2016年02月16日

サウルの息子〜失われた少年時代を求めて4

saul公式サイト。ハンガリー映画。原題:Saul fia。英題:Son of Saul。ネメシュ・ラースロー監督。ルーリグ・ゲーザ、モルナール・レヴェンテ、ユルス・レチン、トッド・シャルモン、ジョーテール・シャーンドル。ナチスのアウシュヴィッツ=ビルケナウ絶滅収容所で働くゾンダーコマンド(Sonderkommando=SK)は日本語では特殊部隊。けれど婉曲表現にすぎない。ガス室で殺された遺体処理という“特殊”作業を行うユダヤ人ユニットなのだから。
収容所には1944年、ユダヤ系ハンガリー人が大量に収容されるようになった。総数は44万人とか。結果、ガス室&“焼却炉”はフル操業ということに。SKに指名されて最初の仕事は前任者の“処理”だったという。SKは処刑の延期の代わりに秘密の共有者でもあるので最終的には後任者が来ると自ら“処理”対象になったそうで、その世代交代は10代以上続いたという。
果たして彼らは初仕事が前任者だということを知らされていたのかどうか。何の説明もなしに処理されれば、自らの運命の循環を感じずに済み、そのことはSSにとって好都合の筈だ。自分たちは特別扱いされていると思わせられて勤労の励みにもなるだろうから。実際、それなりに処遇され、真面目に奉仕すれば延命期間は長くなったという。
オープニング。「Mommy/マミー」でもあったが、ワイドスクリーンではなく昔のテレビ画面みたく標準サイズ。しかも全編そうだ。スクリーンはピンボケ。ピンボケの中からサウル(ルーリグ・ゲーザ)が現れる。まるであの世から戻ったのか、それともその逆なのか。無表情、言葉なし。「マミー」も無表情が際立っていた。ただ黙々と働く。ガス室で裸体の男女を引き摺りだして、床を水洗いする。
ある時、息子と思われる少年が死に損なって解剖医師によって窒息死させられるのをサウルは見つける。処理対象が家族・親戚というケースは実際にあったそうだが、それでもサウルは特段感情を露わにするわけでもない。
ユダヤ教では火葬ではなくそのまま埋葬するのが習わし。しかもできるだけ1日以内に埋葬せねばならぬらしい。本作で最終的に「息子」を頭陀袋に入れて逃走するが、これは実は習わしに則ったもので、ユダヤ教には棺桶はなく、袋詰めのまま土葬するのが正統派なのだそうな。
このままでは焼却されてしまうのでラビに祈祷してもらって埋葬してもらおうとするが、同僚に「息子はいない」と言われる。一度ならず二度までも。一方では実際にあった武装蜂起の準備が行われつつあるのだが、サウルはそれにも無関心。ただ息子の埋葬だけを考えている風情。
この期に及んで死んだ息子どころじゃないだろう、とは思うが、あの「息子」というのは実はサウル自身の自由で幸福だった少年時代なのではないか。死が間近に迫る時、人は一番幸福だった頃を幻視するのでは。既に周りの現実は地獄で、地獄だからこそ焦点が合わない。幸福な時間は過去の記憶にしかない。
ラストで武装蜂起部隊が隠れる家にたまたま来た少年にサウルは初めて笑顔を向ける。少年の無垢で無邪気な表情ときたら。SSが追いついて銃声が聞こえる中、少年は森の中へ駆け出す。サウルが殺されるのと同期するように少年は幸福な世界を自由に駆ける。そう言えば、あの袋だって、自由に水の流れに乗っていった。
Clickで救えるblogがある⇒人気blogランキングにほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ

Posted by y0780121 at 19:55│Comments(0)TrackBack(10)clip!洋画サ | ★4

この記事へのトラックバックURL

http://trackback.blogsys.jp/livedoor/y0780121/50836091
この記事へのトラックバック
映画『サウルの息子』は、新視点かつ生々しいことこの上ないアウシュビッツ映画。ハン
「サウルの息子」:見えないものを見よ【大江戸時夫の東京温度】at 2016年02月16日 22:38
 ハンガリー  ドラマ  監督:ネメシュ・ラースロー  出演:ルーリグ・ゲーザ      モルナール・レヴェンテ      ユルス・レチン      トッド・シャルモン ...
サウルの息子【風情☭の不安多事な冒険 Part.5】at 2016年02月17日 11:54
1944年10月。 ナチス・ドイツ占領地のポーランド南部にあるアウシュヴィッツ=ビルケナウ収容所には、連日、大勢のユダヤ人が運ばれてきている。 ハンガリー系ユダヤ人男性サウルは、ナチスが収容者の中から選抜した死体処理に従事する特殊部隊“ゾンダーコマンド”の一員だ
サウルの息子【象のロケット】at 2016年02月18日 11:04
カンヌ映画祭グランプリ作品。 なので、公開後早めに観に行こうと決めていたが、なかなか足が向かない… 仕事後に、凄惨な状況を描くアウシュビッツ映画を観る気分には、とても なれないのだ!(笑) 結局、かろうじて日曜の仕事帰りに、やっと鑑賞。 オープニングで..
映画:サウルの息子 SAUL FIA 狂気 vs 正気の狭間、を画く、21世紀ならではの「驚愕の1本」【日々 是 変化ナリ 〜 DAYS OF STRUGGLE 〜】at 2016年02月20日 16:46
☆・・・これは見なくてはなるまい、と新宿の映画館に向かいました。 ・・・物語はネットの紹介によると以下。  ≪1944年10月、アウシュヴィッツ=ビルケナウ収容所。ハンガリー系のユダヤ人、サウル(ルーリグ・ゲーザ)は、同胞であるユダヤ人の屍体処理に従事する特殊部..
[映画『サウルの息子』を観た(短評)]【『甘噛み^^ 天才バカ板!』 byミッドナイト・蘭】at 2016年02月23日 15:38
評価:A 公式サイトはこちら。 「サウルの息子」はカンヌ国際映画祭でグランプリ
カンヌ国際映画祭グランプリ/アカデミー外国語映画賞受賞「サウルの息子」とは何か?【エンターテイメント日誌 】at 2016年03月04日 19:22
 SAUL FIA  SON OF SAUL  1944年、アウシュビッツ。ユダヤ人強制収容所には、「ゾンダーコマンド」= 秘密の運搬人と呼ばれ、同胞の死体を処理するために働かされていた囚人た ちがいた。その一人であるサウル(ルーリグ・ゲーザ)は、ガス室から虫の息
神が与えしもの〜『サウルの息子』【真紅のthinkingdays】at 2016年03月07日 07:25
Son of Saul(viewing film) アウシュビッツ収容所のユダヤ
『サウルの息子』 スタイルと物語の融合【Days of Books, Films】at 2016年03月14日 01:03
1944年10月、ハンガリー系ユダヤ人のサウル(ルーリグ・ゲーザ)は、アウシュビッツ=ビルケナウ収容所でナチスから特殊部隊“ゾンダーコマンド”に選抜され、次々と到着する同胞たちの死体処理の仕事に就いていた。 ある日、ガス室で息子らしき少年を発見したサウルは、
サウルの息子【心のままに映画の風景】at 2016年03月31日 22:00
1日のことですが、映画「サウルの息子」を鑑賞しました。 1944年10月、ユダヤ人のサウルはビルケナウ収容所でナチスから特殊部隊ゾンダーコマンドに選抜され同胞の死体処理の仕事に就く ある日 ガス室で息子らしき少年を発見した彼は、直後に殺されたその少年をユダヤ教...
息子を葬るために・・・【笑う社会人の生活】at 2016年04月06日 22:09