ダンディズムてんにゅーせー!(完結)

アツき男前女子高生の日々。 一話ずつ分かりやすさを考えながら区切っていきます! Twitter:y_cocoko

アツき男前女子高生の日々。
一話ずつ分かりやすさを考えながら区切っていきます!
【第一話】http://blog.livedoor.jp/y_cocoko/archives/901353.html
Twitter:y_cocoko

 俺が決意した(つまり三浦が拉致監禁された)翌日、ソラは学校に来なかった。俺は、ただ一言だけ伝えたかった。それは「一緒に部活しよーぜ」って、ちょっとキザな台詞。スマートにいきたい。シンプルに。本当はもっと言いたいことがあるけれど、それでいいんだ。きっと伝わる。俺はやる気に満ちていた。それなのに、ソラは学校に来なかった。

 放課後、部室で溜め息をつくとレナが顔をあげた。

「先輩、どうしたんッスか?」

「え? ああ、いや。ちょっとソラに言いたいことがあったんだけど、アイツ今日休みでさあ」

 するとレナは眉をひそめて「言いたいこと……ですか?」と呟いた。そのかは遠くでマグカップコレクションを磨いている。セミの鳴き声が日に日にうるさくなってきた。ソラと出会ったのは、桜の季節だった。

「先輩、言いたいことって、もしかして……ソラ先輩に告白するんですか?」

 おいおい冗談を、と顔をあげるとレナは真面目な顔で俺を見ていた。前、ファミレスでされた表情。俺が慌てて口を開こうとすると、そのかがいた方から物が割れる音がした。振り返ると、カップが割れていた。そのかは拾う様子もなく「え……そうなの?」と驚いた顔をしている。

「違うよ!」

 思わず大きな声がでる。

「慌てるとこが怪しい!」と指さすレナに、ハッと気がついたようにマグカップの破片を片付けようとするそのか。俺はレナを放置して、破片の処理を手伝いにいった。背中に「あー逃げたー!」という台詞をぶつけられる。うるさい、ホントに違うんだって。

「あのね、私は信じるけど……ソラちゃんに会って、何を言うつもりだったの?」

「そりゃ……いや、ちょっと恥ずかしいな」

 するとそのかが困った顔をする。

「あーあーあー! 部内恋愛禁止ー!」というレナからの罵声。俺は腹をくくって立ち上がる。

「わかったよ、言うよ。ただ、一緒に部活やろーぜって言おうと……」

 最期の方の言葉は、レナの「だひゃー!」という笑い声でかき消された。そのかはさらに困った顔で「う、うん、いいと思う」だって。「意味不明!」というレナの一言が俺にトドメをさした。

――うん、わかった。きっとこのやり取りが始まった瞬間から、俺に逃げ道は用意されてなかったんだね。ごめんね、悪あがきして。俺は投げやりに、カップの破片をビニール袋に突っ込んだ。




 ゴミを捨てようと立ち上がった時に、校門の方にソラの姿が見えた。あれは、間違いなくソラだ。あいつ。休んだクセに。

 気がつくと、走っていた。




【最終話】だって世界はダンディーさ。




「ソラ!」

 俺が叫ぶと、何人かの関係ない生徒と同時にソラも振りかえった。爽やかな笑顔で「よ!」などと手をあげている。おまけに俺が追いつくと、朗らかな声で「走ってるところ、初めて見た気がするねえ。速いじゃないか、かなり。スプリントとかやってみない?」などと言いやがる。呑気なもんだ。こっちが息が整わずに反論出来ないからって。ようやく俺は、しぼりだすような声をあげた。

「――やらねえ、よ」

「そうなの? 走るの、楽しいじゃない」

「俺は、俺の部活がある」

「うん、それも良い選択だと思うよ」

 なんだか真面目な雰囲気を察したのか、ソラは俺の言葉にゆっくりと耳を傾けた。俺は汗でシャツが背中に張り付いたのを感じた。

「俺らの部活、楽しいだろ? なあ。レナも、どんどんとコレクション増えてるんだぞ」

「……ああ、知ってるよ」

「お前も、さあ。もっとこう、なんだろう……」

 俺が言葉に詰まると「情熱が足りないって?」とフォローされた。

「そうだよ! それに、そのかは、部室の掃除とか、そういうのをさ」

「――部室を楽しくしてる、ね?」

 くそ、なんかうまく言えない。言葉が出てこない。俺は乱暴に頷いた。こんなはずじゃなかったのに。あ、そうだ。部活やろうぜだっけ? ああ、タイミング逃してる。とっくに。

