2015年07月25日

野火(2015)〜極限の果てに変容した世界5

nobi公式サイト。英題:Fires on the Plain。大岡昇平原作。塚本晋也監督・主演、リリー・フランキー、中村達也、森優作、山本浩司、中村優子。1959年に市川崑監督によって映画化されている。太平洋戦争末期のフィリピン・レイテ島の戦いで追い詰められた日本軍の極限状況を描く。
という筈なのだけれど、ここに描かれた世界は歴史的な戦場の戦闘というよりも、既に日本兵のほとんどは死にたえ、世界観が既に変容した一等兵田村(塚本晋也)の心が映し出した裸の現実(のようなもの)。
田村は何重の意味でも孤立している。仲間のほとんどが既に戦死。敵はどこから襲ってくるのか皆目分からない情報からの孤立。肺結核が悪化した田村は味方部隊からも半ば見捨てられ、形ばかりの野戦病院に行かされるのだけれど、「肺ぐらいで来るな」と追い返されて、この期に及んで盥回しされる。もはや小さな日本社会からも見捨てられ、立ち寄った現地人の教会からも見捨てられ、絶対的孤立の境地に。
田村が教会にいた婦人を本当に射殺したのか定かでないし、死んだ筈の婦人が白旗を掲げた日本兵を撃ち殺すのも現実かどうか定かでない。「全滅した」筈の部隊長の安田(リリー・フランキー)も半ば亡霊の如し。安田も既に変容した世界にいるのだが、それは田村の変容した世界に過ぎないのか。
nobi2時系列が混濁したフラッシュバックの連なりに過ぎないのかもしれない。現に襲いかかる米軍は兵士と言うよりもどこからともなく襲って来るUFOに乗ったエイリアンの如し。“UFO”はジャングルのホタルたちの光とさして変わりがないように見える。
人肉食が描かれているが、熱帯の旺盛な自然の繁茂の中でバラバラになった死体すら単に自然の一部に見えてしまう。実際、ケイトウ(鶏頭)の花という名前からして動物の肉の一部に見えてしまいそうな花が人肉に変わるシーンはそのことをよく表現されている。美しいブーゲンビリアの赤い花々でさえ夥しい死体の俯瞰に見えるかもしれない。分解が進む死体は社会性の解体とシンクロし、圧倒的な自然の中に包みこまれる。ここら辺り、大岡昇平が同じように参考にしたとしている「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」をヒントにした「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」で描かれた食虫島と類似したところがある。
ちなみに戦時中の人肉食いを描いたものとしては「ひかりごけ」と双璧だろうか。
もはや人倫の彼方にあって野火だけが人の世の微かな名残りのようでもあり、自然界では異物。田村が野火に向かって近づいてもやはりそこにはもはや人間社会はない。
田村が生還して執筆中、「記憶にあるのは捕虜収容所に着いてから」とわざわざ語られるが、それは「正気」を回復したのが、という意味だろう。かと言って、それ以前の記憶が妄想だったワケでもない。そもそも田村はずっと「正気」だったから世界は変容したのではなかったか。
そもそもそんな「記憶」、戦争中のみに発生する保証はない。今現在の「平和」な世の中にあっても、散発的に人々の中で起こりうることだろう。
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Posted by y0780121 at 17:40│Comments(0)TrackBack(7)clip!邦画ヌーノ | ★5

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