2014年08月25日

グレート・ビューティー/追憶のローマ5

放蕩と聖女の記憶
TGB公式サイト。イタリア映画。原題:La grande bellezza、英題:The Great Beauty。パオロ・ソレンティーノ監督。トニ・セルヴィッロ、カルロ・ヴェルドーネ、ザブリナ・フェリッリ、ファニー・アルダン、マッシモ・ポポリツィオ、ソニア・ゲスナー、アンナルイザ・カパサ。第86回アカデミー賞外国語映画賞受賞。「ローマ環状線、めぐりゆく人生たち」がローマ郊外の一般庶民を活写していたのに対し、本作はローマのセレブ作家の退廃と追憶を描く。
オープニングでセリーヌの「夜の果てへの旅」が引用され、「旅はイマジネーションを喚起する、残りは妄想と苦痛だ」と。それにしてもいきなり日本人団体観光客が出てきて、イタリア人ガイドの日本語を聞きながら建物に背を向けて海にカメラを向ける男性客が突然発作を起こして倒れるのはどういう意味なのか。ひょっとして、65歳を迎えた作家兼ジャーナリストのジェップ(トニ・セルヴィッロ)が20代に書いたの唯一の小説「人間装置」とは横光利一の「機械」のオマージュなのかと妄想してしまう。横光も欧州旅行でイタリアにも立ち寄っている。「機械」はジャン=ポール・サルトルも実存的不安を表現したものと評価しており、最後に一人が死んでしまう。本作でキリンが消えるのもトリックに過ぎないとか、美の不在、実在の継続性の否定のようなことを匂わしていた。機械もまたからくり=トリックではないか。
ジェップは初恋の女性エリーザ(アンナルイザ・カパサ)の死を知る。ジェップは実は「人間装置」を最後に小説を書いておらず、もっぱら雑誌などにコラムとかを書いている、日本で言えば田中康夫みたいな人か。女性好き、セレブのパーティーのダンスを好み、悪戯っぽさ、辛辣さも似ていると言えば似ている。野外で全裸で岩にぶつかる女性前衛パフォーマーに「鼓動ってどういう意味?」と意地悪な質問をする。「鼓動」は正に生を駆動させる機械ではないか。よく考えると、このパフォーマンス自体がジェップに関わる悲劇と関連しそう。
豪華クルーザーが海岸近くで横転している。実際にイタリアでは2年前、コスタ・コンコルディアの座礁事故があり30人が死亡している。エリーザの死因は詳らかでないが、どうもこの事故の犠牲者に擬せられているらしい。
TGB25記憶は全て海につながる。横たわるベッドの上の天井が海に変わる。モーターボートが横切り、みんなが心配する中、若いジェップが浮上する。永遠の若さの記憶にも事故ぽいシーンが。
同時に若い時、エリーザを見染めた夏の海岸と重なり、その喪失と重なる。映像に出てくるエリーザは手前のゴージャスなビキニの美女と一見思えるが、カメラは意地悪そうに回り込み、その背後にいる清楚で慎ましやかなセパレート水着の美女をアップにする。ここでもジェップは選り好みをしていた気配があるのだが、ことほど左様に本作は本来背景にあるべきものが前面に出て、最初から前面に出ているものが実は背景というトリックの趣がある。
実のところ、本当にエリーザが存在していたのかさえあやしい。少なくともジェップが本当に付き合っていたのかどうか。残されたエリーザの写真に写っている岩の上に置かれたものは端末のある電気機器のようだが、40年前の携帯ラジオかカセットデッキだろうか。むしろiPadかノートパソコンに見えなくもない。そもそも誰がこの写真を撮ったというのか。ジェップはその時、海中にいた筈だろう。
エリーザはゴージャスな美女の影絵のような存在でジェップの実生活はどう見てもゴージャス美女に囲まれていた筈だ。背後には灯台があり、現代のシーンでも灯台が出て来る。
ジェップがペントハウスから見下ろす公園で若いシスターが子供たちと戯れている。今や余命幾ばくもないマザー・テレサのようなシスター・マリア(ソニア・ゲスナー)は海に向かって鳥たちを放つ。
TGB3元夫はエリーザはずっとジェップを愛していた、日記の中で自分について書いた記述はたった2行、「私の人生の同伴者」のみだった。「じゃあ、自分と別れたのはなぜ」と尋ねるジェップ。しかし、日記は葬式後に焼かれて今は確かめるすべもない。というか最初から確かめるすべはなかったのではないか。シスター・マリアはむしろエリーザの分身のようにも思える。シスターが死ぬ時、何かが終わる。ジェップという機械を動かしていた「鼓動」が止まる。
思えば、ジェップが小説を書くのをやめたのは「エリーザ」に振られてからだろう。「フローベールは無を描こうとしたが、無を描けなかった」と語るが、エリーザの長い長い不在はついに描けなかった。彼にとって長い長い夜の果てへの旅は絶望によって幕を閉じる。
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Posted by y0780121 at 23:12│Comments(0)TrackBack(5)clip!洋画ガ行 | ★5

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イタリア・ローマ。 65歳の男ジェップ・ガンバルデッラは、40年前に高い評価を受けた小説『人間装置』以来、筆を絶っている。 現在は有名人やアーティストへのインタビューを主な仕事にしており、文化人として夜毎パーティに明け暮れる毎日を送っていた。 ある日、初恋の
グレート・ビューティー 追憶のローマ【象のロケット】at 2014年08月28日 08:59
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今年のアカデミー賞外国語映画賞を受賞したイタリア映画です。 その他にも色々な映画賞を受賞している作品と聞いていたので気になっていました。 65歳の主人公と共に歩くローマの街は、不思議な魅力に溢れていました。
グレート・ビューティー/追憶のローマ【とりあえず、コメントです】at 2014年08月31日 00:32
「La grande bellezza」…aka「The Great Beauty」2013 イタリア/フランス ローマの社交界に君臨するジャーナリスト、ジェップは今年65歳を迎える。遥か昔40年前に高い評価を得た小説を書いて以来、今だ一冊も書けていない。作家として書くものが見いだせないのだ。目
「グレート・ビューティー/追憶のローマ」【ヨーロッパ映画を観よう!】at 2014年09月24日 22:28
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