 混乱だった。

 素直な自分は、混乱だった。

 よくわからないけど、ソラに伝える言葉を探しながら、妙に腑に落ちる。情けねえ。でも覚悟もできた。

「つまり、だな」

 俺が顔をあげてソラの目をしっかりと見ると、ソラはフッと笑った。

「ワタシが真剣じゃないと?」

「……寂しいんだよ。お前がいないと、寂しいんだよ。さらに言えば、いるだけじゃなくて、部の活動に参加してさ、もっと一緒に盛り上がりたいんだよ!」

「カワイイこと言うねえ」

 ソラは俺の頭をポンポンと叩いた。大きな手だった。そう、まるで父親のような――って、いや、なんでもない。

「おいおい、涙ぐむなよ。ワタシはあの部室が大好きなんだよ?」

「……じゃあなんで」

 まるで駄々っ子のように、俺は口を尖らせる。ソラは「まいったな」というように鞄を下ろす。そしてゴソゴソとやりながら「本当は秘密だったんだけど」と照れくさそうにした。生徒が俺たちの横を通り過ぎていく。俺はその間を利用して目を乾かそうとしてみた。うん、無駄。しばらくした後に、ソラが立ち上がった。

「ほら、これ」と差し出されたのは、数枚の写真だった。

「……日の出?」

「そうだね」

 ソラは頭をポリポリとかきながら、笑った。その写真は、多分山の頂上から撮った写真で、雲と木が美しく照らされていた。二枚目は、バレーの試合と思われる写真。応援している人の写真。

「ワタシさ、色々と自分で撮った写真をコレクションしようと思うんだ。まだまだ数は少ないけど」

 どこかの運動部がランニングする掛け声がして、吹奏楽部の練習音もバラバラに鳴り響いていた。生徒の会話も。足音も。でも俺の耳は、全力でソラの言葉を反響させていた。

「ふはは、青年よ、ぼーっとするんじゃないよ」

 ソラは照れ隠しなのか、俺の肩を強く叩く。

「……うるせえよ」

「うるさいか? 本気のワタシはもっとやかましいぞ?」

「だから、うるさいんだよー。ほら行くぞ」

 そう答えると、二人で一緒に部室へと戻って行った。




――でもそれ、写真部でも良くねえか?

――ふふ、ヤボなことは聞かないでくれたまえ。
(了)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日曜日、部活の用事でみんなに電話する事になった。珍しく、三浦もプロ幽霊部員の岩田さんまで電話に出てくれた。そのかには明日の朝にでも言えばいいか、と思う。しかしソラだけには通じなかった。圏外なのだ、ずっと。おかしいなあと思いつつ、そわそわとした休日となってしまった。午前中に二回、昼過ぎに一回、夕方に三回とかけているうちに、段々と苛立ちが増していく。

 いや、理不尽なのは、理解している。圏外なのは、何か理由があるのかもしれない。地下にいるとか。

 でももし、「あー! ごめん! 電池切れてた、ふへへ」なんて言われたとしたら、俺の休日を返して欲しくなる。俺が気にしなければ良い話なのだと自覚しつつも、やはり何度も携帯電話を見てしまう。

 外も暗くなり、虫の鳴き声が響いていた。時計は既に九時を回っている。最後にもう一度だけ、と画面をタッチする。すると半ば諦めていた俺の耳に、コール音が届いた。油断していたからか、一瞬、ドキリとした。

「あーもしもーし!」

「あ、ソラ? ちょっと部活の事で話があるんだけど……」

「ごめん! 今ちょっと難しいな! 山奥にいてさぁ!」

「だから圏外だったのか、じゃあ明日学校で言うからいいやー」

「おっけ! いやー、こんなちょっとした事で圏外になるなんて、このスマホ、気合いが足りないわ」

 そう言ってブツリと通話が途切れる。俺は瞼を閉じて、祈る。不憫な扱いを受けるソラの携帯電話のために……。

 

 

【第十八話】祈りはポリスメンへと繋がった。

 

 

「いやー、ソラちゃん、ワイルドな怪我してたねえ、どうしたのよ」

 放課後、部室に向かっていた俺は三浦に引きとめられ、学校の近くにあるカフェに連れ込まれた。三浦の言うソラの傷というのは、頬に出来た痛々しい切り傷の事だった。それを「ガーゼ? いらないねえ、治癒させるなら晒していた方がいいからね。それにこれは勲章さ。隠すような真似はしたくないね」とかいう理由で見せつけて歩いていたのだ。痛いものが苦手な俺は、思い出したくもなかった。今日はもう、痛そうなものは見たくない――そう思っていた。それなのに。

