない。国際報道記者なんだよ、あなたには違いが分からないかもしれないが」と言いたげ。後日、2人でワシントンに渡り、実はホワイトハウスの法律顧問をしていたフィロミーナの息子にホワイトハウスで会っていたことを思い出し、「力強い握手だった。弱い握手しかできない(自信のない)人間はあそこまで行けない」とここでも強者、弱者でまず人間を区分けする癖が抜けていない。
一方のフィロミーナは初めて乗った? 飛行機でマーティンの元同僚が役得でファーストクラスにふんぞり返っているのを知って「あんな人と会いたくないよね」と言うのだけれど、本人はその気がなくてもマーティンへの当てつけになっている。2人だって、出版社の支払いでビジネスクラスに乗っていて言えた義理じゃないのだけれど。フィロミーナは「心の弱い」カトリック教徒なのだが、ブーリン家のアンを話題にする。「ブーリン家の姉妹」でナタリー・ポートマンが演じたアンはヘンリー8世に裏切られて絞首刑された女性。ヘンリー8世はカトリックの総本山のローマ教皇と対立してイングランド国教会の原型を作っており、強欲で他人を顧みない無慈悲な人間として描かれていた。暗に無神論者のマーティンをヘンリー8世のような人物と無意識に感じているフシがある。
息子はマーティンのワシントン特派員時代のコネであっさりと判明し、8年前の1995年にホモでエイズ死していたことが分かる。「ダラス・バイヤーズクラブ」でも描かれていたが、エイズ=ホモの病という偏見があったが、フィロミーナは「息子はホモになると見ただけで分かっていた」と強がりを言う。幼児の段階で分かるワケもないのだが、彼女自身が10代で息子を産み、修道院で虐待を受けて息子をアメリカ人の金持ちに売り渡されていた身なので、咄嗟に「社会的弱者」同士としての“連帯宣言”をしたのだ。
この「社会的弱者」同士としての連帯のようなものは、息子のホモ友達の家を訪ねる時にも表れる。マーティンがドアをノックしても取材拒否され、ドアは閉じられる。ところが、フィロミーナがドアをノックして「母です」と言うとあっさり家に入れてもらえる。プロの取材記者のマーティンとしては形なしの場面だ。
これじゃ形成逆転なのかと思いきや、原点であるアイルランドの修道院の墓に息子が眠っていることが分かり、修道院のいかがわしい対応にマーティンの記者魂に火が点く。制止も聞かず、プライベートスペースに乗り込み、嘘をついてフィロミーナと息子を会わせなかった尼僧を追及するのだ。もはやその姿は社会的弱者の側に立つ「三面記事」を扱う社会部記者だ。ここにはもちろん、宗教への個人的不信感もある。むしろフィロミーナがマーティンのなだめ役になる。思えば、フィロミーナは息子の安否を知りたかっただけで正義とも憎悪とも縁がない人生を送っていた。マーティンは「許せない」と言うがフィロミーナは許す。結局、フィロミーナは「弱者」のままで終わったのか。途中、教会で懺悔して何も言わなかったが、全てを最初に犯した自分の罪を引き受けて沈黙するしかなかったのかもしれない。
ちなみに、修道院にはアメリカの往年の大女優ジェーンン・ラッセルの肖像写真が飾られているが、ラッセルが1952年に養子をもらったことは事実だが、この修道院経由でもらったかどうかは不明で論議を呼んでいるという。
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Posted by y0780121 at 21:15│Comments(1)TrackBack(16)clip!洋画アナ行~ | ★3

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☆☆☆(6点/10点満点中) 2013年イギリス=フランス=アメリカ合作映画 監督スティーヴン・フリアーズ ネタバレあり
映画評「あなたを抱きしめる日まで」【プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]】at 2015年04月21日 15:08
この記事へのコメント
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5月、
川崎市アートセンターにて、副音声付き上映があります。
副音声ナレーションと吹き替え。
視覚に障がいをお持ちの方でもご覧になれますよ。

お知らせまで。


Posted by ふぇのみなん at 2014年04月16日 22:27