2015年10月02日

ドローン・オブ・ウォー〜皮肉にも回復した現実感4

goodkill公式サイト。原題:Good Kill。アンドリュー・ニコル監督。イーサン・ホーク、ブルース・グリーンウッド、ゾーイ・クラヴィッツ、ジャニュアリー・ジョーンズ、ジェイク・アベル。「メーンアーム・オン」「レーザー・オン」「ライフル」「スプラッシュ」。砂漠のラスベガス近郊の空軍基地にあるトレーラーハウスで椅子に座りながら12000キロ先の中東で遠隔操作でドローン爆撃する一見退屈過ぎる攻撃。けれど、解像度の進歩で彼らは相手の住民にシンパシーを抱くようになって。
米軍の戦闘のあり方が「コンピュータゲームのように現実感がない」と言われたのは1991年の湾岸戦争の頃。当時は米軍が撮影した標的の建物をピンポイントで爆弾が命中し、建物が壊れるのが見える程度だった。ところが、実話を基にしているという2010年時点での上空3000メートルの無人攻撃機からの爆撃では建物どころか人々の顔まで見え、その意味でベガスで椅子に座るパイロットは実物の戦闘爆撃機で現地上空から爆弾を落とすパイロット以上に相手への「現実感」を得るようになったという皮肉。
トーマス(イーサン・ホーク)は操作スタッフの中で唯一アフガン上空をF16ファイティング・ファルコンで飛んだ“実戦”経験者。彼のいらつきは自分自身の肉体的現実感のなさ。旋回でGを感じるとか撃墜されるかもしれないという恐怖感とかだ。今はそういう肉体的リスクは通勤の高速道路でのみ感じている。妻(ジャニュアリー・ジョーンズ)とも自ら口を聞かなくなり、アル中気味。しかし、はっきり言って、攻撃対象の相手には「現実感」を感じるすべはなかった筈だ。
トーマスとコンビを組む24歳のヴェラ(ゾーイ・クラヴィッツ)はコンピュータゲームオタクで燃え尽き症候群になって“現実感”を味わうために志願した。世代によって“実戦”の意味合いが違っている。上司のジャック(ブルース・グリーンウッド)はベトナム戦争世代でF4ファントムの元パイロットで電子制御が未発達の言わばアナログ世代だった分、トーマス以上に現実感を伴った実戦経験がある。
むしろ「現実感」がないのはやはり遠いワシントンD.C.近郊にあるラングレーから電話一本で「確率的ターゲット」を指示してくるCIA。彼らも同じ映像見ているのだが、自分が撃つわけでもないので切実感が違う。ターゲットを現認するのではなく行動を解析して確率的にターゲットらしい人物を撃てと命令してくる。一度爆破したターゲットに救出のために集まった兵士か民間人か区別不能の時に将来的に米国民を襲う恐れのある「確率的ターゲット」をもう一度爆破を命じてその通りした時、ヴェラは恐らく「ゲーム」をして初めてであろう涙を流す。
トレーラーチームには命じられる「公式ターゲット」のほかに「非公式ターゲット」も共有していた。そのターゲットは米国の脅威にはならない小物のターゲット。しかし、チームには許しがたいターゲット。そのターゲットは折を見ては若い婦人にセクハラ暴行を繰り返していたのを目撃していたのだ。もし、ヴェラが発射ボタンを押す係だったら、やってしまいそうな気配もあった。
しかし、トーマスはアル中で精神が弛緩し、妻にも三下り半を叩きつけられて、とうとう休憩中にそのターゲットをやっつけてしまう。いくらなんでも公私混同。最終的にトーマスは退役して去った妻のいる故郷に戻るが、現実感の喪失で絶望したのではなく、現実感を回復したからこそ軍に絶望したのだろう。それにしても、彼らはずっと神の視座で攻撃してきた。やはり神の慈愛という高みで個別的正義を実現する。まことに不思議な戦闘形態になったものだ。
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Posted by y0780121 at 16:39│Comments(0)TrackBack(7)clip!洋画ディ〜ド | ★4

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評価:★★★☆【3,5点】(P) 上空3000メートルからの監視画で僅か10秒足らずで目標物を爆破。
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