「ソラはいいよ、それよりお前、また怪我増えたな」

「ああ、そう言えば俺もだ。あはは、お揃いだーな」

 ニコニコしながら、三浦は嬉しそうに頷いた。待って、全然楽しい話じゃないからね。

「また女性絡み?」

「耳の傷は隣町の子にやられて、この中指は近所のコンビニの子に。唇が切れてるのはうちの高校の三年生」

「そりゃまた、髪どめもさぞかし集まったんだろうなあ」

 俺が唸ると、三浦は楽しそうにウインクした。俺はコーヒーを少し口に含みながら、店内を見回す。飲み物も美味しいし、内装もオシャレだ。なんかいいなあ、と思う。三浦に連れられてこなければ、毎日前を通り過ぎるだけだったかもしれない。

「俺の唇をこんな風にした女の子、さ、写真部なんだ」

「へえ」と俺は気のなさそうな相槌を打つ。

「それがさ、ソラちゃんと知り合いなんだよ」

「ソラと?」

「うん、カメラ買うとかで」

「ふうん」

「兼部、みたいだけどいいのー?」

「アイツ色々顔出してるみたいだからさ」

「いやでも」

 そこまで言ってから、三浦は思いとどまったように口を閉じた。そしてニコニコと俺を見つめる。三浦が何を言いたかったのか、俺にだってわかる。引き留めろよ、みたいな事だろう。でも俺は、部活全体の事を考えていなくてはならない。新入部員のレナもそうだし、そのかや俺の活動もしっかりとしていかなくては。いつまでも部室でお喋りしているソラを追いかける余裕が、そろそろ無い。

 いつのまにか俯いてしまっていた俺を、三浦はまだニコニコと眺めていた。

「今年に入ってから、部長っぽくなったなあ」

 朗らかに、三浦は言う。

「部長! まとめ役! 調整役! って感じだよ」

「だって俺は、部長だからな」

「いい部長だなあ」

「……そんな事ないよ」

「本当なのに」

 そう言うと三浦は、心底美味しそうにコーヒーを飲んだ。そしてもう一度こちらを見る。

「ソラちゃんがカッコイイからって、自分がダンディーさを極める必要はないんだからな?」

「え?」

「自分らしさを大切にって事さ」

 俺は、三浦の満面の笑みを前にしながら、言われた事を反芻した。

――うむ、確かに。俺はちょっとカタくなっていたかもしれない。自分じゃ気がつかなかった。気負いとか、そういうヤツを。もっと軽い気持ちで部活を考えていける気がしてきた。フッと視野が広がる。

 三浦に「ありがとう」と言おうと顔をあげたら、俺の前に血が飛び散った。

 突然の事で俺は訳がわからずに固まる。テーブルの上に広げていたノートが、じわりと赤く染まる。

「みーつけた」

 恐ろしい笑みを浮かべた女子学生が、もう一度英語辞典を振りおろした。三浦は既に、ニコニコ顔で意識を失っている。そして硬直している俺を置き去りにして、彼はどこかへと引きずられていった。

