2016年06月03日

ディストラクション・ベイビーズ〜今様坊っちゃん3

distraction公式サイト。真利子哲也監督。柳楽優弥、菅田将暉、小松菜奈、村上虹郎、池松壮亮、北村匠海、岩瀬亮、三浦誠己、でんでん。舞台が愛媛県松山市だからという訳ではないけれど、夏目漱石の「坊っちゃん」の無鉄砲ぶりを現代に翻案したような感じがないではない。タイトルの「ベイビーズ」って「坊っちゃん」の英語変換だろうか。「ディストラクション」は気晴らしや乱心という意味の“distraction”と破壊の“destruction”を掛けているとか。
青空文庫「坊っちゃん」より。
久しく喧嘩をしつけなかったから、こんなに答えるんだろう。これじゃあんまり自慢もできないと床の中で考えていると、婆さんが四国新聞を持ってきて枕元へ置いてくれた。実は新聞を見るのも退儀なんだが、男がこれしきの事に閉口たれて仕様があるものかと無理に腹這になって、寝ながら、二頁を開けてみると驚いた。昨日の喧嘩がちゃんと出ている。喧嘩の出ているのは驚ろかないのだが、中学の教師堀田某と、近頃東京から赴任した生意気なる某とが、順良なる生徒を使嗾してこの騒動を喚起せるのみならず、両人は現場にあって生徒を指揮したる上、みだりに師範生に向かって暴行をほしいままにしたりと書いて、次にこんな意見が附記してある。本県の中学は昔時より善良温順の気風をもって全国の羨望するところなりしが、軽薄なる二豎子のために吾校の特権を毀損せられて、この不面目を全市に受けたる以上は、吾人は奮然として起ってその責任を問わざるを得ず。
大暴れして新聞沙汰になったというのは本作でもテレビニュース沙汰になるという形で踏襲されている。思えば、坊っちゃんも喧嘩ばかりしていて相棒に山嵐がいて、マドンナがいた。本作でも泰良(柳楽優弥)=坊っちゃん、北原(菅田将暉)=山嵐、那奈(小松菜奈)=マドンナと一応平仄が合っている。
泰良が港から松山市街に向かうのも「坊っちゃん」を踏襲している風。三津浜港には実際、三津厳島神社に「喧嘩神輿」という祭りがあって、本作にも登場している。「喧嘩は気晴らし」は実は伝統を踏襲したものだった。
もちろん、「坊っちゃん」にあった義理人情とか正義感で血気にはやるとかのようなものは夾雑物として取り除かれている。そもそも現代に「正義」とか「人情」なんてありやしない、それ故に暴力を振う「大義」も喪失しているというのがメッセージと言えばメッセージ。
泰良はそんな面倒臭いこと考えずに気晴らしに喧嘩を仕掛ける。相手が強かろうがヤクザだろうが関係ない。リスクなんて考えない泰良のはっきり聞き取れる台詞は「楽しければええけん」で文字通り“distraction”だ。
ちょっと「ヒメアノ〜ル」の岡田と似てなくもないが、岡田のようなバックグラウンドの暗さもないし、邪魔だから殺すという手段としての暴力でもない。マドンナ=那奈に手を出すでもない。どこまでも殴ることそのものが目的なのだ。ある種神話から飛び出したような男。どちらかと言えば中上健次の作品にも出てきそうな人物だ。
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Posted by y0780121 at 19:32│Comments(0)TrackBack(4)clip!邦画ダ行 | ★3

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