2016年06月30日

ふきげんな過去〜埴谷雄高「死靈」風5

fukigen公式サイト。前田司郎監督。小泉今日子、二階堂ふみ、高良健吾、板尾創路、山田望叶、兵藤公美、山田裕貴、大竹まこと、きたろう、斉木しげる、黒川芽以、梅沢昌代。そもそも未来子役の小泉は「今日子」で現在、未来を兼ねていて果子役の二階堂は過去を表しており、2人で現在・過去・未来だ。「時間は残酷」だ。東京湾の埋め立て地で運河にボート。埴谷雄高「死靈」を重ねるような舞台設定だ。
「死靈」は存在の謎を巡る思弁的小説だが本作は時間を巡る思弁的映画。ま、アインシュタインの時空間世界からすれば、存在の謎も時間の謎も同じ謎なのかも。
果子は運河の前に立って鰐の出現を、出現しないと知りながら待ちわびている。そして、「鰐」は18年前に死んだ筈の伯母・未来子として立ち現われる。その前触れとしてアメリカ大使館爆破事件がニュースで流されている。もっとも今時、鰐だってペットの鰐が捨てられて運河で巨大化している可能性はあるのだけれど。
果子の現実に対する不機嫌さは「死靈」における「自同律の不快」、AはAであり、それ以外でないということの不快に通じているような。この束縛からのがれるためには「ここではないどこか」に行きたい。つまるところ、物理的法則に支配されないどこかだ。これは、アンドレイ・タルコフスキー監督の「ストーカー(1979)
「この世界は退屈だ。全て物理の法則の奴隷でその範疇から抜け出せない」
にも通じる。「ふきげん」は「不機嫌」と「不起源」(根拠からの自由?)を兼ねているような。
fukigen2そのような果子からすれば、爆弾テロリストの未来子やその相棒らしい康則(高良健吾)の哲学的思弁は甘っちょろく見える。「世界を変える」などバカみたいに見える。物理法則に束縛されているこの世界を変えるだと、軽い奴らめ、なのだ。
お店が蕎麦屋からエジプト風豆料理屋に変わっているように中東と関連がありそうで、未来子には重信房子をモデルにしている趣がある。その家屋の古さも時間軸を超越している風で「死靈」の時代の昭和初期をも思わせる。そもそも未来子は果子の幻想の中の人のようにも見えて来る。両親からまだ名前を付けてもらえず社会として存在してない泣かない赤ん坊と同様、社会の中に存在しない。
そして、爆弾はもちろん、物理法則に束縛されて爆発するのだけれど、感覚的には法則をぶっ飛ばす様な力を未来子ばかりか果子も感じている。それは泣き始めた赤ん坊、自同律に不快を表明して起動した赤ん坊なのだ。きっと今も中東などで行われている自爆テロも革命的に爆発しているのだろう。
爆弾の材料がトイレの下に埋まっているという話、嘘のようで実は本当だった。
硝酸カリウム
戦国時代の日本の一部では、便所の床下の地面に堆積した物を採掘したり、枯れ草に尿をかけ発酵させて生成させたりして入手していた。
それにしても、爆弾が糞尿から作られるというのはまさに果子が感じている糞社会への当て付けではなかろうか。
少女ぽさを抜け出た感じの二階堂は流石の名演技。と言うか、こんな難しい役柄演じられるのは二階堂しかいない気がする。ちなみに、キョンキョン、二階堂に焦点が当てられがちだが、その2人の仲介役的「本当の子供」カナ(山田望叶)も存在感が際立つ秀逸な演技だ。
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Posted by y0780121 at 21:51│Comments(0)TrackBack(6)clip!邦画フーホ | ★5

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