 さようなら、三浦。俺は瞼を閉じて、祈る。正当な報いを受ける三浦のために……。

 部長会議が長引いてしまった。外が真っ暗だ。窓に俺の顔が映る。

「予算会議ってダルいよなあ」

 漫画研究部の部長が背中から声をかけてきた。俺も鞄を持ち上げながら頷いた。

「でも漫研は部員多いから予算もたくさん出るじゃないか」

「まーな」

 教室を出ると、廊下も暗くなっていた。ぽつりぽつりと、誰かが残っている教室から光が漏れているので、それを頼りに進んでいく。

「でもウチの部活、漫画って響きが敷居が低いっつーか、なんとなくで気軽に入る奴も多いから、意外と部室は閑散としてるんだぜ。お前のところは参加率高そうで羨ましいわ」

「まあ幽霊部員もいるけどなー。兼部の奴もいるし」

「兼部? ああ、ソラちゃんね」

「有名なの?」

「まあ、そりゃあそうだろう。あの子の私服画像とか女子の間で出回ってるぜ」

 まじかよ、なんて話しているうちに玄関についていた。もう二年も通った校舎なのだから、暗闇でもなんとなーく玄関まで辿りつけるものなのだ。ふはは。

「あと、三浦もなかなか捕まらないわ。頻度が高いのは一年の子とそのかかな」

 靴箱を探りながら俺が付け足すと、唸るような音がした。暗闇のせいで、表情が読めない。

「三浦は、ウチの部活じゃ禁句だから」

――なんで? とは聞くまでもない。どうせ部員の女子を泣かせたとか、そんな話だろう。まったく、アイツも困った奴だ。俺は靴を履きながら溜め息をつく。別に俺が謝る必要もないのだけれど、やっぱりどことなく申し訳なくなったりする。しかし、そんな沈黙を破って漫研部長が「実はBLでなあ」と呟いた。

「ん? BL?」

「うん、三浦のBLネタが女子部員の間で流行ってて、男子部員が不愉快そうなんだ」

「それは……ウチの部員がご迷惑を……」

「いやいや! そういうんじゃないから! むしろこっちがごめんだろ!」

「しかし……三浦も大したもんだな。BLって。相手は誰なんだ?」

「ああ。相手はソラちゃんだよ」

――うん。それってね、BLって言わないんだ。それはね、違うんだ。




【第十七話】能力だけでは越えられない壁もあるという事を。




「……その話のオチが“ウチの部員は参加率高くて嬉しいなあ”って、それはおかしいよう」

 そのかが苦笑いをする。俺とそのかは、昨夜の話をしながら部室でのんびりしていた。いや、待て、のんびりしているのは俺だけだ。そのかは、卒業した先輩の指人形コレクションを綺麗に磨いていた。

「そのかは偉いな、いつも掃除して」

「そうかなあ? そんな事、ないと思うけど」

 困ったような、恥ずかしいような顔で、俺の幼馴染は小首を傾げた。

「こうしないと落ち着かないっていうのもあるけどね、やっぱり先輩たちの足跡を大切にしていきたいって思っちゃうんだよね」

 へえー、と俺は感心する。そんなきちんと考えていたんだな、と。

 俺もしっかりと考えて、環境を整えていかねば。そう思って立ち上がると「いいよいいよ! 座ってなよ!」と慌てられる。

「私、本当に自分で好きでやってるだけだもん、強要とかじゃないの」

 俺は「いや、もちろんわかってるけどさ」と言いつつ昔の映画雑誌を発行順に並び替え始めた。「俺だって足跡っつーか、部活を大切にしたいし」なんて照れくさい事まで付け足してみる。

「そっか! 偉いね!」

 そのかがにっこりとする。俺はフッと笑って作業を続けた。兄弟が多いせいか、そのかは意外と人を動かすのがうまい。しかも多分、無意識に。それよりも何倍も自分が働いているから、誰も文句は言わない。頼まれても、不快にならないんだ。それって凄い能力だ。

「そのかと結婚した人は幸せだろうなあ」

 俺が思いついて言うと「ふえい!?」というおかしな声が返ってきた。顔をあげると、真っ赤になったそのかと目が合う。

「い、いきなりどうしたの?」

「あーいや、そのかとだったら、旦那さんも家事とか積極的にやりたくなるだろうなあって思って」

「そそ、そんな事あるかなあ」

 そのかは俯いて、唇を「はむっ」という風に噛んだ。そのかは、褒められると大抵そんな感じだ。恥ずかしそうに、困ったように、否定する。いつも控えめで。そこも良い所だけど、でも……と俺は思う。

「うん、もちろん。料理とかも上手だしさ。っていうか、もっと自信持った方がいいと思うぞ? そのかはたくさん特技あるし、胸を張るべきだと思う」

「そう……かなあ?」

「俺が保証するよ」

 俺がそう言うと、そのかは嬉しそうに「ありがとう!」と笑った。ふわりとした、気持ちの良い笑顔だった。まさに初夏って感じの。

――そのかのこういう顔を、久々に見た気がするな。

 なんだか、昔を思い出す。例えば、家庭科の授業でそのかが作ったケーキを食べて、褒めた日の事。あの時もこんな顔だった。いいな、笑顔って。俺は穏やかな気持ちで「久々にそのかの料理が食べたいなあ」と呟いた。

「本当?」

 そのかが嬉しそうに聞き返す。俺が頷くと、「今朝ちょうど、校門の近くに美味しそうな草が生えていたから、摘んで帰ろうか」という答えが返ってきた。

 そうだ、俺は大切な事を忘れていた。とても、大切な事を。

 

 

 

 

 

 

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